ディスクロージャーをはじめとする税務変革は経営管理全体の課題に

ディスクロージャーをはじめとする税務変革は経営管理全体の課題に


「税務ディスクロージャーを巡る世界的潮流と、サステナブルな税務業務を推進するための体制構築のポイント」(2023年8月29日開催)


要点

  • 税務情報開示は税務部門だけの課題ではなく、企業価値や評価に影響を及ぼす経営管理全体の課題に
  • より戦略的な高付加価値業務に注力するには、テクノロジーを生かして手作業からの脱却を
  • 慢性的な人手不足が続く中、外部リソースの活用も視野に入れつつ税務組織の変革を

税務処理は税務部門が粛々と進めておくもの——一般にはそんなイメージを持たれがちな税務を取り巻く環境は、今、大きく変化しようとしています。

背景には、2024年度適用予定のグローバル・ミニマム課税(BEPS 2.0 Pillar 2)やESGにおける税務ガバナンス開示といった、税制を巡るルールの大きな変化があります。こうしたトレンドを踏まえ、グローバル企業の税務処理は、どのように変化していくべきでしょうか。

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社とEY税理士法人がTagetik Japan株式会社と合同で開催したセミナー「税務ディスクロージャーを巡る世界的潮流と、サステナブルな税務業務を推進するための体制構築のポイント」では、そのポイントが紹介されました。


税務ディスクロージャーは企業全体に影響を及ぼす経営課題に

国際制度の変更により、企業には税務情報も含めた国別報告書の開示が求められるようになります。この変化は、単に税務に関連した業務を変革すれば済む性質のものではありません。企業全体に影響を及ぼす問題であり、それ故経営課題と捉え、取り組む必要があります。

EY税理士法人 会長 パートナー 移転価格アドバイザリー 角田 伸広

EY税理士法人
会長 パートナー 移転価格アドバイザリー
角田 伸広


まずEY税理士法人の会長・パートナー・移転価格アドバイザリーの角田伸広が、国際税務処理を巡る動向を概観しました。

「従前、税務の基本的な問題は、税務当局との関係やコンプライアンスといった観点からの税務リスクの低減が中心となっていました。ところが今や税コストの最適化へ、そして最大の問題となっているディスクロージャーの問題へと範囲が広がっています」(角田)。

これまで税務の情報は極めて秘匿性が高く、企業が外部に開示することはほとんどありませんでした。ところがBEPSの開始によって、企業がどの国で収益を上げ、どの国で税金を払っているかを示す国別報告書の開示が求められることになります。しかも、任意開示とされるIFRSとは異なり、BEPSは税法で定められた強制力を持つものであり、「これは開示したくないからやめる」といったことは許されません。

関連イベント・セミナー

税務ディスクロージャーを巡る世界的潮流と、サステナブルな税務業務を推進するための体制構築のポイント

本ウェブキャストでは、税務開示を取り巻く主要各国の法令動向に加え、それに対応したサステナブルな税務業務を推進するための体制構築のポイントを、分かりやすく解説します。

ちょうどBEPSに関する議論が始まったころ、英国で多くの利益を上げているにも関わらずほとんど税負担がないとして大手コーヒーチェーンが批判され、不買運動につながったこともありました。このように税務情報の開示は、「従来の税務を超え、企業全体のレピュテーションリスクや消費者との関係に大きな影響を及ぼす可能性があります」(角田)。
 

また、サステナビリティの観点から求められるESGの開示が、新たな投資を呼び込む際の調達コストや株価に影響を及ぼす可能性を持ち始めたのと同じように、税務情報のディスクロージャーも、投資家との関係に影響を及ぼす可能性があります。開示に後ろ向きな企業は、投資家保護の観点から必要な情報が提示されておらず、投資できないといった判断を下される恐れもあるのです。


すでにEUは、国別報告書のディスクロージャーを推進する法制度を整備しています。


こうした動きを踏まえて角田は、「この問題について、税務担当の部署から、IRや事業部、経営企画など、企業の経営全体を見る部署と早めに情報共有を行うべきでしょう」と述べました。

