2022年第2四半期のIPO:企業の成長を導くために、状況を明瞭に見通すには
Red car and tire imprints on a beach as seen from above, Gruissan, France

2022年第2四半期のIPO:企業の成長を導くために、状況を明瞭に見通すには


2021年に過去最高水準の活況を記録した世界のIPO市場は、2022年初来、急激に落ち込んでいます。


要点

  • 世界全体のIPOは前年上期比で件数は46%、調達額は58%減少した。
  • 2022年の年初来、IPO活動は世界全体でほぼ半減し、中でもAmericas(北・中・南米)は最大の減少を記録した。
  • 中東とインド経済は、市場が低迷する中で例外的に好調であった。

EY Japanの視点

2022年度1月~6月の日本での新規上場社数は、37社となり、前年の53社から30%の減少となりました。また、世界的に見ても件数で46%減少、調達額で58%減少となり、日本だけでなく世界レベルでも減少傾向となっています。これは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響が落ち着いてきたものの、欧州における地政学リスク、米国の金利上昇、円安、インフレ懸念などのマクロ要因が影響しているものと考えられます。

下期の見通しは、上期の流れを継続するものと思われ、通年では前年の新規上場社数125社には届かないものの、ここ数年続いている80~90社程度の新規上場が見込まれます。

足元では弱含みのIPOですが、岸田内閣は、「新しい資本主義」の中でスタートアップの育成を経済政策の1つとして挙げています。具体的には、国内VC(ベンチャーキャピタル)の育成、海外VCの呼び込み、経営者の個人保証を不要にする新しい信用保証制度、IPOプロセスの改革やSPAC(特別買収目的会社)の導入などスタートアップの育成環境を整えており、今後のIPOマーケットの拡大が見込まれます。

EY Japan「日本の新規上場動向 - 2022年1月~6月」、https://www.ey.com/ja_jp/ipo/ipo-insights/2022/ipo-insights-2022-07-25-domestic-topics(2022年8月8日アクセス)


EY Japanの窓口

齊藤 直人
EY Japan IPOリーダー/EY Startup Innovation共同リーダー EY新日本有限責任監査法人 企業成長サポートセンター長

IPOの勢いは第1四半期(1月~3月。以下「1Q」)から第2四半期(4月~6月。以下「2Q」)にかけて減速し続け、件数、調達額ともに大幅に減少しました。地政学的緊張やマクロ経済を起因とするボラティリティの高まり、バリュエーションの低下、IPO後の株価パフォーマンスの低下により、当四半期は多くのIPOが延期となりました。過去最高だった2021年から一転し、主要市場の大半で2022年初来のIPOは失速しました。

2022年2Qの世界のIPO市場では、件数は305件、調達額は406億米ドルで、それぞれ前年同期比54%減、65%減となりました。2022年初来では、IPO件数は630件、調達額は954億米ドルで、それぞれ前年同期比46%と58%の減少となっています。

調達額においては、上位10件のIPOによる調達額合計は400億米ドルでした。エネルギーセクターが上位4件のうち3件を占め、テクノロジーセクターに代わり、IPOによる資金調達額のトップとなりました。件数では、テクノロジーセクターが引き続き首位でしたが、平均調達額は2億9,300万米ドルから1億3,700万米ドルに減少しました。一方エネルギーセクターの平均調達額は、前年同期比1億9,100万米ドルから6億8,000万米ドルに増加しており、調達額ではセクター首位に躍り出ました。

SPAC(特別買収目的会社)によるIPOは、新しい市場が出現しているにもかかわらず、従来型のIPO活動と同様に大幅に減少しています。SPAC市場は、今年、より広範な市場環境、規制の不確実性および償還増加を受け、厳しい状況が続いています。過去最多の既存SPACが積極的に投資先を探索していますが、その大部分は来年に期限切れを迎えようとしています。今後は、市場パフォーマンスと規制の明確化がディールフローをけん引すると思われます。

世界のIPO活動の急速な減少に伴い、クロスボーダー活動も、地政学的圧力や政府による海外上場政策の影響を受けたことから大幅に後退しました。これらを含む調査結果は、EYの世界のIPO市場動向レポート2022年第2四半期(PDF、英語版のみ)に記載されています。


EYの世界のIPO市場動向レポート2022年第2四半期をダウンロードする

各エリアに特有の情報、セクターに関する洞察などのインサイトについては、レポート全文をご覧ください。

2022年第2四半期IPO

エリア別のIPOパフォーマンス概要:投資家はファンダメンタルズに再注目
 

2022年2QのIPO市場を各エリア別に見ると、まずAmericas(北・中・南米)では41件のディールが完了し、調達額は25億米ドルとなりましたが、これは、前年同期比で件数は73%、調達額は95%の減少となりました。Asia-Pacific(アジア・パシフィック)では、件数が181件、調達額が233億米ドルとなり、それぞれ前年同期比37%減、42%減となりました。EMEIA(欧州、中東、インド、アフリカ)では、件数が83件、調達額が148億米ドルとなり、それぞれ前年同期比62%、44%の減少となりました。

 

過去2年間に上場した多くのスタートアップの市場流動性が窮迫し、株価が大幅に下落したことを踏まえ、投資家は銘柄の選別を強め、単なる「成長」ストーリーや予測ではなく、企業のファンダメンタルズ、例えば持続可能な利益やフリーキャッシュフローに再び着目し始めています。

 

EY Global IPOリーダーのPaul Goのコメント:
「投資家は、ESG(環境・社会・ガバナンス)をコアビジネスの価値の一部として組み込みながら、レジリエントなビジネスモデルと利益ある成長を示すことができる企業に再び注目しています」

 

 

2022年3Qの見通し:不確実性とボラティリティは継続の可能性が高い
 

2022年上半期には多くのメガIPOが延期されたため、現在の不確実性とボラティリティが落ち着けば、市場に出る可能性のある案件が堅実に準備を進めていることを示しています。しかし、現在の不確実性や市場のボラティリティによる強い逆風は、今後も継続すると思われます。その中には、地政学的緊張、マクロ経済要因、資本市場の低迷、長引くパンデミック(世界的大流行)による世界的な旅行関連セクターへの影響などが含まれます。

 

テクノロジーセクターは、市場に出るIPO件数の点で、引き続き主要なセクターとなるでしょう。しかし、原油価格の高騰を受けて再生可能エネルギーへの注目が高まっていることから、エネルギーセクターも依然として大型案件の調達額でリードすることが予想されます。

 

投資家やIPO候補企業にとって、ESGは引き続きセクターを問わず重要なテーマになるとみられます。世界的に気候変動とエネルギーの供給制約が激化する中、ESGをコアビジネスの価値と事業運営に組み込んでいる企業は、より多くの投資家の関心を集め、より高い評価を得られるでしょう。

投資家は、ESGをコアビジネスの価値の一部として組み込みながら、レジリエントなビジネスモデルと利益ある成長を示すことができる企業に再び注目しています

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株式公開の手引きは、IPO前、IPO期間中、そしてIPO後において、企業が戦略的に検討すべき事項を取り扱っています。










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過去のIPOレポート


サマリー

EYの2022年第2四半期におけるIPOの市場動向レポートでは、前四半期から引き続き、世界のIPO市場が落ち込んでいることが明らかになりました。地政学的緊張やマクロ経済を起因とするボラティリティの高まり、バリュエーションの低下、IPO後の株価パフォーマンスの低下により、当四半期は多くのIPOが延期されました。


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