EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
EY新日本有限責任監査法人 品質管理本部 会計監理部
公認会計士 加藤 圭介
公認会計士 平川 浩光
公認会計士 前川 健太郎
公認会計士 松川 由紀子
公認会計士 久保 慎悟
品質管理本部 会計監理部において、会計処理及び開示に関して相談を受ける業務、並びに研修・セミナー講師を含む会計に関する当法人内外への情報提供等の業務に従事している。
2024年3月期より、原則適用となる会計基準及び早期適用可能となる会計基準(24年2月29日の執筆時点で公開草案であるものを含む)は<表1>のとおりです。
本稿ではこれらを中心に24年3月期決算にあたっての留意事項を解説します。
また、本文中で使用する会計基準の略称及び適用開始時期は同じく<表1>のとおりです。なお、会計基準等(公開草案を含む)の情報は、24年2月29日の執筆時点のものであることをあらかじめお断りします。
適用開始時期 |
会計基準の名称 |
略称 |
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24年3月期の期首から原則適用 |
実務対応報告第43号「電子記録移転有価証券表示権利等の発行及び保有の会計処理及び開示に関する取扱い」 |
実務対応報告43号 |
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23年11月17日(公表日)以後適用 |
実務対応報告第45号「資金決済法における特定の電子決済手段の会計処理及び開示に関する当面の取扱い」 |
実務対応報告45号 |
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24年3月期の期首から早期適用可能(25年3月期の期首から原則適用) |
改正企業会計基準第27号「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準等」 |
改正法人税等会計基準 |
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公表日以後適用予定 |
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このうち、自己株式等会計適用指針改正案、税効果適用指針改正案及び資本連結実務指針改正案は、保有する完全子会社株式の一部を株式数に応じて比例的に配当(按分型の配当)し子会社株式に該当しなくなった場合の会計処理を定めるための各会計基準等の改正に係る公開草案であり、令和5年度税制改正により導入されたいわゆるパーシャルスピンオフ税制に対応した会計基準等の改正です。詳細は情報センサー24年1月「パーシャルスピンオフ税制に対応して改正される自己株式等会計適用指針案等の解説」をご参照ください。
なお、文中の意見にわたる部分は筆者らの私見であることをあらかじめお断りします。
会計上の見積りは、「資産及び負債や収益及び費用等の額に不確実性がある場合において、財務諸表作成時に入手可能な情報に基づいて、その合理的な金額を算出すること」とされています(企業会計基準第31号「会計上の見積りの開示に関する会計基準」3項)。我が国では、長期間にわたり超低金利の状況が継続していたものの、足元では金利変動の不確実性が高まっている状況下にありますが、金利変動により割引率が変動することになりますので、時価を算定する場合など、会計処理において割引計算が行われる場合は金利変動の影響を受けることになります。
<表2>に、金利変動が会計処理に及ぼす影響のうち、主な項目を挙げています。
項目 |
会計処理への影響 |
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金融商品 |
時価のある有価証券(債券)の減損処理においては、債券の時価の下落の要因が単に一般市場金利の大幅な上昇に起因するものか、又は、債券の発行会社の信用力の低下に起因するものか判断する必要がある。 |
退職給付 |
退職給付債務の計算における割引率は原則として期末における安全性の高い債券の利回りを基礎とする。割引率変更において重要性基準を採用している場合においても、金利変動時には退職給付債務の再計算が必要となる可能性がある。 |
固定資産 |
割引計算が行われる以下の見積りにおいて影響を及ぼす。
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リース会計 |
割引計算が行われるファイナンス・リース取引の判定における現在価値基準、及び、ファイナンス・リース取引の借手のリース資産及びリース債務の計上額算定において影響を及ぼす。 |
なお、金利上昇時の会計上の論点については、情報センサー24年2月「金利上昇時における会計上の論点」に詳細な解説がありますので、ご参照ください。
実務対応報告43号は、株式会社が電子記録移転有価証券表示権利等を発行又は保有する場合の会計処理及び開示を対象としています。電子記録移転有価証券表示権利等とは、「金融商品取引業等に関する内閣府令」(平成19年内閣府令第52号)1条4項17号に規定される権利をいい、「金融商品取引法」(昭和23年法律第25号)(以下、金商法)2条2項に規定される有価証券とみなされるもの(以下、みなし有価証券)のうち、電子情報処理組織を用いて移転することができる財産的価値に表示される場合に該当するものをいいます。
