2024年7月4日
第6回 京都大学寄附講義 社会価値の実践:先端事例の紹介とディスカッション
京都大学寄附講義

企業理念を実践し価値向上を目指すオムロンのサステナビリティ経営とは

執筆者 EY Japan

複合的サービスを提供するプロフェッショナル・サービス・ファーム

2024年7月4日

第6回 京都大学寄附講義
企業理念を実践し価値向上を目指すオムロンのサステナビリティ経営とは

日本でもサステナビリティ経営に取り組む企業が増える一方で、具体的な考え方や進め方は定着しておらず、軌道に乗せるのに難航している企業は少なくありません。京都大学寄附講義第6回では、国内外で高いESG評価を獲得しているオムロン株式会社の執行役員常務を務める井垣 勉 氏を招き、企業理念の実践を通じたサステナビリティ経営について講義を行いました。

安藤 聡 氏


井垣 勉 氏

オムロン株式会社 執行役員常務。1989年に早稲田大学商学部を卒業。マツダ、アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)、日本コカ・コーラなどを経て、13年2月にコーポレートコミュニケーションとブランド戦略の責任者としてオムロンに入社。現在は、コーポレートコミュニケーションとブランド戦略に加え、資本市場とのエンゲージメント、政策渉外、サステナビリティ推進をグローバルに統括。23年4月より現職。公職では、経済産業省「SX研究会」や、内閣官房「非財務情報可視化研究会」等の委員を歴任。米国の機関投資家向け専門誌「Institutional Investors」の「All Japan Executive Team Ranking 2023」でバイサイドが選ぶ「産業電機セクター」の「Best IR Professional」第一位に選出。

要点
  • オムロンにおける「サステナビリティ経営」とは、永遠にベンチャー精神を発揮し続けることで、社会のサステナビリティと自社のサステナビリティを両立させ、イノベーションを創出し続ける仕組みを、経営の中で運用することである。
  • オムロンでは「企業理念経営」を軸とし、これを支える「技術経営」と「ROIC経営」を両輪として組み込んだものをサステナビリティ経営として捉えている。
  • 「カーボンニュートラルの実現」「デジタル化社会の実現」「健康寿命の延伸」の3つを2030年までの10年間における社会的課題とオムロンは捉えており、主力事業を通じた課題の解決によって社会価値と自社の経済価値の創出を目指す。
  • サステナビリティ経営の実現において最も重要なのは人財であり、企業理念を現場に浸透させるためにさまざまな取り組みを進めている。
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企業理念の実践がオムロンのサステナビリティ経営の要

オムロンにおけるサステナビリティ経営について、井垣氏は「“永遠にベンチャー精神を発揮し続けることで、社会のサステナビリティと自社のサステナビリティを両立させイノベーションを創出し続ける仕組み”を、実際の経営の中で運用することを当社ではサステナビリティ経営と呼んでいます」と話します。

この考え方の原点にあるのが、1959年に制定された社憲「われわれの働きで われわれの生活を向上し より良い社会をつくりましょう」です。企業の公器性(企業は社会の公器であり、社会と共存共栄の関係にあるという考え方)と、自社が“良い社会”を築く先駆けになるという2つの思いが込められており、企業理念として現在も受け継いでいます。

「社憲に込められた2つの思いは、先述したサステナビリティ経営にそのままつながる考え方です。オムロンは長い歴史の中で、時代の変化によって生み出される社会的課題を解決する“ソーシャルニーズの創造”に挑戦し、世の先駆けとなるさまざまなイノベーションを通じて事業を拡大し続けてきました。企業理念をただ掲げるだけでなく、日々の業務の中での実践を通じて、持続的に企業価値を高めてきたのです。これはまさにサステナビリティ経営そのものと言えるでしょう」と井垣氏は述べます。

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オムロンのサステナビリティ経営の構造とは

では、企業にとって一番大事な企業理念をどのようにしてビジネスにつなげていくのが良いでしょうか。

オムロンでは「企業理念経営」を軸とし、これを支える「技術経営」と「ROIC経営」を両輪として組み込んだものをサステナビリティ経営として捉えています。

「社会的課題解決のための技術戦略を描く『技術経営』により、新たなビジネスの創出と事業の拡大を推進。その一方で、事業の新陳代謝を促すために『ROIC経営』によって生き残るビジネスを取捨選択し、投資効率を最大化する。このサイクルを繰り返すことで企業価値を高め、持続可能な社会の実現に貢献し続けることができます」と井垣氏は話します。

