ビジネスパートナーとなるための未来のアシュアランスとは?

情報センサー2024年2月 デジタル&イノベーション

ビジネスパートナーとなるための未来のアシュアランスとは?


デジタル監査とファイナンスDXが共創するとどのような価値が生まれるのか、事例を交えて解説するとともに、ビジネスパートナーとしての未来のアシュアランスサービスについて考察します。


本稿の執筆者

EY新日本有限責任監査法人 アシュアランスイノベーション本部 公認会計士 加藤 信彦

製造業、金融業の会計監査、アドバイザリー業務に従事。2017年からデジタルリーダーとして会計監査DXをリード。23年からは宇宙ビジネス支援オフィスSpace Techプロジェクトにも関与。イノベーション戦略部およびAIラボ部長。



要点

  • デジタル監査がファイナンスDXにどのように貢献するか
  • ファイナンス部門のDXとの共創事例の紹介
  • ビジネスパートナーとなるための未来のアシュアランスとは


Ⅰ はじめに

EYは、監査法人と被監査会社のファイナンス部門が共創しながらデジタルトランスフォーメーション(DX)を進めることで、双方にとって新たな価値が生まれると考えています。監査のDXがどのように被監査会社への付加的な価値提供(監査対応負荷の軽減、リスクの検知やインサイト提供など)につながるかについて、連載でお伝えしてきました。

本稿では、ファイナンス部門のDXと共創して付加価値を提供した事例を紹介するとともに、ビジネスパートナーとしての未来のアシュアランスサービスについて考察していきます。 2022年12月に寄稿した情報センサー「ファイナンスDXと共創するデジタル監査の新潮流」で紹介した、ファイナンス部門の各役割(スコアキーパー、カストディアン、コメンテーター、ビジネスパートナー)に対してデジタル監査がどのような価値を提供できるのかについて、<図1>の通り、具体的に解説していきます。

 

図1 ファイナンス部門の役割変化に応じたデジタル監査の価値

図1 ファイナンス部門の役割変化に応じたデジタル監査の価値

Ⅱ ファイナンス部門のDXとの共創事例

1. スコアキーパー

決算早期化を目指す製造業の監査の事例では、ファイナンス部門の協力を得て、被監査会社のERPシステムへのデータ抽出ツール(EYが無償提供)のインストール、データ抽出ツールの操作を自動化するツール(被監査会社が開発)やデータ転送ツール(EYが無償提供)の導入でリアルタイムなデータ自動連携ソリューション「EYリアルタイムコネクト」(情報センサー2023年7月号及び8月・9月合併号)を実現しています。監査チーム側でのデータ抽出・転送・加工の工数削減だけでなく、被監査会社側でのデータ抽出・転送など監査対応負荷を軽減しています。

また、財務データの分析頻度が四半期ベースから週次ベースになったことに伴い、EY新日本がAIを活用して開発した「会計仕訳異常検知ツール(GLAD)」(情報センサー2023年12月号)を高頻度で実施することが可能となり、通常と異なる傾向を持つ仕訳を早期に抽出できるようになりました。監査チーム側では、被監査会社のビジネスの変化を早期に識別できるだけでなく、監査で必要となる資料の依頼や質問を迅速に行うことができるようになったため、売上の二重計上など会計処理の誤りや内部統制上の課題にいち早く気付くことができ、ファイナンス部門による仕訳起票部署へのモニタリングにも間接的に貢献することが可能となりました。


2. カストディアン

海外に多くの子会社を有するテクノロジー企業の監査の事例では、ファイナンス部門の協力により、EY新日本がAIを活用して開発した「連結グループ財務諸表分析ツール」(情報センサー2023年2月号)で全ての連結子会社の試算表を分析しています。そこでは複数年度の財務指標推移により、金額的に重要性の低い海外子会社において、棚卸資産回転期間(棚卸資産/売上高)は年々増加、営業利益率は年々上昇している傾向が見られました。想定されるリスクとしては、本来売上原価もしくは販売費及び一般管理費に含めるべき費用を棚卸資産に含めることで費用を繰り延べることが考えられますので、監査計画上は監査の範囲外の海外子会社ではあったものの、現地監査人である海外EYと連携して詳細な調査を実施しました。監査チーム側のリスクの検知だけでなく、ファイナンス部門による海外子会社のモニタリングにも役立っています。

