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EY新日本有限責任監査法人
公認会計士 中澤 範之
2024年3月期決算に係る有価証券報告書(以下「有報」という。)の「サステナビリティに関する考え方及び取組」におけるシナリオ分析に関する開示の状況を知りたい。
調査対象会社(192社)を対象に、有報において気候変動に関する開示におけるTCFD提言に基づく開示動向を調査した。<図表1>のとおり、TCFDについて言及し、シナリオ分析に基づくリスクと機会がもたらす戦略への影響を開示している会社は、2023年3月期の106社(55.2%)から2024年3月期の125社(65.1%)へ増加していた。2024年3月期にTCFD提言への言及をしていない48社についても、そのうち39社が気候変動について記載しており、サステナビリティ情報の開示に対する社会的な要請の高まりに各社が対応していることがわかる。
続いて、調査対象会社(192社)を対象に、2024年3月期の有報において、IFRS S1号「サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項」及びIFRS S2号「気候関連開示」(以下、これらをあわせて「ISSB基準」という。)に言及している会社を調査した。結果は、<図表2>のとおり、8社がISSB基準について開示していた。2025年3月までには、サステナビリティ基準委員会(以下「SSBJ」という。)による確定基準も公表される予定であるため、ISSB基準とあわせて、SSBJが公表する基準又はISSB基準について記載をする会社が増えると考えられる。
<図表1> 気候変動に関する開示におけるTCFD提言に基づく開示動向の分析
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記載内容(注1) | 2024年3月期 |
会社数(注2) | |
ISSB基準の公開など、社会からの要請に応じる旨 | 1社 |
ISSB基準などによる要請の対応を進めていく旨 | 1社 |
ISSBにより開示が求められている事項に取り組んでいく旨 | 1社 |
ISSB基準等における重要性の判断に照らして検討している旨 | 1社 |
IFRS財団が、企業の気候関連開示の進捗に関する監督をTCFDから引き継いでいる旨 | 1社 |
ISSBなどを傘下に持つIFRS財団の評議員に役職員が就任している旨 | 1社 |
社内の委員会にて、ISSB基準を議論している旨 | 2社 |
合計 | 8社 |
(注1)ISSB基準の記載には、IFRSサステナビリティ開示基準等と記載した会社を含んでいる。
(注2)IFRS及びISSBに言及している会社を集計している。
調査対象会社(192社)を対象に、有報においてシナリオ分析について開示しているか、開示状況を調査した。調査結果は<図表3>及び<図表4>のとおりである。
<図表3>のとおり、シナリオについて具体的な温度(℃)を記載している会社は、2023年3月期と比較して21社増加の130社(67.7%)であった。特に、2023年3月期にシナリオへ温度(℃)を記載していなかった会社のうち、11社が温度(℃)のシナリオとともに、気候変動におけるリスクと機会の影響について詳細な一覧表(<図表5>を参照)を作成しており、サステナビリティ情報の開示に関して各社の拡充が見られた。
続いて、<図表4>のとおり、シナリオに採用した温度(℃)ごとの会社数について、2023年3月期と比較して、1.5℃及び4℃が増加していた。これに対して、2℃を開示している会社は減少傾向であり、2023年3月期に2℃及び4℃の2つのシナリオを開示していた会社のうち、2024年3月期に1.5℃及び4℃へ変更している会社が4社見られた。
<図表3> シナリオに温度(℃)を記載した会社分析
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| 2023年3月期 | 2024年3月期 | ||
会社数(注1) | 割合 | 会社数(注1) | 割合 | |
1.5℃ | 63社 | 28.6% | 82社 | 31.8% |
1.5℃ / 2℃(注2) | 21社 | 9.5% | 25社 | 9.7% |
2℃(注3) | 35社 | 15.9% | 31社 | 12.0% |
3℃等(注4) | 5社 | 2.3% | 6社 | 2.3% |
4℃ | 96社 | 43.6% | 114社 | 44.2% |
合計 | 220社 | 100.0% | 258社 | 100.0% |
(注1)複数の項目を記載している場合には、それぞれを1社としてカウントしている。
(注2)1.5℃/2℃未満、1.5℃/2℃以下、1.5℃~2℃、1.5℃(2℃)、2℃未満(1.5℃)等を含む。
(注3)2℃未満を含む。
(注4)2.7℃~4℃、2.6℃を含む。
分類 | シナリオ | リスクと機会 | 影響度 | 対応策 |
移行リスク | 1.5℃ | 原材料の高騰 | 大 | カーボンリサイクルの実施……… |
エネルギーコストの高騰 | 大 | 省エネ機器の導入……… | ||
物理リスク | 4.0℃ | 水害による製造拠点の被災 | 大 | 事業継続計画(BCP)による危機管理体制の構築……… |
異常気象によるサプライチェーンの寸断 | 大 | 製造拠点の分散化、在庫管理の精緻化……… | ||
機会 | 1.5℃ | 環境志向に対応した製品開発 | 中 | 製品の売上拡大……… |
財務影響度…小:×億円未満 中:×億円~××億円 大:××億円超
(注)事例を参考に筆者が作成
(旬刊経理情報(中央経済社)2024年9月20日号 No.1721「2024年3月期「有報」分析」を一部修正)
2024年3月期 有報開示事例分析
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