EY新日本有限責任監査法人 公認会計士 大竹 勇輝
Question
2019年3月決算会社における「役員の報酬等」における業績連動報酬に関する情報及び「株式の保有状況」における保有目的が純投資目的以外の目的である投資株式の銘柄数等の情報の開示状況は?
Answer
【調査範囲】
- 調査日:2019年8月
- 調査対象期間:2019年3月31日
- 調査対象書類:有価証券報告書
- 調査対象会社:
2019年4月1日現在のJPX400に採用されている会社のうち、以下の条件に該当する216社
① 3月31日決算
② 2019年7月1日(法定提出期限)までに有価証券報告書を提出している
③ 日本基準を採用している
④ 連結財務諸表を作成している
【調査結果】
(1)「役員の報酬等」における業績連動報酬に関する情報
① 業績連動報酬が含まれているか否かに関する事例分析
調査対象会社(216社)を対象に、「役員の報酬等」において業績連動報酬が含まれているか否かについて開示状況を調査した。調査結果は、<図表1>のとおりである。
<図表1> 業績連動報酬が含まれるか否かの開示状況
役員の報酬等の種類別記載項目 (※1) | 会社数 |
固定報酬又は業績連動を含まない基本報酬 | 216 |
業績連動報酬 (※2) (※3) | 186 |
うち、業績連動報酬として株式報酬も記載しているが、「役員の報酬等」の記載において業績条件が付与されているか不明 |
6 |
株式報酬として記載しているが、業績条件が付与されているか不明 | 66 |
退職慰労金 | 17 |
(※1) 複数の項目を記載している会社はそれぞれ1社とカウントしている。
(※2) 業績連動部分が含まれる基本報酬もしくは賞与を記載している場合、又は業績連動報酬として株式報酬を記載している場合を含む。
(※3) 当期支給額がない場合においても、方針として業績連動報酬を導入している場合、又は2020年3月期以降導入予定である場合も1社としてカウントしている。
2018年6月に公表された金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」報告において、企業価値の向上に向けて経営陣にインセンティブを付与するため、近年、業績連動報酬の導入が進んでいる旨が記載されているとおり、業績連動報酬について、業績連動報酬である賞与及び株式報酬を含めて、186社(86.1%)が報酬として付与している結果となった。また、業績条件が付与されているかどうかは「役員の報酬等」の記載からは不明であり、業績連動報酬として開示していないが、ストック・オプション制度、役員向けの株式交付信託制度、又は譲渡制限付株式報酬制度等の株式報酬について導入している会社も66社(30.6%)あった。
② 業績連動報酬に係る指標、当該指標を選択した理由の事例分析
「①業績連動報酬が含まれているか否かに関する事例分析」の結果を踏まえて、業績連動報酬が含まれる会社186社を対象として、当該業績連動報酬に係る指標、当該指標を選択した理由をどのように開示しているかについて開示状況を調査した。調査結果は、<図表2>及び<図表3>のとおりである。
<図表2> 業績連動報酬に係る指標の開示状況
記載項目 |
会社数 |
業績連動報酬に係る指標を記載している | 166 |
具体的な指標は記載せず、業績等を総合的に勘案して決定している旨を記載している | 20 |
<図表3> 指標を選択した理由の開示状況
記載項目(※) | 会社数 |
会社業績との連動性、又は事業活動の最終的な成果等、業績との関連性を理由としている | 54 |
中期経営計画等において目標として設定していることを理由としている | 41 |
株主目線での経営を促すこと、又は経営者に対するインセンティブを付与することを理由としている | 31 |
企業価値の向上を評価する指標であることを理由としている | 26 |
会社として重要視している指標である旨のみを理由としている | 4 |
その他 | 8 |
(※) 複数の理由を記載している場合には、それぞれ1社としてカウントしている。
(2)「株式の保有状況」における保有目的が純投資目的以外の目的である投資株式の銘柄数等の情報
調査対象会社(216社)を対象に、「株式の保有状況」における保有目的が純投資目的以外の目的である投資株式の銘柄数について、前事業年度から増加した場合には、増加理由の記載が求められることから、当該増加理由の開示状況も調査した。調査結果は、<図表4>のとおりである。
<図表4> 銘柄数の増加理由
増加理由 | 非上場株式 | 非上場株式以外 |
取引先との関係強化及び業務提携に関する理由 | 51 | 59 |
企業価値の向上及び事業戦略上の理由 | 32 | 16 |
株式の取得、増資の引受又は株式分割等の旨のみ | 14 | 9 |
取引先持株会に加入していることによる取得 | - | 30 |
その他 | 15 | 7 |
合計 | 112 | 121 |
(旬刊経理情報(中央経済社)2019年11月1日号 No.1560「2019年3月期有報における記述情報の開示分析」を一部修正)
この記事に関連するテーマ別一覧
2019年3月期 有報開示事例分析
- 第1回:定率法から定額法への変更 (2020.02.07)
- 第2回:連結納税制度 (2020.02.07)
- 第3回:決算期変更 (2020.02.07)
- 第4回:税効果会計基準の一部改正(発生原因別内訳における評価性引当額の区分及び重要な変動の内容) (2020.02.07)
- 第5回:繰延税金資産を回収可能と判断した主な理由 (2020.02.07)
- 第6回:「収益認識に関する会計基準等の早期適用」及び「未適用の会計基準等の注記の開示」 (2020.02.07)
- 第7回:繰越欠損金に係る繰越期限別の数値情報 (2020.02.07)
- 第8回:非財務情報(MD&A) (2020.02.07)
- 第9回:非財務情報(早期適用) (2020.02.07)
- 第10回:監査の状況 (2020.02.14)
- 第11回:会社法開示比較① (2020.02.14)
- 第12回:会社法開示比較② (2020.02.14)
- 第13回:総会前提出 (2020.02.14)
- 第14回:非財務情報「役員の報酬等」及び「株式の保有状況」 (2020.02.14)
- 第15回:役員の報酬等 (2020.02.14)