主要国におけるBEPS2.0アップデートシリーズ8 ベトナムでは従来の優遇税制に代わる新たな投資支援政策を検討中

主要国におけるBEPS2.0アップデートシリーズ8 ベトナムでは従来の優遇税制に代わる新たな投資支援政策を検討中


多くの多国籍企業にとって、ベトナムは戦略的な立地、競争力のある労働力に加えて、多くの優遇税制を有する魅力のある国です。

ベトナムでは2024年1月1日から国内ミニマム課税(以下、QDMTT)、所得合算ルール(以下、IIR)が導入されると同時に投資環境の促進と安定のための投資支援基金を設立し、従来の優遇税制に代わる新たな投資支援を検討していく方針です。今回はベトナムの法人税、優遇税制の概要ほか、Pillar2や新たな投資支援政策の動向について解説します。


要点

  • ベトナムの法人税率は20%、国税のみで地方税はない。現在、ベトナムでは多くの優遇税制が存在しており、優遇税制を適用した場合には実行税率が15%を下回る可能性がある。
  • 2024年1月1日からQDMTT、IIRを導入。適用対象企業は、特定の除外ケースを除く、直前4事業年度のうち最低2事業年度の年間収入額が7.5億ユーロ以上の多国籍企業グループのメンバー企業。
  • ベトナムでは投資環境の促進と安定のために従来の優遇税制に代わる新たな投資支援政策が検討されている。ただ、現状は具体化にまで至っていない。


ベトナムはさまざまな優遇税制を有している

ベトナムの法人税率は20%であり、国税のみで地方税はありません。現在、ベトナムでは次のような優遇税制が存在します。まずハイテク開発分野へのベンチャー投資、給水所、発電所、道路などのインフラ関連、再生可能エネルギーやバイオ、ハイテク農業企業などについては、法人税率10%(15年間)、4年間の免税、9年間の減税(50%減)。次に教育・環境など社会ビジネスプロジェクトなどでは法人税10%(全期間)、4年間の免税、9年間の減税(50%減)。そして、省エネ製品の生産、農業などの機械製造、伝統工芸などの企業では法人税率17%(15年間)、2年間の免税、4年間の減税(50%減)。社会的・経済的に困難なエリアでの工業団地への新規投資プロジェクトでは、2年間の免税、4年間の減税(50%減)などがあります。

 

こうした既存の優遇税制の多くは、法人税率の免税、減税及び優遇税率であり、ベトナムの法人税率は20%であることから、優遇税制を適用した場合には実効税率が15%を下回る可能性があります。


ベトナムでもQDMTT、IIR導入
追加法人所得税が発生する

そのような状況下のベトナムでも、2024年1月1日からQDMTT、IIRが導入されています。適用対象企業は特定の除外ケースを除く、直前4事業年度のうち最低2事業年度の年間収入額が7.5億ユーロ以上の多国籍企業グループのメンバー企業となります。現状、非公式ではありますが、ベトナムには該当企業が1,000社以上存在し、その多くの実効税率は15%を下回っています。

QDMTTは、Pillar2の対象となる多国籍企業グループのメンバー会社が、15%を下回る税率で課税されている場合、追加法人所得税を申告・納付しなければなりません。またIIRの規定によれば、ベトナムに所在する最終親会社などが実効税率15%を下回る国・地域に所在するメンバー企業を保有する場合、その利益に適用される追加法人所得税を申告・納付する必要があります。

QDMTTの申告・納付期限はベトナム会社の決算日から12カ月以内。IIRについてもベトナム会社の決算日から18カ月以内(適用初年度)、その後は15カ月以内(適用初年度の翌年度以降)となります。

ベトナムでPillar2の対象となる多国籍企業グループのメンバー企業が2社以上ある場合、決算日から30日以内に代表会社を委任し税務当局へ通知します。QDMTT及びIIRの施行の猶予期間については、2026年12月31日以前の会計年度において、特定の条件を満たす場合、追加法人所得税を納付することは不要となります。
 

投資支援策の明確化はまだ
今後も動向に注目を

一方で、ベトナム政府はPillar2導入によって、既存の優遇税制が形骸化してしまうことを認識しているため、既存の優遇措置を維持しつつ、Pillar2の影響を低減するために新たな投資支援政策を検討しています。

具体的には、ハイテク関連企業については、投資資本金額が12兆VND以上、または年間売上が20兆VND以上(3年間以内に最低で12兆VNDの資本金を拠出する必要がある)、あるいは、投資資金額3兆VND以上を研究開発センターへ投資する企業(3年間以内に最低で1.5兆VNDの資本金を拠出する必要がある)に対しては投資奨励戦略の試験的実施を提案しています。

また、投資支援では、人材教育及び育成費用への支援、ハイテク製品の製造費用に係わる支援、固定資産及び社会インフラシステムへの投資費用に基づく支援、研究開発費用への支援という4つの形式があり、支援は補助金という形で提案されています。

しかし、現時点ではこうした投資支援策は法制化されておらず、個別交渉により投資支援内容が決定されるケースも想定されます。交渉期間は長期になることも予想され、日系企業では早期の段階で関連当局との交渉を進めたほうがいいかもしれません。いずれにしても、投資支援政策の方向性は打ち出されているものの、明確化されておらず、今後も動向に着目していく必要があります。


【執筆者】
EYベトナム シニアマネージャー グエン・ティ・アン・フィン

※所属・役職は記事公開当時のものです。


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    サマリー 

    現時点では投資支援策は具体化されておらず、個別交渉により支援内容が決定されるケースも想定されます。交渉期間は長期になることも予想され、日系企業では早期の段階で関連当局との交渉を奨励。いずれにせよ、投資支援政策の方向性は打ち出されているものの、明確化されておらず、今後も動向に着目が必要です。


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