EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
NYCWは英国の非営利組織であるクライメート・グループが主催する自由でルールに縛られない国際的な気候会議です。世界最大級の参加者数を誇り、多くの企業から注目を集めました。どのようなことが議論されたのか、参加者の視点からレポートします。
要点
2024年9月22日から29日まで開催され、今年で16年目の開催となったNYCW。開催時期が国連の年次総会と重なることもあり、官民含め幅広いリーダーが一堂に会し、世界的な気候変動問題への対応について議論する毎年恒例のイベントとして各国から注目を集めました。
この一週間は、持続可能な開発(SDGs)、気候変動対策、環境技術や環境政策の最新動向に焦点を当てた一連の会議やワークショップ、ネットワーキングなどがニューヨーク市内の各所で行われました。気候変動対策に効果的かつ包括的に取り組むため、企業、政府、NGO、一般市民などの協力を促進することが狙いです。
今年開催される気候変動枠組み条約締約国会議(COP29)は、場所の問題などもあり参加者が少ないことが想定されています。その一方で、今回のNYCWはビジネス界からの参加者が増え、気候変動に関する革新的な取り組みや進捗状況をアピールする機会となりました。
NYCWはその性質から参加やコミットメントを促し、民間目線での実践的な協議を行う側面があります。歴史的にみても気候変動と持続可能な開発に対して企業が大きなコミットメントを行う場となっており、今年のNYCWは「非公式な気候サミット」とも呼ばれています。その意味でも、海外の視点から気づきを得られたり、業種を問わずグローバルに関係を築けるネットワーキングの機会であったりするのです。
NYCWの今年のテーマは「It's Time」。気候変動対策のアクションを加速させることに焦点を当てたものでした。日本企業からの参加者も多く、関心の高さが伺われました。世界のVIPも多く訪れており、個人的には大統領選前でどんな雰囲気のイベントになるのか興味を持って参加しましたが、随所でポジティブかつ熱気ある議論が行われているのが印象的でした。
とりわけ印象深かったのは、オープニング・セレモニーの基調講演で、バハマのフィリップ・デービス首相が、「気候危機は単なる環境問題ではなく、人々の基本的人権に対する攻撃である」と述べたことです。気候変動は人権問題であり、協調的かつ公平な対応が必要であることを世界的に認識する必要があるとし、気候変動は世界人権宣言に謳われている固有の権利、すなわち生命への権利、自由への権利、人の安全への権利、健康と幸福のために必要な生活水準への権利に対する直接的な攻撃であるとしました。日本でも昨今、気温上昇や豪雨、干ばつなど気候変動が日常生活に与える影響を実感せざるを得ない局面が増えていますが、バハマのように気候災害の影響をより甚大に受けているグローバルサウスの指導者のスピーチは、非常に切迫感がありました。
また、NYCWのタイミングに合わせて、さまざまなアナウンスもありました。例えば、IFRS財団は、ISSB基準の適用を支援する自主的な適用に向けた手引き(“Voluntarily applying ISSB Standards—A guide for preparers”)を発行しています。この手引きには、移行措置の説明や比例原則の適用例のほか、ISSB基準の導入に向けた進捗を投資家に開示する重要性などが記載されています。近い将来、日本でもISSB基準に基づいたSSBJ基準が導入されることが想定されています。ISSBのエマニュエル・ファベール議長は、「この手引きは、企業がISSB基準を適用するガイドとなり、企業が有用な情報を投資家に提供するための費用対効果の高いツールである」と説明しています。
また、GFANZ(グラスゴー金融同盟)はトランジション・ファイナンスと脱炭素化への貢献方法に関するケーススタディを公表し、GFANZが掲げる4つの主要なトランジション・ファイナンス戦略において、金融機関がどのようにファイナンスを提供し、エンゲージメントを推進しているかについて先進的な事例を提供しています。
サステナビリティはグローバルな課題であり、その解決には国や地域、政府機関と民間、企業のサプライチェーンなどを跨いだ幅広い連携やエコシステムが重要になります。
