2022年11月11日
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BEPS2.0対策シリーズ2 Pillar2では、移転価格により15%の実効税率を目指す税務戦略の構築が必要

執筆者 EY 税理士法人

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Ernst & Young Tax Co.

2022年11月11日

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今後BEPS2.0 Pillar2の施行により15%を下回る実効税率の達成は困難となり、日本企業へのグループ課税に大きな変化がもたらされることになります。 

そこで対応すべき課題の1つが「移転価格と税務戦略」です。今回は各国の税務当局に対し、どのような戦略をとっていけばいいのかについて、要点を解説します。 
要点
  • Pillar2では外国子会社の実効税率管理が重要である。
  • 合算課税による税負担の増加を避けるには、各拠点の実効税率を考慮した利益移転を検討することが必要になる。
  • また、各国で取得したインセンティブによる実効税率軽減への合算課税を回避できるのかも検討する必要がある。

連結実効税率15%を目標とする税務戦略が必要

BEPS2.0では、Pillar1が移転価格税制となっていますが、画一的な税負担の配分を目指し企業の裁量の幅を狭めているため税務戦略の余地は低いと考えられます。他方、Pillar2は外国子会社への合算税制ですが、15%を最低税率として最終親事業体に合算課税されるもので、実効税率の低い拠点の利益がターゲットとなります。合算課税を避けるためには、実効税率の低い拠点に配分された利益を是正する移転価格上の検討が必要となっており、Pillar1に比べ、対象となる多国籍企業がはるかに多いPillar2において、税務戦略での移転価格の重要性が増していると考えられます。

例えば、日本に本社のある多国籍企業の国別の発生税率と利益水準のデータ(注)を見ると、最低税率15%を下回る国・地域では、オランダは発生税率6.3%であるのに対し利益水準は9.8%。アイルランドでは発生税率9.2%に対し利益水準は17.5%となっています。

なぜそうなるのでしょうか。それは移転価格により実効税率の低い拠点に多くの利益を配分しているからと想定されます。実効税率計算における分母である利益を増加させ、分子である発生税額を減少させることにより、各拠点での実効税率を低減させ、連結実効税率の低減につながっていると考えられます。

しかし、最低税率15%が導入されれば、低い実効税率のある拠点の多くの利益が合算課税の対象となってしまう可能性があります。そのため、合算課税による税負担の増加を避けるには、各拠点の実効税率を考慮した利益移転を検討していくことが重要となってきています。

例えば、ベトナムは発生税率が20.8%であるのに対し、利益水準は12.1%。日本では発生税率25.2%に対し、利益水準は7.3%となっていますが、今後は発生税率が15.6%のタイなど(注)15%前後の税率国へ利益移転を図っていくことが必要となってきます。企業により拠点ごとに事情が異なると思われますが、これからは連結実効税率15%を目標とする税務戦略が必要になってくるものと考えられます。

 

GloBE所得の合計から除外されるのは有形資産と労務費

日本の外国子会社合算税制では、実効税率が低い拠点であっても、実体基準など一定の基準を満たした場合は、合算課税されないことになっています。しかし、Pillar2では、GloBE所得の合計からサブスタンス所得として除外されるのは、有形資産要素および労務費要素の一定割合となっています。

有形資産要素については、制度開始当初は適格有形資産償却残高の8%、労務費要素については適格従業員の適格給与費用の10%となっており、10年間で5%まで引き下げられることとなっています。サブスタンス所得の除外になり、GloBE所得から追加税額計算の母体となる所得を減少させることができれば、実効税率を15%へ引き上げることにつながり、合算課税を避けることができる可能性があります。

 

適格国内最低追加課税による税源争奪

実効税率が低いことにより追加税額が生じる場合に、最終親事業体の所在地国で合算課税される代わりに、各国で適格国内最低追加課税を行うことにより、自国の税収に取り込むことも検討されています。

