建設業におけるデータビジュアル化による分析

情報センサー2023年4月号 デジタル&イノベーション/業種別シリーズ

建設業におけるデータビジュアル化による分析

建設業の企業に対する監査における、会計不正の手口に対応したビジュアルを用いたデータ分析手法について、具体例を用いて解説します。


本稿の執筆者

EY新日本有限責任監査法人 アシュアランスイノベーション本部 AIラボ 公認会計士 成行 浩史
ITコンサルティング会社を経て、当法人入社後は主に不動産業、製造業等の監査業務、またIFRS導入支援、内部統制助言等アドバイザリー業務に従事。2020年より異常検知システム等の開発・運用に従事し、Digital Auditの推進に取り組んでいる。

EY新日本有限責任監査法人 アシュアランスイノベーション本部 AIラボ 公認会計士 山本 誠一
ゼネコンの現場管理部門を経て、当法人入社後は主に製造業、サービス業、建設業の会計監査に従事。2018年より機械学習を用いた異常検知システム等の開発・運用に従事し、Digital Auditの推進に取り組んでいる。

EY新日本有限責任監査法人 不動産・ホスピタリティ・建設セクター 公認会計士 浅川 修
主に建設業や不動産業の会計監査に従事する他、建設セクターナレッジメンバーとして、執筆や研修、Digital Auditの推進を行っている。



要点

  • データ分析におけるポイント
  • 具体的なデータ分析手法(推移分析・工種別/地域別分析)

Ⅰ はじめに

これまでの連載で、監査のデジタルトランスフォーメーション(DX)がどのように被監査会社への価値提供(リスクの適時把握やインサイト提供など)につながるかをお伝えしてきました。本誌2023年3月号「請負業における機械学習を活用したデータ分析」では請負業における機械学習を活用したデータ分析手法を紹介しましたが、本稿では、ビジュアルを活用したデータ分析手法について、建設業における具体例を用いて解説します。

Ⅱ 建設業におけるデータ分析

1. データ分析におけるポイント

建設業は、通常、進捗(ちょく)度に基づき一定の期間にわたり収益を認識することになり、進捗度は発生原価に基づくインプット法により算定します。

進捗度に応じた収益を認識するに当たり、原価の付け替えや見積工事原価総額の恣(し)意的な操作といった不正リスクが考えられます。そのため、建設業においては特に進捗度の推移に着目し、定性的な情報を含めて多角的なデータ分析を行うことにより、通例ではない動きの工事や取引を識別することが重要です。

2. データ分析手法

通例ではない動きが生じている工事や取引を識別するためには、例えば次のような分析手法が考えられます。

(1) 進捗度と工事期間の経過割合の推移分析

通常の工事契約を前提とすると、工事期間の経過に伴い、進捗度は増加します。両者の推移および相関を確認し、外れ値を把握するために、<図1>のようなグラフで可視化することが効果的です。赤枠は明らかに他のプロジェクトと推移の傾向が外れていることが分かります。

図1 進捗度と工事期間の経過割合の関係

(2) 進捗度と工種別原価明細の推移分析

工事は施工部門が作成した工程表に基づき行われ、工事内容に応じた原価が発生します。例えば、(1)で識別した通常の理解から外れている工事などについて、<図2>のように、進捗度計算に関連する各構成要素(工事原価総額、既発生工事原価累計額(発生原価))および工種別原価明細の複数期間にわたる推移を可視化し、工程表と比較分析することが効果的です。赤枠のように、進捗が著しく増加した案件に対して、その原価明細を分析することで工程表との不整合の把握が容易となります。

図2 進捗度の推移と工種別の原価明細

(3) 発生原価の工種別分析

(2)で工程表と整合しない発生原価を識別した場合には、通例ではない取引であるかを判断する上で、該当する工種について、発生時の進捗度と発生額により全体の傾向を可視化することが考えられます。

本誌23年3月号の<図2>で示している通り、通常の発生時期と異なる場合には、その実在性や合理性について、より慎重に検討することが必要です。

(4) 発生原価の地域別分析

(2)(3)の分析を通じて、通例ではない取引を識別し、特定の外注業者等に焦点を当てる場合、地域別の取引実績に着目する方法が考えられます。<図3>は特定の外注業者等について、関連する工事案件の場所、取引額をプロットしたものです。西日本の工事案件を中心に関与していますが、赤枠のように通常と異なるエリアの取引であれば、その実在性や合理性について、より慎重に検討することが必要です。

図3 特定の外注業者等が関連する工事原価発生額の地域別分布

Ⅲ おわりに

工事は個別性が強いため、通例ではない動きが生じている工事や取引を一律に定義付けることは困難です。しかし、収益に関連する各計算要素や工事の詳細データを利用して多角的に分析することにより、異常な取引の端緒を識別することが可能となります。

幾つかの建設会社にて、監査報告書の「監査上の主要な検討事項(KAM)」に「進捗度異常検知ツール」を利用している旨を記載していますように、建設セクターでは高度なデータ分析が浸透しつつあります。

建設セクターでは、本稿で紹介したデータ分析技法をはじめとして、機械学習を利用したさまざまなデータ分析を推進し、監査のDX化に向けてこれからも挑戦していきます。

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サマリー

建設業の企業に対する監査における、会計不正の手口に対応したビジュアルを用いたデータ分析手法について、具体例を用いて解説します。


情報センサー
2023年4月号

※ 情報センサーはEY新日本有限責任監査法人が毎月発行している社外報です。

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