バリューアップとレジリエンスの構築を可能とする資金や運転資本に関わる3つの指針とは

PEファンド投資後の価値創造

バリューアップとレジリエンスの構築を可能とする資金や運転資本に関わる3つの指針とは


資金や流動性の観点から、これまで未開拓であった改善機会を発掘することで、持続可能な価値を創造することができます。


3つの質問

  • PEファンド等が投資する企業が、キャッシュに関わる規律と管理体制を確立するにはどうすればよいか?
  • 運転資本の改善機会を把握し、有効に活用するためにはどうすればよいか?
  • キャッシュフロー予測にとどまらず、今日の複雑なリスクを管理するために自社の財務部門の優れた能力を活用できているか?


EY Japanの視点

EYでは、PEファンドの投資先にとどまらず、グローバルに事業を展開する企業などを対象に運転資本の最適化を長年にわたり支援しています。

日本においてもコーポレートガバナンス・コードで求められている資本コストを意識した経営を強化する中でROICへの関心が高まっていますが、運転資本の最適化はROICの向上にも資する取り組みとなります。

運転資本の最適化に際しては、売掛債権や買入債務、棚卸資産に関連するプロセスを理解した上で各プロセスにおける改善機会を幅広く検討すること、改善機会が存在する取引を明確に特定すること、現場での改善活動と直結したKPIを設定することなどが重要です。


EY Japanの窓口

松 恭祐
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社  ターンアラウンド・アンド・リストラクチャリング・ストラテジー パートナー

PEファンドが投資する企業ではキャッシュフローが常に重視されてきましたが、現在の厳しい経済環境により、バリューアップの⾯からだけでなくレジリエンスを構築する⾯からも⼀段とその重要性は⾼まっています。

バリューアップについての論点は明確です。すなわち、事業がより多くのキャッシュを⽣み出すことができれば、そのキャッシュを企業買収、借入金の返済、⼈材への投資、あるいはビジネストランスフォーメーションへの投資に充当することが可能となります。

現在の環境下では、キャッシュを重視することは、バリューアップと同様、レジリエンスの構築でも極めて重要です。世界経済は、低⾦利、過剰な流動性、事業価値に関する評価倍率の上昇、低い失業率等、⽐較的安定していた状態から瞬く間に⼀変しました。資本コストが上昇、事業価値の評価倍率は低下し、深刻な景気後退リスクが⽣じる状態へと変化しました。そのため⽀払能⼒が再び重視されるようになり、資金と流動性の重要性が浮き彫りとなっています。

レジリエンス重視への移⾏は守りの姿勢と映るかもしれませんが、それにより機会が⽣まれることも事実です。バランスシートが健全な企業は、その流動性を活⽤した素早い投資判断や競合他社の買収を柔軟に実施することが可能になります。

このような状況を受けて、PEファンドが投資する企業は、資金と流動性の視点からリスクと機会の再評価を行い、レジリエンスの構築⽅法について検討を進めています。本記事では、今⽇のマーケット環境で求められる資金面の規律と管理体制の確⽴を可能にする、3つの主要な指針をご紹介します。

1.キャッシュフローを確実に把握する

キャッシュフローの予測はほとんどの企業にとって必要不可⽋であるものの、常に効果的に実施されているとは限りません。例えば、間接法による⽉次キャッシュフロー予測は、流動性に関する見通しを把握する際によく⽤いられますが、真のキャッシュフロードライバーを明らかにしたり、企業全体にキャッシュ中⼼の⽂化を浸透させるためには適していないことが多々あります。これとは対照的に、ボトムアップで作成した直接法によるキャッシュフローの予測は、差異分析に基づく予測の更新や対応策を具体化する上ではるかに有効です。PEファンドからこの種の予測を求められることがよくありますが、PEファンドの多くは、必要な規律が完全には投資先に浸透していないか、あるいは全く存在していないことを認識しつつあります。
 

従い、以下の3点を⾃問することが経営層には求められます。
 

  • 精度の高い週次キャッシュフロー予測(3カ月程度)を作成し、週次の更新・分析を運⽤しているか?
  • この週次予測において、ベースケースとダウンサイドケースの各々で必要な資金を把握することができるか?
  • 週次予測を実現するために必要となる各部⾨の活動をきめ細かく管理できているか?


