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特別欠損金額に係る特定繰延税金資産(Substitute Loss Carry-forward DTA)導入の拡大
一構成事業体から他の構成事業体へ繰延税金費用を配分するための原則
税源浸食と利益移転(BEPS)に関するOECD/G20包摂的枠組みは2024年6月17日、一定の基礎的なマーケティング・販売取引に係る移転価格決定について、第1の柱の利益Bアプローチと、第2の柱グローバルミニマム課税ルールに関する各種文書を公表しました。利益Bに関する2点の文書には、利益Bアプローチに基づく計算に所定の調整を加えることができる国・地域の最新リストと、利益Bの適用結果を尊重するという包摂的枠組みメンバー国・地域の政治的コミットメントの対象となる国・地域の最新リストが示されています。第2の柱に関する文書は、新たに合意形成された執行ガイダンスと、GloBEルール導入国・地域の同ルール上の適格ステータスを判定するためのピアレビュープロセスに関する質問集から構成されます。
本税務ニュースでは、上記執行ガイダンスの概要など、以上の文書を取り上げます。2024年6月執行ガイダンスに関する詳細につきましては、2024年6月28日付EY Global Tax Alert「OECD and country officials discuss BEPS 2.0 Pillars One and Two and other tax work」(英語のみ)をご参照ください。
経済協力開発機構(OECD)は2021年10月、BEPS2.0プロジェクトの第1の柱と第2の柱の中核的要素に関する包摂的枠組みメンバー国・地域による大枠での合意内容がまとめられた文書を公表しました1。
この2021年10月文書にて説明されているとおり、第1の柱の利益Bは、特定の国における基礎的なマーケティング・販売活動への独立企業間原則の適用を簡素化・合理化するという趣旨のものであり、執行力の劣る国・地域(low-capacity countries)のニーズに特に焦点が当てられています。OECDは、利益Bに関して進められていた作業と未解決の問題がまとめられた、利益Bに関する公開協議文書を2022年12月と2023年7月に公表しました2。OECDは2024年2月19日、多国籍企業と税務当局のためのOECD移転価格ガイドライン2022年版(OECD Transfer Pricing Guidelines for Multinational Enterprises and Tax Administrations 2022)に組み込まれる、利益Bに関するレポートを公表しました3。同レポートでは、以下の分野において、利益Bに関して包摂的枠組みで続いている追加作業の説明と、作業完了の見込み時期が示されました:
2021年10月の合意形成以来、包摂的枠組みはグローバル税源浸食防止(GloBE)モデルルール4やGloBEモデルルールに関するコメンタリー5、GloBEセーフハーバーに関する指針6、3つのGloBE執行ガイダンス7、GloBE情報申告書の標準テンプレート8など、第2の柱に基づくグローバルミニマム課税について重要な合意文書を相次いで公表してきました。OECDはまた、包摂的枠組みによって検討がなされているもののまだ意見がまとまっていない分野である、GloBEルールのための紛争防止解決メカニズム案に関する公開協議文書も公表しました9。なお、第2の柱のもう1つの中核的要素である租税条約の特典否認ルール(STTR:Subject to Tax Rule)については、OECDはモデル条約上の規定とその注釈10、ならびに各国・地域が自己の租税条約にSTTRを組み込む際に使用できる多国間協定に関する文書11を公表しています。さらにOECDは2024年4月25日、2023年末までに3回に分けて発行した執行ガイダンスをまとめた、GloBEモデルルールに関する注釈全集を公表しました。
包摂的枠組みは2024年6月17日、利益Bに関する追加指針を公表しました:
利益Bレポートのセクション5.2は、3段階の価格決定メカニズムの一環として、営業費用クロスチェック(Operating expense cross-check)が補足的手段として適用され、その範囲内で売上高利益率(ROS)が純利益の指標(すなわち上限と下限)として適用されると定めています。適格国・地域に関する通達によると、これは包摂的枠組みの中で到達した妥協点を反映しており、「適格国・地域」が関係する場合においては、第2の指標である営業費用比率の上限を適用することになります。
セクション5.2における「適格国・地域」とは、最新の「世界銀行グループ各国所得水準別分類(World Bank Group country classifications by income level)」に基づいて世界銀行グループにより低所得、低中所得、高中所得に分類される国・地域をいいます。
利益Bレポートのセクション5.3には、一定の状況においては価格決定マトリクス上の利益率に上方調整を加える旨を定めたデータ入手可能性に関するメカニズムが含まれます。すなわち、利益B価格決定マトリクスの妥当性を検証するに当たり、グローバルデータセットの中に、検証対象企業が所在する国・地域のデータが全く無いまたは不足している場合で、かつ、その国・地域が「高リスク」国・地域であると合理的に判定できる証拠が存在する状況が、一定の状況に該当します。「高リスク」国・地域の判定とこのメカニズムに基づいて加えられる調整の定量化には、ソブリン格付けが代用されます。
セクション5.3における「適格国・地域」とは、次の要件を満たす国・地域をいいます:(i)所定の独立した信用格付け機関の公表する長期ソブリン格付けがBBB+(もしくはこれと同等のもの)以下である、(ii)グローバルデータセットにある比較対象企業が5社未満である。
適格国・地域に関する通達は、セクション5.2と5.3のそれぞれについて別々の適格国・地域のリストを提示しています。同通達によると、これらのリストは将来に向かっての適用が想定されており、5年ごとに更新されてOECDのウェブサイトに掲載される予定です。
適格国・地域に関する通達によると、適格国・地域のリストは、それらの国・地域には利益Bアプローチを採用する義務がある、またはそれらの国・地域が同アプローチを採用する予定であることを黙示的に示すものではありません。
セクション5.2(営業費用クロスチェック)上の適格国・地域リストには132の国・地域が、セクション5.3(データ入手可能性メカニズム)上の適格国・地域リストには135の国・地域がそれぞれ掲載されています。一方のリストには含まれているがもう一方のリストには含まれていない、あるいは一方のリストには含まれていないがもう一方のリストには含まれているという国・地域もいくつか存在します。
対象国・地域に関する通達によると、包摂的枠組みのメンバーは、自国の法令と行政慣行に従うことになりますが、対象国・地域による利益Bの適用結果を尊重し、かつ関係する国・地域の間で二国間租税条約が締結されている場合には、生じ得る潜在的な二重課税を回避すべく相当の措置を全て講じる旨を約束しています。
同通達によると、この政治的コミットメントが対象とする国・地域は必然的にキャパシティが低いと示唆することを避け、政治的コミットメントを低・中所得のOECDおよびG20加盟国・地域のうち、利益Bを適用する意向である旨を2024年3月までに表明した国・地域にも広げるために、「執行力の劣る国・地域」ではなく「対象国・地域」という用語が使用されています。
同通達は次のように対象国・地域の要件を定めています:
対象国・地域に関する通達は、対象国・地域のリストを作成するためのアプローチを示していますが、同アプローチは、2025年1月1日から利益Bを導入することに極めて意欲的な国・地域の税の確実性を促進するという趣旨であると説明されています。ただし、同通達は利益Bの適用に対する関心を表明することは、必ずしもその国・地域が導入を進めるということを意味しないことを、言及しています。
対象国・地域のリストには現在66カ国が含まれています。当初期間を2025年1月1日から2029年12月31日までとし、同リストは5年ごとに見直される予定です。
