グローバル・ミニマム課税発効に伴う会計上の留意点

情報センサー2024年6月 Tax update

グローバル・ミニマム課税発効に伴う会計上の留意点


グローバル・ミニマム課税の発効に伴い、企業が会計上留意し、準備を進めるべき点を解説します。


本稿の執筆者

EY税理士法人 ビジネスタックスサービス部 タックスアカウンティング アンド リスクアドバイザリーサービス 田山 万季

米国での実務経験を生かし、主に米国基準、IFRSを適用する金融機関、自動車、消費財等、多様な業種に対する税会計アドバイザリー及び監査業務に従事。BEPS 2.0 Pillar2に関するアドバイザリー及び監査業務に従事。



要点

  • グローバル・ミニマム課税の(実質的な)法制化に伴うIFRS、日本基準の改正、開示要求事項のまとめ
  • グローバル・ミニマム課税の発効に伴い企業が会計上留意し、準備を進めるべき点を解説


Ⅰ はじめに

2021年12月にOECDはBEPS2.0プロジェクトの第2の柱であるグローバル税源浸食防止ルール(以下、第2の柱モデルルール)を公表しました。第2の柱モデルルールは135以上の法域によって合意され、各法域において現地法制化が進められています。各国における法制化状況、会計上の(実質的な)法制化状況については、「BEPS2.0-Pillar Two Developments Tracker」(PDF、英語版のみ)をご参照ください。

本邦においても、令和5年度(2023年度)税制改正において、第2の柱モデルルールのうち所得合算ルール(IIR)に係る取扱いが23年3月28日に成立した改正法人税法において定められ、24年4月1日以後開始事業年度から発効されています。令和6年度(2024年度)税制改正では、23年7月に公表された執行ガイダンスやGloBE情報申告に関する報告書を反映する形での改正がなされました。24年4月、5月公開の情報センサーにおいて、BEPS2.0最新情報と実務対応を解説していますので、併せてご参照ください。

本稿では、IFRS、日本基準の概要、開示要求事項及び留意点について解説します。なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをあらかじめお断りしておきます。


Ⅱ 国際会計基準 IAS第12号「法人所得税」の修正

1. 背景

国際会計基準審議会(IASB)は、第2の柱モデルルールをIAS第12号「法人所得税」においてどのように適用するかについて明確ではなかったことから、23年1月に公開草案「国際的な税制改革-第2の柱モデルルール(IAS第12号の修正案)」を公表しました。その後、利害関係者からのコメントを踏まえて再審議を行い、一部の要求事項に変更を加えた上で、23年5月に当該税制に伴い発生する繰延税金資産及び繰延税金負債を認識及び開示しないとする強制的な「一時的な例外規定」を導入した「国際的な税制改革-第2の柱モデルルール(IAS第12号の修正)」が公表され即時に適用されています。ルールの詳細については、Applying IFRS:国際的な税制改革-第2の柱の開示2023年11月をご参照ください。


2. 開示要求事項概要

(1) 第2の柱の法人所得税に係る繰延税金資産及び繰延税金負債に関しては、認識することも情報を開示することもしてはならないとする例外規定を適用した旨の開示が必要となります(IAS第12号第88A項)。

(2) 制定された法制が発効する前の期間においては、財務諸表利用者が当該法制から生じる第2の柱の法人所得税に対する企業のエクスポージャーを理解するのに役立つ既知の又は合理的に見積可能な情報を開示することとされました(IAS第12号第88C項)。エクスポージャーに関する情報としては定性的情報及び定量的情報を開示することとされており、これは一定のレンジの形で提供することも可能となります。また、これらの情報が既知ではない又は合理的に見積可能ではない場合には、その旨を開示するとともに、エクスポージャーの評価の進捗に関する情報を開示することとされました(IAS第12号第88D項)。

