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2021年10月8日、OECDは、BEPS(税源浸食と利益移転)に関するOECD1/G202包摂的枠組み(以下、「包摂的枠組み」)のオンライン会合を終え、BEPS3 2.0プロジェクトにおける2つの柱からなる基本設計について、包摂的枠組みに参加する140カ国の内136カ国・地域の合意を反映した 声明 (以下、「10月声明」)を発表しました。
10月声明では、BEPS2.0プロジェクトの2つの柱に関する合意点が記載されています。
2021年7月に発表された大枠合意について、10月声明は、さらに重要なパラメータについて具体的な内容を示しています。特に、第1の柱における市場国・地域に再配分されるべき残余利益は25%(7月の声明においては20~30%)に、第2の柱におけるミニマムタックス税率は15%(7月の声明おいては『少なくとも』15%)に設定されました。10月声明はさらに、その他の基準値、税率、管理メカニズム等について取り上げています。
第1の柱の重要な要素である収入源泉ルール、課税標準算定のための調整、マーケティング及び販売に関するセーフハーバー・ルールの設計、並びに紛争防止・解決のルール、第2の柱における一時差異に対処するルール、簡素化メカニズム、並びに移行ルールなどについて、実質的・技術的な詳細はまだ発表されていません。
10月声明には、実施計画に関する付属書が含まれており、概ね2023年に発効すると定められていますが、第2の柱の軽課税支払ルール(UTPR)については2024年の発効となります。
G20財務大臣は、今回の包摂的枠組み会合の結果を、2021年10月12~13日にワシントンにおいて開催される会合において検討する予定です。
2018年3月、OECDは、BEPSのプロジェクト行動1に関する2015年の最終報告書のフォローアップとして、「デジタル化に伴う課税上の課題-中間報告書2018」を発表しました。この中間報告書では具体的な勧告は行われず、代わりに、デジタル商品やサービスを提供する企業が運営するさまざまなビジネスモデル、及びデジタル化をより広く理解するために、さらなる作業が行われることとなりました4。
2019年1月、OECDは、新たな国際協議が2つの柱に焦点を当てたポリシーノートを発表しました。第1の柱は、経済のデジタル化による広範な課題と課税権の配分に取組み、第2の柱は、その他のBEPSの懸念に対処するものです5。ポリシーノートに続き、2019年2月、OECDは2つの柱の提案を概観したパブリックコンサルテーションドキュメント6 を発表しました。OECDはステークホルダーからの幅広いコメントを受け、2019年3月にパブリックコンサルテーションを行いました7。
2020年1月末、OECDは、「BEPSに関する包摂的枠組みによる2本柱アプローチに関する声明」を発表しました。この声明には、2つの柱に関して提案されたアプローチの詳細が記載されており、検討中の主要課題とさらに作業分野が特定されています8。2020年10月、OECDは、第1の柱と第2の柱のブループリントに関する詳細な報告書、第1の柱と第2の柱の経済的影響評価、これまでの作業と次のステップに関する包摂的枠組みによる序文、2つの柱に関するブループリントに対する意見を求めるパブリックコンサルテーションドキュメントを発表しました9。
2021年7月1日、OECDは、「経済のデジタル化に伴う課税上の課題に対処するための2つの柱からなる解決策に関する声明」(以下、「7月声明」)を発表しました。これは、包摂的枠組みに参加する130カ国による、いくつかの重要なパラメータについての合意を反映したものです。当時、包摂的枠組みの9の加盟国・地域(バルバドス、エストニア、ハンガリー、アイルランド、ケニア、ナイジェリア、ペルー、セントビンセント・グレナディーン、スリランカ)は7月声明に参加していませんでしたが10、バルバドス、ペルー、セントビンセント・グレナディーンはその後、7月声明に参加しました。2021年8月末、トーゴは包摂的枠組みと7月声明の両方に参加しました。
2021年10月8日、OECDは、経済のデジタル化に伴う課税上の課題に対処するため、包摂的枠組みが2つの柱からなる解決策に合意したことを示す声明11を発表しました。包摂的枠組みに参加する140の国・地域のうち、136カ国・地域が10月声明に合意しました。7月声明に参加しなかったエストニア、ハンガリー、アイルランドは10月声明に参加しましたが、7月声明に参加したパキスタンは10月声明には参加していません。ケニア、ナイジェリア、スリランカはいずれの声明にも参加していません。
10月声明は、国際課税ルールの抜本的改革に関する大枠合意について、7月声明を更新するものです。7月声明の詳細については、EY Global Tax Alertをご参照ください(巻末資料10参照)。10月声明における主な更新内容は以下のとおりです。
10月声明には、導入計画に関する情報を含む付属書が含まれています。
第1の柱の計画によれば、現在租税条約が存在するか否かに関わらず、Amount AはMLCを通じて実施されます。必要に応じて、国内法の対応的調整によっても、Amount Aは導入されます。デジタル経済に関するタスクフォースは、MLC が 2022 年半ばまでに署名出来るように、2022 年初めまでに MLCと注釈のテキストを完成させることを目指しています。2023 年に発効することを目標に、各国・地域は署名後できるだけ早く MLC を批准することが期待されています。また、デジタル経済に関するタスクフォースは、2022年初頭までに国内法のためのモデル規則を策定する予定です。
第2の柱のモデル規則とそれに付随するコメンタリーは、2021年11月末までに作成されます。STTRを実施するためのモデル条約も2021年11月末までに作成される予定です。二国間租税条約におけるSTTRの実施を促進するために、2022年半ばまでに包摂的枠組みによって多国間協定(MLI)が策定される見込みです。モデル条約は、STTRの目的と運用を解説するコメンタリーによって補完され、STTRの実施を支援するプロセスが合意されることになります。遅くとも2022年の終わりまでに、GloBEルールの実施枠組みが策定されます。
第1の柱
第2の柱
G20財務大臣は、2021年10月12~13日にワシントンで開催される会議で、包摂的枠組み会合の結果を承認することが期待されています。
10月声明は、世界の税制を根本的に変革するBEPS 2.0プロジェクトの重要なマイルストーンであり、OECD及びG20諸国(EUを含む)のすべてが主要なパラメータに関する合意を支持しています。しかしながら、2つの柱の主要な設計要素についてはさらなる作業が必要です。加えて、計画されているモデル規則、条約条項、注釈及びコメンタリーの作成においては、実質的及び技術的な詳細に関する多大な作業が必要となります。これらの作業は、実施計画のスケジュールに基づいて、迅速に完了させる必要があります。10月声明では、ステークホルダーと協議しながら作業を進めていくとしていますが、 政策立案者が企業や他のステークホルダーと協議する時間が限られています。したがって、BEPS2.0プロジェクトに意見のある企業は、包摂的枠組みが10月声明に続く次のステップに向けた作業を継続している内に、プロセスに関与するように努めるべきです。
特に非常に野心的な実施スケジュールを考えると、企業が今後数カ月の間に展開されるこれらの動向を注視し、グローバルな税制改正が自社の事業に与える影響を分析評価することが重要になります。さらに、企業は今後、提案された規則が国内税法や二国間・多国間協定の改正を通じて導入されるに際して、関係国の動きを注視する必要があります。
巻末注
角田伸広 パートナー
須藤 一郎 パートナー
関谷 浩一 パートナー
荒木 知 ディレクター
大堀 秀樹 ディレクター
高垣 勝彦 シニアマネージャー
野々村 昌樹 マネージャー
甲斐荘 芳生 マネージャー
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