対象国・地域に関する通達によると、包摂的枠組みのメンバー国・地域は、他の包摂的枠組みメンバーまたは非メンバーにも相対ベースで政治的コミットメントを広げる可能性があります。さらに、同通達によると包摂的枠組みメンバーは、将来的に新たな低・中所得国がリストに追加されたとしても、それらの国に政治的コミットメントを広げないことを選択できます。また同通達によると、国・地域によっては、現在のリストに反映されている対象拡大に関する政治的コミットメントを、5年の期間が経過したとき、またはその国が2025年末までに利益A多国間条約に署名しなかった場合には見直す可能性があります。さらに、トルコの政治的コミットメントは、二国間租税条約を締結している対象国・地域に限定されると言及しています。
今回の執行ガイダンス(Administrative Guidance)は、2023年2月、2023年7月、2023年12月に続く、4番目の執行ガイダンスです。2024年6月の執行ガイダンスでは、次の内容が記載されています:
2024年6月の執行ガイダンス第1章では、モデルルール第4.4.4条に定められている繰延税金負債(DTL:Deferred Tax Liability)のリキャプチャールールについて、広範な追加ガイダンスと例が示されています。モデルルールの下では、ある対象会計年度の調整後対象租税額の計算に含めたDTLは、5対象会計年度以内に同負債が解消されない場合、リキャプチャーの対象になります。DTLがリキャプチャーになると、当該DTLが発生した年度の実効税率を、同負債を計上しなかったものとして再計算することになります。ただし、モデルルール第4.4.5条に掲げられている9つの項目に係るDTLについては、リキャプチャー対象外発生額(Recapture Exception Accrual)として、リキャプチャー規定が適用されません。
また、モデルルールでは、多国籍企業はGloBE上の実効税率の算出において5対象会計年度終了の日までに支払われることが見込まれない(解消が見込まれない)DTLに関して、そのDTLにかかる費用を法人税等調整額から除く選択が設けられています。この選択を5対象会計年度内に解消が見込まれないDTLの除外選択の特例(Unclaimed Accrual)の選択といいます。
実務においては、DTLのリキャプチャールールは、DTLを過去に遡って処理する必要があり、多国籍企業にとっては負担が極めて大きくなることが想定されています。
こうした処理の簡素化を目的に、2024年6月の執行ガイダンスでは、DTLの分類ごとにリキャプチャールールを適用する際の、対象となるDTLの分類の判定基準と、当該分類ごとにDTLが5対象会計年度以内に解消されたか否かを判定するための手法について指針を示しています。また、同指針は、DTLの解消額のうち、どれがリキャプチャーDTLに係るものの解消で、どれがGloBEルール適用前の移行年度以前に発生したリキャプチャールールの対象外のDTLに係るものの解消なのかを判定するための手法も示しています。
加えて、2024年6月の執行ガイダンスでは、第4.4.7条の5対象会計年度内に解消が見込まれないDTLの除外選択の特例の適用範囲を拡大することによる、簡素化が図られています。同ガイダンスによると、構成事業体は、当該特例を、DTLの分類ごとに適用することが認められています。
なお、DTLのリキャプチャーを分類ごとに行う場合、構成事業体は、リキャプチャーDTLの計算を、項目ごとや総勘定元帳勘定ごとではなく、DTLの分類ごとに合算(Aggregate DTL Category)してリキャプチャーを実施することとなります。
最後に、この指針は適格国内ミニマムトップアップ税(QDMTT:Qualified Domestic Minimum Top-up Tax)ルールにも適用されるとしています。なお、QDMTTでは、所得合算ルール(IIR:Income Inclusion Rule)と異なり、導入国の財務会計基準に基づいて計算を行うことも許容されていますが、その場合、リキャプチャーDTLの規定もそれに基づいて行うこととなります。そのため、そのような国においては、最終親会社等の連結財務諸表に基づくIIR下でのリキャプチャーDTLの計算と、その国の財務諸表に基づくQDMTT下でのリキャプチャーDTLの計算とが異なる可能性についても言及されています。
