シリーズ:デジタル×ヒトで未来の監査・保証を創る
<後編>リアルタイム監査が企業の変革にもたらす価値とは ~ヒトの変革~
執筆者
加藤 信彦
EY Japan アシュアランスデジタルリーダー EY新日本有限責任監査法人 アシュアランスイノベーション本部 パートナー
市原 直通
EY新日本有限責任監査法人 AIリーダー アシュアランスイノベーション本部 パートナー
原 貴博
EY新日本有限責任監査法人 アシュアランスイノベーション本部 Automation COE リーダー
EY新日本が進めるアシュアランスイノベーションにより、どのような未来の監査・保証のかたちが生まれるのか。「デジタル×ヒトで未来の監査・保証を創る」をテーマにした対談シリーズの第1弾の後編として、企業のDXとリアルタイム監査を実現させる「ヒトの変革」に焦点をあててお話しします。
続きを読む
表示を閉じる
要点
データドリブン経営/監査に向けた財務・経理DXと監査DXの「共創」が重要 組織の中でデジタル人材・テクノロジー人材が活躍・定着するための仕組みを創る 企業だけでなく資本市場やデジタル社会に貢献するための変革を目指す
続きを読む
表示を閉じる
―AIの時代にヒトに求められる役割とは?
井上:
AIなど目覚ましい進化が注目される一方で、各領域でのヒトの役割や仕事はどのように変わっていくのでしょうか?
これを脅威ではなく好機と捉えて、ヒトの価値を高めていくための戦略・施策の見直しや対応を行い、組織の競争力の強化に結び付けることが重要と考えます。
私たちEY新日本も監査業務のDXの中で、組織とヒトの変革を進めていますが、人材戦略の再構築、マインドセットと行動の醸成、リテラシーの向上、役割の整備、専門性の強化・拡大、制度や環境整備など領域はさまざまです。
企業でも同様にデジタル人材の育成や組織変革を急ぐ動きがありますが、今回はそうしたヒトの役割の変革が社会や企業の長期的価値の向上にどのように結び付いていくかについてお話ししてまいります。
続きを読む
表示を閉じる
―ヒトの変革、役割の高度化
井上:
前編の「デジタルの変革」の対談 では、企業がデータドリブン経営 を実現させるためには、財務・経理部門の役割の変革がカギであること、そして、私たちEY新日本が進める監査DXと「共創」(共に新たな価値を創る)しながらデータを利活用いただきたいとお話ししました。では、「ヒト」の面ではどのような変革が求められているのでしょうか?
続きを読む
表示を閉じる
加藤:
共創による付加価値を提供するためには、双方で、データドリブン経営、データドリブン監査を目指すという共通目標を掲げた上で、デジタルの変革だけでなくヒトの役割も変革していく必要があります。データドリブン経営を実現するため、財務・経理の専門スキルだけでなく、デジタルスキルを習得したデジタル人材へと変革していくことが求められています。
続きを読む
表示を閉じる
加藤:
以下のデータドリブン経営の実現に必要なピープルへの備えの図を参照ください。これは組織として競争優位性を発揮するために財務・経理部門が備えておくべき人材としてEYが提案するもので、縦軸にビジネスリテラシーとデジタルリテラシー、横軸に実務家と戦略家に分け、2軸4象限で網羅しています。
続きを読む
表示を閉じる
(データドリブン経営の実現に必要なピープルへの備え)
続きを読む
表示を閉じる
―会計士とテクノロジー人材のコラボレーションで価値を生む
井上:
データドリブン経営を実現するためには、ビジネス戦略に合わせた人材戦略の立案と整合、そして必要な人材の配置が重要ということですね。私たちEY新日本でもデータドリブン監査の実現に向けて、アシュアランスイノベーション本部 がヒトの変革を主導していますが、具体的な取り組みを説明いただけますか。
加藤:
データドリブン監査においても、組織にとって必要な人材要件を定義した上で、人材要件ごとにポートフォリオ(構成比)を設定しています。その上で、監査プロフェッショナルのうち、監査のコア業務をリードする人材には、最低限のデジタルリテラシーを身に付けてもらうとともに、デジタルリテラシーの高い人材(デジタル人材)には、データドリブン監査をリードする役割を担ってもらっています。その上で、テクノロジー領域に強みをもった専門家(テクノロジー人材)と連携することでデータドリブン監査を進めています。
