主要国におけるBEPS2.0アップデートシリーズ13 スイスは、2024年1月1日から適用される国内ミニマム課税(QDMTT)を導入したが、所得合算ルール(IIR)と軽課税支払ルール(UTPR)の適用は延期

主要国におけるBEPS2.0アップデートシリーズ13 スイスは、2024年1月1日から適用される国内ミニマム課税(QDMTT)を導入したが、所得合算ルール(IIR)と軽課税支払ルール(UTPR)の適用は延期


スイスは、ヨーロッパの中心に位置する26の州からなる連邦国家です。

スイスは企業にも個人にも非常に有利な税制を採用しており、州や市町村によって異なりますが、法人税率は11~21%となっています。日系企業グループも消費財、機械、エネルギー、製薬などさまざまな分野でスイスに進出しており、スイスの魅力的な事業的立地を活用しています。今回はスイスにおける第2の柱に関するイニシアチブの実施に向けたスイスのアプローチと、スイスで事業を展開する多国籍企業(MNE)における留意点について解説します。


要点

  • スイスは国内ミニマム課税(QDMTT)を導入したが、所得合算ルール(IIR)と軽課税支払ルール(UTPR)の適用を延期している。現状、2024年末までに決定が下されることはないと予想される。
  • スイスの法人税の実効税率は11~21%、純資本税率は0.001~0.5%で州や市町村によって異なる。また、スイスでは商業財務諸表が課税ベースとなっており、国際財務報告基準(IFRS)、米国会計基準(US GAAP)、スイスの会計基準(FER)などの会計基準は、商業財務諸表では認められていない。
  • スイスの第2の柱課税申告書とGloBE情報申告書(GIR)は異なる書類であり、別々に提出する必要があることに留意すべき。現在、スイスにおけるGIRの提出に関する情報は公表されていない。


QDMTTは導入したが、
IIRとUTPRの適用は延期

国民投票を経てスイスは2024年1月1日から国内ミニマム課税(QDMTT)を導入しましたが、所得合算ルール(IIR)と軽課税支払ルール(UTPR)の適用は延期しました。スイスではIIRとUTPRの税は総称して国際トップアップ税と呼ばれています。その法的根拠は、ミニマム課税条例にてすでに制定されており、当分の間は経過措置により適用が延期されています。現状、2025年1月1日から適用される可能性を示唆する注釈が発表されているものの、2024年末までに決定が下されることはないと予想されます。

 

スイスの法人税の実効税率は11~21%、純資本税率は0.001~0.5%で州や市町村によって異なります。そのため、GloBEの実効税率も地域によって異なります。



一般に、スイス債務法に基づく商業財務諸表に記載された純所得が、法人税の課税ベースとなります。国際財務報告基準(IFRS)、米国会計基準(US GAAP)、スイスの会計基準(FER)などの会計基準は、商業財務諸表では認められていません。さらに、税務当局は過大な減価償却費や引当金など特定の項目の修正を要求する場合があります。

 


スイスでは州独自の税優遇措置などがGloBE 実効税率を減少させる可能性がある

財務会計と税額計算の永久差異は、「繰延税金」資産または負債にはなりません。したがって、GloBEルールで特に認められていない場合、財務会計上の収益項目か費用項目かに応じて、実効税率が増減することになります。

 

また配当やキャピタルゲインは通常、経常利益として課税されます。しかし、一定の条件を満たせば、資本参加免税が適用されます。資本参加免税が適用される配当所得は、グループ会社株式に割り当てられた資金調達コストや管理費用によって減額されるため、完全な免税ではありません。GloBEルールでは、特定の配当がGloBE所得の調整につながります。しかし、これらのいわゆる除外配当の定義は、スイスの資本参加免税とは一致していません。



その他、スイスでは、パテントボックス、研究開発スーパー控除、みなし利子控除(一定の条件あり)といった州独自の優遇措置を利用することで、税負担を軽減することができます。これらの控除は、最大で課税所得の70%までとなっています(州はこれより低い基準額を設定することができます)。



一時差異については、資産または負債の税務上の簿価と財務諸表上の簿価が一致しない場合に発生します。スイスでは、商業財務諸表から計算され、IFRSなどと異なるため、この一時差異が生じる可能性があります。特に、棚卸資産の評価、売掛金、減価償却、移転ステップなどの項目に留意が必要と考えられます。


第2の柱課税申告書とGloBE情報申告書(GIR)は
異なる書類であり、別々に提出する必要がある

コンプライアンスの手続き面では、スイスはワンストップショップアプローチを採用しており、通常、スイスにおいてIIRの対象となる構成事業体の居住州が理論上、グループ全体のスイスの第2の柱に対する課税アセスメントの責任を負います。一般的に、スイスの第2の柱の課税アセスメントには、法人税に似た混合アセスメント手続きが採用されます。

スイスの第2の柱課税の対象となる構成事業体は、事業年度終了後15カ月以内にスイスの第2の柱課税の申告書を提出する必要があります。スイスのQDMTT、IIRおよびUTPR(適用された場合)は、個別の課税アセスメントにより査定されます。

また、スイスの第2の柱課税申告書とGloBE情報申告書(GIR)は異なる書類であり、別々に提出する必要があることに留意すべきです。現在、スイスにおけるGIRの提出に関する情報はなく、今後の情報が待たれます。

スイスの税制は有利な面もあるが、
徹底した影響分析が必要不可欠

結論として、第2の柱のイニシアチブの導入に関するスイスのアプローチは、世界の課税環境において独特な道筋を示しています。IIRとUTPRの適用を一時的に延期する一方、QDMTTのみ実施することでスイスのモデルは、税収の保護と外国での税務手続きから、企業保護のバランスを取っており、世界の実施状況が断片的な状況である限り、海外の特定の軽課税構造を維持する機会を保持しています。スイスの多様で重層的な税制は有利な面もある一方、GloBEルールのように新たな国際基準に直面する際には、独自の課題ももたらしています。特に、スイスの法人税制の際立った特徴やGloBEルールとの対比は、GloBE実効税率に影響を与える可能性があります。また、第2の柱ルールを部分的にしか実施しないことも複雑さを増していますが、これらの戦略的対応は、良好なビジネス環境を維持し、国際競争力のある経済国としての地位を強化するスイスの前向きな姿勢を示唆しています。

今後、スイス国内で事業を行う企業は、影響分析を行うことを強くお勧めします。


【執筆者】
Ernst & Young AG パートナー Sarah Drye
Ernst & Young AG シニアマネージャー Janique Spillmann
Ernst & Young AG シニア Janik Feiner
EY税理士法人 シニアマネージャー 工藤 保浩


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    サマリー

    第2の柱のイニシアチブの導入に関するスイスのアプローチは、世界の課税環境において独特な道筋を示しています。スイスのモデルは、税収の保護と外国での税務手続きから企業保護のバランスを取っており、世界の実施状況が断片的な状況である限り、海外の特定の軽課税構造を維持する機会を保持しています。今後、スイス国内で事業を行う企業は、影響分析を行うことを強くお勧めします。


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