EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
要点
自社の経理財務部門の近代化を目指す企業においては、テクノロジーは中心的な役割を担っているものの、「テクノロジーファースト」の考え方でデジタルトランスフォーメーション(DX)を進めることにはリスクが伴います。テクノロジーを重視するあまり、経理財務部門を支えるプロセスや、そのプロセスを実行または管理する従業員などに対して適切な配慮に欠けていた場合は、ROI(投資利益率)の低下を招く恐れがあります。変革に取り組む際にテクノロジーと同様に重要となるのが、「プロセスファースト」という考え方です。このプロセスファーストのアプローチを取ることで、従業員がより効率的に働けるようになることや、投資価値の最適化と決算の正確性の向上などが期待されます。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック、ならびにそれに伴って加速したリモートワークの普及により、経理財務プロセスの重要性がさらに浮き彫りになりました。
プロセスファーストの方法で期待される主なメリットは以下の通りです。
分析に基づく有益情報を自社の経理財務部門から入手することに重点的に取り組んでいる企業では、経理財務に関する貴重な視点以上のものを得られるだけでなく、人材を引き付け、長期的雇用に結び付ける可能性を高めることもできます。事業方針とプロセスの合致に重点を置いていた場合、従業員の業務負担の軽減に資するテクノロジーを導入すれば、経理財務担当者は、戦略的ビジネスパートナーとして優先度の高いタスクに時間を割くことができるようになります。例えば、先進的な財務業績管理(FCPM: Finance Corporate Performance Management)ツールの活用により、データ照合の自動化や経理部門による帳簿入力の負担軽減を図りながら、決算プロセスに対する統制を適切に構築することができます。その結果、経理担当者は、回収が遅延している売掛金を特定するだけでなく、その回収遅延の理由や回収遅延が企業の運営・財務上の健全性に与える影響を精査するなど、景気動向の分析や潜在リスクの識別に注力することができるようになります。なお、テクノロジーをアップグレードする際には、事前のトレーニングやチェンジマネジメントを検討することも不可欠です。DXを成功させるためには、導入予定のテクノロジーで可能となるさまざまなケイパビリティに関してユーザーを徹底的に教育すると思いますが、リモートワークあるいはハイブリッドワークの環境ではどんなトレーニングが必要となるのかを再考することも求められるかもしれません。
また、企業買収の活発化により、経理財務担当者の業務量が増加していることを受け、負担軽減にはどんなプロセスを自動化すればよいのかを見極めることが、これまで以上に重要になっています。適切な財務業績管理ツールを活用すれば、決算をより迅速に自動化することができ、さらにロボティックス・プロセス・オートメーション(RPA)などのテクノロジーと組み合わせれば、組織内の他のさまざまな領域で自動化を拡張することが可能になります。
プロセスファーストの変革アプローチでは、テクノロジー面の強化によるデータの可視性向上が期待されるため、予測精度が高まり、ビジネス全般でより良い意思決定が促進されることにつながります。プロセス上の柔軟性を得たことで、経理財務担当者は、ビジネスへの影響が甚大で優先度もリスクも高い勘定科目の正確性を最適化することに注力することが可能になります。結果として、経理財務部門は、ボトルネックではなく、ビジネス成長につながるより良い投資判断にフォーカスした対応を行う部門として組織に貢献することができます。
パンデミック時代のイノベーションとしてすでに一部の組織で高い期待が寄せられているのが、バーチャル・クローズ・コマンドセンターというシステムです。このシステムを活用することにより、月次決算はハードクローズからソフトクローズに変わり、ハードクローズによる決算は四半期ベースになります。その結果、経理財務部門は、「これまでそうしてきたから」という理由だけで実行してきた、価値の疑われるようなタスクから解放され、少額の手動仕訳記帳が必要となるような問題のあるプロセスを精査したり、トランザクションをさかのぼって調べたりできるようになります。また、管理者は、決算プロセスの状況をバーチャル・クローズ・コマンドセンターのダッシュボードでリアルタイムに確認することができるため、新型コロナウイルス感染症が流行し始め、世界がロックダウンに陥った際も、決算期間を延長せずに済んだ企業もありました。
ファイナンストランスフォーメーションの成功には、一元化され、明確に定義付けられたガバナンス体制が重要な役割を果たします。変革の設計・計画フェーズの段階から経営幹部による強力なサポートが不可欠であり、そうしたサポート体制の下では、変革プログラムを的確に推し進めることができるだけでなく、目指す将来像の実現に向けて組織全体が一丸となって取り組むことができます。また、一元化された管理体制が確立していれば、オーナーシップが不在のさまざまな調整プロセスに起因する混乱も回避できます。
最小限のアクティビティにとどまる勘定科目の自動認証などを含む、経理財務部門全般でのプロセス標準化には、先進的「ルールベース」のテクノロジーの活用が有効です。また、そうすることで、システムが全社的に導入される場合でも、グループ内の他の部門が機能を独自にカスタマイズしてしまうリスクを軽減することができます。リスクの可視性と財務数値の信頼性を高めることができた企業では、内部統制の強化と、手順の変更に関するポリシー順守の促進が可能となります。
経理財務部門のリーダー達は、数多くの利用可能なテクノロジーのケイパビリティを検討しながらも、まずは、部門内の各チームが実行しているすべてのプロセスを洗い出す必要があります。また、変革により期待を超える成果を実現するためには、プロセスをどのように改善すべきか明らかにする必要もあります。そうした理解は、組織の将来像とテクノロジーの状況を考慮することで深めることができます。例えば、以下のような問いかけをしてみてください。これからは企業の成長において買収がますます大きな役割を果たすようになるのか。もしそうなら、ERP(Enterprise Resource Planning)システムを1つに集約するのか。経理財務部門はリスクの管理・測定方法を変えるのか。組織の目指す姿に関するこうしたさまざまな質問を投げかけ、その答えを見つけていくことで、どんなテクノロジーをどのように活用していけばよいのかを見極めることができるはずです。
プロセスファーストのアプローチを採用すれば、企業は、従業員への影響や、ビジネス目標の達成に必要なテクノロジーに係る最善の活用方法などを明確に理解した上で変革に挑むことができます。
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