強固なキャッシュフロー予測プロセスへの投資により、単に⽣き残るためだけでなく、厳しい時期に成⻑するために必要な柔軟性を企業が確保できるようになります。このような機会を捉えるため、多くの企業がデータ解析の⼀元化を進め、キャッシュフローと関連するリスクの可視化を図っています。例えば、予測解析を活⽤して顧客の支払傾向を把握することで、経営陣は入金時期をより正確に予想し、⽀払遅延により⽣じる潜在的な影響を軽減できます。

2.運転資金をより効果的に管理する

ほとんどの企業は、運転資本を過剰に必要とすることが⾮効率的であると認識しています。過剰な運転資本は、不正確な請求のような処理の不⼿際、取引条件やサプライチェーンの設計などの構造的要因や可視性や注意の⽋如の結果として発⽣する場合があるためです。厳しい経済環境では、過剰な運転資本の最適化が低コストな流動性の源泉となることもあります。

これはかなり⼤きな好機といえます。EYが欧⽶の企業1,500社を分析した結果、各社の事業運営に必要な⽔準を上回る過剰な運転資本が、合わせて2兆5,000億⽶ドルに上ることが分かりました。この数字は、対象企業の年間売上⾼の10%に相当します。これは極めて⾮効率な現状を示す数字ではありますが、同時に改善機会と捉えることもできます。

ではどうすれば過剰な運転資本の改善機会を把握し、運転資本を最適化することができるでしょうか。多くのPEファンドが投資する企業は、典型的なキャッシュフロー改善策である、⽀払条件を延⻑する、滞留在庫を縮⼩する、ファクタリングで債権を流動化するといった手段を講じてきました。しかし、こうした取り組みのみでは、バランスシートのあらゆる⾯における改善機会を把握し、包括的に運転資本を最適化するという⽬的からすると、ほとんど表⾯的な対応しか取れていません。

運転資本の改善を恒常的な活動として根付かせる必要があります。だからこそ、多くの経営幹部が運転資本を可視化し、分析の正確性を向上させるツールに投資をしているのです。データ解析ツールを利⽤することで、顧客レベルや最⼩在庫管理単位(SKU)レベルで業績指標を把握し、起こり得る問題を⾮常に早い段階で経営幹部にエスカレーションすることができます。それにより、企業はまさしく必要な情報を、必要なときに⼊⼿し、運転資本のパフォーマンスを最適な⽔準に保つことができるのです。
 

3.財務部⾨の優れた能⼒を活⽤する

先に述べたキャッシュフロー予測とプロセス改善を⽀えるためだけでなく、為替レートの変動から⾦利上昇や物価の急激な変動まで、今⽇の複雑なリスクを管理するためにも、財務管理指針の重要性がかつてないほど⾼まっています。

流動性との関連で、財務部⾨はキャッシュプーリング、余剰資金の移動や柔軟な資⾦調達構造の構築により、企業のキャッシュポジションのを最適化することに注⼒すべきです。もし該当する場合には、財務制限条項やさまざまな国・地域の規制に関係する事項の可視化と管理体制を強化する必要もあります。

⾦利上昇の局面では、資⾦調達構造も定期的に⾒直す必要があります。経営陣には、代替となる資⾦調達⼿段の有無とそのコスト、効果的な活⽤法を把握しておくことも求められます。その中には顧客から提供されるサプライチェーンファイナンスも含めておくべきです。
 

今後に向けた展望

古くから「川底の岩が⾒えるのは川が⼲上がったときだけ」などと⾔いますが、これは企業とそのキャッシュフローにも当てはまります。資金が枯渇した時に、さまざまな誤りが⼀層明らかになります。マクロ経済と地政学的情勢の不確実性が⾼まる2023年に⼊り、PEファンドは資金と流動性を確保することが必要になると考えられます。そうすることで、レジリエンスが⾼まるだけでなく、今後⽣まれる好機を捉える能⼒も向上するはずです。


サマリー

資金と流動性を確保することで、PEファンドはマクロ経済と地政学的情勢の不確実性に直⾯する上で必要なレジリエンスを確保するとともに、あらゆる好機も⽣かす能⼒を向上させることができるはずです。


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