企業理念経営

企業理念経営とは、企業理念を「経営の求心力の原点」ならびに「発展の原動力」と位置付けて会社を経営すること。オムロンは事業を通じて社会に貢献し続けることを企業理念に掲げており、①10年後の“より良い社会”を描いて成長を目指す「長期ビジョン」、②真のグローバル企業となるための「オムロングループマネジメントポリシー」、③すべてのステークホルダーと強固な信頼関係を構築する「ステークホルダーエンゲージメント」の3つを重視した経営のスタンスによって持続的な企業価値の向上を目指しています。

技術経営

社会的課題を解決するために、技術革新をベースに近未来をデザインし、実現に必要な戦略を明確に描き、実行し続ける経営の仕組みです。
オムロンの研究開発は「未来予測」をベースにしており、取り組んでいる事業を起点にお客さまや競合他社、あるいはお客さまのビジネスを取り巻く環境がどのように変化するのか、「フォアキャスト」と「バックキャスト」の視点から予測。2つの視点が交わる3~5年先の超具体的な近未来を描き、そこから逆算してビジネスを創出する方法や成功に導く方法を考え、実現に必要な「技術」「知財」「ビジネスモデル」を実際の事業戦略に落とし込んでいます。

ROIC経営

社会的課題を解決できる健全な企業体で在り続けるために、事業の新陳代謝を促すとともに、投資効率を最大化し続ける経営スタンスです。取捨選択の物差し(指標)として、事業ごとの投資に対するリターンを評価できる「ROIC」を活用しています。

オムロンでは“永遠のベンチャー精神”を大切にしており、売上数億円から数百億円規模の事業(SBU)単位で全社を俯瞰(ふかん)する体制を整備。現在も約60のSBUが存在する中でROICは共通言語として定着していて、経営と現場が事業ごとに改善項目やKPIを設定してPDCAを回す「ROIC逆ツリー展開」と、複数の事業を公平に評価するための指標としてROICと売上高成長率の2軸で価値を評価する「ポートフォリオマネジメント」の2つのアプローチを通じて、適切かつ迅速に経営判断を進め、全社の価値向上をドライブしています。

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長期ビジョン「Shaping The Future 2030」について

オムロンではサステナビリティ経営に基づき長期ビジョン「Shaping The Future 2030」を策定。2030年までの10年間を「これまでのモノの豊かさを重視する工業社会から心の豊かさを重視する自律社会への移行期」と位置付けています。

「新たな社会への移行に伴い噴出するさまざまな社会的課題に対し、オムロンが存在意義を発揮し飛躍していくチャンスです」と井垣氏が語るように、社会的課題の中でも「カーボンニュートラルの実現」「デジタル化社会の実現」「健康寿命の延伸」の3つを成長機会として捉えており、主力事業を通じた課題の解決によって社会価値と自社の経済価値の創出を目指します。

井垣氏は「モノだけでなく、モノとサービスの組み合わせや、パートナーとの共創を進めることで、これまでは難しかった社会問題の解決に挑戦するビジネスモデルの実装を追求していきます」と決意を述べました。

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サステナビリティ経営を支える人財づくりへの取り組み

「一番大事なことは、オムロンで働く人財づくり」と井垣氏も語るように、サステナビリティ経営を実現するには企業理念に共感した社員の存在は欠かせません。

オムロンでは企業理念を現場に浸透・共鳴させるためにさまざまな取り組みを実施しており、その中でも特にユニークな施策が「TOGA(The OMRON Global Awards)」という表彰制度です。

TOGAは理念実践のロールモデルを全世界から見つけ出して褒めたたえると同時に、熱い思いを持った地道な取り組みや失敗を恐れないチャレンジも企業理念の実践としてたたえるというもの。最初に「チャレンジする企業理念実践の取り組み」をチームで宣言し、実務で挑戦、そのチャレンジに対して企業理念の実践度合いを軸に評価します。

「チームで対話し、取り組み内容を宣言することから、個人の暗黙知を形式知化して組織で共有し、新たな暗黙知を生み出すエコシステムとしても期待されます」と井垣氏。最後に「一人一人の社員が、仕事の中で企業理念を実践できて初めてサステナビリティ経営を実現できます」と述べ、講演を締めくくりました。

サマリー

サステナビリティ経営で重要なのは、企業理念を掲げることではなく、理念の実践を通して企業価値を高めることです。
オムロンでは持続可能な社会の実現に貢献し続けるために、「企業理念経営」を軸としながら、社会的課題解決のための技術戦略を描く「技術経営」と、事業の新陳代謝を促す「ROIC経営」をサステナビリティ経営の構造に組み込み、サイクルを回すことで企業価値を高めています。


京都大学経営管理大学院「パーパス経営」に関する寄附講義

京都大学経営管理大学院にて開講した寄附講義「パーパス経営」の講義レポートをお読みいただけます。
 

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