EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
公認会計士 大竹 勇輝
2022年6月まで、当法人の品質管理本部 会計監理部において、会計処理および開示に関して相談を受ける業務、ならびに研修・セミナー講師を含む会計に関する当法人内外への情報提供などの業務に従事していた。22年7月から企業会計基準委員会(ASBJ)に専門研究員として出向している。
2022年3月30日に企業会計基準委員会(以下、ASBJ)より<表1>の各公開草案(以下、ASBJ公開草案)が公表されています。また、ASBJ公開草案は、日本公認会計士協会の実務指針等にも影響するため、ASBJで検討の上、同協会に改正を依頼し、当該依頼を踏まえて、同協会より、関連する実務指針等の公開草案(以下、JICPA公開草案)が公表されました。本稿では、ASBJ公開草案及びJICPA公開草案の概要について解説します。
なお、文中の意見にわたる部分は、筆者の私見であることをあらかじめ申し添えます。
現行の企業会計基準第27号「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」では、当事業年度の所得等に対する法人税等は、法令に従い算定した額を損益に計上することとされています。
ここで、例えば<表2>に記載の株主資本又はその他の包括利益に計上された取引又は事象(以下、取引等)が課税所得計算上の益金又は損金に算入され、法人税、住民税及び事業税等(以下、法人税等)が課せられる場合があります。このような場合には、対象となる取引等については株主資本又はその他の包括利益に計上される一方で、これに対して課せられる法人税等は損益に計上されることとなり、税引前当期純利益と税金費用の対応関係が図られていないのではないかとの意見がありました。そこで、このようなその他の包括利益に対して課せられる法人税等のほか、株主資本に対して課せられる法人税等も含めて、所得に対する法人税等の計上区分についての見直しを提案することとしたとされています。
改正法人税等会計基準案においては、当事業年度の所得に対する法人税等を、次の理由から、その発生源泉となる取引等に応じて、損益、株主資本及びその他の包括利益に区分して計上することが提案されています。
このため、例えば、<設例1>のようにその他の包括利益に対して課税される場合、従来の会計処理と比較し、当期純利益及びその他の包括利益に影響を及ぼすことになります。また、このように処理することで、<図1>のとおり、その他の包括利益に対して課税された場合に、税引前当期純利益と所得に対する法人税等の間の税負担の対応関係が図られるようになります。
株主資本又はその他の包括利益の区分に計上する法人税等は、複雑な計算を伴う場合の実務に配慮し、課税の対象となった取引等について、株主資本又はその他の包括利益に計上した金額に、課税の対象となる企業の対象期間における法定実効税率を乗じて算定することが提案されています。
また、課税所得が生じていないことなどから法令に従い算定した額がゼロとなる場合に株主資本又はその他の包括利益の区分に計上する法人税等についてもゼロとするなど、他の合理的な計算方法により算定することができることもあわせて提案されています。
これまでわが国においては、その他の包括利益に計上された項目については、当期純利益に組替調整(リサイクリング)することを会計基準に係る基本的な考え方としています。
このため、その他の包括利益累計額に計上された法人税等については、当該法人税等が課せられる原因となる取引等が損益に計上された時点で、これに対応する税額を損益(法人税、住民税及び事業税)に計上することが提案されています。
グループ法人税制が適用される場合の子会社株式等の売却に係る税効果の取扱いについて、現行の税効果適用指針第39項では、当該子会社株式等を売却した企業の個別財務諸表において、当該売却損益に係る一時差異に対して繰延税金資産又は繰延税金負債が計上されているときは、連結決算手続上、当該一時差異に係る繰延税金資産又は繰延税金負債の額は修正しないこととされています。
しかし、税引前当期純利益と税金費用を合理的に対応させることが税効果会計の目的とされている中で、現行の税効果適用指針での取扱いは、連結決算手続上、消去される取引に対して税金費用を計上するものであり、税引前当期純利益と税金費用が必ずしも適切に対応していないとの意見が聞かれていました。こうした意見を踏まえ、ASBJにおいて検討を行い、現行の取扱いの見直しを提案することとしたとされています。
現行の会計処理と改正税効果適用指針案の会計処理の相違について、設例に基づき具体的なイメージをまとめると<図2><図3>のとおりとなります。
連結会社間における子会社株式等の売却に伴い生じた売却損益について、税務上の要件を満たし課税所得計算において当該売却損益を繰り延べる場合(法人税法第61条の11)、当該売却に係る連結財務諸表上の税引前当期純利益と税金費用との対応関係の改善を図る観点から、連結財務諸表において次の処理を行うことが提案されています。
個別財務諸表においては、連結財務諸表とは異なり、売却損益が消去されないことから、税金費用を計上しないこととした場合には税引前当期純利益と税金費用との対応関係が図られないこととなると考えられます。
したがって、当該子会社株式等を売却した企業の個別財務諸表における処理については、現行の税効果適用指針第17項の取扱い(当該売却損益に係る一時差異について、税効果適用指針第8項及び第9項に従って繰延税金資産又は繰延税金負債を計上する定め)を見直さないことが提案されています。
原則適用及び早期適用の時期の関係は、3月決算会社を前提とすると<図4>のとおり提案されています。
税金費用の計上区分については、会計方針の変更による累積的影響額を適用初年度の期首の利益剰余金に加減するとともに、対応する金額を資本剰余金、評価・換算差額等又はその他の包括利益累計額のうち、適切な区分に加減し、当該期首から新たな会計方針を適用することができることとする経過的な取扱いを定めることが提案されています。
一方、グループ法人税制が適用される場合の子会社株式等の売却に係る税効果については、特段の経過的な取扱いを定めず、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱い、新たな会計方針を過去の期間のすべてに遡及適用することが提案されています。
株主資本及びその他の包括利益の各項目(評価差額及び繰延ヘッジ損益等)について、従来、繰延税金資産又は繰延税金負債に対応する額を控除した金額を計上することとされていましたが、これに加えて、改正法人税等会計基準案等における提案に合わせて、各項目に対して課税された法人税等の額についても控除した金額を計上することが提案されています。
改正税効果適用指針案では、子会社に対する投資に係る連結財務諸表固有の一時差異について、予測可能な将来の期間に子会社株式の売却(売却損益を繰り延べる場合)を行う意思決定又は実施計画が存在しても、当該一時差異に係る繰延税金資産又は繰延税金負債を計上しないことが提案されています(Ⅱ 2.(2)①参照)。
このため、持分法適用会社における留保利益、のれんの償却額、負ののれんの処理額及び欠損金について、税務上の要件を満たし、課税所得計算において売却損益を繰り延べる場合に該当する当該持分法適用会社の株式売却の意思決定を行った場合には、税効果を認識しないことが提案されています。
改正法人税等会計基準案等を適用する連結会計年度及び事業年度から適用することが提案されています。
全国に拠点を持ち、日本最大規模の人員を擁する監査法人が、監査および保証業務をはじめ、各種財務関連アドバイザリーサービスなどを提供しています。
EYの税務会計プロフェッショナルが、現代の税務環境で必要とされる複雑な要求事項の管理をサポートします。
EY新日本有限責任監査法人のプロフェッショナルが発信する、会計・監査に関するさまざまな知見や解説を掲載します。
EY新日本有限責任監査法人より、会計・監査や経営にまつわる最新情報、解説記事などを発信しています。