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2023年12月18日、税源浸食と利益移転(BEPS)に関するOECD/G20包摂的枠組みは、経済のデジタル化に伴う課税上の課題に対処するためのOECD/G20プロジェクト(BEPS2.0プロジェクト)の第1の柱および第2の柱に関する文書を公表しました。第2の柱については、包摂的枠組みはAdministrative Guidance on the Global Anti-Base Erosion (GloBE) Model Rules(グローバル税源侵食防止(GloBE)モデルルールに関する運用指針)を公表し、GloBEルール上の各種の技術的問題について追加的な情報を示しました。第1の柱については、包摂的枠組みは、Amount Aに関する多国間条約(MLC)についてのスケジュールを更新してstatement(声明)を発表し、2024年3月までにMLCの内容を取りまとめるという参加国・地域の合意を表明しました。
2021年10月、経済協力開発機構(OECD)は、BEPS2.0プロジェクト第1の柱および第2の柱の主な要素についての包摂的枠組み参加国・地域の大枠合意を反映した声明を発表しました1。
この合意に達して以降、包摂的枠組みは、グローバル税源浸食防止(GloBE)モデルルール2、GloBEモデルルールのコメンタリー3、GloBEセーフハーバーに関する指針4、2つのGloBE運用指針5、GloBE情報申告書の標準書式6など、第2の柱に基づくグローバルミニマム課税に関する一連の重要な合意に関する文書を相次いで公表してきました。また、OCEDは、包摂的枠組みによって協議中の、GloBEルールに関する潜在的な紛争防止および解決メカニズムについてのパブリック・コンサルテーション・ドキュメントを公表しました7。さらに、第2の柱の他の中核的要素である租税条約の特典否認を通じた課税ルール(STTR:Subject to Tax Rule)について、OECDはモデル条約をその解説と共に公表しているほか8、各国・地域がSTTRを租税条約に反映する際の多国間協定に関する文書9も公表しています。
2023年7月12日、OECDは、第1の柱のAmount AとAmount Bを含むBEPS2.0プロジェクトの残りの要素について、包摂的枠組みの143にのぼる参加国・地域のうち138の間でなされた合意を反映した成果声明を発表しました10。Amount Aについては、この7月声明では、2025年にAmount Aに関する多国間条約を発効させるべく、2023年下期に署名に向けて多国間条約を公表し同年末までに調印式を執り行うとの方針が示されました。また、新たに定められたデジタルサービス税(DST)および同様の措置については2023年12月31日まで凍結することで合意が形成されていますが、声明はこの合意にも言及し、Amount Aに関する多国間条約が2023年末までに参加国・地域の最小必要数によって署名されることを条件に、新たに施行されたDSTまたは同様の措置を2024年中はいかなる会社にも課さないという包摂的枠組み参加国・地域の合意も発表されました。OECDはその後、Amount Aに関する多国間条約の内容を、関連文書と併せて公表しました11。しかし、公表された多国間条約は各国・地域が署名できる内容ではなかったため、いくつかの個別項目についての参加国・地域間の見解の不一致を解消すべく引き続き作業が進められています。
第1の柱のAmount Bについて、OECDは、利害関係者の意見を聞くために2回目のコンサルテーションドキュメントを公表しました。同文書は、Amount Bに関する1回目のコンサルテーションドキュメントに寄せられた意見をいくつかとりあげているほか、解決に至っていない問題をいくつか示していますが、包摂的枠組みの総意を示す内容にはまだなっていません12。7月声明では、2024年1月までにAmount BをOECD移転価格ガイドラインに組み込むべく、包摂的枠組みは2023年末までにAmount Bに関する最終報告書を承認し公表することを目指すとされていました。
今回の運用指針は、2023年2月と2023年7月に公表された運用指針第1号および第2号に続く、包摂的枠組みにより承認された運用指針第3号に当たります。12月指針は次の内容を網羅しています:
2022年3月に公表されたコメンタリー第1版は、2024年に公表される予定のコメンタリー改訂版に取って代わられる予定になっていますが、12月指針は同改定版に組み込まれることになっています。
