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EY新日本有限責任監査法人
公認会計士 兵藤 伸考
2024年3月期決算に係る有価証券報告書(以下「有報」という。)における「従業員の状況」における男性労働者の育児休業取得率の開示状況を知りたい。
調査対象会社(192社)の有報の「従業員の状況」から、提出会社に係る男性労働者の育児休業取得率の算定方法を2023年3月期の有報と比較分析した結果は<図表1>のとおりである。
育児・介護休業法施行規則第71条の4第1号による計算(以下「1号による方法」という。)を採用している会社が57.8%と約半数であり、前期と大きな相違は見られなかった。育児・介護休業法施行規則第71条の4第2号による計算(以下「2号による方法」という。)を採用している会社は前期と比較して6社増加していた。
取得率の算定方法を前期から変更した事例を集計した結果が<図表2>のとおりである。他の算定方法から2号による方法へ変更している会社が7社であった。
また、提出会社が持株会社であるなど提出会社の従業員数が300人未満である場合や対象となる男性労働者がいない場合等として記載を省略又は記載していない事例が32社(16.5%)みられた。
<図表1> 男性労働者の育児休業取得率の算定方法
(注)1号による方法及び2号による方法のいずれの計算結果も記載している事例1社をそれぞれ含めている。
<図表2> 前期からの算定方法の変更
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調査対象会社(192社)のうち、提出会社に係る男性労働者の育児休業取得率を記載している事例150社について、算定方法ごとの平均取得率を分析した結果は<図表3>のとおりである。いずれの算定方法においても平均取得率は増加していた。
2024年7月31日に厚生労働省が発表した雇用均等基本調査では、2021年10月1日から2022年9月30日までの1年間に配偶者が出産した男性のうち、2023年10月1日までに育児休業を開始したものの割合は30.1%であり、前回の令和4年度の調査結果(17.1%)より 13.0 ポイント上昇したと公表されている。雇用均等基本調査の結果(前回調査結果から13.0ポイント増加)と比較して、調査対象会社の増加率は+5.9ポイントから+10.5ポイントとなっているが、調査対象会社は事業規模の大きい会社が多く、2023年3月期決算においても平均取得率が50.1%から79.2%と雇用均等基本調査対象会社の前回調査結果(17.1%)よりも高く、すでに男性の育児休業の取得が浸透しているためと考えられる。
なお、2号による方法の平均取得率は85.5%と他の算定方法と比較して高い取得率となっているが、当該計算について「小学校就学の始期に達するまでの子を養育する男性労働者を雇用する事業主が講ずる育児を目的とした休暇制度(育児休業等及び子の看護休暇を除く)を利用したものの数」も含まれていることによる計算方法の違いによるものと考えられる。
また、提出会社に係る男性労働者の育児休業取得率を記載している事例150社について、取得率が前期から増減しているか分析した結果は<図表4>のとおりである。多くの会社(75.3%)は前期の取得率より増加しており、各社の育児休業取得率向上に向けた取組みが進んでいるものと考えられる。
<図表3> 算定方法ごとの取得率の前期比分析
(注1)1号による方法及び2号による方法のいずれの計算結果も記載している事例1社はいずれにも含めている。
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取得率の増減 | 会社数 | 分析対象会社に占める比率 |
前期より増加している | 113社 | 75.3% |
前期より減少している | 27社 | 18.0% |
前期から増減していない | 10社 | 6.7% |
合計 | 150社 | 100.0% |
(注)2023年3月期決算から算定方法を変更している事例及び1号による方法を採用しているが対象者がいないと記載している事例は集計に含めていない。
(旬刊経理情報(中央経済社)2024年9月20日号 No.1721「2024年3月期「有報」分析」を一部修正)
2024年3月期 有報開示事例分析
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