2024年6月の執行ガイダンスでは、財務会計上の帳簿価額とGloBEルール上の帳簿価額、そしてそれらの帳簿価額と現地税法上の帳簿価額とに基づいて算定される、それぞれの繰延税金資産(DTA:deferred tax assets)/DTLが異なる場合において、多国籍企業グループが構成事業体の調整対象租税額をどのように算定すべきかが示されています。また、2023年2月の執行ガイダンスに記載のあった、グループ内取引に関して、取得側の構成事業体において、財務会計上原価で移転されている場合の、GloBEルール上の取扱いについても追加の指針を示しています。
(例えば、モデルルール3.2.3の独立企業間価格にて記録されていない取引についてGloBEルール上調整を加えることを求める規定等の)モデルルール内の規定により、資産および負債の帳簿価額とそれに基づき計算されるDTAおよび負債のポジションがGloBEルール上と財務会計上とで異なる場合があります。本執行ガイダンスでは、構成事業体の資産・負債の帳簿価額がGloBEルール上と財務会計上とで異なる場合においては、繰延対象租税額(Total Deferred Tax Adjustment Amount)は、財務会計上の帳簿価額ではなくGloBEルール上の帳簿価額を基に算定し、それを関連する財務会計基準に従って調整することとされました。そのため、GloBEルール上の帳簿価額が財務会計上の帳簿価額から税務上の帳簿価額と一致するように調整される場合においては、財務会計上の計上されている繰延税金費用はGloBEルール上では計上されないことになります。
GloBEルール上の帳簿価額が現地の税務上の帳簿価額と合致しない場合、DTAおよびDTLは、財務会計上の帳簿価額ではなくGloBEルール上の帳簿価額に基づいて計算することになります。また、計上されたDTAおよびDTLは、関連する財務会計基準に従って処理されます。ただし、関連する財務会計基準において、DTAまたはDTLの認識を認めていない場合において(例えば、IAS第12号における当初認識の適用除外<Initial Recognition Exemption>が適用されている場合)、GloBEルール上のDTAおよび負債は認識されません。
なお、このように計算されるDTA・DTLにかかる繰延税金費用ついても、基準税率(15%)を超えて計上されている場合には、基準税率での再計算の対象となります。また、モデルルール第4.4.4条に組み込まれているリキャプチャーDTLについても、引き続き適用されます。
2024年6月の執行ガイダンスでは、GloBE上の帳簿価額と会計上の帳簿価額が一致しない可能性のあるさまざまな状況(モデルルール第9章における移行ルールが適用される場合等)が説明されています。
また、BEPS包摂的枠組みにおいて、GloBEルール上の帳簿価額と財務会計上の帳簿価額の差異に伴うコンプライアンス上の負担を軽減するための簡素化措置をさらに検討する方針とされています。
モデルルールでは、主たる事業体(Main Entity)の対象租税額を恒久的施設(PE:Permanent Establishment)へ、帰属するGloBE所得に応じて配分します。主たる事業体の国内税制により複数のPEの所得が合算される場合においては、関係する対象租税額を各PEへ振り分ける程度を決定するための仕組みが必要になります。税制により、そうした所得が主たる事業体の外国源泉所得と合算される場合においては、対象租税額を主たる事業体に残すのではなく、PEのGloBE所得について計算した上で、PEへどの程度配分するかを決定する仕組みでなければなりません。
こうした配分の仕組みの基本的な目的は、対象租税額を、関連するGloBE所得に紐付けることにあります。とりわけ、この配分の仕組みは、主たる事業体とそのPE、または外国子会社(CFC:Controlled Foreign Companies)、ハイブリッド事業体、もしくはリバースハイブリッド事業体の所得が親会社等の課税所得に含まれている際に、親会社等とそのCFC、ハイブリッド事業体、もしくはリバースハイブリッド事業体との間で配分しなければならない当期税額控除枠の彼此流用(クロスクレジット)が存在する場合に適用されます。