(3) 発効期間後は、第2の柱の法人所得税に関連する当期税金費用(収益)を個別に開示することとされました(IAS第12号第88B項)。


3. 留意点

制定された法制が発効する前の期間の開示要件は、グループ連結財務諸表が日本基準や米国基準で作成される場合でも、現地会計基準がIFRSである場合や、現地会計基準にIAS第12号の修正が反映されている場合には、現地(法定)財務諸表においてIAS第12号に基づく第2の柱の法人所得税に係る開示が必要となると考えられます。第2の柱の法人所得税に係るエクスポージャーの判定が親会社で実施されている場合には、現地でのエクスポージャーの有無及び現地(法定)財務諸表における重要性も考慮しつつ分析、検討を進める必要があると考えられます。また、在外子会社との情報共有のプロトコルの構築が必要となります。

個別財務諸表を作成する際には、連結財務諸表におけるエクスポージャーの把握のみならず、構成事業体所在国の法制化状況及びグループの資本関係図を基に、納税者の判定にも留意する必要があります。


Ⅲ 日本基準 改正実務対応報告第44号及び実務対応報告第46号の公表

1. 背景

企業会計基準委員会(以下、ASBJ)は、23年3月に実務対応報告第44号「グローバル・ミニマム課税制度に対応する法人税法の改正に係る税効果会計の適用に関する当面の取扱い」を公表し、令和5年度税制改正において本邦でIIRが導入されたことに伴い、IIRから発生する繰延税金資産・負債の認識及び開示をしないことを定めました。その後、24年3月22日に改正実務対応報告第44号「グローバル・ミニマム課税制度に係る税効果会計の適用に関する取扱い」を公表しています。本改正では、本邦におけるグローバル・ミニマム課税制度への見直しが今後も行われる見込みであることや、IIRに加え軽課税支払(所得)ルール(UTPR)や国内ミニマム課税ルール(QDMTT)の法制化が予定されていることから、今後改正や法制化された場合も、グローバル・ミニマム課税制度に係る税効果の認識を行わないことを継続する旨を公表しています。

さらに、24年4月1日から本邦においてIIRの課税が開始されることに伴い、ASBJは、24年3月22日に実務対応報告第46号「グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等の会計処理及び開示に関する取扱い」を公表し、当期税金に係る会計処理及び開示に関する取扱いについて公表しています。


2. 概要

改正実務対応報告第44号 「グローバル・ミニマム課税制度に係る税効果会計の適用に関する取扱い」

(1) 第2の柱の法人税に関する繰延税金資産および繰延税金負債を認識しないこととされました(第3項)。また、四半期連結財務諸表及び四半期個別財務諸表並びに中間連結財務諸表及び中間個別財務諸表においても上記の取扱いを適用することとされました(第3-2項)。

(2) 第2の柱の法人税に関する繰延税金資産および繰延税金負債に関する情報を開示しないこととされました(第7項、第16項)。

実務対応報告第46号 「グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等の会計処理及び開示に関する取扱い」

四半期財務諸表及び中間財務諸表における取扱い

(1) 当面の間、グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等を計上しないことができることとされました。(第7項)。また、当該ルールに基づき、四半期・中間財務諸表において法人税を認識していない場合には、その旨を開示することとされました。

決算における取扱い

(1) 対象会計年度となる連結会計年度及び事業年度において、財務諸表作成時に入手可能な情報に基づき当該法人税等の合理的な金額を見積り計上することとされました(第6項)。グローバル・ミニマム課税制度に係る未払法人税のうち、貸借対照表日の翌日から起算して1年を超えて支払いが到来するものは、連結貸借対照表及び個別貸借対照の固定負債の区分に長期未払法人税等などその内容を示す科目をもって表示することとされました(第8項)。

(2) 連結損益計算書においては、法人税、地方法人税、住民税および事業税(所得割)を示す勘定に表示することとなります。また、グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等が重要な場合は、当該金額を注記することとされました(第10項)。

