OECDがBEPS 2.0プロジェクトに関する大枠合意を発表

Japan tax alert 2021年7月8日号

エグゼクティブサマリー

OECDは、税源浸食・利益移転(BEPS)1に関するOECD2/G203包摂的枠組みの2日間にわたるオンライン会合を終え、BEPS 2.0​プロジェクトに関する包摂的枠組みの130にのぼる参加国・地域の合意が反映された『経済のデジタル化に伴う課税上の課題に対処するための2つの柱から成る解決策に関する声明』(以下、「声明」)を2021年7月1日に公表しました。なお、声明に参加しなかった包摂的枠組みの参加国・地域は、バルバドス、エストニア、ハンガリー、アイルランド、ケニア、ナイジェリア、ペルー、セントビンセントおよびグレナディーン諸島、スリランカの9の国・地域です。

声明では、BEPS 2.0プロジェクトの両要素、すなわちネクサス・ルールと利益配分ルールの見直しに関する第1の柱と、新グローバル・ミニマム課税ルールに関する第2の柱に関する合意について説明されています。声明には更に、未解決の問題と詳しい実行計画は2021年10月までに最終決定すると明記されています。

G20の財務大臣は、今回の包摂的枠組み会合の結果を、2021年7月9-10日の日程でベネチアにおいて開催される財務大臣会合において検討する予定です。

詳細

背景

OECDは2020年10月12日、BEPS 2.0プロジェクトに関する一連の重要文書を公表しました。その中で第1の柱4と第2の柱5に関するブループリント(青写真)も公表され、パブリックコンサルテーションを通じて利害関係者に意見の提出が要請されました。

その一方でOECDは、OECD事務局が作成した経済的影響評価も公表しました6。上記ブループリントに添えられた序文において、BEPSに関するOECD/G20包摂的枠組みは、目標としていた2020年内にコンセンサスに基づく合意には至りませんでしたが7、2021年半ばまでに同プロセスを成功裏に終わらせるために未解決の問題に速やかに対処すべく作業を続けることで合意したと述べられていました。

包摂的枠組みが2021年7月1日に声明を発行する前には、2021年6月5日にロンドンで開催されたG78財務大臣・中央銀行総裁会議9および2021年6月11-13日にコーンウォールで開催されたG7首脳会議10において、BEPS 2.0プロジェクトの努力に対する強い支持が表明されていました。

声明

2021年7月1日付の声明には、合意に至った各柱の主な構成要素が説明されています。

第1の柱

第1の柱の対象は、全世界の売上高が200億ユーロを超えかつ税引前利益率が10%を超える多国籍企業になる予定です。資源採取産業と規制対象の金融サービス業は適用除外です。声明は、税の確実性を含め新ルールの効果的な運用を条件に、売上高の閾値は100億ユーロに引き下げられ得ると述べています。これに伴い、今回の合意が施行されてから7年後に検証プロセスが実施されることになります。

また声明によると、財務諸表に開示されている特定のセグメントが適用対象基準を満たす場合、セグメンテーションが適用されることになります。

対象となる多国籍企業においては、収入の10%を超過する利益として定義される残余利益の20%から30%が、ネクサス(課税の根拠となる結びつき)のある市場国・地域へ配分されることになります。この配分上、損益は財務会計上の所得を基準にして調整を加えて算定され、また損失は繰り越されます。

以上の目的のためだけに適用されるネクサス・ルールの下では、対象となる多国籍企業が100万ユーロ以上の収入を特定の市場国・地域から獲得しているときは、その市場国・地域への配分に関して新ルールが適用されることになります。国内総生産が400億ユーロを下回る小規模の国・地域の場合には、それより少ない25万ユーロという閾値が適用されます。この目的においては、収入は、財またはサービスが使用または消費された最終市場国・地域に帰属することになります。詳しい収入帰属ルールは今後定められる予定です。

対象となる多国籍企業の残余利益が既に特定の市場国・地域において課税されている場合は、新ルールによってその市場国・地域に配分される残余利益を制限するためにマーケティング・販売利益に関するセーフハーバーが適用されることになります。

