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2022年12月20日、経済協力開発機構(OECD)は、経済のデジタル化に伴う課税上の課題への対応をめぐって進行中のOECD/G20プロジェクト(BEPS 2.0プロジェクト)について、グローバル税源浸食防止(GloBE)ルールにおける税の確実性に関するコンサルテーションドキュメントを公表しました。この文書では、GloBEルールにおける税の確実性に関して進行中のOECD/G20包摂的枠組みによる作業の参考として、利害関係者の意見を募集しています。
GloBEルールは国内法を通じてそれぞれの国・地域により導入されるものであるため、複数の国・地域の間でGloBEルールの解釈や適用に違いが存在する場合には、異なるさまざまなシナリオが生じる可能性があります。包摂的枠組みはGloBEルールにおける税の確実性を確保するためのいくつかの考えられるメカニズムをめぐる作業に着手していますが、かかるメカニズムは(i)紛争防止メカニズムと(ii)紛争解決メカニズムの2つのグループに分けることができます。
紛争防止メカニズムに関して議論されている選択肢は以下のとおりです。
紛争解決メカニズムに関して議論されている選択肢は以下のとおりです。
コンサルテーションドキュメントには、GloBEルールにおける税の確実性を実現するために検討し得るその他の選択肢に関する意見を含め、利害関係者のさらなる意見を求める具体的な質問が盛り込まれています。書面によるコメントの提出期限は2023年2月3日です。
OECDは、2021年12月20日にGloBEモデルルールを1、さらに2022年3月14日に解説(コメンタリー)を2、それぞれ包摂的枠組みの承認を経て公表しました。これらの文書は、各国が第2の柱のグローバルミニマム課税ルールを自国の国内税制に組み込む際に使用されることをその趣旨としています。
コメンタリーの公表時に、OECDは、GloBE実施枠組み(Implementation Framework)について包摂的枠組みが行う予定の作業に関する意見を募集するパブリックコンサルテーションの実施を発表しました。2022年4月25日にパブリックミーティングが開催され、GloBE実施上の重要な事項に関して寄せられたコメントについて議論がなされました3。OECD事務局は、ルールの協調および税の確実性の問題に関して利害関係者が示した共通の見解には(i)あるルールが「適格」とみなされるかどうかを判断するための包摂的枠組みによって実施される集中型のプロセスを策定する必要性、(ii)調査のための協調的なアプローチを確立する必要性、(iii)早期確実性プロセスを策定する必要性、および(iv)多国間条約における拘束力のある紛争解決メカニズムを設置する必要性が含まれると述べました4。
今回のコンサルテーションドキュメントには、多国籍企業(MNE)グループにとっての不確実性や追加的なコストをもたらし得る、GloBEルールの解釈や適用における潜在的な違いを予測(可能な場合)し、透明、効率的、かつ公正な方法で解決する必要性について述べられています。
コンサルテーションドキュメントは以下の3つのセクションに分かれています。
この文書に収められた見解および提案は分析やコメントのための実質的な提案を利害関係者に提供することを目的としており、包摂的枠組みの参加国・地域の一致した見解を表すものではなく、これらの提案に関して下されるべき決定をめぐる偏見を持たせるものではないと、この文書には述べられています。
紛争防止メカニズムは、紛争の回避を目的として、早期の段階で税務当局および納税者の間においてルールの共通の解釈または適用を確保することを目指すものであると、コンサルテーションドキュメントには述べられています。また、早期の段階における紛争の防止はより効率的かつより低コストであることが期待されると述べられています。この文書には以下のような紛争防止メカニズムが取り上げられています。
第2の柱が意図しているのは、グローバルミニマム課税をそれぞれの国・地域が国内法に取り入れることにより、包摂的枠組みによって合意されたモデルルールに基づくGloBEルールが導入されることであり、これは一般にさまざまな国・地域のルールの大部分が連携および同調する結果に繋がると、コンサルテーションドキュメントには述べられています。さらに、合意された解釈を確立するものとしてコメンタリーが挙げられています。ただし、多国籍企業(MNE)において論点が発生した時点でまだ検討または解決されていないルールの解釈をめぐっては、依然として問題が存在し得ると述べられています。
コンサルテーションドキュメントによると、ある国・地域の所得合算ルール(Income Inclusion Rule)、軽課税支払ルール(Undertaxed Payment Rule)および国内ミニマムトップアップ税(Domestic Minimum Top-up Tax)における「適格」ステータスの認定は、レビュープロセスを通じて行われる予定です。多国間レビュープロセスは、モデルルールおよびコメンタリーの下で規定されている合意されたルールの秩序ならびに効果を確保するよう厳格に行われる見込みであり、GloBE実施国・地域の憲法上および法律上の要件を満たしつつ、モデルルールのすべての章を対象に含めると思われます。ただし、コメンタリーまたは執行指針に取り上げられていない論点に対しては、「適格」ルールを設けている2つの国・地域が一貫しないアプローチを取る可能性が依然として残っていることを、この文書では認めています。
