EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
EY新日本有限責任監査法人
公認会計士 大山 文隆
2024年3月期決算に係る有価証券報告書(以下「有報」という。)の「コーポレート・ガバナンスの状況」における政策保有株式の開示状況を知りたい。
「企業内容等の開示に関する内閣府令」第三号様式(記載上の注意)(39)で準用する第二号様式(記載上の注意)(58)では、提出会社が上場会社等である場合には、提出会社の株式の保有状況について、次の事項の記載が求められている。なお、純投資目的とは、専ら株式の価値の変動又は株式に係る配当によって利益を受けることを目的とする場合をいう(「企業内容等の開示に関する内閣府令(案)」等に関するパブリックコメントに対する金融庁の考え方(2010年3月31日公表) No.124)。
このうち、保有目的が純投資目的以外の目的である投資株式(いわゆる政策保有株式)については、コーポレートガバナンス・コード等の改正を通じて、市場全体で保有意義の検証や保有数の削減が進められている。
調査対象会社(192社)の有報の「株式の保有状況」から、純投資目的以外の目的である投資株式の銘柄数及び貸借対照表計上額について、2023年3月期と2024年3月期の有報を比較し、増減を調査した結果が<図表1>のとおりである。
<図表1> 保有目的が純投資目的以外の目的である投資株式を保有している会社数
|
---|
純投資目的以外の目的である投資株式の銘柄数は、非上場株式以外及び非上場会社ともに減少している会社が最も多かった。一方で、貸借対照表計上額については増加している会社が最も多い。非上場株式以外は主に株価の上昇(日経平均株価の終値は2023年3月末:28,000円台から2024年3月末:40,000円台に上昇)、非上場株式は既存投資先への追加出資などによる増加が要因と考えられる。
なお、非上場株式の銘柄数が増加している会社は39社であり、非上場株式以外の13社よりも多い。これは新規事業機会の創出や技術開発を目的としてスタートアップ企業などに出資した会社が多いためと考えられる。
また、保有目的が純投資目的以外の目的である投資株式について、業種ごとに平均保有銘柄数を集計したところ、上位5業種は<図表2>の結果となった。
<図表2> 保有目的が純投資目的以外の目的である投資株式の業種別の平均保有銘柄数
(注)有報提出会社の関係会社における保有銘柄数が記載されている場合には、平均保有銘柄数の集計対象としている。 |
---|
非上場株式以外、非上場株式ともに保険業、銀行業における平均保有銘柄数が他業種より突出して多くなっている。また、非上場株式以外については保有数の削減を進めている会社が多く、上位5業種に限らずほとんどの業種において減少している。この結果、業種全体の平均保有銘柄数の減少率は9.2%となった。
非上場株式については、保有数の削減も進めている一方で、スタートアップ企業などへの新規出資も多くなっていると考えられ、結果として減少率は1.5%と非上場株式以外よりも小さくなっている。
続いて、保有目的が純投資目的である投資株式についての調査を実施した。
調査対象会社(192社)のうち、純投資目的の投資株式の銘柄数および貸借対照表計上額について、2023年3月期と2024年3月期の有報を比較し、増減を調査した結果が<図表3>である。
<図表3> 保有目的が純投資目的である投資株式を保有している会社数
|
---|
純投資目的で投資株式を保有している会社は非上場会社以外で40社、非上場株式で28社と純投資目的以外の目的と比較して保有している会社が少なかった。また、非上場株式以外の銘柄数について、純投資以外の目的においては銘柄数が減少している会社が最も多かったが、純投資目的においては増加している会社が最も多い。これは増加17社のうち、保有目的を純投資目的以外の目的から純投資目的に変更した会社が8社あったことが主な要因である。なお、純投資目的以外から純投資目的である投資株式に保有目的を変更したものの、実態が変わっていない事例がある点が市場において問題視されており、実務においてもこの点に留意されたい。
(旬刊経理情報(中央経済社)2024年9月20日号 No.1721「2024年3月期「有報」分析」を一部修正)
2024年3月期 有報開示事例分析
会計・監査や経営にまつわる最新情報、解説記事などを発信しています。