また、購買取引に関するイベントデータ(システム上に記録された時系列なデータ)分析のためにEYが開発した「EY Helix Process Mining Purchase to Pay Analyzer」(情報センサー2023年5月号)により、内部統制の評価において購買取引の承認に要した時間の分析(異常な取引の検知)やイベントデータに登録されている人員に着目した分析(異常な職務分掌の把握)を行うことが可能となっています。具体的には、長期間未検収となっている取引(債務の計上漏れの可能性など)や発注と検収の分離がない取引(物品の横領や架空仕入れによる金銭の着服)につき、購買部門やファイナンス部門と協議することで、ファイナンス部門による購買部門のモニタリングにも間接的に貢献することが可能となりました。


3. コメンテーター

多店舗展開する小売業の監査の事例では、ファイナンス部門の協力により、EY新日本がAIを活用して開発した「拠点損益異常検知ツール(BranchAD)」(情報センサー2023年1月号)で全ての店舗の損益を分析しています。主に、店舗の固定資産の減損損失を回避するために赤字店舗の経費を黒字店舗に付け替えしていないかについて、店舗別売上や原価の予測値と実績値の時系列推移分析や減損回避リスクと店舗別固定資産の帳簿価額及び営業利益の関係性に基づく分析により、減損回避リスクの高い店舗の洗い出しなどリスクの検知のために活用しています。最近では、店舗別損益の予測機能を活用して、ファイナンス部門も気付かなかった特定店舗の売上や原価の異常な動きをインサイトとして提供することで、ファイナンス部門の店舗管理の高度化にも間接的に貢献することが可能となりました。

海外からも多くの工事案件を受注している建設業の監査の事例では、ファイナンス部門の協力により、EY新日本がAIを活用して開発した「進捗(しんちょく)度異常検知ツール(PPAD)」(情報センサー2023年3月号及び4月号)で工事案件の進捗度や工事原価を分析しています。主に不自然な工事進捗度の推移を検知する他、工事原価総額が工事収益総額を超過する工事の予測、不自然なタイミングで発生している工事原価の検知などリスクの検知のために活用しています。最近では、過去の工事案件のデータからAIが予測した推定進捗度の特徴量を分析して、工事内容や工事期間、担当部署など、どのような特徴量が推定進捗度にどのくらい影響を与えているのかを分析しています。工事の経過期間の割合と測定時における進捗度の相関関係を、特徴量が類似した過去の工事案件と比較しながら検証することで、異常な進捗度の要因分析に活用しています。これらの分析結果を基に、ファイナンス部門とコミュニケーションをとり、インサイトとして提供することで、ファイナンス部門による工事担当部署のモニタリングにも間接的に貢献することが可能となりました。その他、宇宙から地球観測衛星で撮影した高解像度の衛星画像データにAI/機械学習を組み合わせて、工事進捗度の予測に活用する研究を開始※1しています。

※1 スペーステックの好機~地上ビジネスの課題解決で宇宙へ乗り出す理由とは


Ⅲ ビジネスパートナーとしてのアシュアランスサービスの未来

ファイナンスDXの進展により監査で利用できるデータやテクノロジーは今後も進化していきますが、EY新日本では未来の監査・保証業務をイメージした動画シリーズをウェブサイト※2上で公開しており、被監査会社のファイナンス部門のDX人材(<図2>参照)がマネジメントやガバナンスのビジネスパートナーとしての役割を果たすために、監査法人のDX人材(<図3>参照)と共創していく様を描いています。動画に登場するファイナンス部門のDX、監査法人のDXに必要な人材要件は以下の通りです。

※2 EY新日本の目指す Assurance 4.0

 

図2 ファイナンス部門のDXに必要な人材要件の例示

図2 ファイナンス部門のDXに必要な人材要件の例示

出典:「データドリブン経営 -PDCAサイクルからの昇華-」(情報センサー 2022年6月号)


図3 監査法人のDXに必要な人材要件の例示

図3 監査法人のDXに必要な人材要件の例示

出典:「ファイナンスDXと共創するデジタル監査の新潮流」(情報センサー 2022年12月号)