国際的に大きな波となりつつある税務情報のディスクロージャーですが、日本企業は実は1994年の時点で、今の国別報告書に該当する所在地別セグメント情報を開示していました。しかし2010年の会計基準変更に伴って、上場企業の多くが開示を取りやめてしまったという経緯があります。ここで改めて国別報告書の強制開示が求められると、個々の企業において、事業部別の損益管理に加え、国別の管理が必要になってきます。


角田は「それぞれ別の事業部の子会社であっても、国ごとに横串を入れて管理をしなければならなくなります。これは日本の企業のマネジメントに極めて深刻な影響を与えるかもしれません」とし、事業部単位というタテの関係に加え、国別というヨコの関係、両方にまたがってマネジメントしていく必要があると強調しました。

テクノロジーを生かして手作業頼みの税務業務から脱却し、戦略領域へ注力を

メールやExcelを用いて手作業で進められてきた税務関連の業務ですが、人材不足に加え、税務を取り巻く環境変化に伴って業務が増える中、遠からず限界を迎えるでしょう。テクノロジーを生かして工数を減らし、税務組織体制を見直すことで、より戦略的な高付加価値業務に注力すべきです。


EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社  BC com Financeチーム パートナー 三宅 明央

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社
BC com Financeチーム パートナー
三宅 明央


角田が説明したように、税務業務を取り巻く環境は大きく変化しています。続けて講演を行ったEYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社、BC com Financeチーム・パートナーの三宅明央は、「国際税務に関する制度が変化する中、企業が開示しなければならない情報は着実に増えていきます。税務部門としては各構成事業体からこれまで以上に情報を収集し、分析し、そして遅滞なく情報を開示しなければならず、税務部門の業務もどんどん増えていくことは容易に想像できます」と指摘しました。

一方で税務部門は、現地法人における税務業務の「現地任せ」に始まり、慢性的な人材不足、Excel偏重でテクノロジー活用の遅れといったさまざまな課題も抱えています。そんな中で、税務当局はもちろん、投資家や消費者、従業員などステークホルダーごとのリスクを抑え、回避していくには「グローバル全体で税務部門の業務の進め方を見直し、サステナブルな税務業務を推進できる体制構築を目指していく必要があると考えています」と三宅は述べました。

特にディスクロージャーによって、これまでは外の目に触れることのなかった税務情報が開示されていくと、税務コストや税務リスクをどのようにコントロールしているかが投資家から問われるようになり、タックスプランニングも求められます。税務部門はこういった観点も折り込み、より戦略的な機能を担う必要に迫られているのです。

では、具体的にどうしたらいいのでしょうか。三宅は「現状ではまだまだ、税務申告業務のような定型業務に多くの時間を割いている企業が多いと捉えています。しかし今後、税務部門の業務量が大幅に増える中、戦略的な機能を担っていくには、テクノロジーの活用が必要不可欠です」と指摘し、テクノロジーを生かして余力を創出し、その分をより戦略的な業務に割り当てるべきだとしました。

そして、税務戦略をはじめとする付加価値の高い業務を担うために、グローバルを含めたグループ全体で税務部門という組織に光を当て、人材を適切に配置していく必要性も指摘しました。

現在の税務部門の業務を見ると、税金の計算などに必要な情報をメールやExcelを用いて各構成事業体から収集し、計算し、申告書を作成する――といった具合に、手作業を中心に進めているケースがほとんどです。しかし、「こうした状況では業務が属人化し、効率化がなかなか進みません。またデータの抜け漏れや不整合が発生など、情報連携がうまくいかず、ひいてはタイムリーな情報収集ができないといったリスクが発生する可能性が高くなります」(三宅)。この状況では、この先さらに複雑化していく国際税務制度への対応も困難です。

三宅はこうした状況に対し、データの一元管理を可能にするプラットフォームを導入、活用することで、税務業務の効率化を支援できると述べました。

「テクノロジーをただ入れれば終わり、というものではありません」(三宅)。テクノロジーの導入とセットで税務業務自体を見直し、標準化し、改善を加える取り組みを進めることで初めて、テクノロジーも生きてくるとしました。