なお、一部の論点については実務対応報告43号では取り扱わず、22年3月15日に企業会計基準委員会(以下、ASBJ)より公表された「資金決済法上の暗号資産又は金融商品取引法上の電子記録移転権利に該当するICOトークンの発行及び保有に係る会計処理に関する論点の整理」において今後の方向性に関する予備的な分析がされています。こちらについては、情報センサー22年6月号「資金決済法上の暗号資産又は金融商品取引法上の電子記録移転権利に該当するICOトークンの発行及び保有に係る会計処理に関する論点の整理のポイント」をご参照ください。
電子記録移転有価証券表示権利等は、その発行及び保有がいわゆるブロックチェーン技術等を用いてなされる点を除けば、従来のみなし有価証券と権利の内容は同一であると考えられるため、電子記録移転有価証券表示権利等の発行及び保有の会計処理は、基本的に従来のみなし有価証券の発行及び保有の会計処理と同様に取り扱います。
ただし、発生及び消滅の認識の会計処理については、一部別途の定めが置かれており、会計処理の概要は<表3>をご参照ください。金商法に定義される有価証券に該当しても、信託受益権については、優先劣後等のように質的に分割されており、信託受益権の保有者が複数である場合などを除いて、企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」(以下、金融商品会計基準)や会計制度委員会報告第14号「金融商品会計に関する実務指針」(以下、金融商品実務指針、また、金融商品会計基準及び金融商品実務指針を合わせて、以下、金融商品会計基準等)上の有価証券として取り扱わないものとされているため、金融商品会計基準等上の有価証券に該当する場合と該当しない場合とに分けて会計処理が整理されています。
金融商品会計基準等上の有価証券に該当する |
金融商品会計基準等上の有価証券に該当しない(信託受益権) |
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発行の会計処理 |
実務対応報告43号の対象外 |
実務対応報告43号の対象外 |
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保有の会計処理 |
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電子記録移転有価証券表示権利等を発行又は保有する場合の表示方法及び注記事項は、みなし有価証券が電子記録移転有価証券表示権利等に該当しない場合に求められる表示方法及び注記事項と同様とされています。このため、電子記録移転有価証券表示権利等は、従来のみなし有価証券に含めて貸借対照表に表示し、四半期において金融商品に関する注記事項を開示する場合には、当該注記においても従来のみなし有価証券に含めて注記することになります。
また、この24年3月期から実務対応報告43号を原則適用する場合には、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として注記することになります(企業会計基準第24号「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」(以下、企業会計基準24号)10項)。なお、実務対応報告43号においては、特定の経過的な取扱いが定められていないため、従来から電子記録移転有価証券表示権利等を保有する場合には、新たな会計方針を過去の期間のすべてに遡及適用することになります(企業会計基準24号6項(1))。
「資金決済に関する法律」(平成21年法律第59号。以下、資金決済法)2条5項に規定される電子決済手段のうち、第1号電子決済手段、第2号電子決済手段及び第3号電子決済手段(いわゆるステーブルコイン)を対象とすることとされています。ただし、第1号電子決済手段、第2号電子決済手段又は第3号電子決済手段のうち外国電子決済手段については、電子決済手段の利用者が電子決済手段等取引業者に預託しているものに限られるとされています。
また、上記にかかわらず、第3号電子決済手段の発行者側に係る会計処理及び開示に関しては、実務対応報告23号を適用するとされています。
電子決済手段の保有に関して、実務対応報告45号の対象となる電子決済手段に係る取得時、移転時又は払戻時の会計処理は<表4>のとおりとされています。
電子決済手段の取得時 |
電子決済手段の移転時又は払戻時 |
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会計処理日 |
受渡日 |
受渡日 |
会計処理内容 |
当該電子決済手段の券面額に基づく価額をもって電子決済手段を資産として計上し、当該電子決済手段の取得価額と電子決済手段の券面額に基づく価額との間に差額がある場合、当該差額を損益として処理する |
電子決済手段を第三者に移転又は金銭による払戻を受けるときに当該電子決済手段を取り崩す |