クロスクレジットされた当期税金をCFCとそのPE、ハイブリッド事業体、またはリバースハイブリッド事業体との間でも配分する場合もあります。配分の仕組みは、さまざまな法人税制の下での外国源泉所得の多様な取り扱いに対応可能であり、次の4つの手順から構成されます:
モデルルール第3.4.5条のもとPEの損失を主たる事業体の所得へ含める際も、同じような配分の問題が生じます。執行ガイダンスによると、PEの損失を主たる事業体の費用として処理する程度を算定するに当たっては、損失をまずは他のPEの所得と相殺するか否か等、税額控除が認められるPEの所得の測定に関する国内ルールを考慮に入れなければなりません。
特別欠損金額に係る特定繰延税金資産(Substitute Loss Carry-forward DTA)導入の拡大
2023年2月執行ガイダンスでは、親会社等が相殺対象のCFC所得と同一年度に国内において欠損金を計上した場合に適用される特別欠損金額に係る特定DTAが導入されました。他の構成事業体(外国PE、ハイブリッド事業体、リバースハイブリッド事業体)に関してと、主たる事業体または親会社等の国内欠損金を繰り越し、翌年度以降にPE、CFC、ハイブリッド事業体、またはリバースハイブリッド事業体の所得と相殺する場合においても、同じ問題が発生します。2024年6月執行ガイダンスは、そうした場合における特別欠損金額に係る特定DTAの適用を取り上げています。
一構成事業体から他の構成事業体へ繰延税金費用を配分するための原則
モデルルールでは、対象租税と関連するGloBE所得との紐付けを求めています。ある構成事業体がその所在する国・地域において、他の国・地域に所在する他の構成事業体が稼得したGloBE所得に係る当期税金費用を負担する場合、モデルルールはその対象租税のクロスボーダー配分を認めています。
一時差異に起因する繰延税金費用も、適切に他の国・地域に配分されます。CFC税制に関係する繰延税金費用は、さまざまな理由により生じ得ます。例えば、CFCの所得が、税務上認識される前に会計上認識される場合があります。DTAはまた、外国税額控除の計上(総額ベースでのDTAの計上)が原因で生じる場合もあります。
CFC税制に関係して繰延税金費用が親会社等の財務諸表に計上される場合、当該親会社等の適用税率が15%よりも高いときは、当該繰延税金費用を15%の税率で再計算の上、CFCへ配分します。ただし、クロスボーダー配分は、モデルルール第4.3.3条の定める受動的所得(Passive Income)の「プッシュダウン」に関する制限を受けます。外国税額控除との相殺により支払いが行われない繰延税金費用の配分を防止するため、繰延税金費用のクロスボーダー配分は「ネットベース」で行う必要があります。
2024年6月執行ガイダンスは、CFC税制に関係する繰延税金費用の配分について、5段階から成る手順を説明しています:
この2024年6月執行ガイダンスは、PE(受動的所得に関する制限を除く)とハイブリッド事業体、リバースハイブリッド事業体に関する繰延税金費用にも同様に適用されます。
その一方で、多国籍企業グループは、親会社等の所在地国おいて5年選択(Five-Year Election)を行うことで、PE、CFC、ハイブリッド事業体、これらの所在地国からの分配から生ずる繰延税金費用の配分を、これらの事業体の調整後対象租税から除外することができます。
2024年6月執行ガイダンスは、複雑性と会計基準間の異なる取扱いを踏まえて、米国外において軽課税を享受する無形資産所得に関する課税(GILTI:Global Intangible Low-Taxed Income)のような混合CFC税制に関連する繰延税金費用の配分の取扱いを明記していません。同指針は、CFC税制に由来するDTAは第9.1.1条の移行ルールのもとでは考慮されないと定めています。
2024年6月執行ガイダンスの第5章は、導管事業体やハイブリッド事業体へのモデルルールの適用において生じる固有の問題に焦点を当て、これらの事業体特有の性質への対応指針を示しています。導管事業体の所得は、その事業体レベルでは課税されず、事業体を経由して所有者レベルで課税されます。反対に、ハイブリッド事業体の租税債務は、ハイブリッド事業体を経由して所有者に移転することはありません。