もう一つ不可欠な取り組みが、税務組織の見直しです。人材不足に対応しつつ変化する国際税務制度に対応し、高付加価値業務や戦略的な役割を担うには、「日本だけではなく、グループレベル、グローバル全体で機能配置や組織体制の構築を検討することが、非常に重要な観点だと思います」(三宅)。そして、現地法人の協力も得ながらこうした取り組みを進め、成功を収めるには、CFOをはじめとする経営陣と問題意識を共有し、経営層のサポートの元、トップダウンで推進していく姿勢が不可欠だと述べました。

一つのやり方として、例えば、域内の実効税率を管理していくための戦略的な機能を地域統括会社に集約していくことによって、域内の実務を効率的に進めていくアプローチがあると言います。

また、戦略的な高付加価値業務を担っていく人材は不可欠ですが、そうした高い専門性を持つ人材の確保は難しいのも事実です。そうした場合の一つの策として、外部の力をうまく活用するのも有効な選択肢だとしました。定型業務を外部のBPOベンダーに任せることで余力を創出し、付加価値業務に専念できる環境を作っていくという方法もあるでしょうし、EYのような外部の専門家を活用することで、従業員が税務に関するノウハウを蓄積していくといったメリットを得ることもできます。

そして三宅は改めて、データ収集プラットフォームのようなテクノロジーの活用と、外部の専門家の活用も含めた税務組織体制の見直しを進めることで、変化する国際税務制度への対応を推進してほしいと呼びかけ、講演を終えました。

 

経営管理の一環として国際税務制度の変化に対応できる仕組み作りを支援する「CCH🄬 Tagetik」

手作業による税務業務では負荷が増大するだけでなく、ミスや漏れの発生や、要請に応じた迅速な情報開示が行えないといったリスクが生じます。経営管理ソリューションの「CCH Tagetik」は、データの収集から一元管理、活用までを支援し、そうした課題解決の一助となります。


Tagetik Japan株式会社 ディレクター 妹尾 顕太 氏

Tagetik Japan株式会社
ディレクター
妹尾 顕太 氏

三宅が説明したように、国別税情報の開示義務化といったトレンドを背景に、国際税務に関する業務量は増大する一方です。その中で税務に関する業務を効率的に進める鍵の一つが、テクノロジーとなります。Tagetik Japan株式会社のディレクター、妹尾顕太氏は、そうしたテクノロジーの例として、「CCH Tagetik グローバル・ミニマムタックス」について紹介しました。

現時点では、主要企業の約3割が国別税情報を開示しています。しかし「逆に言うと、まだ7割の企業がこれから取り組む必要があるということです」(妹尾氏)。一方で花王のように、表形式とダッシュボード形式の両方で、投資家やアナリストにもわかりやすい形で情報を開示している企業もあり、今後はこうした取り組みが求められると述べました。

妹尾氏によると、国際税務業務を進める上では主に3つの課題があると言います。1つ目は、各拠点からのデータ収集です。三宅も述べた通り、メールとExcelを駆使し、手作業で多種多様な情報を集めるやり方が常態化してしまっています。2つ目の課題は、グローバル・ミニマムタックスをはじめとする新たなルールやコンプライアンス対応に伴う業務負荷の増大。そして3つ目は、税務開示リスクへの対応です。

「開示項目になると途端に責任や影響範囲が拡大します。さらに、それぞれの数値の根拠は何かといったことも問われるため、それらに対応できる仕組みや体制が必要になってきます」(妹尾氏)。

CCH Tagetikは元々、税務というポイントだけでなく、経営管理全体を支援する目的で開発されたソリューションで、制度連結、管理連結、予算連結といった経営管理に関わる情報を一元的に管理できます。この機能をうまく活用することで、税務に関するさまざまな課題も解決できると妹尾氏は述べました。

まず、ExcelやWebの入力フォームはもちろん、多種多様なデータ収集手段を標準で備えており、散在するデータを容易に収集、集約できるという特徴があります。「集約することで、データを入れる側も入れられる側も非常に整理整頓されるというメリットがあります」(妹尾氏)。そしてCCH Tagetikでは、集めたデータを一元的に管理するだけでなく、情報を共有しつつさまざまな税制に対応できることも特徴で、業務負荷を削減できます。さらに、同じ一つの基盤の上にデータを載せることで、グループ経営管理情報と税務情報の整合性を取り、開示要求などに容易に応えられる仕組みが整います。