実務対応報告45号の対象となる電子決済手段は、その券面額に基づく価額をもって貸借対照表価額とすることとされています。なお、実務対応報告45号では電子決済手段の換金リスクに関する会計上の取扱いを定めないとされています。
電子決済手段の発行に関して、実務対応報告45号の対象となる電子決済手段の発行時、払戻時の会計処理は<表5>のとおりとされています。
電子決済手段の発行時 |
電子決済手段の払戻時 |
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会計処理日 |
受渡日 |
受渡日 |
会計処理内容 |
当該電子決済手段に係る払戻義務について債務額(すなわち券面額に基づく価額)をもって負債として計上し、当該電子決済手段の発行価額の総額と当該債務額との間に差額がある場合、当該差額を損益として処理する |
払戻しに対応する債務額を取り崩す |
実務対応報告45号の対象となる電子決済手段に係る払戻義務は、期末時において、債務額をもって貸借対照表価額とすることとされています。
実務対応報告45号の対象となる外貨建電子決済手段の期末時の円換算は<表6>のとおりとされています。
期末時の円換算 |
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外貨建電子決済手段 |
企業会計審議会「外貨建取引等会計処理基準」(以下、外貨建取引等会計処理基準)一2 (1) ①の定めに準じて処理を行う。すなわち、決算時の為替相場による円換算額を付する。 |
外貨建電子決済手段に係る払戻義務 |
外貨建取引等会計処理基準一2 (1) ②の定めに従って処理を行う。すなわち、決算時の為替相場による円換算額を付する。 |
電子決済手段等取引業者又はその発行する電子決済手段について電子決済手段等取引業を行う電子決済手段の発行者は、電子決済手段の利用者との合意に基づいて当該利用者から預かった実務対応報告45号の対象となる電子決済手段を資産として計上せず、また、当該電子決済手段の利用者に対する返還義務を負債として計上しないこととされています。
実務対応報告45号の対象となる電子決済手段及び実務対応報告45号の対象となる電子決済手段に係る払戻義務に関して、金融商品会計基準40-2項に定める金融商品の状況に関する事項及び金融商品の時価等に関する事項について注記を行うこととすることとされています。
資金の範囲について、企業会計基準第32号「『連結キャッシュ・フロー計算書等の作成基準』の一部改正」(以下、キャッシュ・フロー作成基準一部改正)においては、特定の電子決済手段、すなわち、資金決済法2条5項1号から3号に規定される電子決済手段(外国電子決済手段については、利用者が電子決済手段等取引業者に預託しているものに限る。)を現金に含めることとされています。また、会計制度委員会報告第8号「連結財務諸表等におけるキャッシュ・フロー計算書の作成に関する実務指針」においても、現金の定義に「特定の電子決済手段」が追加され、キャッシュ・フロー作成基準一部改正の記載と整合させる形での改正がされています。なお、実務対応報告45号の対象となる電子決済手段は、現金又は預金そのものではないが現金に類似する性格と要求払預金に類似する性格を有する資産であるとされているため、貸借対照表上の表示は現金でも預金でもないと考えられます。そこで、実務対応報告45号の対象となる電子決済手段の貸借対照表上の表示は各企業が適切に判断する必要があります。
22年10月28日にASBJより改正法人税等会計基準が公表されています。この適用時期は<表1>のとおりであり、24年3月期の期首から早期適用可能となっています。また、原則適用する場合には24年3月期決算には影響しないものの、未適用の会計基準等に関する注記の対象となるため、改正内容の理解が重要であるとともに、その注記の準備が必要となる場合があることから、本章では改正の概要について解説します。
主な改正内容は以下のとおり2点あり、それぞれについて解説します。なお、それぞれの改正内容について設例も踏まえて解説している情報センサー22年8月・9月合併号「株主資本又はその他の包括利益に対する課税及びグループ法人税制が適用される場合の子会社株式等の売却に係る税効果の取扱いに関する改正案の解説」も併せてご確認ください。
その他の包括利益に計上された取引又は事象(以下、取引等)が課税所得計算上の益金又は損金に算入され、法人税、住民税及び事業税等(以下、法人税等)が課される場合があります。
改正前の法人税等会計基準では、当事業年度の所得等に対する法人税等は取引等の発生源泉にかかわらず法令に従い算定した額が損益に計上されるため、その他の包括利益に計上する取引等に対応する法人税等も損益に計上されることになり、税引前当期純利益と税金費用の対応関係が図られていないという問題点が指摘されていました。
改正後の法人税等会計基準では、当事業年度の所得に対する法人税等を、その発生源泉となる取引等に応じて、損益、株主資本及びその他の包括利益に区分して計上することとされました。
過去のすべての期間に新たな会計方針を遡及適用するのが原則ですが、会計方針の変更による累積的影響額を適用初年度の期首利益剰余金に加減するとともに、対応する金額を資本剰余金、評価・換算差額等又はその他の包括利益累計額のうち適切な区分に加減し、期首から新たな会計方針を適用できる経過措置が設けられています。経過措置を適用した場合でも、適用前年度までに計上された法人税等のうち、その他の包括利益に対応する金額の集計が必要となります。