GloBEルールの解釈または適用の具体的な論点がモデルルール、コメンタリーまたは執行指針に取り上げられていない場合、該当する国・地域は包摂的枠組みに論点を付託して明確化を求めることが考えられます。かかる明確化は追加的な執行指針の公表を通じて提供され、当該紛争の解決、および将来的な類似する紛争の発生の防止にあたっての助けとなり得ます。ただし、政策機関としての包摂的枠組みが取り扱うことができるのは、モデルルールおよびコメンタリーに基づく解釈をめぐる一般的な問題のみであり、包摂的枠組みに提示される具体的な事案における課税上の事項に対する能力は持たないと思われる旨が、コンサルテーションドキュメントには述べられています。さらに、解釈の問題に関して適時の指針が提供されるよう、手続きが整備される必要があると思われます。
GloBEルールに関連するリスクの評価に対する協調的なアプローチは、より一貫した成果をもたらし得るとともに、税務当局が結論への到達前に見解を共有する機会を与え得ると、コンサルテーションドキュメントには述べられています。例えば、OECDの国際コンプライアンス保証プログラム(International Compliance Assurance Programme、以下、「ICAP」)に類似する協調的プログラムがGloBEの目的で策定される可能性がありますが、GloBE実施国・地域はかかるプログラムを通じて、多国籍企業(MNE)によるGloBE情報の取りまとめの手法および実施したGloBEの計算の正確性に関する安心感を当該MNEに対して与えることができます。ICAPのリスク評価において現在のところ取り上げることのできる国際間およびクロスボーダーの税務リスクに含まれるのは、移転価格リスク、恒久的施設、ならびに当該MNEグループおよび関与する各国の税務当局によって合意されたその他のリスクとなっています。この文書は、GloBEルールに関連する税務リスクを、ICAP、またはGloBEの目的で策定される類似のプログラムにおいて取り上げることができるかどうかについて検討を行うことが考えられると示唆しています。
拘束力のある確実性を提供する最も一般的な紛争防止メカニズムは事前確認(APA)であると、コンサルテーションドキュメントには述べられています。APAは、定義された期間内の具体的な状況に関して、拘束力のある確実性を多国籍企業(MNE)およびそれぞれの国・地域に提供するものです。ただし、国・地域は一般に、APAの締結にあたっての法的根拠として租税条約に依拠する旨も述べられています。加えて、APAの協議における連携の基礎としては独立企業原則が用いられます。APA同様のメカニズムがGloBEの文脈において機能するためには、かかる共通の基準が定義される必要があると思われます。さらに、実務においては、GloBEルールの適用範囲に含まれるすべてのMNEグループが、かかるメカニズムにアクセスできるとは限りません。
コンサルテーションドキュメントによると、紛争解決メカニズムの基本的な諸要素は、OECDモデル租税条約第25条に収められている相互協議(MAP)規定を出どころとした上で、GloBEルールの解釈または適用の違いにより生じる論点の解決を目指す紛争解決メカニズムの策定という目的に合わせて調整することができます。
紛争解決メカニズムの対象となるGloBEの紛争は広範に及ぶ可能性があります。議論の出発点として、権限ある当局による解決が必要とされるのは、多国籍企業(MNE)が正当な異議を唱えると同時に、他方の国・地域との間におけるGloBEルールの解釈または適用の違いに基づき、一方の国・地域によって取られた課税行為が当該MNEにとっての非協調的な効果をもたらすとみなしている事案のみになるであろうと、コンサルテーションドキュメントには述べられています。加えて、適用範囲の定義が狭められることにより、MNEグループが同じ根本的な所得に対して、複数の国・地域でトップアップ税の適用および支払いを要求される状況のみが対象となる可能性があるとともに、さらに定義が狭められることにより、国・地域の間におけるGloBEルールの解釈または適用の違いが当該MNEにとっての二重課税に繋がったことの論証をMNEが要求される可能性もあると、この文書には述べられています。
権限ある当局は、GloBEの紛争解決メカニズムの下で異なる国・地域における法律の解釈の適用の違いを解決するにあたり、参照すべき共通の基準を必要とすると思われると、コンサルテーションドキュメントには述べられています。国内法が一貫しない成果をもたらす状況において権限ある当局が合意するためのかかる基準は、モデルルール、解説(コメンタリー)および合意された行政指針によって提供されるであろうと、コンサルテーションドキュメントは示唆しています。
GloBEルールにおける紛争解決メカニズムはさまざまな法的手段を通じて導入され得ると、コンサルテーションドキュメントには述べられており、以下の選択肢が論じられています。