気候目標を達成するためには、エネルギー転換、技術革新、資金、その前提となる情報開示などの面でさらなる前進をする必要があります。実際、今回のNYCWでも幅広いトピックについてさまざまな議論がなされました。
技術革新については、現在AIが最も変革的なテクノロジーの代表例として、気候変動問題への対応においても強力なツールとして大きな期待があります。AIの優れた能力の1つは、膨大なデータセットを分析し、パターンや実用的な洞察を見つけることです。
例えば、自然災害をより正確に予測できれば、早期警報システムが強化され、早期の避難措置をとることができます。また、衛星とビッグデータ分析によって、炭素排出量と森林破壊活動を正確に追跡し、作物の健康状態や土壌の状態を把握できるほか、気象パターンを分析することで、食料安全保障上のリスクを特定することもできます。
一方でAIは課題もあります。AIは大量の電力を消費するため、再生可能または低炭素な技術で稼働させなければ、炭素排出量が増加する恐れがあるのです。
また、気候変動と気候変動以外のサステナビリティテーマとの関係性を踏まえた全体最適を図ることも重要です。例えば、気候変動は、陸域、淡水域、海洋など自然資本に影響を与えており、生物多様性の劣化をもたらす主要な要因の1つとなっています。今回の”クライメート”ウィークにおいても、自然資本や生物多様性についてのトピックは数多く取り上げられました。また、サーキュラーエコノミーは、資源の採掘から加工、廃棄に至るライフサイクル全体の脱炭素化にもつながるため、急速に注目を集めています。さらに、気候対策を進める上での人的資本や人権といった社会的側面のネガティブ・インパクトの抑制も強調されています。
私たちが日常生活でも実感するほど気候変動の影響が顕在化する中、気候変動対策がもたらす恩恵をすべての人が確実に享受できるよう、あるいは社会的コストの負担に過度な偏りが生じないよう、公正な移行を進めるための施策が必要になっています。こうした中、企業は短期的な経済的利益と長期的な持続可能性のバランスを取り企業価値を向上させていくことが欠かせません。
NYCWを主催するクライメート・グループのCEOであるヘレン・クラークソンはオープニング・セレモニーで、It’s time(今こそ)... to put people first(人々を第一に考える)、... to pay up(資金を拠出する)、... to listen to citizens(市民の声に耳を傾ける)、... to be honest with ourselves (自分自身に正直になる)、... to have the difficult conversations with fossil fuels(化石燃料と難しい話し合いをする)と呼びかけました。
EYでは、気候変動問題に関する最新の課題や今後の取り組みのあり方などについて、先行して実務的でインサイトのある情報を提供し、インパクトのある議論を推進することで、こうしたグローバルな課題の解決に貢献ができると考えています。
NYCWでも「ネイチャーポジティブの推進」「戦略的気候変動リスクマネジメント」「エミッション・インポッシブル」を始めとした7つのイベントを開催し、800名を超える方に参加して頂きました。
これからも私たちEYは企業の戦略策定から、ガバナンスの強化、リスクの計測・管理、情報開示の支援及び保証の提供まで、クライアント企業のニーズに合わせた幅広いサービスを提供していきたいと考えています。私たちは新たな企業価値を創造しながら、同時に気候変動、自然資本、人的資本、人権などのサステナビリティ目標を達成するために必要な変革を支援していきます。
サステナビリティは取り組みが早ければ早いほど先行者利益が得られるものです。日本企業がサステナビリティを推進していく中で、ビジネスチャンスをつかんでいくには、「It’s time」今こそ対応が必要となっているのです。
企業は、短期的な経済的利益と長期的な持続可能性のバランスを取った企業価値の向上を図ることが欠かせません。EYでは企業の戦略策定からリスクの計測・管理、情報開示や保証までクライアント企業のニーズに合わせた幅広いサービスを提供しています。サステナビリティは取り組みが早いほど先行者利益が得られます。企業はビジネスチャンスをつかんでいくためにも、早めの対応が必要です。
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