CEOが直面する喫緊の課題:急激なインフレ局面にも投資を持続するために

CEOが直面する喫緊の課題:急激なインフレ局面にも投資を持続するために


2022年度 EY CEO Outlook Pulseの調査結果によると、CEOは今後の成⻑に備え、この逆⾵に積極的に⽴ち向かっていることが分かりました。


要点

  • 世界のCEOは、広がるインフレ懸念や地政学的な緊張、コロナ禍による不透明な先行きを最大の脅威として捉えている。
  • 相互に絡み合うこれらの脅威に加え、他にも多くのリスクが眼前に存在するが、CEOは確固として投資計画を進めることで、こうした試練に立ち向かおうとしている。
  • 昨今生じてきているビジネスの複雑性を克服すべく、CEOは先を見越した計画を策定しており、M&Aへの意欲は旺盛である。

不確実性や不透明性が増す環境の下、CEOは組織改⾰に熱心に取り組み、新旧さまざまな困難に対処しながら混乱を乗り越えようとしています。

世界の750⼈を超えるCEOを対象にEYが実施した調査によると、外部の市場環境には⼤きな課題が多数存在するものの、経営者の多くは毅然とした姿勢を保ちつつ、眼前の新しい環境における勝ち残りをかけて、⾃社の製品やサービス、そしてエコシステムを柔軟に変化させています。

CEOが直面する喫緊の課題シリーズでは、CEOが組織の未来を⾒直す上で役⽴つ、重要な解決策と対応を紹介しています。本稿では、2022年の不確実性が続く状況に経営者はどのように対応しているのか、また困難をいかに乗り越えようとしているかを探ります。

    2022年度 EY CEO Outlook Pulseをダウンロード


    高まるインフレ懸念は財政政策では収まらない
    1

    第1章

    高まるインフレ懸念は財政政策では収まらない

    CEOが直面する重要課題として、とどまるところを知らないインフレ、いまだ続くパンデミックの影響、地政学的な不確実性が挙げられています。


    2022年度 EY CEO Outlook Pulseの調査結果を見ると、ほとんどのCEOがインフレを重大リスクと捉えており、回答者の半数以上(69%)がインフレは自社の業績や成長に悪影響を及ぼすと予測しています。その中で16%の回答者はインフレが自社の収益と利益にとって唯一で最大の脅威だと述べています。

    ⼀⽅で政策の効果に対する期待は薄く、政府によって今後インフレは抑制されビジネス環境や成⻑に重⼤な影響が及ぶことはない、と考えているのは15%に過ぎません。


    急激なインフレの根本要因は地域や産業によって異なります。しかし全体的に⾒ると、⼤多数の回答者が労働⼒や原材料などあらゆる⾯で仕⼊価格の⼤幅ないしは極端な上昇に直⾯していることがうかがえます。そうした仕⼊価格上昇の影響を緩和するには、自社のみではコントロールできない原因があること、または他の産業セクターから⼆次的影響を受けることがあることを十分認識した上で、できるだけのことをするのが肝要です。コントロールできることに集中し、他の影響要因については可能な範囲で緩和を図る企業が、今後リードを取ることでしょう。 

    新たな地政学上、パンデミックの長期化といった問題は、さらなる難題を誘発し成⻑を脅かし得る

    その他の脅威に関しては、43%のCEOが、新たなロックダウンやサプライチェーンへの影響などパンデミックによる混乱の継続または再開を、成⻑を脅かす最⼤のリスクと考えています。この傾向は、欧州(41%)や南北アメリカ(43%)に比べてアジア太平洋地域で⾼くなっています(48%)。中国政府がゼロコロナ政策を継続していることを考えると、結果は想定内ですが、多くのグローバルサプライチェーンの起点が中国にあることからも、この問題はやはり世界レベルのものとして考えるべきでしょう。
     

    さらにパンデミック絡みで成⻑計画を進める中で引き続き問題となるのは、適切な⼈材の不⾜、ならびにそうした⼈材を獲得し維持するコストです。この問題はコロナ禍を経てさらに差し迫った問題となっており、CEOの4分の1以上(29%)が成⻑の⾜かせになっていると考えています。
     