さらにCCH Tagetikは、アナリティカルワークスペースとファイナンシャルワークスペースという2階建ての構造でデータを保持する、拡張性や柔軟性の高いデータモデルをベースにしています。これにより、ユーザーが任意の項目で自由に分析できるようにしつつ、二つの階層のデータをリンクさせ、税務情報の根拠となる数字をドリルダウンして表示される明細情報を元に説明する、といったことも可能になります。なお、グローバル・ミニマムタックスのソリューションも、1階部分であるアナリティカルワークスペースのテンプレートという形で提供されます。

もう一つの特徴は、階層化された次元構造を取っていることです。この階層はユーザーが自由に、深さも無制限に定義できます。これにより、国ごとの数字、あるいはその上位の地域ごとの数値などを瞬時に抽出でき、国際税制で求められる国別情報のデータなども速やかに、遅滞なく示すことが可能となります。

CCH Tagetikが提供するダッシュボード形式のレポートや一覧形式のレポートも税務業務に有効で、例えば、Top-Up税の計算といったアイコンをクリックすると計算根拠が表示され、さらにドリルスルーすると入力された明細情報がすべて表示される――といった具合に、開示情報の根拠を求められたときにも迅速に対応できることを妹尾氏は説明しました。

そして、「こうした2階建ての構造や次元構造、ワンプラットフォームでさまざまなソリューションを配置できると言った特長を生かしながら、グローバル・ミニマムタックスや国際税務業務に対応していただければと思います」と述べ、CCH Tagetikを通して、国際税務業務におけるデータ収集や業務負荷、開示に関する課題を解決していくと宣言しました。

 

ディスクロージャー対応未着手の企業は6割以上、状況打開の鍵を探る

欧米企業に比べ、税務ディスクロージャーの取り組みに遅れの見られる日本企業。企業の価値や評価を左右しかねない経営管理全体の問題であると捉え、適切にテクノロジーを活用していくことが課題を解決する鍵となりそうです。


EY税理士法人 タックス・テクノロジー・アンド・トランスフォーメーション パートナー 山口 君弥

EY税理士法人
タックス・テクノロジー・アンド・トランスフォーメーション パートナー
山口 君弥

最後に、セミナー参加者を対象に行ったアンケート結果を踏まえながら、タックス・テクノロジー・アンド・トランスフォーメーションのパートナーの山口君弥が司会を務める形でパネルディスカッションが行われました。

こうしたセミナーへの参加者は、そもそも税務業務に高い関心を持つ層のはずです。それでも、「国別損益などの経営管理情報が、今後、投資家へ強制開示となることをご存じでしょうか」という質問に対し、「知らない」と回答した割合が48%に上りました。また、「強制開示について社内の関係者、経営陣、経理、IR事業部などで共有し、対策を検討・実施していますか」という質問には、まだ検討を実施してないとする回答が61%となりました。

こうした実態に対し角田は、「納税額だけでなく、収益や利益、税引き後利益といったものが国別報告書の中に入って開示される、つまりまさに経営管理情報が開示されるのだということに意識が届いていないのが実態だと思います」と述べました。

国別報告書の開示を見据えてシステムを導入し、戦略的な部分に軸足を移しつつある欧米企業に比べ、日本企業の対応には遅れが目立ちます。また、情報を開示すれば、それまで表に出てこなかったさまざまな問題やパフォーマンスの低い拠点などが明らかになり、アクティビスト株主やアナリスト、マスコミ、競合各社など多様な外部のステークホルダーから指摘を受ける可能性もあります。そうしたときにきちんと説明できるのかも含め、「早急に、経営管理の情報であることを社内で共有し、対策を練る必要があると思います」と角田は述べました。

