最後に、セミナー参加者を対象に行ったアンケート結果を踏まえながら、タックス・テクノロジー・アンド・トランスフォーメーションのパートナーの山口君弥が司会を務める形でパネルディスカッションが行われました。
こうしたセミナーへの参加者は、そもそも税務業務に高い関心を持つ層のはずです。それでも、「国別損益などの経営管理情報が、今後、投資家へ強制開示となることをご存じでしょうか」という質問に対し、「知らない」と回答した割合が48%に上りました。また、「強制開示について社内の関係者、経営陣、経理、IR事業部などで共有し、対策を検討・実施していますか」という質問には、まだ検討を実施してないとする回答が61%となりました。
こうした実態に対し角田は、「納税額だけでなく、収益や利益、税引き後利益といったものが国別報告書の中に入って開示される、つまりまさに経営管理情報が開示されるのだということに意識が届いていないのが実態だと思います」と述べました。
国別報告書の開示を見据えてシステムを導入し、戦略的な部分に軸足を移しつつある欧米企業に比べ、日本企業の対応には遅れが目立ちます。また、情報を開示すれば、それまで表に出てこなかったさまざまな問題やパフォーマンスの低い拠点などが明らかになり、アクティビスト株主やアナリスト、マスコミ、競合各社など多様な外部のステークホルダーから指摘を受ける可能性もあります。そうしたときにきちんと説明できるのかも含め、「早急に、経営管理の情報であることを社内で共有し、対策を練る必要があると思います」と角田は述べました。
アンケートでは、強制開示に関連して想定される課題についても尋ねています。回答はばらけたものの、やはり「開示プロセスの標準化、効率化」「開示数値・文書の作成」といった項目が多く、「人員リソースの確保」を挙げる企業も半数ほどに上りました。
これを受けて三宅は、「人員不足という問題に皆さんが直面しています。リソースが足りないからこそ業務負荷が高まっているのですが、そう簡単に人は増えません。やはり、いち早く税務部門のトランスフォーメーションに取り組んでいただきたいと思います」と述べ、特にTagetikのようなツールを導入し、テクノロジーを生かしていくことがポイントになるとしました。
同時に、国際税務は税務部門だけで対応すべき問題ではなく、CFOなどが旗振り役となって税務組織を改善し、組織横断的にトランスフォーメーションを進め、戦略的な対応を取る必要があるとしました。
事実、妹尾氏の元にも、「元々は経営管理のためのツールでしたが、最近はESG、そして今日のトピックである税務の開示に関わる領域で、急速にお問い合わせが増えてきています」という状況だそうです。
こうした課題が山積する中、企業はどのような方向で対応を進めていけばいいのでしょうか。角田は「従来、税務はコストセンターであり、節約志向でした。しかしディスクロージャーという問題は、株価や資金調達コストに関わる問題です。企業の評価や価値に関わる課題であることを共有し、システム構築や人員リソースの確保も含め、社内全体の課題として進めていくことが必要ではないでしょうか」としました。そうした取り組みの中でCFOの役割も、単に財務全般を見る責任者というだけにとどまらず、KPIを持ち、その実現に必要な権限を持つ欧米型のCFOのファンクションに近づいていくのではないかと言います。
三宅は、国際税務対応という一大プロジェクトを推進するには、国際税務制度に対応していく上での課題を見極め、「何が求められるのか」「どういった情報を集める必要があるのか」といった要件を細かいところまで理解することが大事だと述べました。
そして、テクノロジーの役割は非常に重要ではあるものの、「あくまでもテクノロジーは手段であり、目的ではありません。国際税務制度の対応をしていく上での課題は何かを突き詰めることが、プロジェクトを成功させる上で非常に大事だと思います」とも述べました。
なお、コストがネックになる場合もあるでしょう。その際は、税務対応というピンポイントの解決策としてではなく、国際税務への対応を通じて経営管理の高度化も可能になるというアプローチで進めることで、予算取りを楽にできる可能性もあるそうです。
妹尾氏は改めて、精緻なデータをタイムリーに集め、その上で2階建て構造によって柔軟に収集したデータを保持し、「料理」できること、マネジメントが必要とする切り口で必要な情報を即時に出せるレポーティング機能を備えることがシステムには求められると述べました。同時に、三宅と同様、「テクノロジーを使うことが目的になってはいけません。全体最適を考えて設計していくことが、テクノロジーを生かすために大事なプロセスだと思います」とコメントしました。
課題は尽きませんが、最後に三宅は「人材不足はファイナンス組織全般が抱える課題です。特に税務は専門性が高い領域であるため、外部リソースの活用を積極的に考えてください」と呼びかけました。一方妹尾氏は、経営管理全体の問題と捉えた上で、システムをどう活用するかを検討してほしいとアドバイスし、角田は、煩雑なところはシステムに任せ、その上で戦略をどうするかというステージに移っている欧米の企業に続き、日本企業もできる限り正確かつスピード感のある情報収集体制を作る必要があると指摘しました。
そして、ESG投資を意識したディスクロージャーを進めることで、キャッシュが増え、研究開発への投資も進められることを踏まえ、税務の変革も「企業の成長のため」と捉え、「税務だけにとどまらない経営管理全体の問題であり、企業の成長にとって一番重要だというくらいの意識を持っていただきたい」(角田)と締めくくりました。