主要国におけるBEPS2.0アップデートシリーズ10  アイルランドでは、標準法人税率が12.5%であり、GloBE上の実効税率が15%を下回る可能性がある

主要国におけるBEPS2.0アップデートシリーズ11  ハンガリーは魅力的な投資先だが、トップアップ課税が生じる可能性あり


ハンガリーは、過去数十年にわたり、日本企業にとって人気の高い投資先となっています。

ビジネスフレンドリーな法制度があり、税制とインセンティブの環境は非常に魅力的です。その結果、ハンガリーへの外国直接投資は、アジアの投資家を中心に着実に増加しています。そのほとんどは製造業関連ですが、商社や持株会社、ファイナンス会社からも選ばれるようになっています。今回はBEPS2.0第2の柱に対するハンガリーの取組みと導入内容、そしてハンガリーに拠点を置く多国籍企業がどのような影響を受けるかについて解説します。


要点

  • ハンガリーの法人税率は9%と、EUで最も低い法人税率の国となっている。この他、企業は最大2%の地方税(地方事業税)と0.3%のイノベーション拠出金を支払わなければならない。グローバルミニマム課税は、2024年1月1日から施行されている。
  • ハンガリーの法律は、OECD/EUのモデルルールに非常に厳密に従っているが、OECDとEU指令の定義を単に繰り返すのではなく、明らかにトップアップ課税の対象となる税金の種類を列挙し、納税税者に明確性をもたらしている。
  • 企業は会計上の収入に幅広い税務調整を適用する必要があり、いくつかのインセンティブを利用することができる。これらはすべて多くの永久差異と一時差異をもたらし、課税標準と実効税率(ETR)に影響を与える。
    そのため、トップアップ税が課されるかどうかは、業界、コスト構造などの要因に依存し、一定の分析を行わない限り安全な予測はできない。


低い税率と税制優遇制度による
トップアップ課税の可能性あり

ハンガリーの税制は魅力的で投資家に優しいものですが、同時にかなり複雑です。2017年に法人税率が9%に引き下げられて以来、EUで最も低い法人税率の国となっています。この法人税に加え、企業は最大2%の地方税(地方事業税)と0.3%のイノベーション拠出金を支払わなければなりません。また、主に規制された特定の産業において、政府は、エネルギー供給企業特別税、銀行特別税などいくつもの追加の税金を導入しています。さらに、ハンガリーでは、暦年以外の事業年度やさまざまな機能通貨が認められており、ハンガリー会計基準とは別に、企業は法定帳簿の作成にIFRSを適用することを選択できます。

 

こうしてハンガリーでは、低い税率と寛大な税制優遇制度で、経済を発展させてきました。そのため、ハンガリーは当初、グローバルミニマム課税の導入に反対でしたが、2022年12月にはEUミニマム課税指令に合意し、2024年1月1日から施行されています。ハンガリーではGloBEルールをかなり簡略化した形式で実施しようとしていますが、特定の詳細な規則は省令によって定める必要があるとされています。これらの省令は本稿の執筆時点ではまだ明らかになっていません。

 

一方、ハンガリーのGloBEルールに係わる法律は、OECD/EUルールに非常に厳密に従っています。例えば、適格国内ミニマム課税がトップアップ税を算定するための主要な原則として適用されます。これは実行税率が15%を下回る場合、構成事業体が不足分を国内の税務当局に支払わなければならないことを意味します。所得合算ルールの他、軽課税所得支払ルール(UTPR)についてもQDMTTまたはIIRのいずれかに基づいてトップアップ税を課さない国・地域で事業を行う多国籍グループに適用されます。なおUTPRは、QDMTTおよびIIRより1年遅れて、2025年1月1日から適用されます。

業界に対する特別税が
対象租税となるかを精査する必要

ハンガリーの法律は、OECD/EUのモデルルールに非常に厳密に従っていますが、OECDとEU指令の定義を単に繰り返すのではなく、明らかにトップアップ課税の対象となる税金の種類を列挙し、納税税者に明確性をもたらしています。そこで列挙されている税金は①法人所得税、②地方事業税、③イノベーション拠出金、④エネルギー供給企業特別税です。ただし、法定基準を満たしている場合、これら以外の税金が対象となる可能性を法律上残しています。

ハンガリーの法人税率は9%であり、政府はこの低い税率を維持する明確な意向を表明していますが、企業は法人税以外の対象となる税金をさらに支払うため、いくつかのケースで、ETRが15%を超えることがあります。

