主要国におけるBEPS2.0アップデートシリーズ6 オランダではGloBEルールによる日本企業への影響は限定的であると考えられる

主要国におけるBEPS2.0アップデートシリーズ6 オランダではGloBEルールによる日本企業への影響は限定的であると考えられる


オランダは日本の多国籍企業が地域統括会社や地域持株会社を設立するために最も好まれるヨーロッパの国の1つとされています。

EUの加盟国であることに加え、25.8%といった穏健な法人税率、有利な租税条約ネットワークおよび100%の資本参加免税は、企業がオランダにおいて恩恵を受けることができる重要な税制です。そんなオランダにおける今後の動向ほか、BEPS2.0の法制化状況と日本企業における留意点について解説します。


要点

  • オランダ政府は2024年1月1日以降に始まる会計年度からIIRとQDMTTの導入、2025年1月1日以降に始まる会計年度からUTPRを導入する法案を公表。
  • オランダの実効税率でGloBEルールに基づく最低税率である15%を下回るケースは非常に特殊で、日本企業がネガティブな影響を受けることは限定的であると考えられる。
  • 多くの日本企業にとってGloBEルールは多大な作業量を生じさせており、既存のITシステムを変更するのではなく、新たなアプリケーションを追加することが望まれる。


2024年からIIRおよび QDMTT、2025年からUUTRPを導入する方針


オランダ法人税法を理解するためには、OECDの包括的な枠組みがEU指令になっているという点をまず認識することが重要となります。GloBEルールに関する指令は2022年にEU議会で可決され、OECDモデルルールは法的拘束力のある法律となっています。EU加盟国は2023年末までにEU指令の国内法制化を行う必要があります。


オランダでは、2024年1月1日以降に始まる会計年度から運用開始となるIIRおよびQDMTTと2025年1月1日以降に始まる会計年度から適用開始となるUTPRを導入するための法案を公表しています。


オランダでは、法制化の基礎となる指令は変更の選択肢がわずかしか含まれておらず、これはオランダの立法者が国内法制化を行う際の柔軟性が限られていることを意味します。そのため、主に既存の税制制度への組込みと、その範囲内での可能な選択肢に焦点が置かれました。オランダの立法者はGloBEルールに関する税制を別の法令とすることを決定し、既存の法人税法には組み込まないことを選択。政府が示しているように、独立した法令を制定することは、既存の所得に対する税金に加えられる追加的な税として機能するGloBEルールの基本的な概念と一致しています。


オランダで事業活動を行っている企業にとって重要な疑問の1つは、GloBEルールの施行が、税務の観点からのオランダの魅力に影響を与えるかどうかという点が焦点となっています。そこでGloBEルールがオランダにおけるビジネスに及ぼす影響等を説明することで、企業がオランダで上乗せ課税に直面することは非常に特殊な場合に限られていることを示していきます。


QDMTTとUTPRの申告書は上乗せ課税が生じる場合のみ要提出

2023年において、オランダの最大法人税率は25.8%です。ただし、20万ユーロ未満の課税所得に対しては、19%が適用されます。オランダの法定税率自体は、GloBEルールの最低税率である15%を上回り、課税ベースがGloBEルールと同等である限り、実効税率が15%を下回る可能性はありません。そのため、日本企業にとって、オランダの魅力はGloBEルールの施行によってネガティブな影響を受けることは非常に特殊な場合に限定されると考えられます。

ただし、オランダ法人税法に基づく課税ベースは、特定の項目においてGloBEルールと異なっています。オランダでは、オランダGAAPに基づいて算出された全世界所得に対して、課税が行われます。その際、資本参加免税や恒久的施設(PE)免税など、全世界所得の一部を課税ベースから除外する一定の税制が適用される場合があります。

