PEファンドにとってのコスト削減と価値創造のための4つの重要分野とは

PEファンドにとってのコスト削減と価値創造のための4つの重要分野とは


困難な状況にあって適切なコスト最適化戦略を策定し実行できれば、ゲームチェンジャーとなり得ます。


3つの質問

  • 自社のコスト構造見直しによる潜在効果を十分に引き出すには、どのような最適化戦略が理想的か。
  • コスト削減策の実行に当たってはレジリエンス構築を重視しているか。また将来の成長に不可欠なリソースを排除していないか。 
  • 複雑化した組織がコスト構造を圧迫し、結果的に人材の確保や採用に悪影響を及ぼしていないか。


EY Japanの視点

プライベートエクイティファンドがポートフォリオ企業の価値を高めるにあたり、コスト削減は必須と言えます。一方で、短期で大きな成果を求めるあまり対症療法にとどまり、下記のような状況に陥りがちです。

  • 一律XX%の予算カットをするが、すぐに「リバウンド」。再度、予算カットを試みようにも、現場はあらかじめバッファを積んで予算申請することに
  • 他社ベンチマークなどで高い目標を設定するが、推進側の現場でやり方が分からないため「頓挫」
  • 必要なメンテナンスや設備リプレースまでカットし、ライフサイクルコストがかえって割高になり「本末転倒」な状態に

EY Japanでは、デマンドマネジメントとサプライマネジメントの双方の観点から、コスト削減の診断から実行・定着化までご支援します。これにより、抜本的なコスト削減をスピーディーにかつ着実に創出し、企業価値の向上に結び付けることを目指します。


EY Japanの窓口

中村 宏
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 EYパルテノン ストラテジー パートナー

現在のビジネス環境は、プライベートエクイティ(PE)ファンドのマネジメントチームに、コスト構造に総合的に取り組む機会とレジリエンスを構築する機会の双方をもたらしています。ここ数年来、合理化や組織再編によるコスト削減を実施し実績を出してきたにもかかわらず、経営陣は再びコスト管理というプレッシャーにさらされています。不安定な経済、高インフレ、地政学的逆風が重なる厳しい環境の中で、適切なコスト最適化戦略(Cost Optimization Strategy:COS)を策定し実行できれば、ゲームチェンジャーとなる可能性があります。 多くの企業はコスト管理を経営安定のために実施しますが、これからの勝者はレジリエンスと将来の成長のためにコストを管理する企業です。

PEファンドとそのポートフォリオ企業は、特にマルチプルの下落と資金調達コストの上昇の両方に直面しており、プレッシャーがさらに大きくなっているのは明白です。EYは、2025年末までにポートフォリオ企業の5,300億米ドルの負債が償還期限を迎えると推定しています。このため、EBITDA水準を維持する必要性が高まり、さらなるコスト改善が急務になると考えられます。
 

コスト最適化の大きなメリット

多くのビジネスリーダーは、強靱なコスト構造を構築するための幅広い機会を活用しないままに、戦術的なコスト管理にとどまっています。ビジネス管理・情報システムは、一般に予算を組むなど管理向けに設計されており、プロセスの透明性の確保やプロセス自体の改善を図れるようにはできていません。このため、コスト再構築において戦術的なトップダウンの意思決定を行う企業では、将来の成長に不可欠なリソースを排除してしまうリスクがあります。

適切なコスト最適化戦略を効果的に策定し実行できれば、運用レバレッジの増大により短期的な収益性が向上します。これにより、企業が逆境を乗り越え、長期的に競争優位を維持する基盤とすることが可能になります。
 

効果的な戦略に向け最適なアプローチを設定する

コスト最適化戦略を成功させるために、企業は次の3点について自らに問う必要があります。

  1. ビジネスの真のコストドライバーを正しく理解しているか。
  2. 顧客に効果的に対応するためのコストとは何か、あるいはどの程度の額であるべきか。またその支出は持続可能であるか。
  3. 真のコスト削減を迅速に実現するために、適切な能力や考え方が備わっているか。

次のステップは、コスト最適化戦略の範囲、強度、タイミングを決定することです。経営陣は通常、次のいずれかのアプローチを採用します。

  • 段階的アプローチ:多くの企業が段階的アプローチといわれる方法を採用します。このアプローチのスタート地点は通常、予算削減戦略からリーンアプローチの採用まで多様です。低インフレ環境での種々のプレッシャーの相殺を目指すアプローチとして一般的ですが、実現できるコスト最適化は、よくても数パーセントです。

