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2022年7月11日、経済協力開発機構(OECD)事務局は、経済のデジタル化に伴う課税上の課題への対応をめぐって進行中のOECD/G20プロジェクト(BEPS 2.0プロジェクト)について、「第1の柱のAmount Aに関する進捗報告書(プログレスレポート)」(以下、「進捗報告書」)を公表しました1。この進捗報告書は、Amount Aの基本構成要素を網羅するOECD事務局から公表されたコンサルテーションドキュメントであり、モデルルールの形式を取っています。この進捗報告書に述べられているとおり、新たな課税権の行使に関する手続き(税の確実性に関連する規定を含む)はまだこの進捗報告書に盛り込まれていません。
進捗報告書と併せてOECDから公表された、税源浸食と利益移転(BEPS)に関するOECD/G20包摂的枠組みによる添付文書(カバーノート)には、Amount Aの作業に関する修正後スケジュールが示されています。またOECDからは、Amount Aに関する「よくある質問」文書、およびAmount Aルールの構造の概要を示したファクトシートも公表されました。加えて、2022年7月15日から16日に開催されるG20財務大臣・中央銀行総裁会議に向け、G20財務大臣・中央銀行総裁に対するOECD事務総長の租税報告書(G20租税報告書)も同時に公表されています。
これらの文書によって、Amount Aルールが2023年中には発効しないことが明確になりました。元のスケジュールは包摂的枠組みによって2021年10月に合意されていたものでした。2022年8月19日までの間、包摂的枠組みは、進捗報告書に示されたAmount Aルールの全体的な制度設計に関する利害関係者からの書面によるコメントを募集しています。2022年10月の包摂的枠組みの会合では、寄せられた意見を検討し、ルールの確定を目指す方針です。
確定次第、Amount Aルールは多国間条約(MLC)に盛り込むための条項に置き換えられ、包摂的枠組みの参加国・地域による調印と批准を受けます。必要数の国・地域の批准を経て2024年中にMLCを発効させることを目標として、2023年上半期にMLCの調印式を開催する段取りで作業を完了させることが見込まれています。
2019年1月、OECDは現行のBEPS 2.0プロジェクトを開始するにあたり、作業の2つの柱について説明したポリシーノートを公表しました。2つの柱とは、経済のデジタル化に伴う課税上の課題への対応および市場国への課税権の配分に取り組む第1の柱と、潜在的なBEPS活動に関する残された懸念および各国間の税率引下げ競争への対応に取り組む第2の柱です2。本プロジェクトは、141の国・地域が現在参加する、OECD/G20包摂的枠組みを通じて進められています。OECDは2019年2月に本プロジェクトに関するコンサルテーションドキュメントを公表し3、2019年3月に最初のパブリックコンサルテーションを実施しました4。
それ以降、OECDからは2つの柱の策定に関する一連の文書が公表され、2020年10月にはそれらの成果をまとめた第1の柱と第2の柱両方の詳細なブループリントが公表されました5。さらに2021年7月には、2つの柱の重要な変数をめぐるOECD/G20包摂的枠組みの参加国・地域の合意を反映したハイレベルの声明が発表されました6。
2021年10月、両方の柱の重要な変数をめぐる最終的な政治的合意がなされるとともに、導入計画が設定されました7。2021年10月の声明に反映されたこの合意には、包摂的枠組みに参加する141の国・地域のうち137の国・地域が加わっています。
2021年12月、OECDは、Amount Aのさまざまな個別の基本構成要素に関する一連の事務局作業文書を2022年上半期に公表し、利害関係者の意見を募集する計画を発表しました。この期間中、Amount Aに関して以下のパブリックコンサルテーションが実施されました。
OECD事務局は、これまでに完了したAmount Aの技術的な作業を反映させる形で、Amount Aルールの制度設計に関する意見を募集するパブリックコンサルテーションのため、Amount Aに関する進捗報告書を公表しました。進捗報告書には統合版のAmount Aの実施条項が含まれていますが、これはOECD事務局によって作成されたものであり、包摂的枠組みの一致した見解を表すものではありません。進捗報告書は国内法の条項の形にまとめられ、以下の7つの章および10の別紙にて構成されています。
