TNFDとEYが目指す市場主導型のサステナブルな社会

TNFDとEYが目指す市場主導型のサステナブルな社会


長期的価値(Long-term value、LTV)対談シリーズ
市場主導型のルールメイキングで⻑期的価値の創造を⽬指す


要点

  • 現時点で世界全体のGDPの半分以上は自然に依存しており、生態系のリソースの半分が枯渇するなどの問題が、これからの生産活動に深刻なリスクをもたらしている。
  • TNFDは、企業活動が及ぼす自然への影響を測定するためのフレームワークや、自然への影響、リスク、依存度を評価するためのシナリオ・指標作成に向けた考え方を提示しており、EYはそのタスクフォースメンバーとして参加している。
  • EYの持つコンサルティング機能やセクター別の専門知識が、TNFDにおけるフレームワークのデザインや活用方法をより深化させている。

自然の喪失による深刻なグローバルリスクに対処すべく、市場を通じたサステナビリティへの取り組みを加速させるTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)。EYはそのタスクフォースメンバーとしてTNFDに参加し、「ネイチャーポジティブ」な世界の実現に向けた活動をサポートしています。





EY Japan 気候変動・サステナビリティ・サービス (CCaSS)エグゼクティブディレクター 茂呂 正樹

EY Japan 気候変動・サステナビリティ・サービス (CCaSS) エグゼクティブディレクター
茂呂 正樹

Client interview profile two

TNFD 金融市場ステークホルダーエンゲージメント責任者
ナタリー・ボルジョー氏

EY France 気候変動・サステナビリティ・サービス(CCaSS)リーダー、パートナー アレクシス・ガッツォ

EY France 気候変動・サステナビリティ・サービス(CCaSS)リーダー パートナー
アレクシス・ガッツォ


Section 1  世界経済に長期的なリスクをもたらす自然の喪失
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Section 1

世界経済に長期的なリスクをもたらす自然の喪失

驚異的スピードで進む自然喪失に対応するため、実用的なガイドラインを作成し、投資家や企業などあらゆるステークホルダーの共通理解を支えます。


— 最初に、自然に関連する事業機会とリスク管理のフレームワーク作りを進めるTNFDが描く全体的なビジョンについてお聞かせください。

ナタリー・ボルジョー氏 TNFD 金融市場ステークホルダーエンゲージメント責任者
 

ボルジョー氏:TNFDについて語る前に、まずはその前提からご説明する必要があります。近年、驚くべきスピードで自然喪失が進んでいて、すでに生態系の半分を活用できなくなったとするデータもあります。また、世界経済フォーラムがまとめたデータでは、世界全体のGDPの半分以上が自然に依存しているという分析も出ています。私たちの経済活動は、そのように重大な損害を受けてきた自然に左右されるということを、私たちは心にとどめておかなければなりません。TNFDのミッションは、市場における資本の流れを「ネイチャーネガティブ」から「ネイチャーポジティブ」へと変化させることです。金融の流れから、サステナブルな経済活動への変化を促し、現在のような驚異的スピードでの自然喪失に歯止めをかけなければなりません。

アレクシス・ガッツォ EY France 気候変動・サステナビリティ・サービス(CCaSS)リーダー、パートナー
 

ガッツォ:自然を巡る昨今の状況は、世界経済にとって大きなリスクです。投資家でもある企業は、経済面だけでなく自然との依存関係からも、生物多様性への影響を見直さなければなりません。そのための実用的なガイドラインを作成し、投資家や企業の理解を支えていくのがTNFDの役割であると考えています。


ボルジョー氏:TNFDが提供するのは、自然に関する「リスクマネジメント」と「情報開示」のフレームワークです。この両面から、透明性をもって経済主体と自然との関わりを理解できるようになります。

茂呂:情報開示のみではなく、リスク認識と回避、さらにはビジネスが自然回復や再生などに貢献できるような、自然に関してポジティブな方向に進んでいくことが企業に求められていくのではないでしょうか。