ここでオランダ法人税法とオランダGAAP間の課税ベースの差異について理解するため、差異の例を永久差異と一時差異に分類します。永久差異の例として、資本参加免税、PE免税、清算(廃業)損失、トン税、イノベーションボックス、追加控除、債務免除の救済などが挙げられます。GloBEルールで明示的に保護されていない限り、永久差異は、GloBEルールと比較して実効税率を引き下げます。一方で、一時差異は主に繰延税金の計上が生じますが、当該繰延税金はGloBEルールでは原則的に分子の租税の額に含まれます。

財務会計において適用される会計基準は法人の規模によって異なります。上場企業は規模に関係なく、国際財務報告基準(IFRS)を適用する必要がある一方、非上場企業は、IFRSもしくはオランダの会計規則を適用することを選択できます。しかし、オランダGAAPとIFRSの間には、多くの差異が残っており、原則としてオランダGAAPがオランダにおけるQDMTT計算の基礎として使用されることに留意することが重要です。

GloBEの情報申告書がオランダのグループ会社ではなく、最終親会社もしくは指定された他のグループ会社によって提出される場合、オランダのグループ会社は、グループ内のどの企業が申告書を提出するのか、また、その企業の所在地を税務当局に報告する義務があります。これを「情報提供義務」と言います。この情報提供義務とは別に、QDMTTもしくはUTPRに基づく上乗せ課税の支払いがある場合は、その申告書を提出する義務があります。オランダのQDMTTとUTPRに対しては、企業が計算に必要なデータにアクセスしやすいため、申告税の方式が提案されています。これはオランダにおいて上乗せ課税が支払われる場合にのみ申告書を提出する必要があることを意味します。


日本企業のGloBEルール対応に関する課題はデータ管理が大きなカギとなる

このようなGloBEルールとオランダの現地ルールとの違いは、他の居住地国にも存在します。企業にとって、すべての潜在的な違いを調査し、関連するセーフハーバーを評価し、各居住地国における数値を集計し、すべての現地要件を理解して、上乗せ課税を計算するには多大な作業が必要であることは言うまでもありません。企業にとって重要なことはコンプライアンスを順守するだけでなく、まだ対処できる可能性のあるリスクを適切に評価することであり、GloBEルールに関する手続きを制御するためのカギはデータ管理にあります。

GloBEルールでは、居住地国レベルでのデータ収集と計算を要求しているため、縦割り構造の日本企業にはいくつかの課題があります。例えば、ある事業部門に属する拠点の会計データを、同グループ傘下の別の事業部門に属する拠点のデータと集約する必要があります。そのため、報告ライン、内部統制、システムおよびデータとプロセスの統合といった広範囲に影響を与える可能性があります。

GloBEルールは、重要かつ新しいデータ要件を伴う、まったく新しい税制です。ミニマム課税の計算実施とGloBEルールの情報申告を順守するためには、どのような新しいデータが必要になるのか整理・検討すべきでしょう。また、既存のデータソースから必要なデータをすべて収集できるのか、それとも新しいデータソースが必要であるのか、確認する必要があるでしょう。GloBEルールの情報申告書作成は本質的にデータの課題であり、テクノロジーと自動化を採用することで解決できることは明らかです。そのため、既存のITシステムを変更しようというリスクを負うのではなく、新しいアプリケーションによる、重要な税務データの計算、割当、強化が非常に効果的な対策となるでしょう。


【執筆者】
EYオランダ パートナー Lenneke Van Dijk
EYオランダ パートナー/プリンシパル Gábor Baranyai
EYオランダ マネージャー 佐々木 悠
EY税理士法人 シニアマネージャー Joris van Huijstee 

※所属・役職は記事公開当時のものです。


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    サマリー

    オランダの法人税および会計規則により、GloBEルールから逸脱し、場合によってはGloBE実効税率が低下する可能性がある事例はありますが、オランダでは最低税率の15%を下回るケースは非常に特殊であり、頻繁に発生することは予想されていません。そのため、日本企業にとって、オランダの魅力は、GloBEルールの施行によってネガティブな影響を受けることはないと考えられます。


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