EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
気候変動関連情報の開示タスクフォースであるTCFDと同様のものとしてTNFD(Taskforce on Nature-related Financial Disclosures:自然関連財務情報開示タスクフォース)が発足し、フレームワークの策定が進められています。
その概要と、企業が対応しておくべき事項についてご紹介します。
要点
「生物多様性/自然資本」に係る企業の取り組みについては、気候変動への対応と同様、過去からその必要性がうたわれてきました。これまで一部の先進的な企業においては、定量評価の試みや、認証された原料(木材、パームオイルなど)の調達を推進するなどの取り組みが見られていたものの、全般的には気候変動対応に比べて取り組みが進んでいるとは言い難い状況であったと考えられます。そうした状況がこの1,2年で変化し、現在では企業による生物多様性/自然資本への急速な関心の高まりが見られます。
本稿では、まず生物多様性/自然資本に係る企業の取り組みにおいて留意すべき視点を整理してお伝えします。また、現在策定が進められている「自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)」のフレームワークについては、公表時に多くの企業が対応すると思われますが、その方向性と対応に向けて企業が取り組むことが有用と思われる事項について概説します。
企業の生物多様性/自然資本に係る取り組みにおいて留意すべき視点としては、以下が考えられます。
TNFDは、民間企業や金融機関が生物多様性/自然資本に関するリスクや機会を適切に評価し、情報開示をするためのフレームワークを構築する組織です。UNDP(国連開発計画)、WWF(世界自然保護基金)、UNEP FI(国連環境計画・金融イニシアチブ)、グローバルキャノピー(英国の環境NGO)により、2021年7月に正式発足し、2023年中のフレームワーク公表を目指して策定を進めています。フレームワークの最終的な形は未確定ですが、現時点で提案されている内容から、概要や特徴を整理すると、次のようになります。
生きている(生物的な)自然のほか、水、土壌、大気といった非生物資源も含まれていますが、鉱物資源については「自然に関連した枯渇」がスコープとなっています(「自然資本」に近いものの、完全には一致していない、と言えます)。
TNFDは、その名からイメージされるように、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD:Task Force on Climate-related Financial Disclosures)をベースにして構築されると考えられます。以下の4本柱をアプローチとして採用しており、TCFDと同様に、「自然関連」のリスクと機会を特定し、経営の根幹に係る事項として企業戦略に組み込み、対応していくことにより、企業をよりレジリエントなものとする、また機会を生かしビジネスチャンスとしていくことが期待されます。
「リスクと機会」について、TCFDよりも広く、その概念を指すものとして、「自然関連リスクと機会」という用語を推奨しています。その概念を整理すると、以下のようになります。
情報開示を行う企業が、フレームワークの特定の側面に優先的に取り組む必要性を示しており、下記の2つのステップを提案しています。
① 自然に対する影響と依存度が最も大きい産業の情報開示を優先
② 優先産業の中で最も重要な自然関連リスクと、十分な質のデータが容易に入手できるものについて、優先的に開示
またTNFDは、報告主体がフレームワークに合わせていくための柔軟で段階的なアプローチを定めており、「基本」、「中間」、「包括的」の3段階に分けて要件を提示することを提案しています。
TNFDの技術的スコープと運用モデルに関する提言(TNFD「Nature in Scope」)では、以下の2つのガイダンス、ツールが言及されており、今後、標準的に使用される可能性があります。
TNFDフレームワークは現時点ではまだ策定中ですが、現時点で得られる情報などから早々に対応を進めておくことは、他社との差別化、よりレジリエントな組織作りなどにおいて有用と思われます。以下に考えられる取り組みの例を示します。
自社の事業と生物多様性/自然資本にどのような関係があるか(例えば、原料調達における自然資本の採取の有無、製品廃棄時に廃棄物などが自然界に放出される可能性の有無など)、把握しておくことが考えられます。
1の結果をベースに、顕在化または可能性のある自然関連リスクと機会を特定する(定量評価ではなくても定性評価を進めておく)ことも有用と考えられます。
リスクの例
機会の例
自社およびサプライチェーンにおける生物多様性/自然資本の管理体制について、ベンチマーク調査、外部情報調査(例︓CDSB〈気候変動開示基準委員会〉のBiodiversity Application Guidance)などを通じてベストプラクティスを特定し、「ありたい姿」を設定します。また現状とのギャップから、今後取り組むべき事項を特定し、整備していくことが考えられます。
TNFDにおいてもTCFDと同様、生物多様性/自然資本への対応について、経営陣が関与し、経営課題に組み込み、戦略に反映させていく体制の構築が要求されると推察されます。経営陣などへの訴求、啓発も含め、早々に体制作りを進めることが望まれます。
引用・参考文献:
【共同執筆者】
多田 久仁雄
EY新日本有限責任監査法人 気候変動・サステナビリティ・サービス(CCaSS) マネージャー
20年以上にわたり、環境に関する業務に従事。
温室効果ガスをはじめとしたESG/サステナビリティ情報に関する第三者保証や関連アドバイザリー、また生態系・自然環境分野、廃棄物リサイクル分野など、環境全般について広く経験を有する。
現在は気候変動・サステナビリティ・サービス(CCaSS)のコンサルタントとして、主に環境/EHS分野での業務に従事し、顧客のサステナビリティパフォーマンスの向上に貢献している。
※所属・役職は記事公開当時のものです。
TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)は、民間企業や金融機関が生物多様性/自然資本に関するリスクや機会を適切に評価し、情報開示をするためのフレームワークの策定を進めています(2023年公表予定)。あらかじめ対応を進めておくことは、他社との差別化、よりレジリエントな組織作りなどにおいて有用と思われます。