この進捗報告書では、パブリックコンサルテーションのためにOECDから公表された過去の作業文書のいくつかに含まれていた実施条項に変更が加えられています。新たな課税権の行使に関する手続き(税の確実性に関連する規定を含む)はまだ進捗報告書に盛り込まれておらず、2022年10月の包摂的枠組みの会合までに公表される予定となっています。その他に進捗報告書に盛り込まれず交渉が続いている重要な詳細には、マーケティングおよび販売利益のセーフハーバー(MDSH)の制度設計や、Amount Aに関する二重課税の排除手法が含まれます。また、適用範囲に含まれる企業グループへの損金算入可能な支払いに課される源泉徴収税の影響も、進捗報告書には取り上げられていません。進捗報告書に示されたAmount Aルールのあらゆる側面について、2022年8月19日まで利害関係者からのコメントが募集されています。
進捗報告書に盛り込まれたルールは、Amount Aの導入の手段であるMLCの交渉において、実質的な土台の役割を果たすことになります。MLCには、Amount Aの実施条項に加えて、すべての企業に関する既存のすべてのデジタルサービス税(DST)および関連する類似措置の廃止と将来的に実施しない旨のコミットメントを求める条項も盛り込まれる予定です。
DSTまたは関連する類似措置を将来的に導入しないとのコミットメントの適用範囲については、進捗報告書にいくつかの新情報が示されています。このコミットメントは以下の規準のすべてを満たす措置に適用されます。
なお、付加価値税、取引税、租税条約の対象税目として取り扱われる源泉徴収税、または既存の租税基準の濫用に対処するためのルールは、このコミットメントに含まれないと思われます。
また2021年10月の声明には、2021年10月8日から2023年12月31日とMLC発効のいずれか早い時点までの期間中、新たに制定されるDSTまたはその他の関連する類似措置をいかなる企業にも課さないとの包摂的枠組みの参加国・地域の合意が含まれていました。このコミットメントについて、進捗報告書には、Amount Aルールの発効に向けた新たなスケジュールを踏まえた具体的な更新情報は示されていません。
第1章には、Amount Aの適用範囲に含まれるグループ(すなわち、「対象グループ」)の規準に関するルールが示されています。簡潔に言うと、収入が200億ユーロ超かつ利益率が10%超の企業グループが一般にAmount Aの適用範囲に含まれますが、重要な例外および除外が設けられています。第1章には、適用範囲に含まれるかどうかを決定するための個別テスト(すなわち、収入テストおよび利益率テスト)や、適格採掘業グループの収入および利益、ならびに規制対象金融サービスから得られた収入および利益の除外が含まれます。また、過去のコンサルテーションドキュメントには含まれていなかった、単独ベースでAmount Aの適用範囲に含まれる開示対象セグメントに関するルールが示されています。加えて、この章には別紙AからDが付属しています。
適用範囲の個別テスト(すなわち、収入テストおよび利益率テスト)は、4月にOECDから公表されたコンサルテーションドキュメントのルール草案に含まれていたテストに類似しています。ただし、各テストの名称にいくつかの細かな違いがあることに加えて、利益率テストにおける過去期間テストおよび平均テストに新たな制限が設けられており、これらのテストは当期間の直前の2期間連続で当該グループが対象グループでなかった場合にのみ適用されることとなりました。さらに、Amount Aルールに基づく義務は、「開始日」(すなわち、当該国・地域においてMLCが発効した日)以降に開始する期間における対象グループのグループ事業体にのみ適用されます。
適格採掘業グループに該当するグループ、または適格規制対象金融サービスを実施するグループは、それぞれ非採掘業収入テストおよび非採掘業利益率テスト、または非規制対象金融サービス収入テストおよび非規制対象金融サービス利益率テストを満たす場合を除き、対象グループにはなりません。適格採掘業グループまたは規制対象金融サービスを実施するグループが対象グループである場合には、別紙BおよびCに含められた義務がグループ事業体に対して適用されます。これらの別紙に示された義務は、今年すでに公表済みのコンサルテーションドキュメントに対して寄せられたコメントを考慮し、大幅に変更されています。除外は、一般に、Amount Aから除外される活動に収入の75%が関連しているかどうかを検証する優位性テストを用いて適用されます。75%の除外収入テストが満たされない場合には、Amount Aの適用範囲に含まれない活動に関連する収入および関連コストを除外し、当該対象グループの残りの収入および利益を再計算する形で除外が適用されます。