次に重要な対象租税は、最大2%の「地方事業税」です。これはIFRSの原則に基づき、ほとんどの企業で所得に対する税として計上されており、当局では地方事業税を所得税と見なすべきだというコンセンサスが今回の立法でも確認されています。

また、「イノベーション拠出金」は0.3%、「エネルギー供給企業特別税」は31%ですが、2023年と2024年は、41%の税率が適用されています。ハンガリーの税制には、これら以外にさまざまな業界に対する特別な税金があります。GloBEルールではエネルギー供給企業特別税以外の特別税は具体的に記載されていないため、対象租税となるかどうか精査する必要があります。

その他、GloBEルールでは、所得から源泉徴収される税金もトップアップ課税の対象と見なされます。したがって、利息またはロイヤリティの支払者による源泉税は、これらを受け取るハンガリーの企業において、トップアップ課税の対象税金として扱われます。

このように、ほとんどの企業ではETRが15%に達するかどうかを判断するため厳密な計算を行う必要があります。ハンガリーではトップアップ税が課されるかどうかは、業界、コスト構造などの要因に依存し、一定の分析を行わない限り安全な予測はできないということです。

幅広い税務調整が課税標準とETRに影響を与える

ハンガリーでは何種類かの租税がトップアップ課税の対象となりますが、法人税が最も大きな税金費用をもたらします。税務上、ハンガリーの居住者である企業は、全世界所得に対して課税されます。課税標準算定の出発点は、ハンガリーのGAAPまたはIFRSに基づく税引前利益です。

企業は会計上の収入に幅広い税務調整を適用する必要があり、いくつかのインセンティブを利用することができます。これらはすべて多くの永久差異と一時差異をもたらします。

まず財務会計と税務会計との永久差異は「繰延」税金を生じません。そのため、GloBEルールで特に認められていなければ、財務会計上の収益項目か支出項目かによって、ETRが増減することになります。例えば、受取配当等益金不算入、資本参加免税、研究開発費の追加損金算入、開発費税額控除などがあります。

一方、ハンガリーの税制上、最も重要な一時差異は、会計と税務上の減価償却の違いから生じます。ハンガリーGAAPでは、資産は耐用年数にわたって減価償却する必要がありますが、税法では不動産、機械、車両、ハイテク機器など多くの資産カテゴリーに対して特定の減価償却率が規定されています。会計上の簿価と税務上の簿価の差異により繰延税金資産、または延税金負債が発生する場合があります。GloBEルールでは繰延税金負債は5年以内に支払うべきものであり、支払われない場合はこれを取り消し、当初計上した年度のETRの再計算を行います。そして、その年度において支払うべきであった追加税額は、6年目の年度の租税債務として支払わなければなりません。企業は繰延税金負債が記載された除外項目に該当するかどうかを個別に確認する必要があります。

QDTT/IIR/UTPRの
登録期限は厳格だが期限変更も

コンプライアンスの観点からは、その事業年度において、QDTT/IIR/UTPRの対象となる企業は、ハンガリーの税務当局に登録する義務があります。登録期限は非常に厳しく、GloBEルールによって納税義務が生じた事業年度開始の日から12カ月以内です。しかし、登録フォームはまだ公開されておらず、登録期限も変更される可能性があります。その他の書類の提出義務と期限は、関連するEU指令に完全に準拠しています。

さらにハンガリーでは、OECDが定めた移行期CbCRセーフハーバーについて、デミニマステスト、簡易ETR(実行税率)テスト、通常利益テストの3つすべてを含めて導入しています。これらによって、すべてのコンプライアンスの負担を最大3年間延期できるため、ハンガリーに拠点を置くほとんどの多国籍企業は、現在この規則の適用可否を調査しています。

ハンガリーで留意すべき点は、QDMTTの適用義務と、グローバルミニマム課税の適用を受ける企業の報告期限が通常よりも短いことです。しかし、これらにもかかわらず、トップアップ課税の対象となる従来にない税金が追加されていること、過去数年間に日本の投資家が設立した多くの企業が利用している幅広い税制上の優遇措置、法人税率が9%と低いことから、多国籍企業はハンガリーに所在する構成事業体に、特に注目することが必要です。


【執筆者】
EY Hungary パートナー Tibor Palszabo 
EY税理士法人 アソシエイトパートナー Balazs Nagy
EY税理士法人 シニアマネージャー 工藤 保浩


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    サマリー 

    アイルランドの法人税率は12.5%であり、現時点では法人税率の引き上げは予定されていません。そのため、日系企業の構成事業体においても法人税率が15%を下回る公算が大きい一方、法人税率を引き上げる要因もあることから、その影響について早めに検討することが必要と考えられます。


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