例えば、EU加盟国では、国内の構成事業体に対して、適格国内最低追加課税を適用することが選択できるとされており、EU以外のイギリス、スイス、シンガポール、香港、UAEなどでも検討されています。

外国子会社の実効税率が低い場合、Pillar2により、最終親事業体所在地国の税収に合算することが可能であれば、最終親事業体の所在地国の税務当局は、外国子会社への所得移転について問題とすることはないと考えられます。

しかし、適格国内最低追加課税により、最終親事業体の所在地国でなく、他国の税収に取り込まれるのであれば、最終親事業体の所在地国の税務当局、例えば日本の税務当局は、前述のオランダやアイルランドのような低税率で高い利益水準となっている国に対して所得移転を問題とする可能性があり、税源争奪が行われると考えられます。

機能リスクを反映しない利益水準となっている場合には、移転価格課税のリスクがあり、移転価格上の検討を行っていく必要があります。

 

日本のような高税率国の拠点利益を最低税率の国に分散させる

Pillar2では、連結実効税率を最低税率の15%に近づけていくため、移転価格課税リスクを回避した上で、例えば、最低税率15%の国に無形資産を再配置し、ロイヤルティー収入を集中させていくことで、超過利益への実効税率を低減していくことなどが考えられます。

日本のような高税率国に所在する拠点を中心とするSingle Principal Model(単一当事者モデル)から、最低税率国の複数の拠点に機能分散させるDistributed Principal Model(分散当事者モデル)へ変更し、実効税率を低減させていくことも検討すべきでしょう。

Distributed Principal Modelでは、ビジネスと税務の観点から整合性を取り、各国の実効税率に応じた柔軟な税務戦略の構築が可能になると考えられます。

 

各国が合算課税の対象とならない適格税額控除となるインセンティブ導入を検討

インセンティブにより実効税率が低減し、最低税率15%を下回るのであれば、最終親事業体において合算課税の対象、あるいは、適格国内最低追加課税として現地で合算課税の対象となります。

しかし、Pillar2モデルルールでは、適格還付税額控除(Qualified Refundable Tax Credit)は、当期税金費用から控除されている税額控除額を加算することが認められることとなっています。

適格還付税額控除は、現金または現金相当として支払われ、法律に基づき控除を受けることができる場合で、4年以内に税額控除できるものを対象としています。

これまで取得してきたインセンティブ、例えば、EUのイノベーション基金、オランダやイギリスのイノベーションボックスなどについて、今後、適格還付税額控除に該当することになるのかを検討していく必要があると考えられます。

各国では、引き続き海外直接投資を呼び込むため、適格国内最低追加課税をするのであれば、その代わりに、Pillar2の適格還付税額控除に該当するインセンティブを導入することを検討しています。これまでの各国の租税条約の恩典を活用する「条約あさり」のように、今後は、Pillar2による合算課税を避けるため、適格還付税額控除を活用する「適格優遇あさり」が行われていくものと考えられます。

これまで、シンガポールでは、IP開発のインセンティブとして、5%または10%の軽減税率のほか、製造に対するパイオニアインセンティブとしての免税措置、研究開発費に対する150%の追加控除、金融財務センターに対する8%の軽減税率などがありましたが、Pillar2のルールに照らし、今後どのような取り扱いになるのか検討していくものと考えられます。これまで利用してきたインセンティブについて、今後の活用や合算課税を回避できるのかを検討していくことが重要な課題になっていくでしょう。

 

(注)出典:OEDC,Stat 2016 and 2017 Corporata Tax Statistics - CbCR aggregate totals by jurisdiction 

サマリー

今後BEPS2.0 Pillar2の施行により15%を下回る実効税率の達成は困難となり、日本企業へのグループ課税に大きな変化がもたらされることになります。Pillar2では外国子会社の実効税率管理が重要であり、合算課税による税負担の増加や、各国で取得したインセンティブによる実効税率軽減への合算課税を回避できるのかを検討することが必要になります。

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