別紙Aには、Amount Aの適用範囲に関する補足条項が示されています。これらの条項は過去のコンサルテーションドキュメントに含まれていた内容におおむね沿っていますが、いくつかの更新が行われています。別紙Aには、特定の事業体の下で保有されるグループが適用範囲ルールの回避を目的として細分化される状況を防止するための濫用防止条項、ならびに事業再編時における過去期間テストおよび平均テストの適用を変更する特別ルールが含まれます。さらに別紙Aには、二元上場の取決め(Dual-listed Arrangement)またはステープル構造(Stapled Structure)に複数のグループが含まれている場合の具体的なルールが含まれます。これらのグループの各事業体は単一のグループのメンバーとして取り扱われ、これらのグループは単一の最終親事業体(UPE)を持つものとみなされ、単一のUPEにより作成された連結財務諸表がこの単一のグループの連結財務諸表となります。
別紙Dには、Amount Aルールが対象グループ全体に対して適用されるのではなく、対象グループの連結財務諸表で報告されるセグメント(開示対象セグメント)に対して適用される場合について規定したルールが示されています。これらのルールが適用されるのは、グループが200億ユーロの収入テストを満たすが10%の利益率テストを満たさず、かつ当該グループの開示対象セグメントのいずれかが収入テストと利益率テストの両方を満たすという例外的な場合です。かかる開示対象セグメントが存在する状況では、あたかも当該開示対象セグメントがグループの残りの部分から独立した事業であるかのように、当該開示対象セグメントに対してAmount Aルールが適用されます。
第2章には、対象グループの事業体に対して市場国・地域に新たな課税権を適用することを認める課税条項が示されています。
一般的なルールとして、ある期間にある国・地域で課税される所得は、対象グループの調整後税引前利益のうち、収入源泉ルールの下で当該国・地域で発生した収入として取り扱われ、かつ該当するネクサス(課税根拠)テストを満たしている収入に結び付けられる関連部分です。
対象グループの調整後税引前利益における関連部分は、以下の2つのステップにより決定されます。
この所得は、識別された期間における対象グループの1つまたは複数のグループ事業体の所得として課税されます。これらの課税条項が国内法にどのように組み込まれるかについての詳細は進捗報告書に示されていません。その代わりに、第2章の条項の草案には、法人税に関する国内法の条項の参照が含まれています。最後に、第2章の条項には、このようにして課される法人税が、同じ対象グループのあらゆる事業体の関連国・地域におけるその他の直接税もしくは間接税、関税、または社会保障拠出金の決定にいかなる影響も及ぼさないと述べられています。
第3章には、ある国・地域における課税ネクサスの確立のために満たされなければならない基準値が示されており、収入がどのような場合にある国・地域で発生したものとして取り扱われるかが定められています。この章には、別紙Eの補足条項が付属しています。
ネクサステストは、2月のコンサルテーションドキュメントに含まれていたルール草案とほぼ同じ内容のままとなっています。ある国・地域で発生したものとして取り扱われる対象グループの収入が(年間国内総生産(GDP)が400億ユーロ以上の国・地域の場合)100万ユーロ以上、または(年間GDPが400億ユーロ未満の国・地域の場合)25万ユーロ以上の場合、当該期間のネクサステストが満たされます。ネクサステストは、対象グループのある事業体がある特定の国・地域においてAmount Aルールに基づく課税に係る納税義務を負うかどうかの判定のみを目的として適用されるものであり、対象グループのあらゆる事業体に対して、その他のいかなる税務上の影響も及ぼしません。
収入源泉ルールは、対象グループが生み出した収入がAmount Aルールにおいてどのような場合にある国・地域において発生したものとして取り扱われるかを定めています。別紙Eには、信頼できる指標、または最後の手段となる配賦キーに基づく、収入の源泉の決定に関する詳細なルールが示されています。