新ルールによって市場国・地域に配分される利益に関しては、免除方式または税額控除方式により二重課税の救済が認められる予定です。

声明には、市場国・地域への新しい配分に関する問題については、強制的・拘束的紛争予防・解決メカニズムが定められる予定であると明記されています。ただし、一部の発展途上国については選択的・拘束的紛争解決メカニズムの使用を検討すると記されています。

多国籍企業は、新ルールに関する税務コンプライアンス手続の管理を単一の事業体を介して管理することが認められます。

声明は、現地国での基本的なマーケティング・販売活動へ独立企業間取引の原則を適用するための簡便法についての利益Bに関する作業を2022年末までに完了させ、特に税務行政の対応力が低い国のニーズに焦点を当てると明記しています。

一方的措置に関しては、新国際課税ルールの適用と全企業に対するデジタルサービス税(その他関連するこれに類する措置)のすべての撤廃に向けた適切な調整について声明は言及しています。

最後に、市場国・地域への配分に関する新ルールを運用するために使用する多国間条約を策定し、2022年に署名に向けて採択し、新ルールを2023年に発効させると声明には明記されています。

第2の柱

声明によれば、第2の柱は2つの要素で構成されます。GloBE11ルールには、構成事業体の軽課税所得について親会社にトップアップ課税を課す所得合算ルール(IIR)と、IIRにより課税されなかった軽課税所得に関連する支払いについて損金算入を認めない軽課税支払ルール(UTPR)が含まれています。もう1つの租税条約の特典否認に関する課税対象ルール(STTR)は、各国・地域が、軽減された名目税率で課税される特定の関連者への支払に対して、源泉徴収税を課税することを可能にするものです。STTRは、GloBEルールに先だって優先適用されます。

声明では、GloBEルールはコモン・アプローチとして位置付けられ、包摂的枠組みに参加する国・地域は、このルールの採用を強制されないものの、採用を選択した場合は、合意された設計に従ってルールを導入・管理するとともに、他の包摂的枠組み参加国によるこのルールの適用を受け入れることを求められます。

GloBEルールは、直近の事業年度におけるグループ全体の連結売上高合計が7億5,000万ユーロ以上の多国籍企業に適用されます。ただし、声明によれば、各国は、この基準値に達していない場合でも、自国の税務上の居住者である多国籍企業に対して自由にIIRを適用することができます。

多国籍企業グループの最上位が投資ファンド、年金基金、政府系企業、非営利法人、国際機関である場合、GloBEルールの適用が免除されます。また声明は、国際的事業活動の初期段階にある多国籍企業についても適用免除とするかどうかさらに検討することを示唆しています。

声明によれば、トップアップ課税を課す権利は、IIRに基づくトップダウン・アプローチ(分割保有(split ownership)の状況に関する特別ルールを加味)およびUTPRに基づいて合意された方法に従って各国・地域に割り当てられます。

GloBEのトップアップ課税は、国・地域レベルで実効税率テストを用いて決定され、対象税額および財務会計上の所得に合意された調整および一時差異に対処した課税所得に関する共通の定義が使用されます。声明は、現行の配当税制において収益が3~4年以内に分配され、最低税率以上で課税されている場合、トップアップ課税は適用されないとしています。

声明によれば、IIRおよびUTPRの適用上、最低税率は15%以上とされています。

GloBEルールは、有形資産および給与の帳簿価額の5%以上の金額に相当する所得を除外する定型的な実質ベースのカーブアウトを定めています。声明は、5年間の移行期間中はこの金額が7.5%相当に引き上げられるとしています。また、デミニマス基準に基づく除外規定が定められることになっています。さらに、国際輸送に係る所得も除外されます。

声明はまた、第2の柱の政策目的に照らして過大なコンプライアンスコストや管理コストを回避するための仕組みがGloBEルールに組み込まれるべきであると指摘しています。第2の柱のルールは国・地域別に適用されることから、米国のGILTI12制度がGloBEルールと共存する状況において、公平な競争条件を確保するための考慮がなされることになります。