ある行為がGloBEルールの下で意図せぬ税務上の効果をもたらした場合に、多国籍企業(MNE)が申請を提出し、権限ある当局がかかる申請を受諾して、モデルルール等の共通の基準に基づき当該論点を解決することを可能にする紛争解決規定が、MLCに盛り込まれる可能性があります。また、権限ある当局が解決策に合意するとともに、当該解決策を国内の期限に関わりなく導入することができるよう、かかる共通の基準を国内法に優先させることを可能にする規定が、MLCに盛り込まれる可能性があります。ただし、この選択肢においては、共通の概念および文言に合意するための労力が国・地域の側で必要とされるであろうと、この文書では認めています。加えて、国際協定に関連する批准手続き等、手続き上のさまざまな側面が検討される必要があります。
この選択肢では、MAACの当事者であるそれぞれの国・地域において、GloBEルールに関連する国内の税務紛争に関し、権限ある当局同士が情報を交換して相談し合うことが認められる可能性があります。ただし、MAACは納税者が権限ある当局間の相互協議を申請する権利を提供するものではなく、かつ権限ある当局が合意に到達するためまたは当該合意を実施するための実質的な法的根拠を提供するものでもないため、それ自体ではGloBEルールにおける紛争解決の救済策をもたらさないと、コンサルテーションドキュメントには述べられています。さらに、MAACに基づく権限ある当局間の合意を国内規定によって補完する形で紛争解決メカニズムを整備することも考え得ると、この文書には述べられています。
可能性のある選択肢の1つは、二国間租税条約に盛り込まれている相互協議(MAP)規定をGloBEの紛争の解決に利用できるかどうかを検討することであると、コンサルテーションドキュメントは述べています。この文書では、かかる点における現行のOECDモデル租税条約MAP条項の制約について示される一方で、GloBEルールに関連する事案において生じた二重課税をめぐる協議およびかかる二重課税の解決の基礎が、OECDモデル租税条約第25条3項2文によって提供される可能性があることがわかります。ただし、この選択肢はいくつかの制約を伴っているとも述べられています。かかる制約とは、関連する国・地域の間で租税条約が締結されていない可能性があること、このメカニズムは一任的であって多国籍企業(MNE)グループによるアクセスができないこと、この規定は「二重課税」の事案の解決のみを可能にするものであってすべての意図せぬ帰結が対象になるとは限らないこと、そしてそれぞれの国・地域はこの規定が国内法からの逸脱の権限を付与するものではないとの見解を取り得ることです。したがって、この手段は、権限ある当局間の合意もしくは国内法の規定、またはその両方と組み合わせて用いられる選択肢となり得ます。
検討される可能性のあるもう1つの新たなメカニズムは、相互に適用され得る(すなわち該当するすべての国・地域が国内法において同じ規定を設けている場合にのみ適用可能な)共通の紛争解決規定を、GloBEルールと並行してそれぞれの国・地域の国内法に導入することであると、コンサルテーションドキュメントには述べられています。この種類の規定は、多国籍企業(MNE)が権限ある当局に対して申請を提出することを認め、この権限ある当局が当該申請を受諾する権限、または共通の解決策を見出すために当該申請について他の関与する権限ある当局と協議する権限を付与し、他の権限ある当局に対する申請が提出された時点でこの権限ある当局が協議を開始する権限を付与し、さらに合意された解決策を国内の期限に関わりなく導入することを認める可能性があります。加えて、この選択肢に関してそれぞれの国・地域は法律上または憲法上の制約に直面する可能性がありますが、かかる国・地域はこの規定の利用可能性を限定し、複数の国・地域においてGloBEルールが同一の文言であるにもかかわらず異なって解釈されている場合における解釈の論点のみに絞り込むことを検討する可能性があると、この文書には述べられています。
コンサルテーションドキュメントには、利害関係者の意見を求める質問が盛り込まれています。質問の対象は、(i)それぞれの国・地域がGloBEルールを異なって解釈または適用することができる場合において考えられるさまざまなシナリオ、(ii)多国籍企業(MNE)グループが二重課税を被っていない場合でも、紛争解決メカニズムによってGloBEルールの異なる解釈または適用に対処すべきさまざまな状況、および(iii)GloBEルールにおける税の確実性を実現するために検討し得るその他のあらゆる選択肢です。
今回のコンサルテーションドキュメントには、紛争防止または紛争解決を通じて税の確実性を推進するために考えられるメカニズムが示されています。パブリックコンサルテーションでは、複数の国・地域の間でGloBEルールの解釈または適用に違いが生じ得る状況についての実務的な視点を企業が共有することのできる価値ある機会が提供されています。企業は、GloBEルールの解釈および導入において税の確実性を確保するにあたっての、提案されているメカニズムの潜在的な有効性についてコメントするとともに、包摂的枠組みによって検討されるべき何らかの追加的な選択肢を提案することが考えられます。
巻末注
角田 伸広 パートナー
須藤 一郎 パートナー
関谷 浩一 パートナー
西村 淳 パートナー
久保山 直 アソシエートパートナー
荒木 知 ディレクター
大堀 秀樹 ディレクター
高垣 勝彦 シニアマネージャー
野々村 昌樹 マネージャー
加藤 広紀 マネージャー
※所属・役職は記事公開当時のものです
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