アシュアランスイノベーション本部を3年前に立ち上げましたが、当初の400名から現在では792名(23年6月現在)まで増えていて、環境も整ってきたと言えます。
(データドリブン監査の実現に必要な人材要件の定義)
続きを読む
表示を閉じる
井上:
テクノロジー人材といっても、事業会社やITベンダー出身のエンジニアやサイエンティストだけでなく、私のようにテクノロジーを通じて顧客体験価値を向上させることをミッションとしているデジタルテクノロジーストラテジストもいます。ビジネスやプロセス変革の目的整理や関係者との協働関係づくりを含めたビジネスを構築・推進するアーキテクトとしての役割や、顧客・ユーザー視点に立ってサービスを設計するデザイナーとしての役割を担う側面もDX実現には必要になるからです。
EY新日本に所属する多様なプロフェッショナルが連携することでイノベーションが生まれている1 と感じています。
こうしたヒトの変革に合わせた環境や制度整備の面での事例も紹介ください。
続きを読む
表示を閉じる
加藤:
EYはパーパス経営 を進めており、組織のパーパス「Building a better working world ~より良い社会の構築を目指して」と個人のパーパスを結び付けるための変革の中で、キャリアのフレーム化 を進めています。監査業務の分業化 が進み、会計士やIT専門家など監査プロフェッショナルのほかに、CoE(Center of Excellence)、デジタル人材、テクノロジー人材も監査業務に関与しています。EYはグローバルベースで9つの領域でキャリアを整備していますが、監査やテクノロジーのキャリアフレームワーク もその一部です。監査プロフェッショナルやテクノロジー人材として入社しても、さまざまなキャリアを選択でき、そのキャリアの中で成長していくために必要なテクニカルスキルやビジネススキルが明確に定義されていて、どのようにスキルを磨いていけばよいかということが社内に公開されています。
続きを読む
表示を閉じる
ー「デジタル×ヒト」で未来の監査・保証の新たな価値を創る
続きを読む
表示を閉じる
井上:
前編でも触れたリアルタイム監査ですが、それを実現した監査法人や監査業界は、企業、資本市場、デジタル社会にどのような価値をもたらすことになるのでしょうか?ヒトの役割も交えながら解説をお願いします。
市原:
これまでの監査は事後的なチェックというものだったので、ある種、カストディアン(資産保全とガバナンス)の位置づけだったと言えます。それがリアルタイムにリスクを識別、インサイトを提供することで経営の意思決定に貢献できる可能性が広がります。つまり、ビジネスパートナー(意思決定と価値向上)としてクライアントに貢献できるようになってくるのです。そういう観点で、財務・経理部門の皆さまも監査DXを活用するというのは一つの将来像として考えられるかと思います。
原:
いま私たち監査業界のリソース不足により、上場したい企業が上場できないという問題が生じていますが、リアルタイム監査の仕組みによってその解決にもつながります。また、現在は会計士がかなりの時間を割いてデータクレンジングをしていますが、それがなくなることで、会計士は本来やるべき異常値の発見、問題があるのかないのかの判断に時間を割けることになります。それは、監査業界全体への信頼性向上につながるでしょう。また、クライアントの皆さんになぜ監査人がこう考えているのかをコミュニケーションする時間ができてきます。
加藤:
‘アナログ’内部統制から‘デジタル’内部統制へのトランスフォーメーションが進んでいくにつれて、データの改ざん、データの流出、プロセスのブラックボックス化など新たなリスクが発生します。「越境データ流通と信頼性のある自由なデータ流通(DFFT:Data Free Flow with Trust)」や「責任あるAIとAIガバナンスの推進」など「G7デジタル・技術閣僚宣言 」(出典:内閣府ホームページ、2023年6月19日アクセス)に記載されているとおり、企業の信頼を守るための対策として、サイバーセキュリティ、データガバナンス、信頼されるAIなどデジタルに関する内部統制の構築が必要になってきますので、監査業界として貢献できる領域は拡大すると思います。EY新日本では、これまで財務報告に係る内部統制で培った知見を生かしてDXリスクへの対応をインサイトとして提供できるように、監査法人内でデジタルトラスト 人材を育成するとともに、デジタルトラストの取り組みを進める大学や関連団体との連携を強化しています。
