2021年3月期 有報開示事例分析 第9回:新型コロナウイルス感染症に関する非財務情報(経営環境等)

EY新日本有限責任監査法人 公認会計士 水野 貴允

Question

2021年3月決算会社における「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」における新型コロナウイルス感染症(以下「本感染症」という。)の影響の開示状況は?
 

Answer

【調査範囲】

  • 調査日:2021年8月
  • 調査対象期間:2021年3月31日
  • 調査対象書類:有価証券報告書
  • 調査対象会社:2021年4月1日現在のJPX400に採用されている会社のうち、以下の条件に該当する203社
    ① 3月31日決算
    ② 2021年6月30日までに有価証券報告書を提出している
    ③ 日本基準を採用している

【調査結果】

調査対象会社を対象に、「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」において、経営環境に本感染症の影響を記載しているか、開示状況を調査した。調査結果は<図表1>及び<図表2>のとおりである。

<図表1>経営環境についての説明における本感染症の記載内容

記載内容(※1)

2020年3月期

2021年3月期

① 自社の属する業界や自社にどのような影響があるか記載

96

88

うち、自社の事業ごと又はセグメントごとにどのような影響があるか記載

19

18

② 経済全体に対してどのような影響があるかを記載

46

66

③ 経済全体の先行きが不透明である旨、又は本感染症による影響がある旨のみ記載

35

29

小計

177

183

記載なし

19

20

合計

196

203

(※1)「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」において、「事業等のリスク」の記載を参照している場合には、「事業等のリスク」の記載内容から判断している。


<図表1>のとおり、経営環境についての経営者の認識の説明において、新型コロナウイルス感染症の影響を記載している会社が183社(90.1%)となった。一方、新型コロナウイルス感染症の影響については、セグメントごとに具体的に記載することが望まれるとされているものの、自社の事業ごと又はセグメントごとにどのような影響を与えているか記載している会社は、18社(8.9%)であった。なお、自社の事業ごと又はセグメントごとの影響を記載している場合に、主な影響および対応策を、図表を用いて各製品や事業に紐づけて分析をしている会社もあった。

<図表2>本感染症に関連する影響の対処方針または対応策の記載内容

記載内容(※1)

2020年3月期

2021年3月期

事業計画、中期経営計画等の将来計画に対応を反映した旨

32

従業員及び顧客等の安全に配慮して感染症拡大防止に取り組み、事業活動を継続していく旨

67

56

在宅勤務や業務のデジタル化の推進等の対応をしていく旨

32

21

新しい生活様式に対応する提案や商品の提供、又は本感染症に関連する商品の増産等の対応をしていく旨

16

32

既存のコストの削減をしていく旨

9

14

具体的な対応策は示していないが柔軟に対応していく旨(※2)

27

19

その他

17

4

記載なし

67

72

合計

235

250

(※1)複数の項目を記載している場合には、それぞれ1社としてカウントしている。
(※2)影響を注視していく旨、慎重に対応する旨の会社を含んでいる。


<図表2>のとおり、「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」において、調査対象会社(203社)のうち、対処方針又は対応策を記載していない会社は72社(35.5%)、記載している会社は131社(64.5%)であった。また、131社のうち、「事業計画、中期経営計画等の将来計画に対応を反映した旨」を記載した会社は32社(15.8%)、「新しい生活方式に対応する提案や新商品の提供、又は新型コロナウイルス感染症に関連する商品の増産等の対応をしていく旨」を記載した会社が32社(15.8%)である。2020年4月に発令された緊急事態宣言1回目から1年が経過し、各社ウィズコロナの環境に対して事業計画を策定したことを背景に、新型コロナウイルス感染症が蔓(まん)延して間もない2020年3月期と比較して具体的な対応策の開示が拡充したと考えられる。

(旬刊経理情報(中央経済社)2021年9月20日号 No.1622「2021年3月期 「有報」分析」を一部修正)



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