STTRについては、最低税率は7.5%から9%となり、STTRに基づいて源泉国に割り当てられる課税権は、最低税率と受領した支払に対する税率の差異に限定されます。声明は、包摂的枠組み参加国は、新興国に関する第2の柱のコンセンサスの達成に不可欠な一部をなすことを示唆しています。この点に関し、さらに、利子、使用料およびその他特定の支払に対する表面法人所得税率がSTTRの最低税率を下回る包摂的枠組み参加国は、新興国との二国間条約にSTTRを組み入れることを要求される場合、それに同意すべきであると述べています。

声明によれば、包摂的枠組み参加国は、モデルGloBEルールおよびその調整に関する多国間協定の展望を含む実施計画、STTRのモデル規定および採用促進のための多国間協定、ならびにUTPRの実施据え置きの可能性を含む移行ルールに合意し、公表することになっています。声明は、第2の柱は2022年中に立法化し、2023年中に発効させるべきであると述べています。

影響

この声明は、グローバル税制の根本的な変革に向けたBEPS2.0の提案に関わる作業の進展という点で、重要なステップとなります。しかしながら、そこには大枠合意のみが反映されており、技術的細部の具体化や残された未解決の問題への対処という作業が山積しています。2021年10月のG20会議と連動して最終合意に到達するという目標を達成するには、その作業を迅速に完了する必要があります。

企業にとって、今後数ヶ月におけるそれらの動きを注意深く追跡し、その提案が自社の事業に与える可能性のある影響を評価することが重要になります。さらに、企業は今後、提案されたルールが国内税法や二国間・多国間条約の改正を通じて導入されることに際して、関係国の活動を注視する必要があります。

巻末注

  1. 税源浸食および利益移転(Base Erosion and Profit Shifting)
  2. 経済協力開発機構(Organisation for Economic Co-operation and Development)
  3. G20は欧州連合のほか、アルゼンチン、オーストラリア、ブラジル、カナダ、中国、フランス、ドイツ、インド、インドネシア、イタリア、日本、韓国、メキシコ、ロシア、サウジアラビア、南アフリカ、トルコ、英国、米国の19ヶ国で構成されています。
  4. 2020年10月19日付EY Global Tax Alert、OECD releases BEPS 2.0 Pillar One Blueprint and invites public comments | EY - Global(OECDがBEPS2.0第1の柱に関するブループリントを発表し、パブリック・コメントを募集 | EY - グローバル)をご覧ください。
  5. 2020年10月19日付EY Global Tax Alert、OECD releases BEPS 2.0 Pillar Two Blueprint and invites public comments | EY - Global(OECDがBEPS2.0第2の柱に関するブループリントを発表し、パブリック・コメントを募集 | EY - グローバル)をご覧ください。
  6. OECD/G20税源浸食および利益移転プロジェクト、Tax Challenges Arising From Digitalization(経済のデジタル化に伴う課税上の課題)、2020年10月12日
  7. OECD/G20税源浸食および利益移転プロジェクト、Cover Statement by the Inclusive Framework(包摂的枠組みによる付属声明)2020年10月12日
  8. G7各国とは、カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、日本、英国、米国を指します。
  9. 2021年6月6日付EY Global Tax Alert、G7 Finance Ministers express strong support for global tax changes under BEPS 2.0(G7財務相、BEPS 2.0による国際的な税制改革へ強い支持を表明)をご覧ください。
  10. 2021年6月14日付EY Global Tax Alert、G7 leaders affirm commitment to global tax changes under BEPS 2.0 | EY - Global(G7リーダーが BEPS 2.0による国際的な税制改革に対するコミットメントを確約 | EY - グローバル)をご覧ください。
  11. グローバル税源浸食防止(Global Anti-Base Erosion)
  12. 米国外軽課税無形資産所得(Global Intangible Low-Taxed Income)

本アラートの詳細は、2021年7月1日付EY Global Tax Alert 「OECD announces conceptual agreement in BEPS 2.0 project」(英語のみ)をご覧ください。


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