税務上、内国法人が有する譲渡損益調整資産(有価証券等)を他の完全支配関係がある内国法人に譲渡した場合には、グループ法人税制が適用され、課税所得計算上、譲渡時点において売却損益を計上せず、繰り延べられることとされています。繰り延べられた売却損益は、譲受法人において、当該資産の譲渡等の事由が生じたときに、譲渡法人の課税所得計算上、売却損益を益金の額又は損金の額に算入することとされています(法人税法61条の11)。
グループ法人税制が適用される場合の子会社株式等の売却に係る税効果の取扱いについて、企業会計基準適用指針第28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」(以下、税効果適用指針)39項では、当該子会社株式等を売却した企業の個別財務諸表において、当該売却損益に係る一時差異に対して繰延税金資産又は繰延税金負債が計上されているときは、連結決算手続上、当該一時差異に係る繰延税金資産又は繰延税金負債の額は修正しないこととされていました。
連結会社間における子会社株式等の売却に伴い生じた売却損益について、税務上の要件を満たし課税所得計算において当該売却損益を繰り延べる場合、当該売却に係る連結財務諸表上の税引前当期純利益と税金費用との対応関係の改善を図る観点から、連結財務諸表において以下の処理を行うこととされました。
個別財務諸表においては、連結財務諸表とは異なり、売却損益が消去されないことから、税金費用を計上しないこととした場合には税引前当期純利益と税金費用との対応関係が図られないこととなると考えられます。
したがって、改正前の取扱いを見直さないこととされています。
経過措置は設けられておらず、過去のすべての期間に新たな会計方針を遡及適用することになります。
OECD/G20の「BEPS(税源浸食と利益移転)包摂的枠組み」における国際的合意を受けて、我が国においても、グローバル・ミニマム課税(第2の柱)が導入されることになりました。これを受けて、令和5年度税制改正により、グローバル・ミニマム課税制度のうち、所得合算ルールとして、各対象会計年度の国際最低課税額に対する法人税(以下、グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税)が創設されました(24年4月1日以後に開始する対象会計年度から適用)。グローバル・ミニマム課税制度の詳細については、EY税理士法人がウェブサイトにて公表しているJapan tax newsletter23年1月13日号「令和5年度税制改正大綱(詳細版)」をご参照ください。
グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税は、課税の源泉となる純所得(利益)が生じる企業(子会社等)と納税義務が生じる企業(親会社等)が相違する新たな税制です。この税制について、現行の会計基準等では当該税制に係る法人税等(当期税金)及び当該法人税等に関する税効果会計をどのように取り扱うかが明らかでないとの意見が聞かれたことから、ASBJで取扱いが審議されました。
このうち、税効果会計については、23年3月に実務対応報告44号が公表されていますが、グローバル・ミニマム課税制度の所得合算ルール以外に今後の法制化が予定されている軽課税所得ルール(UTPR)と国内ミニマム課税(QDMTT)も範囲に含まれるようにする実務対応報告44号改正案が公表されています(公表日以後適用予定)。なお、UTPRとQDMTTについてもJapan tax newsletter23年1月13日号「令和5年度税制改正大綱(詳細版)」をご参照ください。
また、当期税金については、実務対応報告公開草案第67号「グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等の会計処理及び開示に関する取扱い(案)」(以下、実務対応報告公開草案67号)が公表されています。実務対応報告公開草案67号は、24年3月までに最終化することが目標とされ、24年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用することが提案されています。
実務対応報告44号では、当面の間、年度末決算(四半期決算を含む)における税効果会計の適用にあたっては、税効果適用指針にかかわらず、グローバル・ミニマム課税制度の影響を反映しないこととされています。当該特例的な取扱いは、グローバル・ミニマム課税制度の具体的な内容やグローバル・ミニマム課税制度の適用を前提として税効果会計を適用すべきかどうかが今後明らかになるまでの当面の取扱いであるため、当該特例的な取扱いを適用する期間は、ASBJが実務対応報告44号の適用を終了するまでの間とされています。
詳細は、企業会計ナビ「実務対応報告第44号『グローバル・ミニマム課税に対応する法人税法の改正に係る税効果会計の適用に関する当面の取扱い』のポイント」をご参照ください。