(3) 個別損益計算書においては、法人税、地方法人税、住民税及び事業税(所得割)を表示した科目の次にその内容を示す科目をもって区分して表示するか、法人税、地方法人税、住民税及び事業税(所得割)を注記することとなります(第11項)。ただし、個別損益計算書において、グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等の金額の重要性が乏しい場合、法人税、地方法人税、住民税及び事業税(所得割)に含めて表示することができます。この場合は当該金額の注記を要しないこととされました(第12項)。


3. 留意点

IFRSの留意点で述べた項目に加え、実務対応報告第18号「連結財務諸表における在外子会社等の会計処理に関する当面の取扱い」では、国際財務報告基準等の定めに従い処理された在外子会社等の財務諸表を連結することとなります。IFRSでは、実務対応報告第46号の四半期の取扱いの規定は存在していないため、現地におけるエクスポージャーが連結財務諸表上、量的、質的重要性がある場合には、認識が必要となります。

また、企業が当事業年度の財務諸表作成時に入手可能な情報に基づき見積った金額と確定申告時に決算申告差が生じた場合には、各事業年度において財務諸表作成時に入手可能な情報に基づき当該法人税等の合理的な金額を見積っている限り、当該差額は誤謬にはあたらず、当期の損益として処理することになるとされています(BC11項)。当事業年度の財務諸表作成時に入手可能な情報としている点、決算期間中の連結会計と税務担当者とのタイムリーな情報連携及び事前の見積方法の確立が重要と考えます。


Ⅳ 3月連結決算企業グループにおける会計認識・申告タイミング

企業会計基準第22号「連結財務諸表に関する会計基準」(注4)の定めに従い、連結財務諸表に取り込んでいる在外連結子会社の決算が12月である場合や、現地税法上の年度が暦年であるような場合には、現地法人所在国におけるグローバル・ミニマム課税制度の(実質的な)法制化状況及び、法令を理解し、現地グローブ課税計算への影響に留意が必要です(<図1>参照)。

図1 3月連結決算企業グループにおける会計認識・申告タイミング

図1 3月連結決算企業グループにおける会計認識・申告タイミング
*実務対応報告第18号「連結財務諸表における在外子会社等の会計処理に関する当面の取扱い」の当面の取扱いを用いる場合は、国際財務報告基準等の定めに従い処理された在外子会社等の財務諸表を連結決算に利用することとなる。
(EYにて作成)

Ⅴ 12月連結決算企業グループにおける会計認識・申告タイミング

本邦におけるグローバル・ミニマム課税開始は24年4月1日以降開始事業年度とされており、12月決算の企業は、25年1月1日より課税が開始されることとなります。一方、構成事業体所在国において、24年1月1日以降開始事業年度より現地QDMTT及びIIRの課税が開始しているケースがあります。その場合、24年12月期の四半期より会計上の認識の有無の判定が必要となります。また、構成事業体所在国における初年度グローバル・ミニマム課税情報申告及び申告納付期限は、26年3月末もしくは6月末(初年度)となり、適用次年度は、27年3月末となります。本邦における初年度申告よりも早いタイミングで初年度及び次年度申告が必要となる点、留意が必要です(<図2>参照)。

図2 12月連結決算企業グループにおける会計認識・申告タイミング

図2 12月連結決算企業グループにおける会計認識・申告タイミング
*実務対応報告第18号「連結財務諸表における在外子会社等の会計処理に関する当面の取扱い」の当面の取扱いを用いる場合は、国際財務報告基準等の定めに従い処理された在外子会社等の財務諸表を連結決算に利用することとなる。
(EYにて作成)

Ⅵ おわりに

グローバル・ミニマム課税制度は複雑であり、それぞれの会計基準で新しく設けられた要求事項に対応する必要があります。企業が財務諸表への影響を評価し、エクスポージャーを適切に管理するためには、国際税務体制の構築、人材の確保、テクノロジーの活用、連結会計と税務の連携強化をすることが求められます。


サマリー 

グローバル・ミニマム課税の発効に伴い、企業が会計上留意し、準備を進めるべき点を解説しました。


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