EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
要点
Section 1
深刻化するポリクライシスの渦中において、単独ではなく、多様なステークホルダーとの協働を通じて解決を図ります
世界各地で顕在化する地政学リスクは、サプライチェーンの寸断やエネルギー価格の高騰、経済安全保障対応の負担増となり、また国家間の関税引き上げの応酬で混迷を極める世界経済は、企業のビジネスに大きな影響を与えています。加えて、深刻さを増す異常気象や気候変動により、ここ数年来、私たちはさまざまな問題と直面しています。世界経済フォーラムでもキーワードとなったように、まさしくポリクライシス(複合危機)の渦中にあります。
さらに、それぞれに相関関係や因果関係があるため、個別に解決を図ろうとすると別の問題が生じる恐れがあります。
今後は、企業活動においてAIをどのように活用していくかを真剣に考えることが不可欠です。ビジネスへのAI導入とその設計が非常に大きな意味を持ちます。これまでAIなどのテクノロジーは、人間の仕事をサポートする役割でしたが、今ではAIと人それぞれの強みを踏まえ、AIが得意とする業務は積極的にAIを活用する段階に来ています。AIで代替できる業務を依然として人が担当し続ける企業は、今後の成長で取り残されるリスクが非常に高まります。
ポリクライシスを乗り越えていくためには、大局的な視点も必要となります。目先の課題解決に翻弄(ほんろう)され、これまでのサプライチェーンを見直す動きも見られますが、製造拠点の配置や自由貿易の在り方は長期的な展望に基づいて考えるのが賢明です。
国内で顕在化しているインフレも、根本的には経済の強さが関係していると言えます。従って、長期的なスパンで日本経済をどう力強く成長させていくべきかの発想が重要です。このように数々の社会課題の解決には、複合的な視点とともに大局観が不可欠です。
一貫してEYが追求しているのは、まさに長期的価値の創出です。EY単体としてのみならず、社会全体がサステナブル(持続可能)な発展を遂げていくこと、多様な人材が活躍できる社会を目標に掲げ、個々の人々、企業、政府に資本市場において長期的なメリットをもたらす活動にまい進しています。そして、客観的なデータに基づき、深い洞察と高度な分析力で、クライアントの皆さまの価値を高めることが、重要な役割の1つだと認識しています。
その一例として挙げられるのは、「EY Ripples」という企業としての責任(CR)プログラムです。EYのプロフェッショナルが自らの知見やスキルを生かし、サステナブルな経済成長に貢献することで人々の生活をより良いものにするのが目標です。次世代教育・就労支援、社会的に影響力のある起業家との協働、持続可能な環境への取り組みという3つのテーマに焦点を当てて日々活動を行っています。
人々の生活をより良いものにしていくという観点ではAIも重要なテーマですが、前述の世界経済フォーラムでも偽情報や誤情報を流布するリスクが指摘されたように、その普及を手放しで歓迎できない側面があります。効率化や生産性の向上が進む半面、これまで人間が手掛けてきた仕事をAIに奪われてしまうことを危惧する声も聞かれます。先日、私が訪米した際に出会った法科学科の学生も、「自分が資格を取得する頃にはAIに弁護士の仕事を代替されているかもしれない」と不安を抱いていました。
しかし、AIがどこまで人間の仕事を奪うかの論争は、まだ明確な答えはありません。一般的には、単純作業や多少経験が浅くても務まる仕事に就く人から失業していくと見られており、特に若い世代がAIの台頭に脅威を感じているようです。あくまでこれは私見ですが、先に仕事を取られてしまうのは私のような役員や管理職かもしれません。むしろ、生まれた頃からITが普及した環境が整っていたデジタルネイティブ世代の方がAIと共存しやすいとも言えます。AIに翻弄(ほんろう)されるのではなく、有効に活用し、AIと共存する未来を描くことが必須となってくるでしょう。
Section 2
All in 戦略のもと、サステナビリティやAIなどへ経営資源を集中的に投入し、より良い社会の実現を目指します
社会やクライアントが直面している数々の課題を解決するため、EYは2024年7月にAll in と名付けた戦略を打ち出しました。EYのパーパス(存在意義)である「Building a better working world ~より良い社会の構築を目指して」に向かって前進を続けていくため、EYが独自のポジションを確立している重点領域に投資を行っていきます。