2024年6月執行ガイダンスは、導管事業体が税務上透明な事業体またはリバースハイブリッド事業体に該当するかの判定は、原則として、その事業体に最も近い所有者で、それ自体が導管事業体ではない構成事業体の所在地国の税法に基づき行うとしています。この判定は、各所有持分について行います。そのため、複数の所有者が複数の国・地域にいる事業体は、GloBE上複数の分類を有する場合があります。さらに、今回のガイダンスは、法人税またはこれに類似する対象租税額がない国・地域は、その国・地域にて設立された事業体またはその国・地域にて設立された事業体によって所有される事業体を、税務上透明な事業体として取り扱うことができないとしています。
なお、2024年6月執行ガイダンスは、最終親会社等または少数株主が導管事業体を通じて間接的に持分を保有する場合における、第3.5.3条に基づくIIRのトップアップ税の計算の適用も取り上げています。さらに、導管事業体を伴う仕組みにおける第4.3条に基づくクロスボーダー税額の配分についても解説しており、まずは導管事業体へ税額を配分したうえで、さらなる配分を行うべきであると定めています。
2024年6月執行ガイダンスは、ハイブリッド事業体の所得に係る対象租税を配分するに当たり、構成事業体の間接的な所有者もその対象に含むと定義を広げています。さらに同指針は、ハイブリッド事業体の定義は、その所在地国の国内法に基づく税務上透明な事業体だけではなく、法人税のない国・地域に所在する事業体にも適用されると明記しています。また、リバースハイブリッド事業体の所得について直接所有者または間接所有者が支払った税金は、第4.3.2(d)条に基づきリバースハイブリッド事業体へ配分され、その税金が関係する所得との紐付けを図ると示しています。
2024年6月執行ガイダンスの第6章は、証券化ビークル(Securitization vehicles)に関する個別論点への対応を図っています。証券化とは、債権者(オリジネーター)による住宅ローンや自動車ローン・自動車リース、消費者向けローン、クレジットカード、売掛金といった、ローン、エクスポージャーまたは債権の集合のリファイナンスを、売買可能な証券に変換する金融技術の1つです。証券化を行うに当たり、対象資産ポートフォリオをオリジネーターの信用リスクから隔離することが求められ、多くの場合、特別目的事業体を用いてそうした隔離が行なわれます。
特別目的事業体は、通常、その存続期間にわたり(現金移転の仕組み考慮後で)わずかな利益しか生まないように設計されています。事実関係と状況によっては、ある会計年度において、特別目的事業体が重要な財務会計上の純損益を計上する場合には、トップアップ税の負担が生じかねません。
この点に対処するために2024年6月執行ガイダンスには、QDMTTとQDMTTセーフハーバールールに関する注釈を改訂する予定であると明記されています。同改訂により、証券化ビークルをQDMTTの適用範囲から除外すること、あるいは、証券化ビークルに係るトップアップ税の納付義務をQDMTTセーフハーバーの要件である一貫性要件(Consistency Standard)が不適合とされることなくして、その国・地域における他の構成事業体に課すことが認められるようになる見通しです。同ガイダンスは、この点に関する追加ガイダンスが今後出される予定であるとしています。
また、OECDは、GloBEルール導入国・地域のIIR、軽課税所得ルール(UTPR)、およびQDMTTの適格ステータスの判定、ならびにQDMTTセーフハーバーに関する同国・地域の適格性の判定を目的とするピアレビューの計画に関する情報を提供する簡易な質問集も公表しました。同文書によると、ピアレビュー手続によりGloBEルールの国内運用の適格ステータスが明確になり、同ルールの統一的な適用と一貫性のある運用の確保が図られます。また、ピアレビュー手続では、法整備の検証と継続的な点検も行なわれ、これを包摂的枠組みが監督し、モデルルールや注釈、執行ガイダンスを含めGloBEルールの遵守の確認がなされる方針であることも示されました。
