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EY新日本有限責任監査法人 公認会計士 兵藤 伸考
2021年3月期決算に係る有報の「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」の項目において、会計上の見積り及び見積りに用いた仮定の記載内容と、重要な会計上の見積りに関する注記の整合性を知りたい。
「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」(以下「MD&A」という。)の項目において、会計上の見積り及び見積りに用いた仮定のうち、重要なものについて、不確実性の内容やその変動により経営成績等に生じる影響等、会計方針を補足する情報を記載する必要がある(「企業内容等の開示に関する内閣府令」第三号様式(記載上の注意)(12)、同第二号様式(記載上の注意)(32)a(g))。
ただし、記載すべき事項の全部又は一部を「第5 経理の状況」の注記において記載した場合には、MD&Aの項目にその旨を記載し、当該注記において記載した事項を省略することができる。
MD&Aにおける会計上の見積り及び見積りに用いた仮定の記載内容と、重要な会計上の見積りに関する注記の整合性を分析した。
調査対象会社203社について、MD&Aの重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定において、重要な会計上の見積りに関する注記の参照状況を分析した。調査結果は、<図表1>のとおりである。
記載方法 |
対象会社数(社) |
比率 |
---|---|---|
重要な会計上の見積りに関する注記を参照して内容を全部省略した事例 |
100 |
49.3% |
重要な会計上の見積りに関する注記を参照して内容を一部省略した事例 |
41 |
20.2% |
重要な会計上の見積りに関する注記を参照していない事例 |
62 |
30.5% |
合計 |
203 |
100.0% |
調査対象会社のうち約半数である49.3%の会社は重要な会計上の見積りに関する注記を参照して、重要な会計方針及び見積りの詳細について全部の記載を省略していた。
また、重要な会計上の見積りに関する注記を参照していない事例は62社(30.5%)であったが、そのうち約半数の32社は「連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項」を参照して内容の一部を省略していた。
2021年3月期決算に係る有報より重要な会計上の見積りに関する注記の記載が必要となったことから、重要な会計方針及び見積りの詳細について参照する記載が増えているものと考えられる。
調査対象会社203社を対象に、MD&Aに具体的に記載されている会計上の見積項目の記載内容を調査した。調査結果は、<図表2>のとおりである。
見積項目 |
会社数(社) |
---|---|
固定資産の減損 |
68 |
繰延税金資産の回収可能性 |
67 |
退職給付引当金(退職給付費用) |
50 |
貸倒引当金 |
30 |
有価証券の評価 |
29 |
棚卸資産の評価(販売用不動産等含む) |
26 |
新型コロナウイルス感染症の感染拡大 |
18 |
のれんの評価 |
14 |
工事進行基準 |
13 |
(注)記載会社数が10社未満の項目は記載を省略している。
MD&Aの重要な会計上の見積りについても、重要な会計上の見積りに関する注記の記載項目数分析と同様に、固定資産の減損を記載している事例が最も多かった。
一方、重要な会計上の見積りに関する注記と比較して、退職給付引当金(退職給付費用)や貸倒引当金を記載している事例が多かった。
重要な会計上の見積りに関する注記として開示する項目については、当年度の財務諸表に計上した金額が会計上の見積りによるもののうち、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクがある項目を識別することになるとされており、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクとして、退職給付引当金(退職給付費用)や貸倒引当金と比較して、のれんの評価などを多く記載しているものと考えられる。
なお、重要な会計上の見積りに関する注記の開示項目数分析については「2021年3月期 有報開示事例分析 第2回:見積開示会計基準(見積開示項目数)」を参照されたい。
(旬刊経理情報(中央経済社)2021年10月10日号 No.1624「2021年3月期有報における 見積り関連注記の開示分析」を一部修正)
2021年3月期 有報開示事例分析