  • ベンチマーク・アプローチ:より戦術的なトップダウンのアプローチで、同業他社との比較によって機会を見いだします。このアプローチでは5%〜10%の節約を段階的に達成できるものの、ベンチマークは応急的な措置であり、効率化による利益を最大化できないリスクがあります。また組織によっては、企業内の賛同を幅広く得ることが難しい場合もあります。

  • オーダーメード・アプローチ:他とは対照的に、ビジネス主導型のアプローチです。この戦略では通常、主要なバリュードライバーに注目した上で、全ての業務をボトムアップで精査し、収益性への影響が最も大きいドライバーを明確にします。このアプローチは、プロセス全体における協力が必要なため、多くの場合、社内の賛同を得やすくなっています。うまくいけば、大胆な改革によって利益率を15%以上改善することが可能です。あるCFOは「重要な成長レバーを守りつつ、この方法で透明性を確保しながらコスト削減を実現できた」と語っています。

コスト基盤を特定する

プライベートエクイティ所有の企業や、事業部門の将来を検討している企業で、自社の資産の真のコストベースの潜在力を知りたいというニーズが高まっています。実現可能なコスト削減の機会を全て実施できた場合、期待できる成果とはどの程度になるでしょうか。
 

価値創造の余地診断を迅速に実施することで、価格設定や運転資本、資本配分、税の最適化、環境・社会・ガバナンス(ESG)などビジネスの他の要因に関わるコストを検討するためのフレームワークの設定が可能になります。診断は必要とされるコストの可視化をバイアスのない形で実行し、短期・中期・長期の価値創造計画の基礎となります。また、重要な経営判断をする際、例えば不良資産の改善や売却オプションの追求を重視するのか、あるいは事業の一部縮小に注力するのか、などの判断の材料にもなります。

 

コスト削減と価値創造のための4つの重要分野  

コスト削減方法とその範囲を確定後、次に問うべきは、ビジネスのどの領域を改善の対象にすべきか、です。マネジメントチームが取り組むべき4つの重要分野は次の通りです。
 

1. 支出を把握する

製品、原材料、委託業者のコストだけでなく、間接的支出の要素も含めて、あらゆる支出を検討し調査します。
 

  • 従来の調達手段としての需要の統合や、サプライヤーとの関係の合理化と緊密な協力体制の構築、リバースオークション、あるいは必要なヘッジメカニズムの採用は、特に高インフレ環境においてはコストアップ回避のメリットをもたらすにとどまり、コストの最適化までには至らないものです。ここで重要なのは、サプライヤー側の対応が運転資本の計画と整合することです。現金の最適化と運転資本の詳細については、価値創造シリーズの最初の記事、Three cash disciplines to create value and resilience を参照ください。

  • コスト最適化を推し進めるには、組織内の「需要」の削減を重要視すべきです。この対処法には、セールス、R&D、業務部門と協働での取り扱い製品ラインアップやサービスの縮小、あるいはバリューエンジニアリングを展開することで価値を生まない高コストの投入原材料やプロセスを見直すことなどが考えられます。

  • 同様に、間接的支出の精査も非常に有効です。ゼロベースの原則を適用するなど、間接的支出の社内ニーズを減らし、十分な価値を生み出すにはどのような管理を実施すべきか意思決定し、そのための指針を整備します。その際、「従来こうしていた」という前例踏襲の考え方は捨てるべきで、外部からのディスラプティブ(破壊的)な挑戦が必要なこともしばしばです。なお、そうした挑戦は高インフレ環境の方が始めやすいものです。
     

2. 可能な限りシンプルにする

企業が時間の経過とともにたどる複雑化は、生産性を低下させ、コスト増につながることがよくあります。組織が複雑化するとビジネスの真のコストドライバーを完全に把握することが一層困難になりますが、ビジネスの簡素化を実施することにより、持続可能なコスト最適化が可能になります。その際に考慮すべき重要な課題は次の通りです。
 

  • 効果的に拡張可能な効率の良いオペレーティングモデルを構築し、生産性の向上とバックオフィスの自動化を図ります。

  • 企業の複雑化はオーガニックな成長、現在の経済・規制環境下ではもはや最適とはいえない過去の意思決定、組織統合が不十分に終わった買収など、長年の積み重ねにより生じるものです。そのため職務、レガシーシステムやインフラの重複が起こったり、そこにリソースが割かれコストが増加したりするケースがよくあります。オペレーティングモデルの最適化を実施することで、アジリティを向上させ、自社の主力市場に注力できるようになり、高インフレ環境を乗り越える鍵となり得ます。

