グローバル税務の創造的破壊 前編 グローバルミニマム課税

グローバル税務の創造的破壊 前編 グローバルミニマム課税


関連トピック

OECDのBEPS2.0プロジェクトにおけるGloBEモデルルールに示されたグローバルミニマム課税の概要と日本企業への影響について解説します。


本稿の執筆者

EY税理士法人 International Tax and Transaction Services 大堀秀樹

EY税理士法人にて、日本企業のグローバル税務ポジションに関する分析を提供し、サステナビリティの観点からの税情報の開示についてもアドバイスを実施している。


要点

  • 経済協力開発機構(OECD)は経済のデジタル化に伴う課税上の課題(BEPS2.0プロジェクト)について、各国における法制化を要する第2の柱のGlobal Anti-Base Erosion(GloBE)ルールについて、GloBEモデルルールを発行しました。
  • 初年度のGloBE情報申告は、相応の準備期間が設けられていますが、初年度に対応するためには、事前にグランドデザインを決め、会計とプロセス、そして必要に応じてシステム対応を図る必要があります。


Ⅰ はじめに

経済開発協力機構(OECD)は、経済のデジタル化に伴う課税上の課題(以下、BEPS2.0プロジェクト)について、2020年10月12日にブループリント等の多くの文書を公表しました。

そして21年7月1日に声明(以下、7月声明)を公表し、続けて21年10月8日にさらなる声明(以下、10月声明)を公表しました。10月声明では、7月声明において発表された大枠合意に加えて、重要なパラメーターや具体的なスケジュールを示しています。そして、各国における法制化を要する第2の柱のGlobal Anti-Base Erosion(以下、GloBE)ルールについて、モデルルール(以下、GloBEモデルルール)が21年12月に発行されました。

本稿では、GloBEモデルルールに示されたグローバルミニマム課税の概要と日本企業への影響について解説します。

 

Ⅱ GloBEルールによる創造的破壊

GloBEルールは、企業グループの国別の所得と税額から実効税率を計算し、グローバルに15%のミニマム税を課す仕組みとなっています。

従来の国際課税の枠組みでは、税は国家の財源であり、税制は国家主権の一部とされ、特に直接税の課税範囲は各国独自に定め、租税条約により二重課税を解決するとされてきました。また、国別報告書(以下、CbCR)において、国別の主要な税金関連指標を報告していましたが、税務調査においてCbCRのみをもって更正を受けることはないとされています。

GloBEは、企業グループ全体を一つのグローバルな課税ベースと捉え、連結決算データを基に課税額を計算し、企業グループ内で国を超えて税額の支払を分担する、従来の国際課税の枠組みでは捉えられない、100年に一度のグローバルな税制改革と言われるのにふさわしい構成になっています。

 

Ⅲ GloBEモデルルールの概要

GloBEモデルルールは、10章から構成され、第1章から第5章において基本的な課税の仕組みとして、第1章においてGloBEルールの対象となる企業を特定し、第3章から第5章において追加課税額を計算し、第2章において追加課税額を支払う事業体と支払うべき金額の特定について定めています。

追加課税額を算定するために、まず財務会計上の純利益に一定の調整を加えて、GloBE所得を算定します。

GloBE所得=財務会計上の純利益(損失)

     ±連結決算の会計基準との永久差異の調整
     ±対象税金や永久差異項目等の調整
     ±減損会計等納税者の選択による調整

次に財務会計上の税金費用に一定の調整を加えて、調整後対象税金を算定します。

調整後対象税金=財務会計上の税金費用

     ±対象税金に対する加算・減算調整
     ±合計繰延税金調整額
     ±資本直入等に計上される対象税金の調整

一般的に、財務会計上の税金費用と税務申告上の税額には永久差異と一時差異があるとされていますが、永久差異については、GloBE所得の算定過程において、一時差異は対象税額の算定過程において繰延税金資産・負債アプローチによって調整されます。合計繰延税金調整額については、財務会計上の繰延税金費用を基に、5年以内に解消されない一定の繰延税金負債に関する補正もしくは除外選択(一定の長期性繰延税金負債については補正の対象外)や適用税率を15%に修正すること等、複雑な調整計算が求められています。

GloBE所得と調整後対象税額を国・地域別に集計し、国・地域別の実効税率を計算することにより、追加課税額を算定します(<図1>参照)。

図1 追加課税額算定フロー

GloBEモデルルールでは、各国・地域がGloBEルールと同様の課税範囲と計算方法によりドメスティック追加課税を課すことが認められました。ドメスティック追加課税が課された国・地域では、GloBEルールの追加課税は課されないことになります。

このように計算された企業グループに対する追加課税の総額は、所得合算(IIR)ルールと補完的な軽課税支払(UTPR)ルールにより、グループ内の事業体によって支払が負担されます。

最終親会社は会計期間の終了後15カ月(初年度は18カ月)以内にGloBE情報申告を提出しなければなりません。

 

Ⅳ GloBEルールの連結決算への影響

 

日本の法人税をはじめとして法人所得に関する税金は、財務会計上の税金費用計上前の利益から申告調整を通じて税額を計算するのが一般的です。GloBEルールでは、財務会計上の当期税金費用と繰延税金費用を考慮することから、一般的な法人所得税とは異質の税制とも考えられます。

従来、税金引当や税効果会計は、純粋に会計基準の要請から合理的に見積り計上することが求められて来ました。GloBEルールの導入後は、財務会計上のみならずGloBEルールの観点からも精緻な情報収集と計上が求められることになります。

また、GloBEルールによる追加課税が見込まれる場合、当期税金費用と繰延税金費用を計上後に、追加課税額を合理的に見積り計上することになることから、連結決算プロセスが長期化することも考慮しなければなりません。

 

Ⅴ GloBEルールに対応したプロセスとシステム

 

EYのグローバルネットワークによる調査によると、欧米の統合的な連結会計システムを有している企業グループはGloBEルールの課税計算と情報申告に必要なデータ約120項目の内、既に50~90%を把握しているとされています。中でも、税情報に関しても統合的なプラットフォームを導入している企業グループが最もデータを把握しているとされています。日本の企業グループにおいては、サブ連結構造のため個社単位の情報が把握できていない、税金関連の附表において詳細情報を収集していない等の課題があると想定されるため、GloBEルールの課税計算と情報申告に必要なデータの捕捉率が欧米企業と比較して低いと推定されています。

このような状況下において、日本企業がGloBEのための情報収集と申告計算に対応するためには、現状のデータベースの状況と資本構成の複雑さ及び事業体数に応じて、<図2>に示す通り、3通りの対応方法が考えられます。

図2 GloBEルールに関するシステム対応のイメージ

Ⅵ おわりに

初年度のGloBE情報申告は、会計期間の終了後18カ月とされ、相応の準備期間が設けられています。一方、初年度に対応するためには、事前にグランドデザインを決め、会計とプロセス、そして必要に応じてシステム対応を図る必要があります。


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サマリー

OECDのBEPS2.0プロジェクトにおけるGloBEモデルルールに示されたグローバルミニマム課税の概要と日本企業への影響について解説します。


情報センサー
2022年5月号

 

※ 情報センサーはEY新日本有限責任監査法人が毎月発行している社外報です。


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