経済協力開発機構(OECD)は、税源浸食と利益移転(BEPS)に関する包摂的枠組みの第2の柱であるモデルルールおよびガイダンス(以下、GloBEルール)を公表しました。GloBEルールでは、複雑な15%のグローバルミニマム課税制度が新たに導入されます。この制度は、対象事業年度の直前の4事業年度のうち2事業年度の連結財務諸表上の収益が7億5,000万ユーロ以上の多国籍企業(MNE)に適用されます。
140を超える国・地域が、この包摂的枠組みのメンバーになっています。これらの国・地域の多くは、2023年中にGloBEルールを導入するための準備を進めています。発効日は、2023年12月31日以降に開始する最初の事業年度の初日(事業年度が暦年の年末に終了する事業体の場合は2024年1月1日)です。本稿の執筆時において、韓国、日本、カタール、英国の4カ国が、GloBEルールの要素の国内法への導入を完了しています。
GloBEのセーフハーバールールは、一時的に救済措置となるかもしれません。しかし、詳細なGloBEルールには、GloBE所得および調整後対象税額の算出について複雑な調整が多く含まれているため、財務諸表上の実効税率(Effective Tax Rate、以下ETR)が15%を超える企業に対し、GloBEルールによるトップアップ税が課される可能性があります。従って、影響を受ける多国籍企業は、連結または現地の法定財務諸表上のETRが15%より高いか低いかにかかわらず、GloBEルールに照らして事実を確認し、GloBEのトップアップ税の納税義務を負わないことを確認する必要があります。
2023年のEY税務リスクと税務係争に関する調査では、多国籍企業にとっての潜在的リスクの主な原因として第2の柱が挙げられています。
また、多国籍企業グループの最終親会社が所在する国・地域でGloBEルールが法制化されていなくても、多国籍企業グループに適用される場合があることを認識しておく必要があります。新たにグローバルミニマム税を法制化した国・地域に所在する中間親会社または単一の子会社にも、GloBEミニマム税が課される可能性があります。
「GloBEミニマム税の算出は多変量計算に基づいており、事実を表面的に見るだけでは把握できない結果をもたらす可能性があります。予期せぬトップアップ納税義務を招きかねない落とし穴を回避するためには、慎重に分析する必要があります」と、EY Global Tax Accounting and Risk Advisory Services LeaderのBrian Foleyは述べています。
多国籍企業は、財務諸表上のETRを確認し、以下のことを実施する必要があります。
- 財務諸表とGloBEの実効税率に違いを生じさせる要因を認識します。
- ETRが高い(15%を超える)多国籍企業が新たなグローバルミニマム課税の対象になり得る、以下の4つの一般的なシナリオを特定します。
- 繰延税額の差異
- 源泉徴収税
- 不確実な税務ポジション
- 繰延税金資産(または評価引当金)の認識の変更
- 第2の柱に備えるために企業が今実践可能な対応策を明確にします。
自社のETRはどのように算出していますか?
多国籍企業の財務諸表上のETRは、企業グループが事業を展開するすべての国・地域において、さまざまな事業体(企業、パートナーシップ、支店、合弁事業など)が全世界で獲得した税引前利益の税効果を融合した1つの指標です。財務諸表上のETRで報告される税効果には、当期税額および繰延税額、不確実な税務ポジション、新しい税法の影響、繰延税金資産(または評価引当金)の認識の変更、源泉徴収税、税額控除、税制上の優遇措置などが含まれます。
GloBEとの差異
GloBEルールのスタート地点は連結グループ財務諸表の純利益ですが、多国籍企業が事業を展開する国・地域ごとにGloBEルールに従い個別に算出されるETRは、帳簿とは異なる数字になります。国・地域ごとにGloBEのETRを計算すると、連結財務諸表上のETRの計算において相殺されている、高い税率を課されている所得と低い税率を課されている所得を区分して認識することができます。
さらに、帳簿上の所得とGloBE所得の差、および帳簿上の税額合計とGloBE調整後対象税額の差を理由とする差異も生じます。例えば、GloBE所得から除外されるものには、特定の配当、特定の株式による損益、特定の外国為替損益、罰金・科料、帳簿上の所得に含まれる未払年金費用などがあります。一方、GloBE調整後対象税額の算出では、GloBE所得から除外された項目の税効果の除外、⾼い税率で認識された繰延税⾦費⽤を15%の税率で算出し直すこと、不確実な税務ポジションの現⾦主義での計上、3年以内に⽀払われる⾒込みのない当期税⾦費⽤の繰延、5年以内に戻⼊を⾏わない特定の繰延税⾦負債に関連する繰延税⾦費⽤の除外(または再計上)などの調整を実施します。
「企業はGloBEのETRに含まれない帳簿上のETRを構成する項⽬を把握し、GloBE所得と調整後対象税額に影響する差異を説明できなければなりません。企業は今、2024年に第2の柱がもたらす影響を予測して利害関係者と社内に伝え、必要に応じて納税額の増加と帳簿上のETRの引き上げに備える必要があります」とFoleyは述べています。
繰延税金
一般に、一時的な帳簿上の税額の差異は、当期税⾦引当⾦と繰延税⾦引当⾦の両方に対して、調整される税額相当分の影響を与えます。例えば、当期の税率と繰延税金の税率が同じ場合、加速償却を実施すれば、当期未払税額が減少するとともに調整される金額分だけ繰延税金負債が増加するため、純額では差額に起因する税費用は発生しません。GloBEルールでは、繰延税金について、適用される税率または15%のいずれか低い方を用いて会計処理をする必要があります。繰延税金が15%の税率に基づいて再計算されると、経常的に生じる一時的な差異がGloBEのETRに影響します。例えば、当期税金および繰延税金に25%の税率が適用される場合、加速償却によりGloBE対象税額が減少します。なぜなら、当期の税務ベネフィットは25%の税率で測定される一方で繰延税金負債は15%で再計算されるため、GloBEのETRが引き下げられるからです。
単独では、繰延税金費用を15%で再計算しても、GloBEのETRが15%未満にならないでしょう。しかし、単独ではGloBEのETRが15%を下回らないかもしれない他の項目(税額控除や会計と税務の永久差異など)と組み合わされた場合、繰延税金費用を15%で再計算すると、GloBEのETRが15%を下回り、トップアップ納税義務が生じる可能性があります。
また、GloBEルールでは、GloBEルールが適用される年度に発生した繰延税金負債の一部は、調整後対象税額から除外(または再計上)されます。この状況が生じる可能性があるのは、例えば、営業権を会計上償却しない国において、営業権が税務上償却されたことによって、5年以内に戻⼊されない繰延税⾦負債が発⽣した場合です。繰延税⾦負債の再計上により、調整後対象税額に当期ベネフィットだけが残る⼀⽅で、GloBEのETRが減少し、トップアップ税の納税義務が⽣じる可能性があります。