12月指針と併せて公表されたOECD報道発表によると、包摂的枠組みは今後も継続的に運用指針を公表することで、利害関係者による説明の要請に応え、かつ、「ルールまたは特定の企業グループへの適用の抜け穴をつくような租税回避の濫用」へ対処する予定です。また同報道発表からは、「2024年上期の公表が見込まれている、繰延税金負債の再計算ルールおよびCFC税制など国際租税に関連する繰延税金の配賦に関する指針」を含め、包摂的枠組みは重要なコンプライアンス義務に関する簡便法を遅滞なく策定する予定であることもうかがえます。さらに同報道発表には、包摂的枠組みが相互審査(ピアレビュー)手続を実施することや、運用の枠組みおよびGloBEルール上の紛争解決の仕組みについても引き続き作業を進めることが示されています。
12月指針では、移行期におけるCbCRセーフハーバーと適格財務諸表との関連におけるパーチェス会計(PPA:Purchase Price Accounting)の調整の取り扱いがとりあげられています。
運用指針の定めるところによると、特定企業グループが、取得した構成事業体の個別財務諸表にPPAの調整を割り当て、連結財務諸表の作成に使用されまたは当該構成事業体の個別財務諸表に含まれている場合においては、当該個別財務諸表は、移行期におけるCbCRセーフハーバー上、適格財務諸表とは認められません。ただし、共通報告条件(consistent reporting condition)が満たされ、かつ、取引に関連するのれんの減損に対する調整がなされている場合は、この限りではありません。共通報告条件を満たすには、構成事業体が法令等により、報告書類または個別財務諸表を翌期に修正しPPAの調整を組み込むことが求められている場合を除き、2022年12月31日より後に開始する事業年度に関する国別報告書にはすべて、PPA調整が組み込まれている必要があります。
また、適格財務諸表にPPA調整が組み込まれている場合において、2021年11月30日より後に実行された取引に関連するのれんの減損に起因する費用があるときは、通常利益テストと簡易実効税率(ETR:Effective Tax Rate)テストの適用上、当該費用を税引前損益(PBT:Profit (or Loss) before Tax)に戻し入れなければなりません。後者については、分子に、のれんの減損に関連する繰延税金負債の取り崩しまたは繰延税金資産の認識もしくは増加がすでに含まれている場合には、この調整は適用されません。
さらに、運用指針では、適格財務諸表の定義について補足がなされています。具体的に言うと、移行期におけるCbCRセーフハーバーにおいては原則、個別財務諸表が適格財務諸表に該当すると認められるためには同書類における報告金額に調整が加えられている必要はなく、もしくは同調整は認められないと同補足には明記されています。
12月指針は、税務当局や企業グループが説明の補足が必要であると特定した分野に関して、移行期におけるCbCRセーフハーバーについての追加指針を示しています。同追加指針は、包摂的枠組みが2022年12月に当初公表したセーフハーバーとペナルティ救済措置(Safe Harbours and Penalty Relief)を補完するものであり、将来的には、セーフハーバーとペナルティ救済措置文書に組み込まれ、そして同セーフハーバーとペナルティ救済措置文書は、2024年公表予定の改訂版コメンタリーに組み込まれることになっています。
同一の国・地域に構成事業体と共同支配会社(Joint Venture)または共同支配会社グループ(JVグループ)のメンバーの両方を有する企業グループへの移行期におけるCbCRセーフハーバーの適用上、当該共同支配会社またはJVグループのメンバーは当該構成事業体とは別のテスト対象の国・地域にあるものとして扱う必要があると12月指針は示しています(かつ、同一JVグループに属するメンバーはすべて同一のテスト対象国・地域にあるものとして扱う)。
12月指針は、適格財務諸表の使用に関するさまざまな疑問に答えています:
12月指針は、移行期におけるCbCRセーフハーバーのもとでの簡易実効税率テストに関するさまざまな疑問に答えています:
12月指針は、移行期におけるCbCRセーフハーバーのもとでの通常利益テストに関する実体ベース所得控除(SBIE:Substance-based Income Exclusion)の計算をとりあげており、企業グループは、GloBEルールに基づいてSBIE額を計算するのに使用するのと同じ率(経過措置を含む)を用いてSBIE額を計算すると定めています。
最後に、財務情報のソースの相違または税務上の取り扱いと財務会計上の取り扱いの相違を不当に利用して、構成事業体が移行期におけるCbCRセーフハーバーの適用を受けられるようにすることを意図した取引が散見されるようになってきたと12月指針は指摘しています。同指針によると、そうした取引では多くの場合、当事者が取り決めに基づく収益や費用、損益、または税金を、一貫性のない形でまたは重複して会計上処理し、いずれかの構成事業体が移行期におけるCbCRセーフハーバーの適用を受けられるようにし、その結果本来であれば発生するはずのGloBEトップアップ税が回避されることを意図した取り決めが用いられていると説明しています。