(Digital Trust-DXリスクから企業の「信頼(トラスト)」を守るための対策とは)
続きを読む
表示を閉じる
出典:EY新日本
市原:
資本市場という観点では、将来的に方法論や技術の面から財務情報に対するアシュアランスがよりタイムリーになされるようになると、その財務情報の開示がニュース情報とタイムラグがなくなることで、より効率的な市場の形成に貢献できるのではないかと思っています。今は資本市場つまり株価は定期的な決算発表よりも日々リリースされるニュースで動いていて、そこで織り込まれなかった情報をどの程度決算発表が提供し、株価に影響を及ぼし得るかというのは限定的だという話もあります。ニュースが出たときに財務的エビデンスや、経営者たちがそれに対してどう将来を見ているのかという情報が財務数値の形で同時に提供されれば、過剰反応・過小反応を抑えた投資判断ができることになり、健全で効率的な資本市場が形成されるのではないでしょうか。まさに会計士の使命である、国民経済の健全な発展に寄与できます。
―統合報告のDXと包括的な保証業務への発展
加藤:
そうですね、‘財務報告’の新たな形を資本市場は評価するかもしれません。最近ではサステナビリティなど非財務情報への関心が高まっていますので、‘財務報告’から‘統合報告’に対するデジタルトランスフォーメーションも重要です。「デジタル」を活用すれば、「ヒト」では見きれない領域までデータを使って踏み込んでいけるので、リスクを早めに検知するという意味でサプライズのない経営(財務・経理部門)や監査(監査法人)が可能になります。財務・経理部門は、将来の財務情報につながる非財務情報の開示についても財務的視点から助言できますので、資本市場に対してより価値のある情報を開示することが可能となります。私たち監査人の立場で言うと、現在、非財務情報の保証 は限定的にしかできていませんが、今後はデジタルを活用して、非財務情報を含めた統合報告に対して包括的に保証できる仕組みに変えていく。これは監査法人、監査業界の役割として必要になってくると考えています。そのためにEYグローバルでは前述した次世代のアシュアランスプラットフォーム に10億米ドルを投資して、財務情報に対する監査だけでなく非財務情報に対する保証業務を同時に提供できるよう準備しています。
(包括的な保証業務のイメージ)
続きを読む
表示を閉じる
―業界の壁を越えた連携による発展と持続可能な仕組みづくり
井上:
デジタル社会や資本市場が求める形にビジネスも私たち監査法人も変革して最適化していく必要がありますが、持続可能な仕組みづくりを行うことでさらに発展していけるのではと思います。国内外ではどのような動きがあるのでしょうか?
加藤:
海外では‘一つの組織や企業’から‘社会全体のエコシステム(生態系)’の最適化へのトランスフォーメーションが進んでいます。経済産業省「DXレポート2.1 」(出典:経済産業省「DXレポート2.1」、2023年6月19日アクセス)では、目指すべきデジタル産業の業界構造形態の一つとして、個別業界の共通プラットフォームや、業界横断の共通プラットフォームを挙げています。「共通プラットフォーム」を「企業が経営資源を競争領域に集中するため、自社の強みとは関係の薄い協調領域を業界内の他社と合意形成してプラットフォーム化することで、IT投資の効果を高めることが期待される」ものと定義し、共通プラットフォームの利用意向について日米の企業に聞いています(DX白書2023図表5-25)が米国では4割を超える企業がすでに利用しているのに対し、日本では、1割にも満たない状況です。
続きを読む
表示を閉じる
加藤:
日本で導入されている業界横断の「共通プラットフォーム」に関して、従来導入されていた地方銀行の勘定系システムもクラウド化でさらなる共通化を進める予定ですし、「電子インボイスの導入でバックオフィス業務全体のデジタル化を実現する取り組み 」が会計ベンダーを発起人として始まっています。監査業界でも大手4法人で会計監査確認センター2 を設立して確認状の発送回収に関する事務的な作業を監査業界全体にサービス提供しています。これまでなかったことですが、社会全体のエコシステムを考え、競争領域以外については各企業、監査法人で同じことを行っているなら、一緒にやったほうがいいよね、という発想です。また、今後のサステナビリティ情報の開示において、サプライチェーン排出量 (出典:環境省「サプライチェーン 排出量算定の考え方」、2023年6月19日アクセス)のスコープ3では上流、下流の取引先の排出量まで開示しなければならないようになりますので、一つの組織や企業だけではなく、エコシステム全体を最適化した上で、モニタリングする、第三者が評価するための仕組みが必要になると考えています。
原:
EY新日本としても近い将来の監査DXの発展に向けて、デジタルインボイス協議会に加盟してEDI(電子データ交換)から監査証拠となる請求、入金データの入手可能性を検討しています。
続きを読む
表示を閉じる
(デジタルインボイス推進協議会が目指すバックオフィス業務全体のデジタル化の実現)
続きを読む
表示を閉じる
加藤:
エコシステム全体の監視という意味では、サステナビリティ情報の開示に対する合理的な保証に向けて、EYでは宇宙から撮影した高解像度の衛星画像データにAI/機械学習を組み合わせたツール(EY Space for Earth )を活用し、建物の時系列や地球の気候変動や生物多様性など地球環境の変化を監視する取り組み(Space Tech )を進めています。EY新日本では建設業や不動産業の監査における工事進捗度予測に利用する研究を進めるほか、EYオーストラリアでは、都市インフラや水資源、緑化の状況の変化などサステナビリティに活用する取り組みを始めています。
(衛星画像データとAI/機械学習を組み合わせた画像解析ツール「EY Space for Earth」)
続きを読む
表示を閉じる
出典:EY Space for Earth
井上:
「デジタル×ヒトで未来の監査・保証を創る」をテーマにした対談シリーズの第1弾としてお送りしましたが、まずはリアルタイム監査を基軸にさまざまな話に触れてまいりました。次回以降では、個別のテーマにフォーカスをしてどのようにして未来のサービスを創っていくのか、お話ししていきたいと思います。
続きを読む
表示を閉じる
サマリー
データドリブン経営の実現に向けて「ヒト」を変革するためには、自社にとって必要な人材の要件定義と人材ポートフォリオを作成し、新たなスキルを習得していくことが重要です。また、監査法人や業界の壁を越えたエコシステムの構築でデータやテクノロジーの信頼性が担保され、安心安全なデジタル社会へと発展していきます。EY新日本ではこうした新しいニーズに対応すべく、財務情報に対する監査だけでなく非財務情報に対する保証業務を同時に提供できるよう次世代プラットフォームの開発を進め、資本市場の信頼性の向上やデジタル社会の健全な発展に貢献してまいります。
続きを読む
表示を閉じる
未来のステークホルダーへのインタビュー
もし、2030年の未来で活躍するEYメンバー・クライアント・投資家へのインタビューが実現したら……。
Assurance 4.0が実現している世界では、非財務報告の保証や膨大な財務/非財務データの標準化・集約化はどこまで進んでいるのでしょうか。
EYに所属する多様な専門家の役割や、投資家の期待とは? 2030年、未来のステークホルダーからのメッセージをご覧ください。
続きを読む
表示を閉じる
EYパートナー編
監査・保証業務を包括的に担当する未来のパートナーへのインタビュー動画です。
続きを読む
表示を閉じる
クライアント編
監査・保証業務を委嘱する未来のクライアントへのインタビュー動画です。
続きを読む
表示を閉じる
投資家編
グローバル企業に投資する未来の投資家へのインタビュー動画です。
続きを読む
表示を閉じる
この記事について
執筆者
加藤 信彦
EY Japan アシュアランスデジタルリーダー EY新日本有限責任監査法人 アシュアランスイノベーション本部 パートナー
市原 直通
EY新日本有限責任監査法人 AIリーダー アシュアランスイノベーション本部 パートナー
原 貴博
EY新日本有限責任監査法人 アシュアランスイノベーション本部 Automation COE リーダー
modal-close-button
Welcome to EY jp (ja)
You are visiting EY jp (ja)
jp
ja