各国政府は、⾷料安全保障を確保し、必須のエネルギー・物資の不⾜や価格⾼騰による最悪の結果を回避するために迅速に⾏動する必要があります。問題は、世界貿易をさらに抑制しかねない保護主義に訴えることなく、⾃国のエネルギーと重要物資の供給を確保しなければならないことです。
パンデミック時のような輸出管理を導⼊すれば、貧しい国々をさらに⼤きなリスクにさらすことになるでしょう。国際連合は、供給の安定化に向けて国際協⼒の強化を求めており、可能であれば⽣産を増加させるよう呼びかけています。⼀⽅、最も豊かな国々であるG7加盟国の農業⼤⾂は、各国に引き続き市場を開放するよう要請しています。
脆弱性の軽減に必要なフレームワークの策定
パンデミックとウクライナ情勢は、従来のサプライチェーンの脆弱性を浮き彫りにしました。⻑期的には、CEOは直線的でグローバル化された単⼀のサプライチェーンを、コスト効率に基づいて構築するというレガシーモデルを⾒直す必要があります。多くの政府がレジリエンス向上と国外への依存低減のため、保護主義的な政策を実施してきました。これには、⾃国や地域のエコシステムの強化を⽬的とする⽶国やEUの半導体チップ保護法のような、必需品の製造拠点の国内回帰や近隣国への移転を促すための融資やインセンティブの提供などがあります。
しかし、CEOや政府はグローバリゼーションと地域化の利点も取り⼊れたいと考えるはずです。供給ネットワークの多様化と地域への配分を進めることで競争⼒を犠牲にすることなく、主要物資の国外への依存を軽減することができます。各国政府がこれを促進するにあたって取り得る措置には、反競争的な統合の防⽌や市場参⼊障壁の低減などが考えられます。また、消費者や従業員、投資家は、サプライチェーン内のサステナビリティと透明性の向上を望んでいます。政府は規制の枠組みを策定し、遵守状況を監視することでこれに貢献できます。
未来を守る支えとなるレジリエンスの構築
パンデミックに続いて発生したウクライナ情勢によって、政策⽴案者が直⾯しているジレンマはさらに深刻になりました。各国政府は、短期的な課題に対処するため迅速に⾏動せねばなりません。その際には、地域の状況を踏まえて考案された、必要に応じて修正できる幅広い政策⼿段を⽤いるべきです。しかしこれと同時に、⻑期的な⽬標を⽀える取り組みも必要です。
企業の側では、急速に変化する政策環境に機敏に適応する必要があります。CEOは、⾦融引き締め政策に加えて、企業や富裕層を対象とする新たな課税や課税強化に備えるべきです。公共⽀出はさらに抑制されるかもしれませんが、⽣活費上昇により最も深刻な影響を受ける⼈々には⼀時的な救済が提供されるとみられます。また政府は、研究開発に投資する企業への⽀援、将来のスキル開発、グリーン・トランジション(緑の移⾏)など、持続可能な経済成⻑に最も寄与する措置を優先するでしょう。
世界貿易に関与する企業はウクライナ情勢の全般的な影響が顕在化していくなか、さらなる混乱と不安定な状況に備えるべきです。短期的には必需品の供給を確保しつつ、激しい競争下にある世界市場での地位を⻑期的に維持するためには、政策⽴案者との緊密な協⼒が必要です。政府とビジネスリーダーが協⼒することで経済の活性化とサステナブルでインクルーシブな成⻑を実現する機会をつかみ、現在の混乱を乗り越えることが可能になります。
CEOがとるべき鍵となる対応策
- 地政学的状況と政策環境の変化を踏まえると、CEOは部⾨横断的な戦略地政学チームの⽴ち上げを検討し、グローバルサプライチェーン管理のあり⽅を⾒直す必要があるでしょう。
- インフレ率上昇を抑制するための取り組みの一環として、CEOは可能な限り自社の原価管理を徹底し、コスト上昇を消費者に安易に転嫁することは避けるべきです。
- 各国政府が財政収支の改善を図るなか、CEOは政策立案者と建設的な協力関係を形成し、⻑期にわたる包括的な成⻑および競争⼒と⽣産性の向上につながる賢明な税制改⾰を⽀援する必要があります。
- CEOは⻑期的な競争⼒増強に向けて、競争法に関する政府の規制改⾰と労働市場改⾰を⽀援するべきです。
- CEOはネットゼロ⽬標の堅持、政府との協⼒によるセクター別ロードマップの策定、クリーンエネルギーへの投資においてさらに広範なESG⽬標の重要性を⾼めるために、⾃らが果たすべき役割を認識する必要があります。