2021年3月期 有報開示事例分析 第4回:見積開示会計基準(KAMとの整合性)

EY新日本有限責任監査法人 公認会計士 清宮 悠太

Question

2021年3月決算会社における、①企業会計基準第31号「会計上の見積りの開示に関する会計基準」(以下「見積開示会計基準」という。)に基づく注記内容と、②監査上の主要な検討事項(以下「KAM」という。)の整合性は?
 

Answer

【調査範囲】

  • 調査日:2021年9月
  • 調査対象期間:2021年3月31日
  • 調査対象書類:有価証券報告書
  • 調査対象会社:2021年4月1日現在のJPX400に採用されている会社のうち、以下の条件に該当する203社
    ① 3月31日決算
    ② 2021年6月30日までに有価証券報告書を提出している
    ③ 日本基準を採用している

【調査結果】

1.「重要な会計上の見積りに関する注記」とKAMの記載項目の比較分析

調査対象会社(203社)を対象として、「重要な会計上の見積りに関する注記」に記載した項目のうち、KAMにも記載されている項目数・割合を調査した。

調査結果は、<図表1>のとおりである。

全体では、連結財務諸表及び個別財務諸表のいずれにおいても、「重要な会計上の見積りに関する注記」に記載した項目のうち、7割弱(連結69.6%、個別67.2%)がKAMにも記載されていた。当該結果からは、「重要な会計上の見積りに関する注記」に記載した項目について、監査人がKAMとして取り扱い、慎重な検討を行う傾向にあることが読み取れる。

また、連結財務諸表及び個別財務諸表のいずれにおいても、「工事進行基準」に関する項目はKAMに記載されている割合が高かった(連結92.6%、個別91.3%)。「重要な会計上の見積りに関する注記」に「工事進行基準」を記載した会社(連結27社、個別23社)の業種別の内訳としては、建設業が多数(連結18社(66.7%)、個別15社(65.2%))を占めていた。

一方、「退職給付債務」に関する項目は、KAMに記載されている割合が低かった(連結5.0%、個別0.0%)。
 

<図表1>「重要な会計上の見積りに関する注記」に記載した項目と、KAMに記載している項目の関係

重要な会計上の見積り項目①「重要な会計上の見積りに関する注記」に記載した会社数②①のうち同項目をKAMにも記載している会社数割合
(②/①)

連結

固定資産の減損(※1、2)917683.50%

繰延税金資産の回収可能性583153.40%

のれんの評価(※1)322681.30%

棚卸資産の評価292172.40%

工事進行基準272592.60%

退職給付債務2015.00%

貸倒引当金191684.20%

投融資評価(※2、3)181161.10%

その他(※4)483164.60%

合計(※5)34223869.60%

個別

固定資産の減損513670.60%

投融資評価473880.90%

繰延税金資産の回収可能性462554.30%

工事進行基準232191.30%

棚卸資産の評価161381.30%

退職給付債務1400.00%

貸倒引当金10880.00%

その他(※4)281760.70%

合計(※5)23515867.20%

(※1)「固定資産の減損」と「のれんの評価」を1項目として開示している会社2社は、それぞれ1社としてカウントした。
(※2)「固定資産の減損」と「投融資評価」を1項目として開示している会社1社は、それぞれ1社としてカウントした。
(※3)「投融資評価」の中には、たとえば、関係会社株式の評価など株式評価に関する項目のほか、債権・貸付金等の回収可能性なども含めている。
(※4)9社以下の項目は、まとめて「その他」としている。
(※5)複数の項目を記載している会社があるため、合計は203社とはならない。


2. 項目の特定状況の分析

見積開示会計基準に基づく開示は、企業の置かれている状況に即して情報を開示するものであると考えられており、見積開示会計基準7項に定めた注記の具体的な内容や記載方法(定量的情報若しくは定性的情報、又はこれらの組み合わせ)については、開示目的に照らして判断することとされている(見積開示会計基準27項)。

また、KAMをどのように記述するかについては、財務諸表の利用者にとっての情報の目的適合性が考慮されることから(監査基準委員会報告書701第A43項参照)、記載内容について、個々の会社の監査に固有の情報を記載するためには、ある程度の詳細さを伴った具体的な記述が必要となると考えられる。

したがって、見積り開示注記の内容及びKAMの内容は、いずれも財務諸表利用者に有用な情報を提供するといった観点から、一般的・抽象的な内容に留まるのではなく、企業が置かれている具体的な状況(例えば、固定資産の減損については、減損の兆候が生じている又は減損損失に至った具体的な事業や資産グループの内容など)を特定できるような情報の記載をすることが重要と考えられる。

そこで、当該観点を踏まえて、連結財務諸表上の「重要な会計上の見積りに関する注記」に対して、以下の分析を行った。

<分析対象>
(A)<図表1>で「固定資産の減損」を記載した会社91社(分析結果は、<図表2>参照)
(B)<図表1>で「投融資評価」を記載した会社18社(分析結果は、<図表3>参照)
<分析項目>

① 「重要な会計上の見積りに関する注記」における項目の特定状況
② KAMの記載における項目の特定状況

(A)「固定資産の減損」及び(B)「投融資評価」のいずれにおいても、「重要な会計上の見積りに関する注記」の記載で「項目を特定している」場合には、KAMの対象としていない場合を除き、KAMの記載はすべて「項目を特定している」状況であり、双方の記載内容に強い関連性があることが読み取れた。

また、「重要な会計上の見積りに関する注記」の記載で「項目を特定していない」場合には、「KAMに記載なし」のケースが多かった。これは、「重要な会計上の見積りに関する注記」の記載が「項目を特定していない」場合には、一般的な見積り内容に留まることから、監査人としても重要性はないものとして、KAMに記載していないものと考えられる。

<図表2>
  • (A)固定資産の減損(連結)
    ①「重要な会計上の見積りに関する注記」における項目の特定状況と、
    ② KAMの記載における項目の特定状況の関係

①「重要な会計上の見積りに関する注記」における項目の特定状況
②KAMの記載における項目の特定状況会社数割合

項目を特定している(※)

項目を特定している 5054.90%

項目を特定していない00.00%

KAMに記載なし11.10%

項目を特定していない

項目を特定している77.70%

項目を特定していない1920.90%

KAMに記載なし1415.40%

合計

 91100.00%

(※)たとえば、固定資産の減損といった一般的な内容ではなく、具体的なセグメント・会社名・資産金額・減損損失等に関する内容を記載している場合を「項目を特定している」に分類した。


<図表3>
  • (B)投融資評価(連結)
    ①「重要な会計上の見積りに関する注記」における項目の特定状況と、
    ② KAMの記載における項目の特定状況の関係

①「重要な会計上の見積りに関する注記」における項目の特定状況
②KAMの記載における項目の特定状況会社数割合

項目を特定している(※)

項目を特定している738.90%

項目を特定していない00.00%

項目を特定していない

項目を特定している15.60%

項目を特定していない316.70%

KAMに記載なし738.90%

合計

 18100.00%

(※)たとえば、関係会社株式の評価などの一般的な内容ではなく、個別具体的な株式などに関する内容を記載している場合を「項目を特定している」に分類した。

 

(旬刊経理情報(中央経済社)2021年10月10日号 No.1624「2021年3月期有報における 見積り関連注記の開示分析」を一部修正)



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