特定の国・地域が移行期におけるCbCRセーフハーバーの適用を受けられるか否かを判定するに当たっては、2022年12月15日より後に実行されたハイブリッド型裁定取引(Hybrid Arbitrage Arrangements) があるときは、同取引について当該国・地域のPBTおよび税金費用に調整を加えなければならないと12月指針は示しています。この点に関しては同指針には、憲法上その他の法律上の理由により、2022年12月15日より後に実行された取引にこのルールを適用できない国・地域については、当該基準日を同指針の公表日である2023年12月18日として同指針を採用できると明記されています。
ハイブリッド型裁定取引とは、次のいずれかに該当するものをいいます:(i)控除・不算入取引(deduction/non-inclusion arrangement)、(ii)重複損失取引(duplicate loss arrangement)、(iii)重複税金費用認識取引(duplicate tax recognition arrangement)。
その国・地域のセーフハーバー上の計算は、次の項目を除外して調整しなければなりません:
控除・不算入取引とは、一方の構成事業体が他方の構成事業体へ直接または間接的に貸出または投資をし、その結果として一方の構成事業体の財務諸表に費用または損失が生じる取引のうち、次のいずれかに該当するものをいいます:
重複損失取引とは、ある構成事業体の財務諸表に費用または損失が計上される取引のうち、次のいずれかに該当するものをいいます:
重複税金費用認識取引とは、複数の構成事業体が同一の税金費用の一部または全額を次のいずれかに含める取引をいいます:
以上のように、ルール適用上の追加定義と例外規定が示されています。
ハイブリッド型裁定取引への対処は移行期におけるCbCRセーフハーバーの使用に限り適用され、他の一時的または恒久的なセーフハーバーについては適用されないと12月指針には明記されています。しかし、今後ハイブリッド型裁定取引に対処するための追加指針が示され、移行期におけるCbCRセーフハーバーの範疇にないGloBEルールの適用に影響を及ぼし得ると同指針には記載されています。
12月指針は、GloBEルールの第1.1条(適用範囲)および第4.1.1条(調整後対象税額)に関するコメンタリーの修正を提示しています。
第1.1条のもと、GloBEルールは、直近4年のうち2年の収入が7億5,000万ユーロの閾値以上だった企業グループに適用されます。GloBEコメンタリーによると、これは国別報告書上の閾値を基にしています(ただし、これら2つの閾値は同一ではありません)。いずれの閾値も関連する財務会計基準に基づいて算出され、企業グループの連結損益計算書のものが使用されます。しかし、この値は、財務会計基準や最終親会社等の国・地域によってばらつきが生じ得ます。
第1.1条における収入の定義は、関連する会計基準に沿って判断すべきであり、売上原価その他の営業費用を控除する前の値であると12月指針は示しています。連結財務諸表の連結損益計算書においてさまざまな種類の収入が別々に表示されている場合においては、第1.1条上、それら収入を合算しなければなりません。収益には投資による純利益も含める必要があります(実現・未実現を問いません)。金融事業体に関しては別途指針が示されています。
GloBEルール上の事業年度は原則、最終親会社等が自己の連結財務諸表の作成に使用している会計期間です。企業グループは、最終親会社等の事業年度と異なる事業年度を基に一部の構成事業体の財務諸表を作成している場合があります。その結果、企業グループの連結財務諸表にて使用される財務会計基準のルールによっては、当該財務諸表の作成において異なる会計原則が適用される状況が生じる場合があり、その場合、GloBE上の各種計算にさらなる影響が生じます。
連結財務諸表の作成に使用されている構成事業体の財務諸表が、最終親会社等の事業年度と異なる事業年度を基に作成されているときは、最終親会社等の事業年度に関するGloBE上の各種計算は、当該の企業グループが自己の連結財務諸表において事業年度の相違に対処するために使用している方法を基に行うことと12月指針は示しています。
また、構成事業体の事業年度が最終親会社等と異なり、かつその財務諸表が(例えば重要性の理由から)最終親会社等の連結財務諸表の作成に使用されていないときは、当該構成事業体の事業年度に関するGloBE上の各種計算は、最終親会社等の事業年度中に終了する財務上の会計期間を基に行わなければなりません。共同支配会社またはJVグループの財務諸表が異なる事業年度を基に作成されている場合にも同じ原則が適用されます。
