2019年3月期 有報開示事例分析 第5回:繰延税金資産を回収可能と判断した主な理由

2020年2月7日
カテゴリー 解説シリーズ

EY新日本有限責任監査法人 公認会計士 中澤 範之

Question

税務上の繰越欠損金に係る繰延税金資産を回収可能と判断した主な理由を注記した会社は?

Answer 

【調査範囲】

  • 調査日:2019年9月
  • 調査対象期間:2019年3月31日
  • 調査対象書類:有価証券報告書
  • 調査対象会社:2019年3月期決算の有報提出会社2,632社

【調査結果】

(1) 税務上の繰越欠損金に係る繰延税金資産を回収可能と判断した主な理由に係る注記の開示状況

税効果会計基準一部改正では、税務上の繰越欠損金に係る重要な繰延税金資産を計上している場合、当該繰延税金資産を回収可能と判断した主な理由を記載することを求めている。ここで、「税務上の繰越欠損金に係る重要な繰延税金資産を計上している場合」における「重要な」場合には、例えば、純資産の額に対する税務上の繰越欠損金に係る繰延税金資産の額の割合が重要な場合が含まれるとしている(税効果会計基準一部改正47項)。

そこで、調査対象会社における税務上の繰越欠損金に係る繰越期限別の数値情報を記載した会社106社に対して、純資産の額に対する税務上の繰越欠損金に係る繰延税金資産の額の割合ごとの回収可能と判断した主な理由の記載状況を分析した結果は、(図表1)のとおりであった。回収可能と判断した主な理由を記載した会社は、当該割合が大きい傾向にあり、3%以上の会社の全てが、回収可能と判断した主な理由を記載していた。一方、1%未満の会社のうち、回収可能と判断した主な理由を記載した会社は、5割程度にとどまった。

<図表1> 純資産の額に対する税務上の繰越欠損金に係る繰延税金資産の割合ごとの回収可能と判断した主な理由の開示状況

純資産の額に対する税務上の繰越欠損金に係る繰延税金資産の割合 回収可能と判断した主な理由あり(A) 回収可能と判断した主な理由なし 合計
(B)
回収可能と判断した主な理由を記載している割合(A/B)
1%未満 41 41
82 50%
1%以上2%未満 7 4 11 64%
2%以上3%未満 6 1 7 86%
3%以上 6 0 6 100%
合計 60 46 106 57%

(2) 繰越欠損金に係る繰延税金資産の額の割合ごとの回収可能と判断した主な理由の記載状況

税務上の繰越欠損金に係る繰越期限別の数値情報を注記した会社106社を対象として、税務上の繰越欠損金(納税主体ごとの法定実効税率を乗じた額)に対する繰越欠損金に係る繰延税金資産の割合を分析し、回収可能と判断した主な理由の記載との関係を図表にした((図表2)参照)。

その結果、(図表1)と同様に、回収可能と判断した主な理由を記載した会社は、当該割合が大きい傾向にあり、80%以上の会社の全てが、回収可能と判断した主な理由を記載していた。一方、20%未満の会社のうち、回収可能と判断した主な理由を記載した会社は、3割程度にとどまった。

また、当該繰越欠損金の割合が80%以上の5社のうち4社が、回収可能と判断した理由に会社の個別的な内容を説明しており、割合が高いほど説明を追加する傾向が見受けられる。

<図表2> 税務上の繰越欠損金(※1)に対する繰越欠損金に係る繰延税金資産の額の割合ごとの回収可能と判断した主な理由の記載状況


税務上の繰越欠損金(※1)に対する繰越欠損金に係る繰延税金資産の額の割合

回収可能と判断した主な理由を記載した会社 回収可能と判断した主な理由を記載しない会社 合計
(B)
回収可能と判断した主な理由を記載している割合
(A/B)
社名や会社固有の状況を記載した会社 社名や会社固有の状況を記載しない会社(※2)
小計
(A)
20%未満 8 11 19 38 57 33%
20%以上40%未満 1 15 16 5 21 76%
40%以上60%未満 1 9 10 3 13 77%
60%以上80%未満 3 7 10 0 10 100%
80%以上 4 1 5 0 5 100%
合計 17 43 60 46 106 57%

(※1) 納税主体ごとの法定実効税率を乗じた額。

(※2) 社名や会社固有の状況を記載しない会社は、具体的な社名や将来計画に言及していない会社を集計している。なお、繰越欠損金の発生原因として、当期純損失のみを記載している会社を含めている。

(旬刊経理情報(中央経済社)2019年10月20日号 No.1559「2019年3月期有報における税効果会計の開示分析」を一部修正)