EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
経済協力開発機構(OECD)が2023年7月17日に公表した、経済のデジタル化に伴う課税上の課題に対処するOECD/G20プロジェクト(BEPS2.0プロジェクト)の要素に焦点を当てた一連の文書の中に、GloBE情報申告書(GIR:GloBE Information Return)に関する文書があります。本文書は、税源浸食と利益移転(BEPS)に関するOECD/G20包摂的枠組みにより承認されたもので、GIRの概要とその運用方法、GIR自体のテンプレート、GIRに関する注釈が含まれています。
GIRは、税務当局がリスク評価を行い、GloBEルールに基づく構成事業体のトップアップ税額の正確性を評価するために必要な情報を含めることを意図したものです。GIR文書では、GIRの標準テンプレートに加え、移行期の簡略化された国・地域別報告の枠組み、GIR情報の普及のためのアプローチ、GIRに関する次のステップについて概説しています。
GIRのテンプレートには、多国籍企業(MNE)グループ全体に関する一般セクションと、セーフハーバー要件を満たす国内ミニマム課税(QDMTT)に基づく申告計算にも使用される特定の国・地域セクションが含まれています。
最初の数年間の情報収集と申告を容易にするため、2028年12月31日以前に開始するすべての事業年度(2030年6月30日以降に終了する事業年度を除く)について、移行期の簡素化された国・地域報告の枠組みを利用できます。この簡素化された枠組みにより、MNEグループは構成事業体ベースではなく、国・地域ベースで報告することができます。
GIR情報の普及のためのアプローチに、一元的ファイリングメカニズムを含み、またGloBEルールに基づく課税権を有する実施国・地域が自国・地域に関連するデータを受領するターゲット・アプローチに沿います。
包摂的枠組みは、2021年以降、GloBEモデルルール(2021年12月20日公表)1、コメンタリー(2022年3月14日公表)2、GloBEセーフハーバーに関するガイダンス(2022年12月20日公表)3、GloBEルールに関する運用指針(2023年2月2日公表)4など、第2の柱GloBEルールに関する一連の重要な合意文書を公表してきました。包摂的枠組みはまた、GIR文書の公表と同時に、合意されたGloBEルール運用指針の第2弾も公表しました5。
これらの文書は、各国が第2の柱のグローバルミニマム課税ルールを国内の税制に組み込むために使用することを目的としています。GloBEモデルルール第8章は、GloBEルールの運用面を取り上げています。同章は、GloBEルールに基づき計算される税に関する情報を提供するために、MNEグループが標準化された情報申告書を提出する義務を定めています。GloBEモデルルールには、必要な情報はGloBE実施枠組みに従って指定、追加、または制限されるものとすると明記されています。
2022年12月20日、OECDはステークホルダーの意見を求めるべく第2の柱のGIRに関するコンサルテーションドキュメント6を公表しました。同コンサルテーションドキュメントは、包摂的枠組みの一致した見解を反映したものではありませんが、標準化されたGIRの作成状況に関する情報を提供し、第2の柱に準拠するために特定されたデータ項目(GloBE上の納税義務の計算を含む)とそれに付随する注釈を記載した付録が含まれています。
2023年7月17日に公表されたGIR文書には、税務当局がリスク評価を行い、GloBEルールに基づく構成事業体のトップアップ税額の正確性を評価するために必要と考えられる情報を含むGIRの標準化されたテンプレートが含まれています。
GIR文書は、GIRを作成する義務は、税務申告書に基づいて税金を申告・納付する義務とは別のものであることを繰り返し述べています。各実施国・地域は、GloBEの税務申告書の提出と納付の手続きを決定しますが、これは一般的に既存の手続きと整合させることが期待されます。一部の国・地域では、税務申告書作成のためにGIR以上の追加的なデータ項目が必要になる場合がありますが(例えば、トップアップ税を国内通貨に換算する場合など)、本文書は、国・地域が構成事業体のトップアップ税額の計算に関連する追加データを要求することは一般的に避けるべきであるとしています。本文書はまた、標準化されたGIRに関する合意は、税務当局が必要な裏付け文書を要求することを妨げるものではないとしています。
GIR文書には、(i)GIRの標準テンプレート、(ii)移行期の簡略化された国・地域別報告の枠組み、(iii)GIRの普及のためのアプローチが含まれています。
GIRは、MNEグループ全体の情報が記載された一般セクション(MNEグループ情報)と、MNEグループが事業を展開する各国・地域の詳細情報が記載された国・地域セクション(各国・地域のセーフハーバーや除外、GloBE計算)で構成されています。