進捗報告書に示された収入源泉ルールは2月のコンサルテーションドキュメントに含まれていたルール草案におおむね従っていますが、いくつかの変更や新たな概念を含んでいます。例えば、以前のコンサルテーションドキュメントには収入の源泉を取引ごとに決定しなければならないとの言及がありましたが、これは削除されており、また全般的に指標の柔軟性が高まっています。さらに今回のルール草案では、対象グループが使用することのできる指標として、「列挙された信頼できる指標(Enumerated Reliable Indicator)」(すなわち、関連する収入源泉ルールに定められているかまたは別途締約国会議において合意された指標のうち、その他の信頼できる指標または代替的な信頼できる指標に該当せず、かつその他の要件を満たすもの)および「その他の信頼できる指標(Another Reliable Indicator)」(すなわち、対象グループが使用することのできる情報のうち、列挙された信頼できる指標または代替的な信頼できる指標に該当せず、かつその他の要件を満たすもの)に加えて、「代替的な信頼できる指標(Alternative Reliable Indicator)」が定められています。
代替的な信頼できる指標とは、収入のカテゴリーについて収入源泉ルールに整合した結果を生み出す情報のうち、列挙された信頼できる指標またはその他の信頼できる指標に該当せず、かつ収入の発生場所を識別するにあたって列挙された指標の代わりに当該情報を使用する理由を説明した文書を事前確実性レビューにおいて対象グループがレビューパネルに提供したものを指します。
配賦キーが適用される場合を除き、収入の源泉は、対象グループによって販売、ライセンス供与、またはその他の方法で譲渡および提供される物品、コンテンツ、財産、製品およびサービス、それらの数量、ならびにそれらの価格における国・地域間の違いを考慮した方法で決定する必要があります。一般に、配賦キーを使用することができるのは関連する収入源泉ルールにおいて認められる場合のみであり、対象グループが列挙された信頼できる指標を識別するための合理的なステップを踏んだ上で、使用可能な列挙された信頼できる指標がないことを明示し、ノックアウトルールの適用後に配賦キーを使用することができます。ノックアウトルールとは、収入が当該国・地域において発生していなかったと合理的に結論付ける法律上、規制上または営業上の理由が存在する国を対象グループが識別する要件です。かかる国・地域が識別された場合には、配賦キーの適用にあたって、当該国・地域または国・地域のグループを除外する必要があります。
さらに、収入の源泉は稼得された収入のカテゴリーに従って決定し、複数のカテゴリーに該当する収入の源泉はその支配的な特徴に従って決定する必要があります。付随的取引から生み出された収入の源泉は、その付随する元の収入に適用される収入源泉ルールに従って決定することができます。第3章および別紙Eの関連する条項に示されたどの収入のカテゴリーにも適合しない収入の源泉は、最も近い収入のカテゴリーに従って決定されます。
対象グループは、とりわけその使用する指標が信頼できる指標の定義を満たしていること、およびその使用する配賦キーが関連する収入のカテゴリーのルールに従って使用されていることについて、証拠を提供できる内部統制の枠組みを持っていなければなりません。さらに、関連するシステムは、収入を適切に区分でき、かつその他の要素(例えば、対象グループによってそれぞれの国・地域で販売、ライセンス供与、リース、またはその他の方法で譲渡および提供される物品、コンテンツ、財産、製品およびサービス、それらの数量、ならびにそれらの価格における違い(該当する場合)の考慮)を満たせるように設計されていなければなりません。
第4章には、課税利益の決定および国・地域への配賦について規定したルールが示されています。この章には、別紙F(資産公正価値または減損調整)、G(取得した持分のベーシス調整)、およびH(移転した損失)が付属しています。
進捗報告書の第4章に示されたルールは、グローバル税源浸食防止(GloBE)ルールとの調和を図るため、課税ベースに関する過去のコンサルテーションドキュメントのルール草案と異なるものになっています。
ある期間の調整後税引前利益は、対象グループの財務会計上の利益(または損失)に必要な調整を加え、繰越および時系列の控除が可能な純損失(該当する場合)を控除したものです。要求される財務会計から税務会計への調整(特定の所得項目の控除、特定の費用の戻入れ等)の数は限られています。
除外されるさまざまな項目には、除外される配当、除外される持分利得、別紙Fに基づく資産公正価値または減損調整、および別紙Gに基づく持分の取得に際しての調整が含まれます。
ある期間の対象グループの純損失を決定するにあたっては、別紙Hに詳述されているとおり、適格企業結合または適格分割において移転した損失(該当する場合)を考慮する必要があります。
対象グループの調整後税引前利益のうち、ある期間にある国・地域において課税されるのは、利益配賦数式に基づいて配賦された利益からマーケティングおよび販売利益のセーフハーバー(MDSH)調整(該当する場合)を差し引いた額とゼロのうちいずれか大きい額です。