GloBEルールのもとでは、企業グループは自己の調整後対象租税を自己の事業年度を基に算出する必要があります。しかし、特定の国・地域における構成事業体の課税期間が企業グループの事業年度と一致しない場合に、企業グループの連結財務諸表を作成する際に異なる会計上の前提が適用されることになり得ます。その場合、当該構成事業体は、連結財務諸表(または当該構成事業体の財務会計上の純損益の算出に使用されるその他の財務諸表)の作成にて使用されている方法を適用して当該事業年度の調整後対象租税を算出すべきであると12月指針は示しています。共同支配会社またはJVグループの課税年度がその事業年度と異なる場合にも同じ原則が適用されます。
構成事業体の株主がCFC税制の対象となる場合、GloBEルール第4.3.2(c)条により、当該株主の財務数値に持分割合に応じて含まれている対象租税はCFC事業体に配分されます。2023年2月に公表された運用指針には、CFC税制が、ブレンドCFC税制(米国外軽課税無形資産所得(GILTI:Global Intangible Low-Taxed Income)税制など)に該当するときは、第4.3.2(c)条を適用する際の特別配分規則が示されています。同指針では、分子を事業体のブレンドCFC配分キーとし分母を全ブレンドCFC配分キーの合計とする割合を基に株主の配分対象ブレンドCFC税額をCFC事業体に配分します。この規定においては、事業体のブレンドCFC配分キーは、次の積になります:(i)当該事業体への帰属所得(ある場合)の額と(ii)適用税率(Applicable Rate)からGloBE国・地域別実効税率を控除した額。
12月指針の定める定義によると、GloBE国・地域別実効税率は「CFC税制に基づく対象税額を考慮せずにGloBEルール第5.1条のもと算出した国・地域の実効税率」(下線部は筆者が追加)をいいます。12月指針は、企業グループが同一の国・地域に所在する異なる事業体グループ(ブレンドグループという)について第5.1条のもと複数のGloBE国・地域別実効税率を算出する際に、特定の事業体についてのGloBE国・地域別実効税率の計算方法を明確にする必要性を指摘しています。例えば、ジョイントベンチャー(第6.4条)、少数被所有構成事業体(Minority-Owned Constituent Entities)(第5.6条)、または投資事業体(Investment Entities)(第7.6条)にかかる特別ルールが適用される際に生じます。
12月指針には、上記シナリオにおいては、特定事業体のブレンドCFC配分キーは、その事業体が属するブレンドグループに適用されるGloBE国・地域別実効税率を用いて計算しなければならないと説明されています。この規定に合わせて、GloBE国・地域別実効税率の定義が修正され、「特定の国・地域に所在する事業体についての税率」(下線部は筆者が追加)をいうとされています。配分対象ブレンドCFC税額の配分上、12月指針は、全ブレンドCFC配分キーの合計に、配分キーによっては異なるGloBE国・地域別実効税率を基に算出されている場合があっても、関係する国・地域に所在する全ての事業体について計算された配分キーを含めるよう求めています。
先に述べた通り、GloBE国・地域別実効税率は定義により「第5.1条に従って」算出されます(以下「通常の」方法といいます)。例えば、特定の国・地域の事業体が移行期におけるCbCRセーフハーバーもしくは適格国内ミニマムトップアップ税(QDMTT)セーフハーバーの適用を受けられる、またはGloBEルール第5.5条に基づくデミニマス除外が適用されるといった理由から、企業グループがGloBEの本則に基づいて実効税率を算出する必要がない場合があります。12月指針は、そうした状況では、企業グループに通常の方法の適用を求めると、「関係するセーフハーバーまたはデミニマス除外の簡素化の利点および趣旨が損なわれる」と認めており、よって、以下に説明するGloBE国・地域別実効税率の代替計算方法を示しています。
企業グループが移行期におけるCbCRセーフハーバーの適用を選択した国・地域に関しては、当該企業グループは、その選択が簡易実効税率テストに基づくか、通常利益テストまたはデミニマス・テストに基づくかにかかわらず、(適用される全てのOECD指針に基づいて計算される)簡易実効税率を用いることが求められます。GILTI税の配分に関しては、特定の国・地域に関する移行期におけるCbCRセーフハーバーの選択が簡易実効税率テストに基づく場合においては、GILTI上の適用税率は13.125%と簡易実効税率テスト最低実効税率(2023年、2025年、および2026年に開始する事業年度の同実効税率はそれぞれ15%、16%、17%である)よりも低いため、簡易実効税率テストを満たした国・地域に所在する事業体にかかるCFC税額配分キーはゼロとなり、GILTI税は配分されません。しかし、移行期におけるCbCRセーフハーバーの選択が他の2つのテストのいずれかに基づく場合においては、当該の事業体のCFC配分キーは、簡易実効税率によってはゼロよりも大きくなり得ます。
