1. ⼦会社の実態把握
GloBEルール(グローバル税源侵食防止ルール)とも呼ばれる第2の柱では、多国籍企業の事業体ごとの財務諸表がミニマム税額を計算するに当たってのベースとなります。構成事業体の連結実効税率(国内法制化でグローバルミニマム課税ルールが制定された後に計算される税率)が、ある国・地域で15%を下回った場合、その多国籍企業グループには、当該国・地域で実効税率が15%になるまでの金額がトップアップ税として課せられます。
企業が最初に講じるべき⽅策は、多国籍企業グループの全事業体と全ての恒久的施設を⼀覧表に整理し、各事業体の所在地、株式所有割合、税の種類などを把握することが挙げられます。これにより、各構成事業体がグローバルミニマム課税の対象となるかどうかを判断することができます。なお、⼀覧表作成の際に、低税率国・地域に限定した上で検討するアプローチも考えられますが、グローバルミニマム課税ルールでは、高税率国・地域で事業を展開する事業体であっても、GloBEルールによる実効税率が15%を下回るケースがある点に留意する必要があります。
一覧表の作成は、グループ法⼈、フロースルー事業体、税務上の透明事業体、恒久的施設を数多く有する⼀部多国籍企業にとって容易でないことが考えられます。少数株主により所有される事業体、株式以外の方法により資金提供を行う連結事業体など、特殊なケースが含まれる場合には、さらに複雑な作業となる可能性があります。
2. 影響度分析の実施
第2の柱における税額計算では、多岐にわたるデータの取得と選択肢に加え、国・地域ごとに複数の事業体を有する場合にその集計作業が必要となることから、国・地域を問わずGloBEルールによる実効税率は想定していたものとは異なる結果になることがあります。そのため、影響度分析を⾏うことで、GloBEルールでの実効税率が15%を下回る可能性がある国・地域をより正確に把握することが可能になります。
影響度分析では、トップアップ税額の算定に⼤きく影響を与える可能性のあるさまざまな選択肢の評価も⾏う必要があります。例えば、GloBEルールにセーフハーバーの適⽤を選択すれば、特定の国・地域をGloBE計算の対象から除外することができ、⼀部の企業はグローバルミニマム課税の税額算定等の手続きを簡素化できるケースがあります。また、株式報酬制度に関し、GloBE所得の計算時に、 帳簿上の計上額に代えて法⼈税法上において控除される株式報酬額の金額を⽤いることを選択することが挙げられます。本選択により自社にとって有利になるものか検討が必要になります。
企業は⾃社のトップアップ税額の計算に影響を及ぼす各種情報と選択肢の内容を把握し、代替シナリオを⽤意し、シミュレーションを実施した上でどのような影響がもたらされるかを⾒極める必要があります。
3. 全社的な取り組み
第2の柱が適⽤される企業は、これまでの税務コンプライアンスや情報開⽰に必要だったデータ以外の情報を新たに収集する必要があります。対象企業は新たなデータ要件を把握し、関係データの保有者を特定するといった作業を早期に開始し、その保有者らと協⼒してデータの信頼性を確保し、必要な情報を繰り返し⼊⼿するための事務手続きを定める必要があります。
第2の柱の計算と情報開⽰を実施するに当たって、税務チームは、多くのケースにおいて、会計、財務、法務、⼈事、財務報告、ITと緊密に連携する必要があります。予算編成、予測、中間/年次税務会計、税務コンプライアンス、税務係争関連の業務を円滑に進めるために、第2の柱ルールの新たなデータ要件についての共通理解を形成し、必要な情報に適時にアクセスするための態勢構築に向けて部⾨横断型のチームを組成することが必要と考えられます。情報開⽰/報告作業を⾏う現在のスケジュールで第2の柱の情報開⽰に対応するためには、多くの場合、財務プロセス、会計プロセス、税務プロセスの⾒直しが必要になると思われます。注意すべき点は、予測値データと実績値データでは、データモデルとデータ保有者が異なり、第2の柱の対応において求められるデータの収集と管理が⼀段と難しくなることが予想されます。
4. 新たなニーズに対応できるITシステムの構築
第2の柱では、各事業体が⼊⼿、整理、分析する必要があるデータポイントが150を超える可能性があると言われています。第2の柱が適⽤される企業が新たなミニマム税額を計算し、GloBEルールに則した税務申告書を作成するには、さまざまなITシステムからデータを収集する必要があると考えられます。
従来の法人税の計算プロセスでは、税引前所得の予測値または実績値を調整して課税所得を算出し、当期税⾦費⽤を計算しています。その後、⼀時差異を評価した上で繰延税⾦費⽤を計算します。⼀⽅、第2の柱では、税引前所得の予測値または実績値を調整してGloBE所得を算出し、一定の分析を⾏い、調整後の対象税額を求めます。そして、GloBE所得と調整後の対象税額から、国別の実効税率を計算の上、基準税額15%から国別実効税率を控除しトップアップ税率を決定し、実質ベースの所得除外額を控除したGloBE所得にそれを適⽤します。
第2の柱の計算を⼀段と複雑化させる要因はさまざまです。例えば、連結グループ内の複数の事業体が同じ課税管轄区域で事業を⾏う場合、ある事業体が税務上の透明事業体である場合、連結事業体が完全⼦会社ではない場合、報告対象期間中に法的組織形態または事業に変更があった場合などが挙げられます。
税務会計チームは、⾃社の現⾏システムが第2の柱の計算に対応できるかどうかを確認する必要があります。多くのケースで第2の柱に対応できるよう税務プロセスと税務システムの改善や再設計を迫られることが想定されます。
GloBEが適⽤される企業では、「適切なデータへのアクセスが可能か」「必要なデータを⼊⼿するために、⾃社のプロセスやシステムの変更を要するか」「プロセスの⾃動化による関連データの⼊⼿や整理を実現できるか」の3点について検討を行う必要があるものと考えます。
最終的には、第2の柱に対応するためのカスタマイズされたITソリューションを開発する、または、外部ツールを導⼊するかの⼆者択⼀を企業は迫られることになる可能性があります。
5. 当局動向のモニタリング
OECDでは、Guidance on Safe Harbours and Penalty Relief のような GloBE Information Return に関するパブリックコンサルテーション文書や、Tax Certainty for the GloBE Rules に関するパブリックコンサルテーション⽂書などといった、第2の柱について解説するさまざまな⽂書を公表してきました。今後も追加ガイダンスが公表される予定です。各国・地域と各課税管轄区域はミニマム課税制度を国内法制化することになりますが、同時に本ルールを制定したり、全ての国・地域と課税管轄区域が同じルールを採⽤したりすることは想定されておりません。
こうした⼀貫性の⽋如の結果、企業はミニマム課税ルールが制定される時期のずれやルールの内容のばらつきに備えなければならず、それによって対応がより複雑になると考えられます。例えば、ある⼦会社の課税管轄区域で制定された法律により、当初はGloBEの軽課税⽀払いルールが適⽤されていた多国籍企業が、最終親会社の課税管轄区域で制定された法律によりGloBE所得合算ルールの適⽤を受けることになり、最終的には別の課税管轄区域で定められた、適格国内ミニマム課税の適⽤を受ける可能性もあります。
第2の柱が適⽤される企業は、⾃社が事業展開する全ての課税管轄区域において法制度の動向を注視する必要があります。また、グローバルミニマム課税で税務会計がどのような影響を受けるのか、国際会計基準審議会と現地国・地域の会計基準の動向にも注意を払う必要があります。