利益配賦数式:Q = (P-R × 10%) × 25% × L/R
ある期間にある国・地域に配賦される対象グループの利益額(Q)は、ある期間の対象グループの調整後税引前利益(P)と、ある期間の対象グループの収入(R)に利益率の基準値(10%)を掛け合わせた額の間の差額に、再配賦率(25%)を掛け合わせ、さらに対象グループの収入(R)に対する当該国・地域において発生した収入(L)の比率を掛け合わせた額に相当します。
MDSHの主たる目的は、例えば市場国・地域が対象グループの残余利益への課税能力をすでに持っている場合に、(i)既存の利益配賦ルール(一般的には移転価格)と(ii)Amount Aの配賦という2つの手段によって起こり得る「二重カウント」をめぐる問題に対処することです。
2020年10月に公表された第1の柱のブループリントによると、包摂的枠組みは、特に分散型の事業に影響を及ぼす可能性のあるこの問題を軽減するためのさまざまな代替的アプローチを検討していました。2021年10月の合意は、Amount Aを通じて市場国・地域に配賦される残余利益に上限を設けるMDSHの策定に言及しています。
第4章には考えられるMDSHの仕組みが提示されていますが、ルールの策定は進捗報告書の他の諸要素ほどには進展していません。実際に、MDSHの制度設計の重要な諸側面(ある市場国における残余利益を識別するための具体的な測定基準、残余利益のうちAmount Aの配賦と相殺される(Amount Aの配賦を減額する)部分、この調整と二重課税排除の仕組みの相互関係等)が依然として策定中となっています。
別紙Fには、対象グループが調整後税引前利益の計算に実現主義の原則を用いて、連結財務諸表における公正価値または減損会計の対象となる資産および負債に関連する利得および損失を決定するものと定められています。この原則の下では、(i)資産または負債に関連する公正価値または減損会計に起因するすべての利得または損失を調整後税引前利益の計算から除外し、かつ(ii)資産の取得日または負債の発生日現在の帳簿価額を、利得または損失の決定における当該資産または負債の帳簿価額とする必要があります。
別紙Gには、対象グループが他の事業体の所有持分を取得して当該被取得事業体がグループ事業体となった場合に、対象グループの調整後税引前利益の決定にあたって調整が適用されると定められています。
対象グループは、その調整後税引前利益の決定にあたり、適格企業結合または適格分割の結果としてグループの一部となった他の企業においてそれ以前に発生していた過去の損失を、別紙Hに示された配賦ルールに基づいて認識することを選択できます。かかる損失は対象グループの純損失の一部となり、繰越および時系列の控除が行われます。グループに移転したかかる損失によって損失の二重カウントや作為的な取決め(いわゆる損失の売買)が生じないことを確実にするため、特定のルールおよび条件が適用されます。
第1の柱に関する過去のOECDの公表物には、既存の利益配賦制度への上乗せとなるAmount Aの適用により生じる二重課税を排除するための仕組みの必要性が述べられていました14。第5章の条項にはこの仕組みの初期制度設計が示されています。この仕組みは、二重課税を排除する責任を負う国・地域を識別すべく、定量的に、かつ国・地域ベースで機能します。
最初のステップは、二重課税を排除する責任を負う国・地域の識別です。このステップの重要な要素の1つである除外利益(Elimination Profit)は、第2の柱のルールにおけるGloBE所得の概念に類似しています。除外利益の計算にあたっては、財務会計上の利益または損失を出発点として、GloBE所得の決定において行われる調整に類似した調整を行います。例えば、適格配当の除外が設けられています。除外利益に適用されるこれらの調整およびその他の規定の概要は、別紙Iに示されています。
2番目のステップは、対象グループの合計除外利益の95%以上に相当する最も小さい国・地域グループの決定です。このグループに含まれない国・地域の中に除外利益が5,000万ユーロ以上の国・地域がある場合は、このグループに追加されます。この国・地域グループは「特定された国・地域(Specified Jurisdictions)」と総称されます。
この二重課税の排除義務を割り当てる仕組みは、対象グループによって残余利益が稼得された国・地域において当該義務が引き受けられることを確実にすることを目的としています。割当ては基本的にウォーターフォール型アプローチを用いて行われ、特定された国・地域のうちで救済の実施を要求される国・地域(「救済実施国・地域(Relieving Jurisdiction)」)が決定されます。