アンケートでは、強制開示に関連して想定される課題についても尋ねています。回答はばらけたものの、やはり「開示プロセスの標準化、効率化」「開示数値・文書の作成」といった項目が多く、「人員リソースの確保」を挙げる企業も半数ほどに上りました。

これを受けて三宅は、「人員不足という問題に皆さんが直面しています。リソースが足りないからこそ業務負荷が高まっているのですが、そう簡単に人は増えません。やはり、いち早く税務部門のトランスフォーメーションに取り組んでいただきたいと思います」と述べ、特にTagetikのようなツールを導入し、テクノロジーを生かしていくことがポイントになるとしました。

同時に、国際税務は税務部門だけで対応すべき問題ではなく、CFOなどが旗振り役となって税務組織を改善し、組織横断的にトランスフォーメーションを進め、戦略的な対応を取る必要があるとしました。

事実、妹尾氏の元にも、「元々は経営管理のためのツールでしたが、最近はESG、そして今日のトピックである税務の開示に関わる領域で、急速にお問い合わせが増えてきています」という状況だそうです。

こうした課題が山積する中、企業はどのような方向で対応を進めていけばいいのでしょうか。角田は「従来、税務はコストセンターであり、節約志向でした。しかしディスクロージャーという問題は、株価や資金調達コストに関わる問題です。企業の評価や価値に関わる課題であることを共有し、システム構築や人員リソースの確保も含め、社内全体の課題として進めていくことが必要ではないでしょうか」としました。そうした取り組みの中でCFOの役割も、単に財務全般を見る責任者というだけにとどまらず、KPIを持ち、その実現に必要な権限を持つ欧米型のCFOのファンクションに近づいていくのではないかと言います。

三宅は、国際税務対応という一大プロジェクトを推進するには、国際税務制度に対応していく上での課題を見極め、「何が求められるのか」「どういった情報を集める必要があるのか」といった要件を細かいところまで理解することが大事だと述べました。

そして、テクノロジーの役割は非常に重要ではあるものの、「あくまでもテクノロジーは手段であり、目的ではありません。国際税務制度の対応をしていく上での課題は何かを突き詰めることが、プロジェクトを成功させる上で非常に大事だと思います」とも述べました。

なお、コストがネックになる場合もあるでしょう。その際は、税務対応というピンポイントの解決策としてではなく、国際税務への対応を通じて経営管理の高度化も可能になるというアプローチで進めることで、予算取りを楽にできる可能性もあるそうです。

妹尾氏は改めて、精緻なデータをタイムリーに集め、その上で2階建て構造によって柔軟に収集したデータを保持し、「料理」できること、マネジメントが必要とする切り口で必要な情報を即時に出せるレポーティング機能を備えることがシステムには求められると述べました。同時に、三宅と同様、「テクノロジーを使うことが目的になってはいけません。全体最適を考えて設計していくことが、テクノロジーを生かすために大事なプロセスだと思います」とコメントしました。

課題は尽きませんが、最後に三宅は「人材不足はファイナンス組織全般が抱える課題です。特に税務は専門性が高い領域であるため、外部リソースの活用を積極的に考えてください」と呼びかけました。一方妹尾氏は、経営管理全体の問題と捉えた上で、システムをどう活用するかを検討してほしいとアドバイスし、角田は、煩雑なところはシステムに任せ、その上で戦略をどうするかというステージに移っている欧米の企業に続き、日本企業もできる限り正確かつスピード感のある情報収集体制を作る必要があると指摘しました。

そして、ESG投資を意識したディスクロージャーを進めることで、キャッシュが増え、研究開発への投資も進められることを踏まえ、税務の変革も「企業の成長のため」と捉え、「税務だけにとどまらない経営管理全体の問題であり、企業の成長にとって一番重要だというくらいの意識を持っていただきたい」(角田)と締めくくりました。


関連イベント

税務ディスクロージャーを巡る世界的潮流と、サステナブルな税務業務を推進するための体制構築のポイント

本ウェブキャストでは、税務開示を取り巻く主要各国の法令動向に加え、それに対応したサステナブルな税務業務を推進するための体制構築のポイントを、分かりやすく解説します。