具体的には、サステナビリティ、AI、トランスフォーメーション(変革)、マネージドサービスといった領域に経営資源を集中的に投入します。そして、これらの領域の中でも特に重要な位置付けとなってくるのはサステナビリティとAIです。
周知の通り、米国が現政権になってからパリ協定からの離脱を表明し、温室効果ガス規制の廃止を打ち出しました。また、欧州連合(EU)もさまざまな環境に関する基準の導入期限を見直す方針を示しています。
しかしながら、パーパスの「より良い社会の構築を目指して」を実現していくためには、先に述べたように長期的な視点が求められます。先代から受け継いできたものをより良いものに高めた上で次代に託していくことこそ、私たちが長く大切にしてきた価値観です。地球環境や経済格差、人権問題などの課題を解決するため、EYとしての事業を進めていく責任があると考えています。
科学的な視点から5万年や10万年といった非常に長期のスパンで地球の歴史を振り返ってみても、現在の急速な温暖化は過去の気候変動とは異なるもので、太陽や火山などの活動がもたらす自然現象(周期的な変動)として説明するのは難しいとされています。科学的な根拠やデータを積極的に活用し、私たち現役世代が解決の道筋を立てるべく、同じ価値観を持つ企業とも連携しながらポリクライシスに対処していきたいと考えています。
一方、わずか5~6年でインターネットが爆発的に普及し、今では人々の暮らしに欠かせなくなっているように、AIは単なる一過性のブームにとどまるものではありません。重要な作業をAIだけで完了させるという世界はすでに現実となっています。
最先端の現場では、目的達成のために自律的に計画を立ててタスクを遂行するソフトウエアであるAIエージェント同士が対話し、互いに助言し合いながら推論の作成だけにとどまらず、その見解に基づいて処理を実行することまで担っています。また、AI技術は小型化が進んでおり、近い将来、AIエージェントが人間の操作する現実世界のさまざまなデバイスに搭載されることで、私たちの生活がより変化していくことが考えられます。例えば、スマートフォンに搭載されたAIエージェントは、ますます多くの役割を担うようになるでしょう。映像解析技術やウェアラブルデバイスと連携して高度な健康管理サービスの提供が可能になります。さらに、人の好みや体調、その日の予定まで考慮して最適な献立を提案してくれるかもしれません。加えて、電子レンジや冷蔵庫、IH家電にもAIが搭載されれば、それらとも連携し、提案された献立が半自動的に調理される未来も想定できます。さらには、ロボット技術との融合によって、高齢者ケアや育児の在り方も大きく変わり、ウェルビーイングのさらなる向上が期待されます。
そのような時代の流れを見据え、EYは日本を含む世界約150の国・地域に展開している約700のオフィスで働く約10万人のプロフェッショナルに対し、Microsoft Dynamics 365 SalesとMicrosoft Copilot for Salesを提供しています。最新の顧客管理(CRM)ツールである前者と最新のAI機能を搭載した後者がグローバル全体で運用されることで、クライアントに向けたセールスエクセレンスとビジネストランスフォーメーションを推進するのがその目的です。EY Japanの組織内でも、税務関連業務におけるデータの自動化やM&Aにおけるビジネスや財務の分析をはじめ、すでにさまざまな部署においてAIの活用が広がっています。
産業革命では20年程度の歳月を経て人から機械へのシフトが進みましたが、AIの進化次第では同じような変革がわずか5年程度で起こる可能性があります。EYではAIに関するプロフェッショナルな研修を提供し、多数の従業員が受講しています。自分が担っている業務を代行してもらえるなら、それによって生じたゆとりの時間でより付加価値の高い仕事に挑戦できるというポジティブな発想で、AIスキルの向上に励んでいます。
また、正確性や知的財産権、セキュリティ、プライバシーなどといったAIに関連するリスクに関しても、規制当局による法整備の在り方についてEY Japanは助言や提案を行っています。