企業グループがQDMTTセーフハーバーを選択した国・地域については、GloBE国・地域別実効税率の代替計算法における分子は、適格国内ミニマムトップアップ税(QDMTT)に基づく実効税率の計算に用いられる税金と当該国・地域において支払うべき控除可能なQDMTTの合計になり、分母は、QDMTTに基づいて算出される所得になります。QDMTTの所得基準に適用されるSBIEの水準によっては、QDMTT国・地域のGloBE国・地域別実効税率が、15%の最低税率ならびに適用税率よりも低くなり、当該QDMTT国・地域へ配分対象ブレンドCFC税額をプッシュダウン(再配分)することになる場合があります。QDMTTセーフハーバー適用国・地域はそのような税金の配分にかかわらずトップアップ税がゼロとみなされるため、そのように配分される税金は利用されません。
企業グループがGloBEの本則に基づいて実効税率を計算することが求められない他の国・地域については(例えば、第5.5条のデミニマス除外の選択がなされたときなど)、当該企業グループは、移行期におけるCbCRセーフハーバーに基づく簡易実効税率を適用しなければなりません。ただし、適格国別報告書ではなく適格財務諸表から税引前利益に関する情報を取得しなければならない場合は、この限りではありません。
企業グループが特定の国・地域について簡易実効税率またはQDMTTの実効税率を複数計算する場合においては(移行期におけるCbCRセーフハーバーまたはQDMTTセーフハーバーに基づく規定に従い特定のジョイントベンチャーやその子会社について別の実効税率を計算することが求められるときなど)、その事業体が属する合算グループに適用される実効税率を使用しなければなりません。移行期におけるCbCRセーフハーバーまたはQDMTTセーフハーバー適用国・地域に所在する事業体の一部がセーフハーバーの適用要件を満たさない場合においては(例えば、投資事業体またはジョイントベンチャー)、当該企業グループは、セーフハーバー適用要件を満たす事業体については先に説明したGloBE国・地域別実効税率の代替計算法を使用しながら、(セーフハーバー適用要件を満たさない)それら事業体についてはGloBEの本則に基づいて計算した実効税率を適用しなければなりません。配分対象ブレンドCFC税額の配分上、ブレンドCFC配分キーの合計には、使用する計算方法を問わず、当該国・地域に所在する全事業体について計算される配分キーを含めなければなりません。
特定の構成事業体が、所有持分を有するGloBE適用除外事業体(すなわち、構成事業体、共同支配会社、ジョイントベンチャーの子会社ではない事業体)の所得についてブレンドCFC合算税制の適用を受ける場合においては、12月指針は、各GloBE適用除外事業体に次のことを求めています:(i)配分対象合算所得の額が最も大きい同一の国・地域の合算グループについての(GloBEの本則に基づいて、または代替法に従って算出される)GloBE国・地域別実効税率を用いてブレンドCFC配分キーを計算する、(ii)自己のブレンドCFC配分キーをブレンドCFC配分キーの合計に含める。この方針により、GloBE適用除外事業体に配分される税が企業グループの構成事業体、ジョイントベンチャー、ジョイントベンチャー子会社の調整対象税額から適切に除外されることを確保しながら、GloBE適用除外事業体に関する余分な分析または実効税率の計算が回避されると12月指針は指摘しています。
GloBEルール第8.1.6条の規定では、GloBE情報申告書と各種国内通知書は、報告対象事業年度末日後15カ月以内に然るべき税務当局へ提出しなければならないとされています。GloBEルール第9.1.4条は、企業グループのGloBEルール適用初年度については、この期限を18カ月に延長しています。
12月指針によると、これにより税務当局には、申告制度を策定するに当たり、GloBEルールの発効から起算して30カ月の猶予が与えられます。しかし、GloBEルールの適用初年度が短い(または2025年に開始する事業年度が3カ月よりも短い)企業グループについては、当該猶予期間は短くなります。国別報告書規定が発効した2016年にも同様の問題が浮上し、その時は、そうした状況のために救済措置が別途定められました。
12月指針には、いずれの事業年度についても申告・通知期限は2026年6月30日以降とすると明記されており、Globe情報申告書および各種通知書の提出について同様の救済措置が定められています。