  • 製品・サービスのラインアップ拡充は、サプライチェーンやオペレーション、および諸経費の複雑化を招きやすいものです。消費者が支出を基本的な製品・サービス等に絞る不況下には、低利益率や赤字の製品やサービス、あるいは提供地域のカットを検討する必要があります。そうした製品・サービスの縮小の際、オペレーションや間接経費の規模の適正化も織り込みます。(SKUやサービス拡大による)真のコストは容易には明らかにならないことが多く、成長に及ぼす影響が不透明な場合は、選択プロセスの難易度が上がります。
     

3. 税金面も考慮に入れ、効率的でレジリエンスの高いサプライチェーンを構築する

サプライチェーンのコストはあらゆるビジネスにおいて重要であり、オペレーションの観点からはレジリエンスも不可欠です。最近のサプライチェーンの混乱、経済的・地政学的圧力によって、この分野のコスト最適化に関するさまざまな機会が明らかになってきました。
 

  • 過剰支出の削減:過去数年間、多くの企業は在庫不足分を、出荷の早期化や輸送時に積載スペースを部分的に活用する方法で補う必要がありました。しかしこのやり方が「ニューノーマル」となり、サプライチェーンの緊張が緩和されても追加コストが下がらないことが少なからずあるようです。この状況は、ESGアジェンダを統合する機会となり、不確実性に備える企業の回復力の向上が見込めます。

  • 効率化の推進:ゼロベースで効率性を見直すことが大きな機会をもたらします。パンデミック時にオペレーションの変更を余儀なくされた際、コスト効果の高い方法での製品・サービスの提供よりも納品の保証を優先させる形でのインフラに急いで整備するケースが多く見られました。ここには2つの機会が考えられます。一つには、応急措置的に構築されたソリューションの効率の向上、もう一つには縮小するレガシーサプライチェーンにおける固定費の適正化と削減です。

  • レジリエンスの確保:一部の小規模サプライヤーは、マクロ経済的な影響への対応に今も苦慮しています。とはいえ早急なサプライヤーの変更は短期的なコスト上昇を招くため、いずれ最適化が必要となります。自社ビジネスにリスクとなり得るサプライヤーの特定に当たっては、透明性を確保することが企業の強みとコスト回避の両方を確立する鍵になります。

  • コスト効率・税効率の関連性の認識:税務上考慮すべき重要な領域が3つあります。まず、税効率の観点からサプライチェーンの総合的な調査が必要です。次に、法人の組織構造の見直しを検討します。法人の維持および管理には多大な費用とリソースが必要です。法人組織の大幅な縮小再編は、管理コストの削減、リソースの解放、リスクの軽減、透明性の向上につながります。最後に、自社のタックス・フットプリント(事業体が事業を展開する国々において、その運営によって税金として生じる社会に対する経済的なインパクト)をマッピングし、それを基に税務コスト削減に向けた税務計画を作成します。

4. 人材管理に重点を置く

人件費はコスト最適化戦略の鍵となります。インフレによる賃金上昇を相殺するには、生産性を重視し、付加価値の低い活動や重複のある活動を撤廃する必要があります。採用部門は現在、人材争奪戦に直面しています。高スキルの人材を確保・維持する費用が高騰し、雇用コストの上昇のため外部委託を増やさざるを得ない状況です。人材の維持と育成、ならびにリーダーに適した優秀な人材の採用は、価値主導の文化を創造する上で中核となるファクターです。
 

今後への展望

今日のビジネスリーダーは今までにないほどの重責を負っています。インフレ圧力、エネルギー問題、ESGへの注目の高まり、サプライチェーンの混乱、そして人材不足、これら全てが一度に押し寄せている状態です。

この状況を生き延び、成長するには、コスト削減に対するアプローチを根本から再考する必要があります。従来型の重点領域やアプローチは現在も部分的には有効で短期的な利点があるものの、実施後1年から1年半には高コストに戻ることも多々あります。

経営幹部は事業運営を包括的に見つめ、営業、財務、業務、データ分析といった自社の能力を総動員し、緊急の優先課題に対応しながら持続可能な価値の提供に結びつける必要があります。

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    サマリー

    今日求められている経営課題を鑑みると、経営幹部にはコスト削減の優先順位の明確化、定量化、およびその実行に関する明晰な思考が必要です。勝者となるのは、この機会に乗じコストを管理し、レジリエンスの高いビジネスの成長を目指す企業です。


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