24年1月24日に、ASBJから、実務対応報告44号改正案が公表されています。実務対応報告44号改正案では、令和5年度税制改正で導入された所得合算ルール(IIR)のみならず、今後の税制改正により法制化される予定の軽課税所得ルール(UTPR)及び国内ミニマム課税(QDMTT)等の取扱いも含めて、国際的な動向等に変化が生じない限り、税効果会計の適用にあたっては、税効果適用指針の定めにかかわらず、グローバル・ミニマム課税制度の影響を反映しないこととする当面の取扱いを継続することが提案されています。
グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等については、対象会計年度となる連結会計年度及び事業年度において、財務諸表作成時に入手可能な情報に基づき当該法人税等の合理的な金額を見積り計上することが提案されています。
また、財務諸表の作成時点において一部の情報の入手が困難な場合の見積りに関して、以下の考え方を結論の背景において示すことが提案されています(実務対応報告公開草案67号6項、BC9項~BC11項)。
なお、適用初年度における見積りについては、ASBJより補足文書「グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等に関する適用初年度の見積りについて」が公表されることが予定されており、実務対応報告公開草案67号と同時に公開草案が公表されています。当該補足文書では、適用初年度において情報の入手が困難な場合に考えられる見積りの一例を示すことを予定しているとされています。
四半期連結財務諸表及び四半期個別財務諸表(以下、四半期財務諸表)においては、四半期財務諸表の作成にあたって入手している情報は年度に比して限定的な情報であると考えられる等の理由から、上記①の提案の定めにかかわらず、当面の間、当四半期連結会計期間及び当四半期会計期間を含む対象会計年度に関するグローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等を計上しないことができることが提案されています。
この「当面の間」について、その具体的な期間は、ASBJが追加的な検討を行い、当該取扱いを改正するまでの間であることを想定しているとされています。
また、一定の要件を満たす場合に、この当面の取扱いを適用するときは、適用している旨を企業(集団)の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況を適切に判断するために重要なその他の事項として四半期財務諸表に注記することが提案されています。当該注記を要することになるのは、以下の2つの要件をともに満たす場合であるとされています(実務対応報告公開草案67号11項)。
なお、「金融商品取引法等の一部を改正する法律」(令和5年法律第79号)の成立により、金商法上の四半期報告書制度が廃止され、これまで四半期財務諸表を作成していた企業は中間財務諸表を作成することになります。ASBJより23年12月15日に公表された企業会計基準公開草案第80号「中間財務諸表に関する会計基準(案)」等が最終化され適用される場合には、「四半期財務諸表」は「中間財務諸表」に読み替えられることになります。
連結貸借対照表及び個別貸借対照表において、グローバル・ミニマム課税制度に係る未払法人税等のうち、貸借対照表日の翌日から起算して1年を超えて支払の期限が到来するものは、固定負債の区分に長期未払法人税等などその内容を示す科目をもって表示することが提案されています。
連結損益計算書において、グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等は、対応関係の観点から、税金等調整前当期純利益の次に、法人税、地方法人税、住民税及び事業税(所得割)を示す科目に表示することが提案されています。
また、個別損益計算書において、グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等は、連結損益計算書における表示区分との整合性の観点と親会社等の所得(利益)に対する税には直接的には該当しないものであるという観点から、重要性が乏しい場合を除き、グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等を以下のいずれかの方法により表示することが提案されています。
23年12月22日に大綱が閣議決定された令和6年度税制改正の大綱において、資本蓄積の推進や生産性の向上により供給力を強化するため、イノベーションボックス税制や戦略分野国内生産促進税制を創設するとされています。また、外形標準課税の適用対象法人の見直しも行うとされています。
これらの税制改正項目の概要及び税効果会計への影響は以下のとおりですが、このうち、イノベーションボックス税制は当期の税効果会計に影響を与える可能性があると考えられます。
なお、令和6年度税制改正の詳細については、EY税理士法人がウェブサイトにて公表しているJapan tax newsletter24年1月16日号「令和6年度税制改正大綱(詳細版)」をご参照ください。