    リスク評価の領域では地政学的な緊張の影響も⽬⽴っており、これもまた仕⼊価格の⾼騰やインフレに直接影響を及ぼしているものとみられます。ウクライナ情勢により物価は一段と上昇し、さらなる供給制約とインフレ圧⼒を⽣んでいます。
     

    こうした極めて不確実な環境の中で直⾯している、無数の地政学的危機の一つ一つは実は互いに結び付いていることを、CEOは認識しておく必要があります。パンデミックにより引き起こされている不安感もサプライチェーンに影響を及ぼし続けており、ウクライナ情勢はエネルギー市場や農業市場をさらに圧迫しています。どちらもインフレに影響を与え、各国の中央銀⾏はさらに踏み込んだ金融政策を素早く決断することを余儀なくされています。こうした要因がすべて重なったことで、各国政府は戦略的産業での介⼊主義的な姿勢を強めざるを得ず、そのために地政学的にもサプライチェーンの⾯でも⼀層複雑さが増す状況となっています。
     

    このように網の⽬のように⼊り組んだ地政学的に難しい状況を乗り越えるため、ほとんどのCEO(95%)は、国境をまたぐ戦略的投資計画の⾒直しを図っています。


    企業は⾃社のグローバルの業務運営や拠点の⾒直しを始めていますが、とりわけテクノロジーなど戦略的に重要な産業に関連する分野では、規制の不確定性や貿易圏間の緊張の高まりによって、事態はさらに複雑性を増しています。

    上述のようなCEOによる積極的な取り組みは、さらに深刻なビジネス障壁が現れる前に⾏動する、との意欲の表れで、今後さらに複雑化する地政学的状況を乗り切るのに有⽤です。また、現在直⾯している供給や価格への圧⼒に対抗する上でもプラスに働くものと思われます。
     

    脅威を緩和する:事業の見直しを進めるCEO

    直⾯する数多くの課題を乗り越えるため、CEOはさまざまな戦略的取り組みに⼒を⼊れています。特にサステナビリティ、デジタルなカスタマーエクスペリエンス、イノベーションの3つを重点領域に挙げています。
     

    • サステナビリティ: 
      サステナビリティと環境・社会・ガバナンス(ESG)を事業の中核に据えることは、この先半年間の戦略的重要事項の1つです。株主や規制当局など主要なステークホルダーから寄せられるESGに対する期待に応えていくことは、今後の鍵になります。同時に、ESG対応がもたらすリスクやチャンスを見極めることは、企業が創造する価値を⾼め、またそれを守ることにつながります。サステナブルな未来への移⾏は運⽤⾯で多くの課題を伴いますが、積極的に動くことのできる企業は、資本コストの最適化や運⽤上の混乱の緩和、顧客との関係強化を通じて⻑期的価値を創造していくでしょう。

    • デジタルカスタマーエクスペリエンス:
      商品サービスを強化するテクノロジーの活用により、顧客との関係強化や価格管理を図ることも戦略的優先事項の上位にあります。EYパルテノンのデジタル投資インデックス(DII)でも、経営者は、今後2年間は顧客の獲得・維持、カスタマーエクスペリエンスの向上が最優先事項の1つになると回答しています。また、テクノロジーは今後、カスタマーエクスペリエンスや顧客の期待値をさらに変容させていくことになり、その結果ロイヤルティ向上や価格のコントロールをしやすくする上で重要になります。デジタル投資が重要視される中、そこから得られたプラス効果の中でも、カスタマーエクスペリエンスは最上位にランクされました。半数以上(55%)の経営者が、デジタル投資によってプラス効果が得られた分野として、カスタマーエクスペリエンスの向上を挙げています。カスタマーエンゲージメントの強化は顧客からの信頼とロイヤルティを育み、競合他社に先んじてコストを回収しやすくします。

    • イノベーション: 
      加えてCEOは、既存の商品サービスの強化や新たな⼈材の獲得、新しいビジネスプラットフォームの構築を念頭に、アーリーステージの事業への投資の検討もしています。収益性向上を図り、新たな価格体系導入や⾰新的な価格設定モデルの採⽤も、ビジネスの鍵になるものと考えています。こうした戦略的投資はいずれも、企業の魅⼒の向上と収益率の確保を意図したものです。
    リスク緩和と機会創出の投資
    2