ボルジョー氏:そうですね。企業や金融機関が「ネイチャーポジティブ」な世界を目指して、リスクを認識し、必要な手段や対策を講じていくことが重要だと考えています。

ガッツォ:測定した情報を開示するということを事業プロセスに組み込むことが重要です。そうすることで、企業がさまざまなステークホルダーから比較・注目されます。企業や金融機関のサステナビリティに向けた取り組みを進歩・発展させるため、情報開示がキックスタートとして機能することを期待しています。

Section 2  市場主導で形成される、オープンなTNFDのフレームワーク
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Section 2

市場主導で形成される、オープンなTNFDのフレームワーク

比較・共有がしやすいフレームワークとして、さまざまなステークホルダーから都度フィードバックを得つつ、市場主導型の開発を進めています。

— 現在TNFDは、フレームワークのベータ版を段階的に公開しています。正式なリリースを待たずに提供しているのはなぜでしょうか。

茂呂 正樹 EY Japan 気候変動・サステナビリティ・サービス (CCaSS)エグゼクティブディレクター
 

ガッツォ:フレームワークの開発では、フィードバックと改善の反復プロセスを経ることを原則としているため、ベータ版として提供しています。

ボルジョー氏:市場主導型で進めることが重要で、現在までにTNFDの賛同企業であるフォーラムメンバーだけでなく、あらゆる種類の機関や地域からのフィードバックを得ています。1つのトピックについて1ページにまとめられたものから、複数の機関が共同で取りまとめた80ページに及ぶものまで、数百件のフィードバックに目を通してきました。多くの人が参加・貢献することで、全体的なイノベーションプロセスが構築されています。
 

茂呂:日本では、フィードバックの際はフォーマルかつ、詳細情報をカバーした文書が求められがちなため、フィードバック自体をちゅうちょしてしまうケースも見受けられますが、TNFDに対するフィードバックは、必ずしもそこまでフォーマルにまとめる必要はないのですね。

ボルジョー氏:どのような形式であれ、いかなるフィードバックも歓迎します。自然に関する議論はまだ進行している最中です。さまざまな機関から得られる科学的情報に対応していく必要があり、それらの対応は同時進行で進んでいます。

茂呂:投資家は、TNFDにどのような期待を寄せているのでしょうか。

ボルジョー氏:多くの投資家がTNFDの取り組みに関心を寄せ、自然と向き合う好機となっています。その中で、自然をどのように捉え、取り組んでいくべきかについて、まとまった見解が形成されることが必要です。その機会を提供するのがTNFDの役割です。

また、私たちはNGFS(気候変動リスク等に係る金融当局ネットワーク)と緊密に議論しています。NGFSはすでに気候変動や生物多様性について、金融の安定性に対する潜在的な脅威と認識しており、このことは明らかに投資家の注目を集めています。

ガッツォ:農業関連産業など、自然と直接関わるセクターはもちろん、他のセクターでも将来のリスクが顕在化しつつあります。TNFDのフレームワークを活用することは、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)と同じく、自然や生物多様性に関するリスクや機会について、より良い評価を行う第一歩となると投資家は考えています。

ボルジョー氏:従来の財務管理やアセットアロケーション、投資配分の方法論では、自然に関する課題解決に十分に対応できないと、多くの投資家は理解し始めています。重要なのは、自然界の問題に対して具体的な対策を採ることで、そのためには、セクター別あるいは生物群系別に比較でき、横断的に分析でき、かつ、誰もが共有しやすいフレームワークが必要です。

ガッツォ:もう1つ重要な視点としては、ステークホルダーの多くが生物多様性を今すぐに取り組まなければならない課題と捉えていることです。数年後に直面するかもしれない壊滅的な状況を回避するためには、迅速に行動しなければなりません。比較可能なフレームワークを用意し、公平かつ透明性の高い競争の場をつくることで、より効果的に対応していく必要があります。これがTNFDの最終目標ですね。