特定された国・地域は、利益率に応じて4つのティア(階層)に分けられます。利益率は、グループ全体との比較において、当該国・地域の減価償却および給与に対するリターン(RODP)を参照して測定されます。RODPは、国・地域の除外利益を適格減価償却および給与コストで割る形で計算されます。この計算の概要は別紙Jに示されています。
ティア1には、RODPがグループ全体のRODPの1500%を上回る最も利益率の高い国・地域群が含まれます。ティア1の国・地域は、課税利益の減額を通じて最初に二重課税を排除します。ティア1で1番目にRODPが高い国・地域は、2番目にRODPが高い国・地域とRODPが等しくなるまで課税利益を減額します。1番目の国・地域のRODPが2番目の国・地域のRODPと等しくなった段階で、これらの国・地域は、3番目の国・地域と等しくなるまでRODPを引き下げます。さらに3番目の国・地域も減額に加わります。グループのAmount A全額相当が減額されるまでこれを続けます。
ティア1の利益によって二重課税が完全に救済されない場合には、ティア2の国・地域(RODP >150%)が、当該対象グループのAmount A利益に関する二重課税の救済義務が完全に割り当てられるか、またはティア2の利益がなくなるまで、ティア2の合計グループ利益に対する当該国・地域の比率に比例して二重課税を救済することを要求されます。ティア3A(RODP >40%)およびティア3B(RODP >対象グループの収入の10%を減価償却および給与コストで割ったリターン)にも同じ手法が適用されます。これらのティアのいずれかにおける残余利益がない国・地域は、Amount Aから生じた二重課税の救済を要求されません。
次のステップとなるのは、救済を受けられる事業体および救済の提供方法の決定です。進捗報告書には、救済を受けられる事業体を識別するためのアプローチが別の文書で説明される予定であると述べられています。また、救済は免除方式または税額控除方式によって提供される可能性があるとも述べられていますが、それ以上の詳細は示されていません。
Amount Aルールの一部を形成する、合理化された管理プロセス(税の確実性プロセスを含む)に関するルールは、2022年10月の包摂的枠組みの会合までに、別の報告書において公表される予定です。
進捗報告書に関する利害関係者の意見を募集するパブリックコンサルテーションは2022年8月19日まで実施され、寄せられたすべてのコメントが書面により公表される予定です。その後、包摂的枠組みは2022年10月に開催される会合でルールの確定を目指しています。添付文書(カバーノート)には、Amount A導入のためのMLCを2024年中に発効させることを目標として、2023年にMLCの調印式が開催される見込みであると述べられています。MLCの批准に必要な国・地域の数には、適用範囲に含まれる企業(利益がAmount Aの課税権の対象となる)の大部分に係る最終親事業体(UPE)の居住地国・地域、およびAmount Aの課税の結果として本来生じるであろう二重課税の排除義務を割り当てられる重要な国・地域が含まれるとされています。
また添付文書(カバーノート)には、Amount Bの作業が順調に進んでおり、年末までの完了が予定されていると述べられています。
進捗報告書および付属する添付文書(カバーノート)には、第1の柱におけるAmount Aの考えられる制度設計に関する重要な新情報が示され、またAmount Aの導入計画の新たなスケジュールが反映されています。
加えて、OECDは新たな課税権の行使に関するルール(税の確実性に関連する規定を含む)を2022年10月の包摂的枠組みの会合までに公表する予定であり、これによって当該ルールの運用に関する重要な追加的情報が提供されると思われます。
企業は、このコンサルテーションプロセスを通じたOECDおよび各国の政策立案者に対する働きかけの機会を利用することが考えられます。加えて、第1の柱と第2の柱両方の進展を、今後数カ月にわたって継続的に注意深く見守っていくことも重要です。
巻末注
角田 伸広 パートナー
須藤 一郎 パートナー
関谷 浩一 パートナー
西村 淳 パートナー
久保山 直 アソシエートパートナー
荒木 知 ディレクター
大堀 秀樹 ディレクター
高垣 勝彦 シニアマネージャー
野々村 昌樹 マネージャー
加藤 広紀 マネージャー
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