AIによって暮らしが変革されるとともに、企業のAI活用も次のステージに進んでいくと考えられます。AIに期待される最大のポイントは、新たな価値の創出です。冒頭で述べたように、私たちはさまざまなリスクが複雑に絡み合う「ポリクライシス」の時代に直面しています。こうした状況において、AIエージェントは多様な事象を把握し、問題解決のシミュレーションを行い、世界中の人々の幸福につながる最適な方法を見つけ出せる可能性があります。予測困難な未来を見通すためにAIが活用されることで、企業活動に今後、劇的な変革がもたらされるでしょう。
Section 3
パーパスの「より良い社会の構築を目指して」のために、先代から受け継いできたものをより良いものに高めていきます
All in 戦略では、グローバルな規模で組織体制の見直しも図っています。エリアというレイヤーは縮小され、クライアントへの対応がより迅速になり、組織の簡素化により捻出された資金を戦略的投資に充てています。
All in 戦略をグローバルな規模で推進するため、日本を含めた主要10名のリーダーが具体的にどのような施策に落とし込んでいくべきかについて議論を交わしました。これにより、今まで以上に迅速に施策が進められるようになり、グローバル全体で意思決定のスピードがさらに加速しています。
EYのグローバルネットワークとの連携の在り方についても、さらなる改善を行っています。日系企業に対してEY Japanがサービスを提供するのは至極当然のことですが、一方で海外売上高比率が過半を超えるケースが珍しくないのが今日の状況です。その結果、進出先の国・地域に拠点を構える海外のEYがサービスを提供する機会も増え続けています。現地のEYが個々の日系企業が抱えている課題やニーズを的確に把握できなければ、クライアントに満足していただけるサービスを提供するのは困難です。そこで、日系企業に対応する現地のEYに、EY Japanがそのクライアント向けに確立した手法を導入してもらうというアプローチもAll in 戦略の一環として進めています。
これらの取り組みによって、グローバルな人材が国や地域を越えてさらに活発に異動できるようになりました。日本から海外のEY拠点への出向や、現地で日本語対応が可能なプロフェッショナルの採用を強化することで、短期から中長期にわたる柔軟な人材配置が実現しています。この体制によって、クライアントの皆さまの活動に一層寄り添ったサポートを実現しました。
次の世代へ胸を張って託すことができる真の価値創造を実現するためには、サステナビリティをはじめとする非財務価値の開示も不可欠です。なぜなら、貸借対照表や損益計算書といった伝統的な会計アプローチではサステナビリティなどに関する取り組みが反映されにくいからです。EYを例に挙げて説明するなら、年間に大多数の従業員が海外に出張しており、その旅費は損益計算書に数字として計上されます。ところが、利用した飛行機がどれだけのCO₂を排出したのかは財務諸表に一切反映されません。非財務価値に関する情報も開示することで透明性を高め、その企業がCRの観点でどれだけの価値を創出しているのか、あるいは逆に価値を毀損(きそん)しているのかを明らかにすることが求められています。
経済格差の問題についても、積極的に取り組むことが求められます。明治時代から始まった日本の民主主義は、家業や家族制度などによる束縛から解放され、一人一人が自分自身の意思で自由に行動できる方向へ進んできました。ただ、資本主義のデメリットである経済格差の拡大が顕在化してくると、不公平感が募って社会が分断されてしまう恐れが出てきます。こうした分断を防ぐためには、人々がつながりを持ち、地域社会の絆を強める取り組みが重要です。地域社会の絆を強める取り組みは、企業の役割も大きいと考えます。EYは、地方創生に取り組む企業や団体と共に地域コミュニティの活性化を目指します。これはスポーツビジネスや、地方自治体へのサービス強化と密接に関連し、EYのパーパスとも一致しています。
謙虚な姿勢で若い世代の声に耳を傾け、クライアントにより良いサービスを提供し、政府に対しても積極的に提言を行っていきます。パーパスの「より良い社会の構築を目指して」のために、先代から受け継いできたものをより良いものに高めてから次世代へ渡すことにまい進します。
EYは、ポリクライシスの時代において、複合的な視点と大局観をもって、長期的価値の創出を一貫して追求します。All in 戦略のもと、AI活用や組織体制の強化、非財務価値開示を進め、グローバル連携と高度な専門性で企業と社会の持続的成長を支えてまいります。