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EY新日本有限責任監査法人
公認会計士 大山 文隆 須賀 勇介
サステナビリティに関する企業の取組みの開示が2年目となった2024年3月期の有価証券報告書(以下「有報」という。)における記載の拡充状況を知りたい。
有報の非財務情報においてサステナビリティに関する企業の取組みの開示が2023年3月期決算より求められている。
また、金融庁から2023年12月27日に「記述情報の開示の好事例集2023」(2024年3月8日更新)が、2024年3月29日に「令和5年度 有価証券報告書レビューの審査結果及び審査結果を踏まえた留意すべき事項等」(以下「有報レビュー」という。)が公表されている。これらの公表物や2023年3月期決算の有報開示を踏まえ、有報のサステナビリティに関する企業の取組みの開示において、さらなる開示の拡充を検討した会社もあったと考えられる。
そこで、サステナビリティに関する企業の取組みの開示が2年目となった2024年3月期の有報を対象に、記載の拡充や前述の公表物において記載されている開示の好事例や有報レビュー等を踏まえ開示事例の調査を行った。
調査対象会社(192社)について、2023年3月期の有報と2024年3月期の有報における「サステナビリティに関する考え方及び取組」のページ数を調査したところ、<図表1>及び<図表2>の結果となった。
なお、「サステナビリティに関する考え方及び取組」のうち人的資本及び多様性について記載されているページ数については、「第4章 2年目のサステナビリティ情報開示調査(人的資本)」を参照されたい。
<図表1>「サステナビリティに関する考え方及び取組」のページ数
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ページ数の増減 | 会社数 | 割合 |
増減なし | 57社 | 29.7% |
増加 | 128社 | 66.7% |
減少 | 7社 | 3.6% |
合計 | 192社 | 100.0% |
<図表1>より、2023年3月期においては「5ページ以下」である会社が最も多く102社(53.1%)であったが、2024年3月期においては「5ページ超10ページ以下」が最も多く77社(40.1%)となっている。各社において有報におけるサステナビリティに関する考え方及び取組の記載の見直し及び拡充が行われ、記載量が増加したものと考えられる。また、2024年3月期において「サステナビリティに関する考え方及び取組」に関する記載に最も多くのページを割いている会社は34ページを割いていた。この会社は全般的な記載、テーマ別(気候変動、人的資本)いずれの項目も記載量が多かったが、業種が食料品ということもあり特に気候変動についての記載量が多かった。
<図表2>より、「サステナビリティに関する考え方及び取組」のページ数が増加した会社が128社(66.7%)と多くの会社でページ数が増加していることが分かる。<図表2>で減少している会社7社については、複数の図表を1つにまとめたことや、施策や方針について記載を簡潔にしたことなどによってページ数が減少していた。また、有報に記載していた一部の図表について、ウェブサイトを参照する形に変更することによってページ数が減少していた会社が1社あった。
サステナビリティ情報の記載については、有報に記載すべき重要な事項を記載したうえで、その詳細な情報について、提出会社が公表した他の書類を参照することも可能である(「企業内容等の開示に関する留意事項について」5-16-4)。参照可能な書類には、任意に公表した書類、他の法令や上場規則等に基づき公表された書類のほか、ウェブサイトも含まれ得るとされている(「企業内容等の開示に関する内閣府令(以下「開示府令」という。)の一部を改正する内閣府令(案)」に対するパブリックコメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方(2023年1月31日)No. 234、No. 257)。また、サステナビリティ情報について、有報の他の箇所に含めて記載した場合には、「サステナビリティに関する考え方及び取組」の記載欄において、当該他の箇所の記載を参照できるとされている(開示府令第二号様式(記載上の注意)(30-2)本文)。
調査対象会社(192社)について、2023年3月期の有報と2024年3月期の有報における「サステナビリティに関する考え方及び取組」を対象に、他への参照の記載状況を調査した結果は<図表3>のとおりである。ウェブサイト又は統合報告書等の提出会社が公表する他の書類を参照している会社が比較的多く、それらのいずれかを参照している会社が過半数ある傾向は、2023年3月期と2024年3月期で同様であった。有報の他の箇所への参照先についても、2023年3月期と2024年3月期で概ね似た傾向であったが、「コーポレート・ガバナンスの状況等」を参照する会社が大幅に増加したことが特徴的であった。「コーポレート・ガバナンスの状況等」を新たに参照した会社では、サステナビリティに関するガバナンス体制と、「コーポレート・ガバナンスの状況等」に記載したガバナンス全般を関連付ける記載を行ったり、役員の業績連動報酬の指標としてサステナビリティ関連の評価指標を考慮していることを、「コーポレート・ガバナンスの状況等」の「役員の報酬等」と関連づける記載を行ったりしている事例があった。
<図表3> 参照先に関する記載状況
(注1)複数の参照先がある場合には、それぞれ1社としてカウントしている。 |
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調査対象会社(192社)の「サステナビリティに関する考え方及び取組」について、財務的な影響、計画又は目標の記載状況を調査した結果が<図表4>のとおりである。全体としては、サステナビリティ関連の財務的な影響について定性的な記載のみにとどまっている事例が過半数であったが、財務的な影響について時間軸を持って定量的に記載している事例も一定数あった。
具体的には、シナリオ分析における将来予想される財務的な影響を、具体的な金額や売上高又は利益に対する比率で記載している会社が28社(14.6%)あった。将来影響の示し方として、影響度の大・中・小を金額又は利益比率のレンジで定義して記載している会社も25社(13.0%)あった。なお、影響度の大・中・小のみの記載にとどまり具体的な金額や比率を示していない事例は集計に含めていない。
また、気候変動対応の戦略実行のための投資額について、計画を記載している会社が5社(2.6%)あり、実績と計画を記載している会社が3社(1.6%)あった。
さらに、金融業の会社では、サステナブルファイナンスの実績と長期的な目標の金額を記載していた会社が12社(目標のみを記載している1社を含む)あり、調査対象会社の金融業24社のうち半数であった。なお、金融庁が2022年8月に公表(2024年7月に更新)した「サステナブルファイナンスの取組み」において、サステナブルファイナンスは、「新たな産業・社会構造への転換を促し、持続可能な社会を実現するための金融」とされている。
<図表4> 財務的な影響、計画又は目標の定量的な記載状況
(注)複数の記載がある場合には、それぞれ1社としてカウントしている。 |
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(旬刊経理情報(中央経済社)2024年9月20日号 No.1721「2024年3月期「有報」分析」を一部修正)
2024年3月期 有報開示事例分析
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