防止は是正に勝る
多くの税務当局は、対外的に、納税者が提出した申告書が調査されることはないという、税の確実性(必ずしも法的確実性ではない)を高い水準で達成できる各種プログラムを提供しています。
これらのプログラムは、申告前と申告後の両方を対象としています。事前申告プログラムには、タックスルーリングやAPAの活用が含まれ、回答者の80%が、1つ以上のAPAを活用することで、ある程度または大きな効果が得られると回答しています。第2の柱の導入に先立って新しいAPAを積極的に活用しようとしている企業が多いことを考慮すると、これは当然といえるでしょう。
また、オランダの水平的モニタリング制度のような国家レベルのコンプライアンスプログラムや、現在22の国・地域で採用されているOECDが支援する国際コンプライアンス保証プログラム(ICAP)のような多国間のコンプライアンスプログラムなど、さまざまな協調的なコンプライアンスプログラムを申告前に利用することができます。しかし、明確に定義された積極的かつ協調的なコンプライアンス戦略を現在実行しているのは、回答者の半数未満(48%)でした。
税務係争は、最善の努力を尽くして防止しようとしても、しばしば発生するものです。税務当局が要求する文書の種類や範囲は急速に拡大していますが、税務・財務担当幹部は、税務当局の要求に対応するには、まだ課題が残されていると指摘しています。例えば回答者の約54%は、ある取引が税務調査を受けた場合に提出することができる実態または事業活動に基づく税務文書ファイルを現在作成・整備していないと回答しています。偶然にも同じ割合の回答者が、重要な取引を選定し、定期的に裏付文書をレビューしていると回答しています。これは、回答者がもっと時間をかけて検討した方が良い領域の1つです。
税務係争およびその影響により、税の確実性は飛躍的に低下するとみられます。従って、積極的な税務責任者は、税務係争の開始時および係争中に、税の確実性を高めるために何ができるかを検討する傾向にあります。例えば、税務・財務担当幹部は、税務調査開始前に、税務当局の懸念や目的をより深く理解するよう努めることが最優先事項であると回答しています。彼らはまた、いかなる場合でも複数年、複数の国・地域の「レッドフラグ」と波及効果の可能性を考慮したものであることを確認するプロセスを整備するでしょう。最後に、積極的な税務責任者は、現地の税務調査プロセスや文化的アプローチについて可能な限り多くの知識を得た上で、それぞれの税務調査や税務係争に参加します。
解決策を探るには遅すぎるということはない
意見の相違が新たな税務評価につながる場合、税務係争解決プログラムは、より高い水準の税の確実性につながります。国境を越えた二重課税係争を解決し、二重課税を防ぐ中心となる手段は、相互協議手続(MAP)です。
MAPは、企業がこのような税務係争の解決に利用できる主要ツールの1つですが、ピアレビュー(BEPS Action 14に基づく)により、所管当局の構造や組織に関する変更が促進され、MAP案件をタイムリーに解決するプロセスが合理化されました。
OECDの取り組みの成果は、徐々に目に見え始めています。税務・財務担当幹部の37%(2021年の調査より1ポイント高い)がMAPを活用していると回答していますが、この割合は大企業の間で伸びています。しかし、MAPは移転価格や利益配分にとどまらず、課税権に関するさまざまな問題に対応できることを知らない企業も多いでしょう。第2の柱などの動向を踏まえると、MAPの検討はより重要になると思われます。
納税者と税務当局の間で合意が得られない場合、税務訴訟が唯一の方法となることがあります。しかし、回答者の3分の2近く(64%)が、明確な税務訴訟戦略を定めていないと回答しています。
今後、第2の柱の導入、国別報告書の公開、そして現地での多くの新しい透明性や開示要件の導入に向け、より高い水準の税の確実性を達成するためのあらゆる努力が最も重要になります。
不確実な世界における確実性
現在、多くの税務部門は、係争プロセスの一元化と統合を進め、方針と統制をローカライズし、明確に定義された税務係争の役割を定めています。これらの活動は、現地のプロフェッショナルから責任を取り上げるのではなく、リスクの特定と管理、およびエクスポージャーの回避において、より緊密に協力し合うことを目的としています。
不確実な世界で、ある程度の税の確実性を確保することは、ただ座して最善を望むよりも安全かつ賢明で戦略的であるといえます。強固な税務ガバナンスのフレームワークを通じてビジネスとより密接につながり、最新のデータ機能を活用する税務部門は、ESG、長期的価値、企業の保護など、組織全体の目標に対してより多くの効果をもたらすことができる立場にあります。そしてそれは、リスクをチャンスに変えることにつながります。