本税制は、企業が国内で自ら研究開発を行った特許権又はAI分野のソフトウェアに係る著作権について、25年から32年までの間に開始する各事業年度において、当該知的財産の国内への譲渡所得又は国内外からのライセンス所得の30%の所得控除を認める制度です(<図1>参照)。与党が公表している「令和6年度税制改正大綱」によれば、本税制は、所得全体から、知的財産から生じる所得のみを切り出して税制優遇を行うという、我が国で初の税制であるとされています。
本税制の適用により、対象期間に当該知的財産に係る所得が生じた時に所得控除が認められ、税負担額が軽減されます。このため、本税制を含む改正法の成立日以後、企業が本税制の適用を見込む場合、将来の一時差異等加減算前課税所得の見積りにおいて本税制を適用した場合の所得控除の影響を反映することになると考えられます。
ここで、本税制の適用対象となる知的財産に係る所得が生じるまでの期間において、本税制の適用対象となる知的財産を企業が資産計上している場合、当該資産から将来生じる所得により税負担額が軽減されることから、税効果会計上の一時差異等(税効果適用指針4項(3))が生じているかが問題となります。この点、知的財産を企業が資産計上しているとしても、将来の知的財産の譲渡等の取引により当該資産等から生じる原価(損金算入額)を上回る収入(益金算入額)が生じるまでは、当該取引に係る所得は生じず所得控除が認められません。このため、決算日時点において知財財産を資産計上しているだけでは将来の税負担額が軽減されるものではないことから、当該取引に係る一時差異等は生じていないものと考えられます。
本税制は、産業競争力強化法の改正を前提に、同法の改正法の施行の日から27年3月 31 日までの間にされた同法の事業適応計画の認定に係る同法の認定事業適応事業者であるものが、当該認定の日以後10年間、国として戦略的な長期投資が不可欠となる対象物資(<表7>参照)を生産するための設備を取得した場合に、対象物資の生産・販売量に応じた金額とその設備の取得価額を基礎とした金額のうちいずれか少ない金額の税額控除を認める制度です。
各年度の控除上限は当期の法人税額の40%(半導体については20%)とされていますが、4年間(半導体は3年間)の税額控除の繰越期間を設けるものとされています。
物資 |
控除額 |
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電気自動車等 |
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グリーンスチール |
2万円/トン |
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グリーンケミカル |
5万円/トン |
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持続可能な航空燃料(SAF) |
30円/リットル |
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半導体 |
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半導体 |
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出典:経済産業省「令和6年度(2024年度)経済産業関係・税制改正について」(www.meti.go.jp/main/yosan/yosan_fy2024/pdf/03.pdf<2024年1月26日アクセス>)
各年度において控除限度超過額が生じた場合、繰り越した控除限度超過額は翌期以降の繰越可能な期間の控除余裕額を限度として税額を控除することが認められ、将来の税負担額が軽減されることになります。このため、本税制が適用された後に生産・販売する対象物資から控除限度超過額が生じた際には税効果会計上の一時差異等に該当し、将来の対象物資の生産・販売量の見込み等を踏まえて繰延税金資産の計上要否を検討することになると考えられます。
外形標準課税制度は、資本金が1億円超の大法人を対象に04年に導入されていますが、資本金の額を減少することで外形標準課税の適用対象法人から外れる事例が生じているとして、その対応として外形標準課税の適用対象法人の範囲の見直しが図られています。今回の見直し後においてもこれまでの資本金1億円超の法人が適用対象となるという基準は維持されますが、資本金が1億円以下となる場合であっても適用対象とする基準が追加されます。
具体的には、前事業年度に資本金が1億円超であることから外形標準課税の対象であった法人が、当事業年度に資本金が1億円以下になった場合でも、資本金と資本剰余金の合計額が10億円を超える場合には、今回の見直しにより外形標準課税の対象となります。この見直しは、25年4月1日以後開始する事業年度からとされています。
また、親会社の信用力等を背景に事業活動を行う子会社への対応として、資本金と資本剰余金の合計額が50億円を超える法人の100%子法人等のうち、資本金が1億円以下で、資本金と資本剰余金の合計額(改正法の公布日後に、当該100%子法人等がその100%親法人等に対して資本剰余金から配当を行った場合においては、当該配当に相当する額を加算した金額)が2億円を超える法人についても、今回の見直しにより外形標準課税の対象となります。この見直しは、26年4月1日以後開始する事業年度からとされています。