一般セクションには、MNEグループとその企業構造に関する一般情報が含まれ、申告を行う構成事業体を特定し、MNEグループが事業を展開する各国・地域におけるGloBEルールの適用に関する要約表が記載されます。この要約表には、(i)各国・地域の実効税率(ETR)の範囲に関する詳細(2.5%刻みで30%まで、30%を超えるETRは「30%超」として報告)、(ii)各国・地域に関連するトップアップ税額を反映した範囲、(iii)ETRが計算されていない国・地域についてはETRが計算されなかった理由、および実体ベースの所得控除によりMNEに超過利益がない国・地域の特定が含まれます。
国・地域セクションには、MNEグループが事業を展開する国・地域ごとの詳細情報が含まれます。セーフハーバーや除外が適用される場合には、限られた情報のみが必要となります。しかし、セーフハーバーや除外が適用されない場合、MNEグループは、GloBE所得の調整を含むETRおよびトップアップ税の計算、ならびに調整後対象税金の詳細、および必要に応じてトップアップ税の配分を提出することになります。重要なことは、これらの国・地域セクションは、セーフハーバー要件を満たすQDMTTに基づく計算の報告にも使用されるということです。
GIR文書では、2028年12月31日以前に開始するすべての事業年度(2030年6月30日以降に終了する事業年度を除く)に適用される移行期の簡略化された国・地域別報告の枠組みが示されています。
移行期間中、次の2つの条件のいずれかが満たされる場合、MNEグループは構成事業体ベースではなく、国・地域レベルでの情報提供を選択することができます。
MNEグループが簡素化された国・地域報告の枠組みを適用することを選択した場合、MNEグループは、財務会計上の純利益(損失)、当期税金費用または繰延税金費用に対するすべての調整を構成事業体ごとに報告する必要はなく、すべての調整を純額ベースで報告することができます。ただし、GloBEモデルルールの特定の条項が構成事業体レベルでの計算を要求している場合、情報がGIRにおいて集約された様式で報告されたとしても、特定の計算は引き続き構成事業体レベルで行うことが要求されます。さらに、税務当局は、フォローアップ要請において、構成事業体ごとの情報を含む、あらゆる情報を要求することができます。
簡略化された国・地域別報告の枠組みの条件を満たさない場合、MNEグループは、GIRに規定されているとおり、各構成事業体のGloBE所得(損失)および調整後対象税金を決定するために行われたすべての関連する調整を、構成事業体ごとに報告する必要があります。
GIRの処理は、通常、一元的ファイリングを介して行われます。つまり、GIRは、適格な権限ある当局間合意(Qualifying Competent Authority Agreement)に基づいて他の税務当局とGIRを交換する単一の税務当局に提出される必要があります。実施国・地域が一元的ファイリング・交換メカニズムに依拠できない場合、ローカルファイリングが必要となることがあります。いずれにせよ、GIRが一元的にファイリングされ、交換されるか、ローカルファイリングされるかにかかわらず、同じ情報が税務当局に提供されます。
GIR文書に記載されているように、包摂的枠組みはGIR情報について以下のようなターゲット・普及アプローチを採用しています。
MNEグループは、上記のアプローチにかかわらず、構成事業体を有するすべての実施国・地域にGIR全体を提供する選択肢を有します。
GIR文書は、包摂的枠組みが一元的ファイリングを行う税務当局の役割と、普及アプローチが実際にどのように適用されるかについてのガイダンスを策定することを検討する可能性があるとしています。包摂的枠組みはまた、今後策定されるピアレビュープロセスの一環として、匿名ベースで集計されたGIRデータの報告についても検討する予定です。匿名化されたデータには、GloBE所得、調整後対象税金、ETR、実体ベースの所得控除、トップアップ税が含まれる可能性があります。
GIR文書によると、一元的ファイリングの要件と自動的GloBE情報交換のための適切なメカニズムが、適格な(二国間および多国間の)権限ある当局間合意の枠組みを含め、専用のXMLスキーマを介した情報交換をサポートする情報技術(IT)ソリューションとともに最終決定される予定です。これらの合意のモデルは、税務行政執行共助条約、租税情報交換条約、OECDモデル租税条約第26条(情報交換)に類似する規定を有する租税条約、または自動的情報交換を可能にするその他の国際協定に基づいて策定されます。
OECDはまた、GloBEルールのさらなる調整と首尾一貫した適用を促進するため、他の運用メカニズムを策定する可能性も検討します。
GIR文書は、企業がGloBEのために報告しなければならなくなるデータの量と、そのような報告の様式を明確に示しています。GIR文書には、GloBEルールの最初の数年間について、いくつかの簡素化が含まれていますが、企業のコンプライアンス上の負担は依然として大きなものになると考えられます。
企業は、GloBE計算およびGIRに必要なすべてのデータ項目を特定・作成するために必要となる会計およびITシステムの変更を評価する必要があります。さらに、企業は、GIRを導入する際に関連する国・地域がとるアプローチを含め、この分野における継続的な進展を注視する必要があります。
巻末注
角田 伸広 パートナー
須藤 一郎 パートナー
関谷 浩一 パートナー
※所属・役職は記事公開当時のものです
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