    関連記事

    BEPS 2.0対応で税務会計チームが備え得る5つの方策とは

    各国において2023年から2024年にかけてBEPS(税源浸⾷と利益移転)2.0の発効が順次なされることを受け、多くの企業では税務会計の担当部署にてグローバルミニマム課税制度「第2の柱(Pillar 2)」への対応に向けた準備に着手しています。

    「プロセスファースト」の考え方が重要である理由

    「プロセスファースト」の考え方は、効率性を高め、トランスフォーメーションにおける初期投資に対し効果を生むために不可欠です。

    主要国におけるBEPS2.0アップデートシリーズ1 GloBEルールに関する各国動向に対応できる体制を構築する

    BEPS2.0のGloBEルールは、各国制度の相互作用により納税額や納税地が変化する複雑なルールです。対応するためには各国の動向を常にモニタリングし、変化に即応できる体制を構築することが必要です。そこで今回から主にGloBEルールに関する各国の対応方針、法制化の状況、各国の国内法との相関関係について、特に日本企業が留意する点を解説していきます。

    主要国におけるBEPS2.0アップデートシリーズ2 他地域とは異なった特徴を持つEUの動向を注視しよう

    現在、焦点となっているBEPS2.0について、EUは他の地域と異なった特徴があります。まずEUはOECDがリードする国際課税ルールの制定プロセスにおいて大きな影響力を持っていること。もう1つが、EUは主権国家ではありませんが、「指令」という形式でEU加盟各国に指令に基づく国内法令を制定することを求め、域内ルールの調和を図っていることです。今回はこのような他地域と異なった特徴を持つEUの動向について解説します。

    主要国におけるBEPS2.0アップデートシリーズ3 シンガポールでは優遇税制の有効性が制限されるも交渉で打開を図る

    企業にとって魅力的な国であるシンガポールでもBEPS2.0への取り組みが進んでいます。2025年度1月1日以降に開始する会計年度からはIIR、UTPR、DTTが導入され、日本企業にも新たな対応が迫られます。イミグレーション関連では2023年9月からCOMPASSが導入され、新規就労ビザの取得がこれまでよりも厳格化。他にも人件費や賃料を含む経営コストの上昇や、人材の流出や獲得といった課題にも直面しています。今回は、そんなシンガポールのBEPS2.0の法制化状況と、日本企業の留意点を解説します。

    主要国におけるBEPS2.0アップデートシリーズ4 英国のMTUTとDTUTの適用について今後の動向に注目

    英国は2023年4月1日より大企業に対する法人税率を25%に引き上げたものの、依然として先進主要国であるG7の中では、最低税率を維持しており、欧州における日系企業の主要な投資先国であり続けています。そんな英国もBEPS2.0の新たな国際課税ルールについては、2023年財政(No.2)法案において、第2の柱GloBEルールを英国で施行するための法律を改めて公表し、2023年7月11日の国王裁可をもって施行。23年12月31日以降に開始する会計期間から全世界収入が7億5000万ユーロを超える大規模な多国籍企業に適用されます。今回は、こうした英国におけるBEPS2.0の法制化状況と日本企業における留意点を解説します。

    主要国におけるBEPS2.0アップデートシリーズ5 混迷極める米国のBEPS2.0対応と日本企業の留意点

    米国では、現時点でGloBEルールの国内法制化のメドは立っていません。2024年11月には大統領選挙もあり、2025年前に導入が検討されることはないと推測されています。2025年以降についても、民主党と共和党のどちらが主導権を握るか、あるいは勢力が拮抗するかで将来のシナリオは異なってきます。では、今後の動向をどのように見ておけばいいのか。米国におけるBEPS2.0の法制化状況と日本企業における留意点を解説します。


      サマリー

      今、BEPS 2.0 Pillar 2やESGにおける税務ガバナンス開示のように、税制を巡るルールが大きく変化しつつあります。もはや税務に関連する問題は税務部門だけにとどまるものではありません。企業価値に影響を及ぼす経営管理全体の問題であり、その対応に向け、テクノロジーの活用や税務組織の見直しといった取り組みをトップダウンで進めていく必要があります。


      この記事について

      執筆者