繰延税金資産又は繰延税金負債の金額は、回収又は支払が行われると見込まれる期の税率に基づいて計算するものとされています(「税効果会計に係る会計基準」第二・二2.)。このため、法定実効税率の算定基礎となる事業税の税率は、外形標準課税対象法人に該当するかどうかにより異なることに留意してください。
23年1月に公布・施行された改正後の「企業内容等の開示に関する内閣府令」(以下、開示府令)に基づく有価証券報告書のサステナビリティ情報の開示は、23年3月期から行われています。24年3月期では2年目の開示として、各企業の取組みの進展も踏まえ、より一層充実した内容の開示を積極的に行うことが期待されます。開示の検討にあたっては開示府令で求められる開示内容(詳細は情報センサー23年3月号「改正企業内容等の開示に関する内閣府令の解説」をご参照ください)を再度ご確認いただくとともに、23年12月に金融庁から公表された「記述情報の開示の好事例集2023」※が参考になると考えられます。この好事例集では、有価証券報告書の記載項目である「サステナビリティに関する考え方及び取組等」に関し、今後の開示の参考となる好事例が掲載されているとともに、「投資家、アナリスト、有識者が期待する主な開示のポイント」が開示項目別に記載されており、財務諸表利用者の期待を踏まえた開示を検討する際に有用になるものと考えられます。<表8>に「投資家、アナリスト、有識者が期待する主な開示のポイント」の一部を記載していますが、詳細は全文をご参照ください。また、「好事例として採り上げた企業の主な取組み」も紹介されており、開示面のみならず、企業のサステナビリティを高める取組み自体を検討する際にも参考になるものと考えられます。
※ www.fsa.go.jp/news/r5/singi/20231227.html(2024年2月29日アクセス)
我が国では、現状、有価証券報告書のほか、統合報告書やサステナビリティ報告書などの任意開示書類でサステナビリティ情報が開示されていますが、さらなる開示の拡大が提案されており、サステナビリティ情報の開示基準の必要性が高まっています。国際的な動向としては21年11月に「国際サステナビリティ基準審議会」(ISSB)が設立され、IFRS S1号「サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項」及びIFRS S2号「気候関連開示」を中心とする国際的なサステナビリティ開示基準の開発が行われています。我が国においても22年7月に「サステナビリティ基準委員会」(SSBJ)が設立され、我が国におけるサステナビリティ開示基準の開発に向けた検討が行われています。
サステナビリティ開示基準開発にあたっての基本的な考え方は以下のとおりとされています。この考え方に基づく開示基準の開発により、サステナビリティ関連財務情報が財務諸表と併せて開示され、投資意思決定に対する有用性を高めるとともに、企業の持続的成長、長期的な企業価値の向上に資するものと考えられています。
SSBJでは以下のプロジェクトの開始が決定されています。
① 日本版S1プロジェクト
ISSBのIFRS S1号「サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項」に相当する基準(日本版S1基準)の開発
② 日本版S2プロジェクト
ISSBのIFRS S2号「気候関連開示」に相当する基準(日本版S2基準)の開発
①及び②については、これまで、主な論点のうち発効日及び経過措置以外の論点について検討がされ、公開草案公表まで引き続き審議することとされています。②において、ISSBの「産業別ガイダンス」に相当する産業別の基準の開発はしないこととされています。
サステナビリティ開示基準の適用時期等は<表9>のとおりです。なお、24年2月19日に開催された金融庁の金融審議会総会の説明資料において、SSBJが開発するサステナビリティ開示基準の適用対象を東京証券取引所のプライム上場企業又はその一部から始めることが考えられる旨の説明があり、上場区分などにより適用の有無又は適用時期が異なる可能性が示されています。
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目標公表時期 |
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早期適用時期 |
確定基準公表後に開始する事業年度から(2026年3月期に係る有価証券報告書から) |
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強制適用時期 |
未定(各企業のサステナビリティ開示への対応状況を踏まえて慎重に検討) |
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2023年3月期より、有価証券報告書(有報)におけるサステナビリティ情報に関する開示が義務化されました。初年度開示分析を踏まえ、サステナビリティへの取組みを企業の価値向上に向けた戦略とつなげて開示することなど、2年目以降の対応ポイントを解説いたします。
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