1. 海外子会社における売上取引の不正をファイナンス部門とEY会計士の連携で発見(<図4>参照)

 

図4 2020年中頃の未来の監査動画 Smart Audit A-202X episode 0

図4 2020年中頃の未来の監査動画 Smart Audit A-202X episode 0


2. 買収した子会社における売上取引の不正をファイナンス部門とEY会計士・専門家の連携で発見(<図5>参照)
 

図5 2020年代後半の未来の監査動画 Smart Audit A-202X episode 1

図5 2020年代後半の未来の監査動画 Smart Audit A-202X episode 1


3. サステナビリティ開示における誤謬(ごびゅう)をファイナンス・ESG部門とEY会計士・専門家の連携で発見(<図6>参照)

図6 2030年代の未来の監査・保証動画 Smart Audit A-203X episode 2

図6 2030年代の未来の監査・保証動画 Smart Audit A-203X episode 2


Ⅳ おわりに

2022年3月から2年間にわたり掲載したファイナンスDXシリーズの最終稿となる本稿では、ファイナンス部門の各役割(スコアキーパー、カストディアン、コメンテーター、ビジネスパートナー)がデジタル監査と共創することでどのような価値を生み出すのか、現在の具体的な事例だけでなく、将来想定されるケースをもとに解説してきました。

最近では、DXを進める被監査会社に対して、デジタル監査による付加価値だけでなく、デジタル人材への変革やデジタルトラスト※3(データやテクノロジーを利用した被監査会社の内部統制(サイバーセキュリティ、データガバナンスなど)に対して第三者の立場で助言、評価、保証する業務)による価値提供の事例も増えてきました。

  • CX(顧客体験)の専門家と連携して、ファイナンス部門のデジタル人材変革のワークショップを開催
  • サイバーセキュリティの専門家と連携してサイバーリスクの課題を経営者やガバナンスに提言
  • データガバナンスの専門家と連携してデータマネジメントの課題を経営者やガバナンスに提言
  • Web3.0ビジネスに関連した会計・監査の動向をナレッジとして対外発信

その他、EYのパーパス(存在意義)であるBuilding a better working world(より良い社会の構築を目指して)を実現するために当法人は2023年12月には監査法人内に宇宙ビジネス支援オフィスを新設し、宇宙・衛星データ※4の監査・保証業務への活用やデータそのものの信頼性確保に向けたサービス(Space Tech)を開始しました。日本の宇宙ビジネスの発展を支え、サステナビリティの観点で地球環境を守るためにも未来のアシュアランスサービスで貢献していきます。

※3 EY Digital Trust
※4 宇宙からの視点が戦略的優位性にどのような影響をもたらすか


サマリー

ファイナンス部門の役割(スコアキーパー、カストディアン、コメンテーター、ビジネスパートナー)に応じたデジタル監査の価値とは何か、未来のアシュアランスではどのように貢献していくのが具体的な事例や将来想定されるケースをもとに解説します。


情報センサー

EYのプロフェッショナルが、国内外の会計、税務、アドバイザリーなど企業の経営や実務に役立つトピックを解説します。


EYの最新の見解

スペーステックの好機~地上ビジネスの課題解決で宇宙へ乗り出す理由とは

アメリカ航空宇宙局(NASA)出身のBrian Killough博士がEYに加わりました。その専門知識とオープンサイエンスへの情熱をEYでも生かし、スペーステックの力を最大限に活用して地上のビジネス課題の解決を目指します。

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<前編>リアルタイム監査が企業の変革にもたらす価値とは ~デジタルの変革~

EY新日本は、企業のビジネスパートナーとして、サプライズのない監査や、経理部門の監査対応の効率化の実現を目指しています。対談シリーズ第1弾となる今回は、「リアルタイム監査」をテーマに、それが企業にどのような価値をもたらすのかを探っていきます。

ファイナンスDXと共創するデジタル監査の新潮流

EY Japan】ファイナンスDX(ファイナンス業務の変革)とデジタル監査(監査業務の変革)が共創するとどのような価値が生まれるのか、ファイナンス部門の役割の変化やDX人材の育成の観点から解説します。


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