ボルジョー氏:TNFDは、Science Based Targets Network(SBTN)1や生物多様性条約(CBD)などの国際組織と積極的な対話を続けています。その中で、今後全体のシナリオも見えてくるでしょう。

ガッツォ:生物多様性については現在、中心となるシナリオは存在せず、単一の指標もありません。試行錯誤のアプローチを繰り返し、フレームワークの完成を目指して対話や改善のプロセスを進めていきます。フランス語で「le mieux est l'ennemi du bien」と言いますが、「最善は善の敵」なのです。今あるものが完璧でなくても、それが正しい方向へと導く第一歩であることを受け入れることが大事です。

Section 3  EYの持つ知見と経験がTNFDの実現に貢献する
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EYの持つ知見と経験がTNFDの実現に貢献する

専門的な知見と経験を豊富に有する市場のエキスパートとして、フレームワークを社会に適合させ、議論の活性化を図ります。

— あらためて、TNFDを策定するまでの道のりやチャレンジについてお聞かせください。

ガッツォ:技術的な難しさよりも、言語や文化が異なる国や地域の諸種セクターから参加しているメンバーの間で考えを合わせていくことや、その上でさまざまな国や地域で導入可能な共通のアイデアや焦点を見いだすことを重視しています。また、私たちはフレームワークの導入を検討している国際金融機関とも議論を重ねています。グループ内でのコミュニケーションとは視点が異なってくるので、いかにオープンマインドでいるか、そして深い洞察力をもって柔軟に対応できるかが非常に重要だと強く感じています。

ボルジョー氏:事務局においては、シナリオ・データ・指標など、同時進行する各ワーキンググループでの議論を調整することがチャレンジの1つとなっています。また、数ある既存のフレームワークや標準化団体との整合性もポイントになります。その中で、TNFDが担うべき部分はどこか、フレームワークに何を含め、何を外すべきかといった問いも提起されます。例えば目標設定についてはSBTNと密に連携し、CBDとの議論も行うなど、他組織と協業しながら、議論の軸がずれないように調整することが重要だと考えています。

 

— TNFDを中心としたフレームワーク作りの中で、EYが果たしている役割や、EYに期待していることについてお聞かせください。

ガッツォ:EYは当初からタスクフォースのメンバーとして、パイロットテストや指標、個別セクターのワーキンググループに参加しています。それらのワーキンググループをサポートするための、専任の担当者も配置しています。タスクフォースやフォーラムには交流のあるさまざまなステークホルダーが集まり、自然へのリスクや取り組み方について、日々多くの議論が交わされています。そこではEYの持つセクター別の専門知識やメソドロジーに関する専門知識を持ち込み、私たちが開発するツール、方法論、分析方法とも連携させる試みも行われています。

ボルジョー氏:EYが豊富な専門知識を有する市場のエキスパートであるという信頼に基づき、実際にフレームワークを作るタスクフォースメンバーとして参加していただいています。また、EYの持つノウハウには、クライアントに対する知識や彼らが必要としているもの、ひいては社会が前に進むために必要なものに関する専門知識が反映されており、これは極めて重要です。EYには、フレームワークのデザインだけでなく、それらを社会に適合させ、顧客ベースに導入して、フォーカスグループでフレームワークについて議論してもらうことを期待しています。EYなら、さまざまな機関と共同でフレームワークの試験導入をすることが可能で、それは、TNFDにとって大きな価値を生み出すものと確信しています。

茂呂:日本では、EYはTNFDの取り組みを広める伝道者や提唱者としての役割を担っています。

ボルジョー氏:TNFDは国・地域別による協議会を通じた活動も展開しています。EYが日本でのグループ活動に参加することにより、その活動が活発化していることを大変うれしく、心強く思います。