また12月指針によると、2024年より後に開始する事業年度について、初めてGloBEルールを導入した国・地域で事業運営している企業グループの短期報告対象事業年度の問題に対処するための同様の指針、ならびに特定の国・地域における特定の報告対象事業年度についてGloBEルールの対象になった企業グループで、それ以前の報告対象事業年度について他の国・地域にてGloBEルールの対象になっていた企業グループに適用される追加指針につき、包摂的枠組みは検討する予定です。
企業グループの連結財務諸表から子会社が除外されている場合に生じ得るコンプライアンス上の負担の問題を12月指針はとりあげており、包摂的枠組みは2022年12月に公表されたセーフハーバーとペナルティ救済措置文書(Safe Harbours and Penalty Relief document)にて説明されている通り、簡易計算セーフハーバーを定めることで合意したと述べています。これは、移行期におけるCbCRセーフハーバー、QDMTTセーフハーバー、移行期における軽課税支払ルール(UTPR)セーフハーバーに加えて定められる、恒久的なセーフハーバーです。
12月指針は、重要性の低い構成事業体(NMCE:Non-Material Constituent Entities)のGloBE所得または損失、GloBE上の収入、調整後対象税金を算出するに当たって利用できる簡易計算を、簡易計算セーフハーバーの一環として定めています。NMCEに関するこの代替計算方法の趣旨は、そうしたNMCEに関するデータの収集、加工、および記録に関係するコンプライアンス上の負担を一部軽減することにあります。
このセーフハーバーにおいてNMCEとは、専ら規模または重要性を理由に連結財務諸表に科目ごとに連結されておらず、かつ、構成事業体に該当すると判定される事業体をいいます。ただし、次の条件が全て満たされる場合に限られます:
PEを有する主たる事業体が科目ごとに連結されている場合においては、当該PEはその規模や重要性にかかわらずNMCEと判定されません。しかし、本店事業体がNMCEに該当するときは、そのPEも全てNMCEと判定されます。
NMCEについて簡易計算を用いる場合、簡易計算セーフハーバーに基づくテストの適用上、以下の所得、収入、および税額の簡易計算を適用します:
NMCEに関する簡易計算は、関連国別報告法令の定義を用いて、事業体ごとにNMCEの財務諸表のデータを基に行います。
NMCEに関する簡易計算セーフハーバー適用の選択は1年ごとに行い、国・地域ごとではなく各NMCEごとに行います。
運用指針には、NMCEに関する簡易計算は簡易計算セーフハーバー上使用できるものであり、GloBEの本則に基づいた計算には使用できないと明記されています。
包摂的枠組みによって公表された第1の柱のスケジュールでは、2023年10月に公表されたAmount Aにかかる多国間条約(MLC)の内容と、2023年末に期限を迎える予定の新たなデジタルサービス税(DST)および同様の措置の凍結について述べられています。今回の声明によると、MLCの内容を公表した趣旨は、透明性の提供、MLCの導入に必要な一部の参加国・地域におけるMLCの導入に際しての内部手続の促進と実施能力の向上、いまだに残っている参加国・地域間の相違の解消の促進にあります。
同声明によると、これらの相違の解消を目的とした作業は2024年に持ち越さなければならないことがうかがえます。声明では、2024年3月末までにAmount Aに関するMLCの内容に関する意見の一致と確定を実現し、2024年6月末までのMLC調印式の実施を目指すという意向を改めて示しています。
声明は、Amount Bに関するスケジュールには言及していません。
12月指針では、移行期におけるCbCRセーフハーバーの適用要件に関して新たに示された重要なルールを含め、GloBEルールの解釈および運用についての重要な追加的情報が盛り込まれています。また、12月指針によると、セーフハーバーの範疇にないハイブリッド型裁定取引に対処するための、GloBEルールの適用において新たな指針が示される予定です。
企業においては、運用指針に関係する動向を注視し、GloBEルールの運用に関係するあらゆる項目を特定する必要があります。また、各国・地域において、第2の柱に関する法制化に際して、12月指針や合意されたその他の運用指針を、どのように反映させるかを注視していくことも大切です。
新たな国・地域によるDST導入の可能性など、第1の柱のAmount AおよびAmount Bについても新たな動きが見込まれます。企業においては、世界規模での交渉および企業グループが展開する国・地域における動向を注視することが重要です。
巻末注
EY税理士法人
角田 伸広 パートナー
須藤 一郎 パートナー
関谷 浩一 パートナー
※所属・役職は記事公開当時のものです
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