当面の間、ピアレビュー手続は暫定認証制度として開始され、GloBEルール導入国・地域のGloBEルールに関する法整備の適格ステータスを暫定的に素早く把握することができるようにする仕組みであることが、質問集により明らかになりました。質問集はこれを、各導入国・地域による自己申告手続に依拠する簡易手続であると説明しています。質問集によると、導入国・地域が自己申告を提出し、他の包摂的枠組みメンバーが異議を唱えなかったとき、または包摂的枠組みメンバーによる異議が解消されたときは、同国・地域の法整備は「暫定適格ステータス」が認められます。この暫定ステータスは、その法令の発効日から、正式な法整備の検証が完了するまで適用されます。なお、この検証は、法令の発効日後2年以内に開始しなければなりません。
質問集によると、正式な検証によりその法令が非適格と判定されるか、またはその法令が所定の期限内に施行されなかった等の理由により、暫定適格ステータスが失効となったとしても、遡って失効になることはありません。
質問集によると、包摂的枠組みは、暫定適格ステータスが認められた法令を整備している国・地域のリストを、同ステータスの適用開始日と終了日とともにOECDのウェブサイトに掲載し公表する予定です。GloBEルール導入国・地域は、公表される同リストを基に他の国・地域の暫定適格ステータスを確認しなければなりません。
2024年6月17日付の第2の柱に関する新たな文書の公表に関係してOECDは、包摂的枠組みが2024年5月27日に公表したCbCR追加解釈指針にも言及しました。同文書は、第2の柱の移行期間CbCRセーフハーバーに関する既存のCbCR指針の改訂をまとめたものです。
それらの改訂は、「税引前当期利益(損失)の額(Profit <Loss> before Income Tax)」「発生税額(Income Tax Accrued <current year>)」「納付税額(Income Tax Paid <on cash basis>)」上の配当金の取り扱いに関するものです。従前の指針でも、他の構成事業体から受け取った支払のうち、支払人の税務管轄地にて配当金として扱われるものは、税引前当期利益(損失)の額から除外すべきであり、かつ、その支払に伴う税額は発生税額および納付税額から除外すべきであるとされていました。
今回の追加指針では、国別報告書においては、構成事業体間の支払は支払人と受取人の税務管轄地において整合性をもって扱われるべきであるとの指針が示されました。つまり、支払人の税務管轄地に関する国別報告書の表1を作成するために使用される情報源において、支払が配当金として扱われている場合、受取人の税務管轄地では同支払は除外されます。反対に、支払人の税務管轄地にて支払が配当金以外のもの(例えば支払利息)として扱われている場合は、受取人の管轄地ではこの支払を含める必要があります。このルールは、2023年12月に改訂された移行期間CbCRセーフハーバー指針の第74.16項および74.17項に合致します。
利益Bについては、(第1の柱の利益Aや第2の柱とは対照的に)収入に関する閾値が定められていません。各企業においては、自己の事業に関係する国・地域による利益Bの実施に対する対応と、利益Bの対象取引に係る価格決定に対してこれがどのような影響を与えるかを分析することが重要です。また、包摂的枠組みにおける利益Bに関する今後の動向を、各企業は引き続き注視する必要があります。
第2の柱が適用される企業は、グローバルミニマム課税ルールの運用による企業グループへの影響を特定するために、2024年6月執行ガイダンスに織り込まれている変更の影響を検証する必要があります。また、企業においては、事業を営んでいる国・地域が2024年6月執行ガイダンスおよびその他の執行ガイダンスの一切を、第2の柱に関する国内の法整備にどのように反映するのかを注視する必要があります。さらに、ピアレビュー手続の結果と、関係する全ての国・地域の(QDMTTセーフハーバーのステータスを含む)IIRおよびQDMTTの適格ステータスの判定を注視することも重要になります。
巻末注
EY税理士法人
須藤 一郎 パートナー
関谷 浩一 パートナー
西村 淳 パートナー
久保山 直 パートナー
荒木 知 ディレクター
大堀 秀樹 ディレクター
高垣 勝彦 シニアマネージャー
野々村 昌樹 シニアマネージャー
加藤 広紀 マネージャー
※所属・役職は記事公開当時のものです
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