主要国におけるBEPS2.0アップデートシリーズ14 インド

主要国におけるBEPS2.0アップデートシリーズ14
インドの国内規定は未導入だが、優遇措置を受けている日系企業は影響を検討すべき


インドは現在、世界第5位のGDPを誇る経済大国であり、14億人を超える世界最大の人口を抱える国です。

大国としてのインドは、いわゆる「底辺への競争」を抑止し、スキル、インフラ、市場などの質的要因に基づく投資を促進することを目指しています。今回はインドにおけるPillar2導入の潜在的な影響について解説します。


要点

  • 現在、インドではPillar2のルールに関する国内規制は導入されていない。利益配分の割合や租税条約の特典否認ルール(STTR)の適用範囲などの問題に対処する必要があり、インドは慎重なアプローチをとっている。
  • インドの法人税率は、国内企業については17.16%から34.944%の範囲。GloBEルールの基準税率である15%を十分に超えているが、優遇措置を受ける場合、実効税率(ETR)をより慎重に検討する必要があるケースもある。
  • インドから海外に進出する企業グループは、外国会社がインドから実質的に管理運営されていると見なされる場合、その外国会社の所得はインドで課税される。その外国会社が低税率の国・地域にあり、かつ(インド国外に所在する)親会社がIIRを採用している場合、所得に対する二重課税が発生する可能性がある。


Pillar2のルールに関する
国内規定はまだ導入されず
 

インドは多国籍企業によるアグレッシブなタックスプランニング戦略を阻止するための措置を支持しており、利益移転を軽減するためのさまざまな国内手段を迅速に導入してきた国の1つです。しかし、Pillar2が提案されたOECD/G20包摂的枠組みにおける税制上の取り決めに参加しましたが、現在のところ、インドではPillar2のルールに関する国内規定は導入されていません。利益配分の割合やSTTRの適用範囲を含むいくつかの問題に対処する必要があり、インドはこれらのルールを導入するにあたって、慎重なアプローチをとっているようです。
 

インドでは、第1の柱とPillar2の両方をパッケージとして検討を進めています。実際、2024年7月に発表された2024年度予算では、グローバルな利益移転対策を進めるため、電子商取引による商品およびサービスの供給に対する2%の平衡課税が廃止されています。近いうちに、Pillar2について発表されるものと思われます。

また会計上の目的から、インドの会計機関によって開示に関する公開草案が発表されていますが、まだ正式決定ではありません。インドの企業には、IGAAPとInd AS(Indian Accounting Standard)という2つの異なる会計基準があることに留意が必要です。公開草案は、よりIFRSに整合したInd AS基準に基づくもので、すべての上場企業および純資産が25億インドルピーを超えるその他の企業に適用されます。Pillar2のルールが施行されれば、会計上の開示要件も発効される見込みです。
 

 

インドの法人税率は17.16%から34.944%
優遇措置を受けている場合は検討が必要
 

インドの法人税率は、国内企業については17.16%から34.944%の範囲にあります。インドの税率はGloBEルールの基準税率である15%を十分に超えていますが、企業が優遇措置を受ける場合など、ETRをより慎重に検討する必要があるケースもあります。
 

例えば、所得税における優遇措置では、ここ数年、インドの所得税は優遇措置を段階的に廃止し、企業に対して軽減税率を含む、よりシンプルな税制への移行を促しています。現在、経済特区の拠点に対するタックスホリデーなどの優遇措置を利用し続けている企業は非常に少ないと見られるため、影響を受ける企業は少ないことが想定されます。
 

生産連動型インセンティブ(PLI)は、インド政府が特定のセクターを対象に開始した優遇措置で製造業を促進し、輸入代替と雇用創出を目的としており、この施策は成功していると言われています。これは優遇措置と生産能力の拡大に相関関係があるように設計されているため、税との直接的なつながりはありません。Pillar2がPLIに与える影響はないと思われます。
 

GIFT Cityにおけるタックスホリデーは、インドを金融ハブとしての機能を発展させるための優遇措置になります。GIFT Cityにしか拠点を有さない外国企業は、Pillar2による影響を受ける可能性が高いため、詳細について検討する必要があります。
 

STTRについては、インドは現在、約94カ国と租税条約を締結しています。利子やロイヤリティなどの所得に対する税率は、ほとんどの場合、10%か15%です。STTRが導入された際には、各国はその影響を詳細に調査する必要があります。
 

 

インドから海外進出する企業は
新たに課税を受ける可能性も
 

こうした優遇措置への影響に加えて、インドから海外に進出する企業グループは、以下のような問題に直面する可能性があります。
 

例えば、インドにおける研究開発活動を促進するためのパテントボックス制度は、特許による所得について、その総所得に対して10%の税率で課税する優遇措置を設けています。この場合、関連費用は損金算入の対象とはなりません。当該優遇措置を受けている企業は、10%の税率と、GloBEルールに基づく特許からの総所得に対する税の影響を比較する必要があります。
 

また、インドの実質的管理地(POEM)ルールと所得合算ルール(IIR)の相互関係については、POEMルールでは、外国会社がインドから実質的に管理運営されていると見なされる場合、その外国会社の所得はインドで課税されます。その外国会社が低税率の国・地域にあり、かつ(インド国外に所在する)親会社がIIRを採用している場合、所得に対する二重課税が発生する可能性があります。
 

 

IIRとUTPRについては
インドは早期導入を検討か
 

インドでPillar2が導入される際に実施、または明確化されると期待されるポイントについて説明します。
 

まずIIRの導入については、インドはIIRに関する国内法が施行されていないため、早期に導入されることが想定されます。
 

軽課税支払ルール(UTPR)については、インドは輸入国であり、UTPRを導入することで恩恵を受ける可能性があります。そのため、導入の際は、インドの現行の源泉徴収税制とともに、既存の特定および一般的な租税回避防止規定との相互関係を考慮する必要があります。また他国のIIRとPOEMルールが共存することによる二重課税の可能性を軽減するために、POEMの代わりにCFCルールに類似する制度を採用することが考えられます。
 

その他、紛争防止と紛争解決メカニズムでは、インド税務当局がさまざまな問題について詳細なガイダンスを示し、紛争の可能性を軽減することが重要です。事前裁定制度のような仕組みをより効率的に機能させるため、より良質で豊富なリソースを割り当てる必要があります。
 

このようにインドのPillar2に関する正式な規定は、現時点ではまだ制定されていません。インドの法人税率は高いように見えますが、これを詳細に分析する必要があります。インドで事業を行っている日本企業は、インドの各構成事業体のETRを確認し、OECDのガイダンスに基づくTCSHによる効用を評価することで、インドにおいてPillar2の規定が導入されることに備えるための初期的影響度評価を行うことを推奨します。



【執筆者】
EYインド シニアマネージャー Shinjini H Srivastava
EYインド シニアマネージャー 渡邉 美樹スザンネ
EY税理士法人 マネージャー Vrudhi L Jain
EY税理士法人 シニアマネージャー 工藤 保浩


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    サマリー

    インドのPillar2に関する正式な規定は、現時点ではまだ制定されていません。インドの法人税率は高いように見えますが、これを詳細に分析する必要があります。インドで事業を行っている日本企業は、インドの各構成事業体のETRを確認し、OECDのガイダンスに基づく移行期CbCRセーフサーバー規則(TCSH)による効用を評価することで、インドにおいて第2の柱の規定が導入されることに備えるための、初期的影響度評価を行うことを推奨します。


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