茂呂:EYのクライアントは、TNFDの義務化について関心を寄せています。

ボルジョー氏:TNFDは自主的なフレームワークであり、義務化する強制力がないので、適用の権限は規制当局や司法管轄区域に委ねられることになるでしょう。管轄区域によっては、自然界に関する必須条件が設定されており、規制当局は、取り入れる方法論・アプローチについて、そこからインスピレーションを得ています。

 

— 最後に、日本のステークホルダーは、TNFDにどう向き合っていくべきでしょうか。

ボルジョー氏:日本の皆さんにお伝えしたいのは、「遅れてはならない」ということです。すでに多数のデータやツールがそろっており、自然に対する課題と向き合うための土台となるTNFDが存在しています。ご自身に問いかけ、今すぐアクションを起こしてほしいです。

ガッツォ:受け身にならず、一歩先を行く姿勢が重要です。TNFDが提供するフレームワークはその基礎となります。また、この分野のさまざまなスペシャリストとつながり、取り組みを加速させていくことを意識しなければなりません。今こそ行動に移すべき時で、待つ時ではないのです。


ニュースリリース

EY 調査、企業は気候変動対策で予想外の財務的リターンを取得

EYは、全世界で売上高が10億米ドル以上の企業を代表する500人以上の最高サステナビリティ責任者(CSO)およびそれに準ずる者を対象とした調査「2022年サステナブル・バリュー・スタディ」を発表しました。

EY調査、ESGは業界成長に伴い重要な岐路に直面

EYとOxford Analyticaが発表した最新レポート「サステナビリティ情報エコシステムの出現(The emerging sustainability information ecosystems)」によれば、環境・社会・ガバナンス(ESG)への投資および報告は、標準化された基準、規制、共通のパーパスが欠如する中で、存在意義を問われる問題に直面しており、インフレ進行とウクライナをめぐる情勢が問題をさらに難しくしていると指摘しています。

EY Japan、気候変動リスク・機会の財務インパクトを分析するツールを開発

EY Japan(東京都千代田区、チェアパーソン 兼 CEO 貴田 守亮)は、企業のサステナブル経営に向けた変革を支援するため、TCFDで要求される気候変動リスク・機会の財務的なインパクトを短期かつ高精度に分析するためのツール「気候変動リスク財務インパクト分析ツール」を提供することを発表します。

EY Japan、長期的価値(LTV)ビジョンに基づく自社取り組みの22年度実績を発表

【EY Japan】EY Japan(東京都千代田区、チェアパーソン 兼 CEO 貴田 守亮)は、経済社会・クライアント・自社における長期的視点での価値創造を行うLTV(Long-term value、長期的価値)ビジョンに基づく自社の取り組みに対する2022年度(2021年7月~2022年6月)実績を発表しました。

EY、廃棄プラスチック問題解決に向けた世界的な取り組みに参画

EYは、プラスチック廃棄物問題に取り組む「Alliance to End Plastic Waste(廃棄プラスチックを無くす国際アライアンス、以下AEPW)」に加盟しました。AEPWには90を超える企業や組織が参加しています。

EY、ESGコンサルティングサービス分野のリーダーとしての評価を獲得

【EY Japan】EYは、調査・アドバイザリー会社Verdantix社がまとめた最新レポート「Green Quadrant: ESG & Sustainability Consulting 2022」において、ESG(環境・社会・ガバナンス)サービスおよびサステナビリティ・コンサルティングサービス分野のリーダーとして評価されたことをお知らせします。


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      EY Japan 統合報告書 2022

      Integrated Report 2022


      サマリー

      すさまじいスピードで進む自然の喪失を前に、多くのステークホルダーがそのリスクを理解し、取り組みを始めています。TNFDが提供するフレームワークは、その起点として大きな役割を果たすことが期待されています。タスクフォースのメンバーであるEYは、コンサルティング能力やセクター別で培った専門知識を通して、TNFDの目標実現に貢献し、ステークホルダーの皆さまに伴走しながらサポートしていきます。