COP16の注目ポイント3点を解説:日本企業への影響は

COP16の注目ポイント3点を解説:日本企業への影響は


2024年10月にコロンビア・カリで開催されるCOP16のビジネスへの影響について解説します。

前回のCOP15で採択された「ポスト2020生物多様性枠組み(Post 2020 GBF)」の要求項目に対する、各国の対応状況にも大きな注目が集まっています。


要点

  • COP15で決められた「2030行動ターゲット」について、日本では環境省を軸に取り組みが進む一方、COP16では各国の取り組み状況に注目。
  • 国家戦略としてのGBFへの対応は、新たな規制となって表れてくる。今まで自然を劣化させることで成立していたビジネスに対する規制は、今後厳しくなっていくことが予想される。
  • COP16では、TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)のメンバーらによる関連イベントも開催される。TNFDの開示をサポートするためのデータベースやツールなどについても確認しておきたい。


COP16ではPost 2020 GBFに対する各国の取り組みが協議される

国連生物多様性条約第16回締約国会議(COP16)が、2024年10月21日から11月1日までコロンビアのカリで開催されます。前回はカナダ・モントリオールでCOP15が開かれましたが、そこで注目されたのは「ポスト2020生物多様性枠組み(Post 2020 GBF)」が採択されたことでした。

COP15ではPost 2020 GBFで「2030行動ターゲット」「2050ゴール・2030マイルストーン」「2030ミッション」「2050ビジョン」といった新たな目標が立てられました。

例えば、2030年までに劣化した生態系の20%を再現・復元することや、陸・海の重要地域を30%保護するなど、さまざまなターゲットが設けられました。2030年までに陸・海の重要地域と生態系の保護面積を30%にすることは「30by30」(30%By2030)と示されています。

実はこうした要求項目に対して、すでに日本は動き始めています。国が管轄する国立公園や自然公園だけでは30%を賄えないため、民間にも呼びかけ、保有する社有林や森、別荘地などの登録を勧めています。国際的にはOECM(保護地域以外で生物多様性保全に資する地域)、日本では自然共生サイトと名付けられ、環境省がさまざまな企業に呼びかけています。

例えば、製紙会社はパルプの原料にするために社有林を持っていますので、登録すれば自然共生サイトとして認められます。このように国レベルの政策として実行するきっかけを作ったのが、2022年のCOP15の大きな成果でした。

 

国家戦略としてのGBFへの対応は新たな規制となって表れてくる

Post 2020 GBFを、国の戦略にどのように落とし込んでいくのか――COP15に参加し賛同している国はすべて、2年以内に国家戦略に落とし込むことが求められていました。日本は生物多様性に関する国家戦略を2020年に改訂しようとしていましたが、COP15がコロナ禍で延期されたため、待つ状況が続きました。その後、COP15を受けて、日本はその内容を反映させ「生物多様性国家戦略2023-2030」を策定しました。2024年10月に実施されるCOP16では各国におけるGBFの国家戦略への落とし込みの状況や、GBFにて取り決めた目標の達成度をどのように評価していくかも協議されると考えられます。

では、COP16にて各国の戦略への落とし込み方や達成度の評価方法が協議されると、その後、企業にどのような影響を与えることになるのでしょうか。当然、各国においてGBFの目標達成に向けた動きが強まり、自然関連の要求度が高まると考えられます。まず富栄養化、殺生物剤、プラ廃棄物削減を含む汚染物の影響低減のため、製造現場での制約が厳しくなる可能性があります。また、啓発活動と同時に環境関連の法規制も強まるため、経済活動に影響が出てくるでしょう。国家戦略としてのGBFへの対応は新たな規制となって表れてくるはずです。そのため、今まで自然を劣化させることで成立していたビジネスに対する規制は、今後厳しくなっていくでしょう。特に開発や、意図せずとも環境汚染を起こすようなビジネスオペレーションに対してインセンティブを得ていた企業は、補助金削減や見直しが行われ、生物多様性への有益性確保のため、ビジネスの方向転換が問われることになるとも考えられます。

 

COP16は環境関連の制約や開示の義務化の動向についても注目

では、企業はCOP16のどこに注目すればいいのでしょうか。一つは、ビジネスに対して大きな影響があるため、全体で協議される予定である、GBFの目標達成に向けたモニタリング方法や、各国の取り組み・規制設定の動向が挙げられます。また、COP16にはさまざまな組織が参加する中、TNFDのメンバーらも参加し、関連イベントを開催することになります。彼らは今、TNFDに関するさまざまなガイダンスを発表していますが、COP16ではTNFDの開示をサポートするためのデータベースやツールなどについても発表があるようですので、これも確認しておくべきでしょう。

企業にとっては直接的な環境関連の制約や、開示の義務化についても気になるはずです。そこは国ごとに発表があるかもしれません。ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)でも気候変動の次は、自然資本か、人的資本かと見られています。企業はCOP16で、どの組織からどのような情報が出てくるのかも注目すべき点であると考えます。

 

2030年までに自然劣化を止め、2050年までに再生・回復させる

今後のロードマップを考えると、すべての起点はやはりCOP15のPost 2020 GBFになります。そこで生まれた「2030行動ターゲット」に対し、どこまでアクションを取っているのか。そこが一番大事な部分だと言えます。

ネイチャーポジティブ(Nature Positive:Nature+)とは、自然(種と生態系)が最終的には復元、再生している世界を指す用語であり、Post 2020 GBFでは2030年までに自然劣化を止め、2050年までに再生・回復させることを目指しています。そのために、生態系保全回復、気候変動対策、汚染侵略的外来種への対応、持続可能な生産、そして消費と廃棄物の削減などさまざまな取り組みが必要になっています。2030年で歩みを止めることなく、2050年までにネイチャーポジティブを増やしていくことを目指しているのです。

ネイチャーポジティブの実現は企業だけで成し遂げられるものではありません。啓発、教育、研究などを通じて、生活者の意識を変えていくことも必要となってきます。これまでビジネスにおいて生物多様性がここまで重要視されることはありませんでしたが 、この数年で一気に進むようになりました。COP16でどのようにその取り組みが前進しているのか――その動向に注目しましょう。


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    サマリー

    すべての起点はCOP15のPost 2020 GBFにあることから「2030行動ターゲット」に対し、どこまで各国がアクションをとっているのかが最も重要なポイントです。Post 2020 GBFでは2030年までに自然劣化を止め、2050年までに再生・回復させることを目指しています。いわゆる「ネイチャーポジティブ」を実現するために、COP16でどのようにその取り組みが前進しているのか――その動向に注目しましょう。


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