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EY新日本有限責任監査法人
公認会計士 大浦 佑季
2024年3月期決算に係る有価証券報告書(以下「有報」という。)における「サステナビリティに関する考え方及び取組」の人的資本等に関する開示状況を知りたい。
調査対象会社(192社)について、2023年3月期の有報と2024年3月期の有報における「サステナビリティに関する考え方及び取組」のうち人的資本、多様性について記載されているページ数を調査したところ、<図表1>及び<図表2>の結果となった。
<図表1> 人的資本、多様性について記載されているページ数の2023年3月期から2024年3月期にかけての増減調査
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ページ数 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | ||
会社数 | 割合 | 会社数 | 割合 | |
1ページ以下 | 67社 | 34.9% | 52社 | 27.1% |
1ページ超5ページ以下 | 114社 | 59.4% | 114社 | 59.4% |
5ページ超10ページ以下 | 11社 | 5.7% | 25社 | 13.0% |
10ページ超 | 0社 | 0.0% | 1社 | 0.5% |
合計 | 192社 | 100.0% | 192社 | 100.0% |
<図表1>より、人的資本、多様性について記載されているページ数が増加した会社が全体の3分の1超となっている。また、<図表2>より、人的資本、多様性について記載されているページ数が「1ページ以下」である会社数が減少し、「5ページ超」である会社数が2倍超となっている。このことから、各社において、人的資本、多様性に関する記載の見直し、拡充が行われ、有報における記載量が増加したものと考えられる。
なお、2024年3月期において人的資本、多様性に関する記載に最も多くのページを割いている会社は14ページを割いていた。
また、<図表2>で「減少」している会社について、8社中7社が約1ページ程度の減少にとどまっており、複数の図表を1つにまとめたことや、施策や方針について記載を簡潔にしたことによる影響となっていた。
次に調査対象会社(192社)について、有報の「サステナビリティに関する考え方及び取組」のうち人的資本、多様性に関する開示において記載されている指標の集計範囲を調査したところ、<図表3>の結果となった。
<図表3> 人的資本、多様性に関する指標の集計範囲
(注)以下のように集計範囲について明記されている場合には「提出会社のみ」、「提出会社及び一部の子会社」、「一部の子会社」、「連結ベース(提出会社及び一部の子会社)」として集計している。また、集計範囲が複数種類記載されている場合には、最も数が多い集計範囲を集計している。たとえば、以下の例では「提出会社のみ」として集計している。
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<図表3>より、2024年3月期の有報において集計範囲を明記している会社については、「提出会社のみ」を対象としている事例が最も多く59社(30.7%)であり、続いて「提出会社及び一部の子会社」を対象としている事例が多く47社(24.5%)であった。これは、2023年3月期の有報において「集計範囲について明記なし」であった会社のうち12社が、2024年3月期の有報においてはその集計方法を明記したことにより、「提出会社のみ」又は「提出会社及び一部の子会社」を集計範囲とした会社が増加したことによるものである。
また、2023年3月期の有報において指標の記載がなかった会社のうち3社が、2024年3月期の有報においては指標を記載したことにより(3社全てが「提出会社のみ」を集計範囲としていた)、指標の記載がない会社の割合が全体の3.6%まで低下した。
なお、「一部の子会社」を集計している会社は、いずれも持株会社であった。
以上のことから、「サステナビリティに関する考え方及び取組」のうち人的資本、多様性に関する記載については、記載内容の見直しだけでなく、記載対象会社の拡充、記載対象会社の明確化も合わせて検討されており、開示の拡充に向けた積極的な動きがあったことがうかがえる。
(旬刊経理情報(中央経済社)2024年9月20日号 No.1721「2024年3月期「有報」分析」を一部修正)
2024年3月期 有報開示事例分析
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