主要国におけるBEPS2.0アップデートシリーズ4 英国のMTUTとDTUTの適用について今後の動向に注目

主要国におけるBEPS2.0アップデートシリーズ4 英国のMTUTとDTUTの適用について今後の動向に注目


英国は2023年4月1日より大企業に対する法人税率を25%に引き上げたものの、依然として先進主要国であるG7の中では、最低税率を維持しており、欧州における日系企業の主要な投資先国であり続けています。

そんな英国もBEPS2.0の新たな国際課税ルールについては、2023年財政(No.2)法案において、Pillar2のGloBEルールを英国で施行するための法律を改めて公表し、2023年7月11日の国王裁可をもって施行。23年12月31日以降に開始する会計期間から全世界収入が7億5000万ユーロを超える大規模な多国籍企業に適用されます。今回は、こうした英国におけるBEPS2.0の法制化状況と日本企業における留意点を解説します。


要点

  • 英国の法人税率は2023年4月1日から25%へ。通常実効税率は15%超も、優遇税制などの適用の場合留意。
  • FRS102については定期的な見直しとして、2022年12月にFRCからの提案が公表されており、今後改正が予定されている。
  • 英国の政策担当者は、MTUTとGloBEの結果に大きな相違が生じることは意図していないとしている。


英国の法人税率は23年4月から25%へ
優遇税制などの適用なければ、通常実効税率は15%超も

英国の法人税率は、2023年4月1日から25%(同年3月31日までは19%)に引き上げられました。国税のみで、地方税はありません。ただ、課税所得が5万ポンド未満の英国企業は法人税率が19%のままであり、所得が5万ポンド以上から25万ポンドまでの企業は25%で課税されるものの、控除が適用されます。なお、軽減税率を適用できる企業の利益はグループベースで適用され、全世界ベースでの51%以上のグループ法人数に除することにより決定されます。Pillar2の観点から言えば、優遇税制やその他特例の適用を受けていない場合であれば、通常実効税率は15%を上回ります。

英国の税制の特徴は

英国居住である法人に対して、原則として英国法人に帰属する全世界所得に対して法人税が課されます。キャピタルゲインについて、通常の税率で法人税が課されます。ただし、事業会社の株式持分を処分した際に係るキャピタルゲイン・キャピタルロスについては、一定の要件を満たす場合には、実質的株式持分免税(SSE)が適用され、キャピタルゲインについては免税となり、キャピタルロスについては税務上の損金として認識されないこととなります。

 

固定資産の会計上の減価償却費は、法人税法上の事業所得において損金に算入することができません。その代わり、特定の適格資産に対して一定率で償却をする税務上の減価償却が認められています。
英国の法人税法におけるグループリリーフ制度は、適用対象となるグループ内の法人間において法人税法上の損失を移転する仕組みであり、グループ内の法人は、対象となる損失をグループ内の他の法人に移転し、損益通算することができます。これにより、グループ内の合計所得から損失を差し引くことができ、グループ全体での法人税の支払額が削減可能となります。同一キャピタルゲイン課税グループに属する法人は、株式の譲渡などにより、英国法人において生じたキャピタルゲイン・キャピタルロスについて、キャピタルゲイングループ内に譲渡することができます。

 

英国の法人税法において、繰越欠損金の繰越期限はありませんが、過年度の繰越欠損金と相殺できる課税所得の金額は、グループ内で500万ポンドを超える所得部分について50%までと制限されています。

多くの在英日系企業が採用するFRS102については今後改正の予定

上場企業は連結財務諸表についてIFRSが強制適用されますが、単体/個別財務諸表については、IFRSは任意適用とされ、英国会計基準(FRS)に準拠した作成が可能です。

FRSはIFRSに基づき作成された会計基準ですが、多くの在英日系企業で採用されている会計基準はFRS101とFRS102です。FRS102は、FRS101をより簡素化・簡略化された会計基準であり、IFRSとはいくつかの相違点があります。FRS102については定期的な見直しとして、2022年12月にFRC(Financial Reporting Council)からの提案が公表されており、今後改正が予定されています。

MTUTとDTUTに関するガイダンスは2023年中に更新も

一方、Pillar2に関する法制化、今後の動向については、2023年3月23日に公表され、7月11日の国王裁可をもって施行された英国の2023年財政(No.2)法には、GloBE計算および所得合算ルール(IIR)を含む多国籍トップアップ税(MTUT)と、MTUT計算ルールに組み入れ、適格国内ミニマムトップアップ税を意図した国内トップアップ税(DTUT)を施行するための法律が含まれています。

MTUTとDTUTはどちらも、2023年12月31日以降に開始する会計期間から英国に事業を有する全世界収入が7億5000万ユーロを超える大規模な多国籍企業に適用されます。なお、英国の政策担当者は、MTUTとGloBEの結果に大きな相違が生じることは意図していないとしており、今後そのような差異が生じる可能性がある場合は、OECDが将来公表するガイダンスに含まれるであろうさらなる変更を想定しています。

英国歳入関税庁(HMRC)は2023年6月15日にMTUTとDTUTに関するガイダンス案を公表しています。企業はOECDのモデルルールとMTUTの制度に関する比較表や実務的な申告対応などについて詳細な情報を得ることができますが、そのガイダンスも2023年中に更新される予定です。

優遇税制を適用している企業はDTUTの適用に留意が必要

英国の主なインセンティブ(優遇税制)制度については、次のようなものがあります。1つはパテントボックスです。こちらは企業が英国内で知的財産を保持し、商業化することを奨励するために導入されたもので、特許発明から得られる所得に対しては、10%の軽減税率が適用されます。もう1つは、一定の要件を満たす研究開発費用については、20%の税額控除を受けることができるというものです。対象となる費用には、人件費、ソフトウェア、クラウドコンピューティングやデータ保存/処理に係る費用、消耗品ほか、外部労働者や臨床試験被験者に対する支払いが含まれます。

このように英国では、2023年12月31日以降に開始する会計期間からMTUTおよびDTUTを導入することが決まっているため、日系企業は当該制度の影響を確認することが必要です。まず優遇税制などを適用して実効税率が低下している企業では、DTUTの適用に留意が必要です。また、日本の親会社の連結会計期間が2023年12月31日から24年3月31日までの間に開始する場合は、特に留意が必要となります。現在の英国の制度がそのまま適用されれば、例えば日本の親会社の連結会計期間と英国子会社の会計期間がともに12月決算である場合は、2024年1月1日に開始する会計期間からMTUTとDTUTが適用されます。そのため、英国でのMTUTとDTUTの適用が日本のIIRに先行する形となり、今後の両国での動向に注意が必要となります。


【投稿者】

工藤 保浩
EY税理士法人 シニアマネージャー

小林 仁紀
EY UK シニアマネージャー

※所属・役職は記事公開当時のものです。


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    サマリー

    英国では、2023年12月31日以降に開始する会計期間からMTUTおよびDTUTを導入することが決まっています。優遇税制などを適用して実効税率が低下している企業は、DTUTの適用に留意が必要です。また、現在の英国の制度がそのまま適用されれば、日本の親会社と英国子会社が12月決算の場合、2024年1月1日に開始する会計期間からMTUTとDTUTが適用されるため、英国でのMTUTとDTUTの適用が日本のIIRに先行する形となり、今後の両国での動向に注意が必要です。


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