    第2章

    リスク緩和と機会創出の投資

    混乱期を乗り越えるには大胆な行動が必要です。

    さまざまな逆⾵にあっても多くのCEOは、先を⾒据えてオプショナリティ(急激な外部変化に適応する能力)の拡充と、レジリエンスと価値の構築に注⼒していると答えています。投資戦略を着実に策定し、混乱や不確実性に積極的に対抗しようと備えているのです。

    資本投資を削減する予定という回答が14%だったのに対し、増加する予定は64%と大多数を占めました。



    デジタルへの投資

    企業が支出増を予定している分野のトップは、デジタルやテクノロジーのケイパビリティへの投資です。デジタルへの投資は、2020年にパンデミックが始まった直後に増加し、2021年にはさらに加速して現在も続いています。

    EYパルテノンのデジタル投資インデックス(DII)によると、本年、企業のデジタルトランスフォーメーションへの投資は、2020年から65%増え、過去最⼤を記録しました。同調査では、業界内での競争⼒をつけるためには今後2年以内に抜本的な業務改⾰が不可⽋だと回答した経営者は、2020年のレポートの62%から増え、全体の4分の3近く(72%)に上ります。セクターを問わず、今後企業は、優先プロジェクトへの投資を強化していく中で、テクノロジーソリューションの拡充と利益の実現にも、注⼒する必要があるものとみられます。


    抜本的な変革
    の回答者が、業界内での競争⼒をつけるためには今後2年以内に抜本的な業務改⾰が不可⽋だと回答。

    資本配分に関しては、定性的および定量的指標に焦点を当てた、データドリブン型で⼀貫性のある、かつ全社的アプローチであることが必須です。それにより客観的な投資判断が可能となり、企業は混乱を乗り切り、⻑期的価値を創造することができます。

    成功に向けての設立、買収、提携

    CEOのM&A案件への取り組み意欲は、引き続きおおむね前向きです。最近2年間に⾒られた記録的なM&A案件数は通常のレベルに落ち着いたとはいえ、M&A取引は安定的に推移しており、2022年末から2023年にかけて反転、上昇する可能性もあります。

    ⼤半のCEOが今後12カ⽉の間に何らかのトランザクションを実行しようとしている中、40%のCEOはあらゆる方向でのディールを積極的に進める予定であるとしており、買収、事業売却、新規のジョイントベンチャーや戦略的提携を検討しています。

    新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による影響や経済的・地政学的不確実性の⾼まりを背景に、ジョイントベンチャーや戦略的アライアンスの重要性が増しています。EY Ecosystem Studyによれば、エコシステムの一端を担っている企業の経営者のうち71%は、現在の自社の成功にとってエコシステムの果たした役割は⾮常に重要であると考えており、91%はエコシステムにより自社のビジネスのレジリエンスが向上したと回答しています。


    こうした動きの背後にある動機を探ると、企業の戦略的目標が見えてきます。



    ここでもCEOは、提供する商品やサービスの強化と⻑期的な成⻑機会の拡⼤を図るべく他の⼿段にも⽬を向けています。CEOは以前と同様に、M&Aを⻑期的な成⻑戦略の重要な促進剤であるとの明確な考えを持っており、業務運営能⼒の獲得やイノベーション能⼒強化につながる企業の買収に動いています。この24カ⽉間にあらゆるセクターで従来の競争環境が⼀変しましたが、この先も企業のポジションの⼊れ替わりは続きます。

    他方でCEOはトランザクションを進めるに当たっては、戦略的視点をもって状況を⾒極めながら動いています。回答者の圧倒的多数(96%)は、予定していたトランザクションが完了に⾄らなかった、もしくはキャンセルしたことがあると答えています。



    2022年度 EY CEO Outlook Pulseの過去の調査を見る


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      サマリー

      買収、設立、提携に取り組むCEOは、持続可能で⻑期的な価値を創造するため、⼤胆な決断を下し、投資を進めています。急激に変化する環境に合わせて、⾃社のポートフォリオやエコシステム、グローバル業務を積極的に変容させています。