BEPS2.0対策シリーズ3 BEPS2.0申告を円滑に実施するためには、プロセスとシステムの業務改革が必要

BEPS2.0対策シリーズ3 BEPS2.0申告を円滑に実施するためには、プロセスとシステムの業務改革が必要


BEPS2.0のコンプライアンス確保に向けては、必要な情報の確実かつ効率的な収集がこれまでになく重要になります。

そのため、多くの企業は、従来のCbCR、CFC税制などの業務プロセスをそのまま延長するだけではなく、新たな仕組みをつくり上げる必要に迫られています。今後、多国籍企業においては、本社によるデータマネジメントを強化し、グループ全体の税務情報をモニターすることで、全社的な税務業務効率化とコンプライアンス向上が不可欠です。今回は、これらを実現するためのテクノロジーの活用について解説します。


要点

  • 多くの日本企業が対象となるPillar2 GloBEルールは、従来の業務プロセスの延長では対応できない。
  • 新たなプロセス構築では、ITシステムの活用と一体となったデータ収集・管理と税計算処理の機能強化が重要。
  • BEPS2.0を機会に税務プロセスとシステムの再構築を行うことで、税務DXの実現につなげるべき。


従来のやり方では対応できないGloBEルールにおける申告対応


BEPS2.0は、デジタル課税と呼ばれるPillar1と全世界課税を行うためのPillar2とに大別されますが、このPillar2 GloBEルールの運用対象には、適用初年度から多くの日本企業が該当することが見込まれており、税務コンプライアンスの確保に向けた対応を開始する企業が増えてきています。
 

このGloBEルールの申告計算では、最終親事業体が海外子会社などの構成事業体から財務・税務関連情報を収集し、選択規定の判断や最終的な計算を行う必要があります。同じように海外子会社から本社が情報を収集する税制として、既に国別報告書(CbCR)や外国子会社合算税制(CFC税制)などがあるため、税務の担当者の方はGloBEルールにおいても従来の業務プロセスの延長で行えるイメージを持たれるかもしれませんが、実際には大きく異なる点があります。
 

まず1点目は必要とする情報の質と量が違うことです。この必要情報のうち、質に関しては、各種の財務会計数値(税効果含む)他、税務申告データや適格有形資産の帳簿価額、適格給与コストの数値情報など、扱う情報が多岐にわたることが特徴となっています。
 

2点目は計算過程が複雑であることです。これまでCFC税制などでは親会社が収集した情報を一元的に計算し完結していましたが、GloBEルールでは構成事業体単位での計算も必要であり、プロセス全体を複雑にしています。
 

3点目は税務申告であることです。CbCRの場合はあくまで情報申告であり、税額に直ちに結びつくものでありませんでした。しかし、GloBEルールでは税額が過少であれば、過少申告などのペナルティの対象になると考えられます。
 

以上の点から、既存の業務プロセスを流用するだけでは不十分であるとともに、将来の税務調査に備えた説明根拠・証憑(しょうひょう)・帳簿などを記録保存するシステムの活用が重要視されます。


データ収集・管理機能では連結パッケージの活用が有効だが問題点も

では、GloBEルールに対応したシステムとはどのようなものなのでしょうか。具体的な機能としては、データ収集・管理機能と税計算処理機能のそれぞれに着目すると良いでしょう。

まずデータ収集・管理機能についてみていきましょう。GloBEルールで必要とされる情報は、対象となる構成事業体ごとに約150項目以上あると考えられ、これらは企業グループ内の1つのデータソースに保管されているようなものではありません。税金引当計算および税効果会計、法定財務諸表、法人税申告書、移転価格文書などのデータソースから収集する他、不足情報を質問票などにより個別に収集することが求められます。その上で、情報収集の対応軸は、大きく分けて2通りあると考えられます。

1つは、連結決算における連結パッケージの仕組みを活用することです。多くの日系企業は、連結パッケージによる連結財務諸表作成のための情報収集の仕組みを確立しており、その活用を考える企業が多いはずです。ただし、国内外のM&Aなどで企業グループを買収したケースや、地域統括方式により統括会社が傘下企業を取りまとめている場合には、親会社はサブ連結単位で収集された数字のみを受け取っています。しかしながら、GloBEルールでは構成事業体ごとの情報が必要であるため、構成事業体単体まで直接カバーしていない既存の連結パッケージの仕組みの延長では対応は難しいでしょう。

もう1つの対応策は、税務部門独自でデータ収集・管理の仕組みを構築することです。パターンとしては、メールとスプレッドシートファイルなどの組み合わせによるマニュアル作業や、SharePointなどのファイル共有・情報共有システムの活用の他、管理会計・予算管理目的でよく使われるEPM(Enterprise Performance Management)ツールによるプロセス合理化、税務データマネジメントツールの活用、また会計事務所のツール活用と業務委託の組み合わせなどが挙げられます。


税計算処理機能のシステム開発では機能をフルパッケージで備える必要なし

一方、税計算処理機能については、GloBEルールの計算自体は複雑であるものの、基本的には複数の条件処理を繰り返し計算することに尽きます。ただ、計算過程で複数の選択規定の適用判断が必要になることや、業種によっては考慮不要な調整規定があること、また、構成事業体の属性に応じて特殊な調整を要する場合があるなど、結果として企業ごとに必要な計算処理が異なることが、税務計算処理の全容把握を困難にしています。さらに、適格国内最低課税にかかる法域ごとの計算を行った上で、GloBEルールの計算処理にマージする必要があるなど、計算処理をグループ全体で合理的に行うためには多くの検討課題があります。

ただし、各企業がこうした計算処理パターンをフルパッケージで準備する必要はなく、自社グループに当てはまる処理機能だけを備えたシステムを構築・準備することで十分です。フルパッケージで開発する場合は、税制改正に応じた保守管理コストも増すことになるため、仮に自社でシステム構築する場合には要件定義の段階で必要な条件処理の選別をすること、あるいは、外部ベンダーや会計事務所のシステム活用・業務委託などを利用することが重要な選択肢となります。

このように、GloBEルールの対応に向けては、業務プロセスの新規構築とそれに対応したシステム構築が必要となります。また、企業としてはデータ収集・管理と税務計算処理機能をシステム上の機能として保持すると同時に、本社主導で選択規定の意思決定を下すような、強化された税務ガバナンスの構築が必要となると言えるでしょう。


国際課税の大転換点となるBEPS2.0は税務DXを実現させるチャンスになる

以上、Pillar2のGloBEルールを中心にテクノロジー活用の概要についてみてきましたが、システムを導入すれば申告対応と効率化が実現するほど実態は単純ではありません。BEPS2.0申告を円滑に実施するためには、税務ガバナンス体制、業務プロセス、データ管理規定など、国際税務ガバナンスを向上させるための仕組みづくりと同時に、システム構築を梃(てこ)に、新たに入手する情報を税務業務効率化とコンプライアンス向上に活用することによる税務関連の内部統制強化が望まれます。

BEPS2.0は過去100年続いた国際課税ルールの大転換点であると言われています。このBEPS2.0は、外的環境への適応に意欲的な企業にとっては、これまでの税務業務プロセス全体の見直しが迫られる中で、システムの再構築と一体的に国際税務コンプライアンスを向上させる、つまり税務DXを戦略的に実現するための格好のチャンスになると言えるでしょう。


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      サマリー

      多くの日本企業が対象となるPillar2 GloBEルールは、従来の業務プロセスの延長では対応できず、新たなプロセスの構築が必要になります。BEPS2.0を機に、税務プロセスとシステムの再構築を行い、税務DXの実現につなげる必要があります。


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