Space Techシリーズ 第4回:オープンイノベーションによる衛星データ利用エコシステムの構築に向けて

情報センサー2024年6月 デジタル&イノベーション

Space Techシリーズ 第4回:オープンイノベーションによる衛星データ利用エコシステムの構築に向けて


2024年4月24日~26日に開催された宇宙ビジネスの展示会、SPEXA -Space Business Expo-において、EY新日本有限責任監査法人にて、宇宙ビジネス支援オフィスのSpace Tech Lab リーダーを務める加藤 信彦が「監査×AI×衛星データ ~オープンイノベーションによる衛星データ利用エコシステムの構築~」をテーマに登壇しました。その模様の一部をご紹介します。


本稿の執筆者

EY新日本有限責任監査法人 宇宙ビジネス支援オフィス Space Tech Lab リーダー 加藤 信彦

製造業、金融業の会計監査、アドバイザリー業務に従事。2017年からデジタルリーダーとして会計監査DXをリード。23年からは宇宙ビジネス支援オフィスSpace Techプロジェクトにも関与。イノベーション戦略部およびAIラボ部長。



要点

  • 衛星データのビジネス利用が進む中、衛星データの利活用が会計監査のデジタルトランスフォーメーションに役立っている。
  • 衛星データを取り巻くバリューチェーンのメンバーがオープンイノベーションを進めることで衛星データのビジネス利用における課題解決が進むのではないか。


Ⅰ はじめに

2024年4月24日~26日に開催された宇宙ビジネスの展示会、SPEXA -Space Business Expo-にて、「監査×AI×衛星データ ~オープンイノベーションによる衛星データ利用エコシステムの構築~」をテーマに登壇しました。

同展示会では、宇宙産業の最前線でビジネスを行う企業や自治体、専門家によるカンファレンスが60以上開催され、開催期間中1.1万人を超える来場者で賑(にぎ)わい、宇宙産業への期待の高さが伺えました。


Ⅱ 講演内容

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ビジネスにおける衛星データの活用は、主流である1次産業のみならず、近年その領域を大きく拡大しつつあります。衛星分野を含むさまざまな業界や企業を巻き込んで支援する一般社団法人SPACETIDEから佐藤 将史氏(共同設立者 兼 理事 兼 COO)をファシリテーターに、衛星データの解析をはじめ、複数の最新AI技術を用いて顧客や社会の課題解決に取り組む株式会社Ridge-iから柳原 尚史氏(創業者 代表取締役社長)と衛星データ活用のエンドユーザーとして監査法人における衛星データ活用をリードするEY新日本有限責任監査法人(以下、EY新日本)からは私、加藤 信彦(宇宙ビジネス支援オフィス Space Tech Lab リーダー)にて、衛星データビジネスに新たなユーザーが参加することや新たなテクノロジーと衛星データを融合し合うことでさまざまな業界を革新する可能性をディスカッションしました。


初めに、佐藤氏から混沌(こんとん)を見せつつある国際社会では、物価や為替が変動する一方で、企業にはより一層の倫理観や環境意識などを重要視した上での法令順守が求められ、with/afterコロナ社会での産業界を取り巻く環境や前提条件が高速で変化している中で、データの重要性や立ち位置がどのように変わってきているかについての議論がありました。ソーシャルメディア社会が発展する現代において、公平性や独自性のある情報源の確保や、早期かつ独自性のある情報の入手など、データの在り方として求められる要件がより高度化し、データニーズが変容しているといった話題が上がりました。

左から、佐藤氏、加藤、柳原氏

講演の様子。
左から、佐藤氏、加藤、柳原氏

私からは、経営判断の1つとして、これまでの財務情報に加え、サステナビリティなど非財務情報の重要性とデータそのものの信頼性の担保の必要性が高まっていることに触れました。衛星データの利活用の分野でも衛星コンステレーションによる準リアルタイムデータ提供※1や衛星観測アーカイブや将来予測の機能などを持つ地球デジタルツイン※2など幅は広がってきており、高速で流通する衛星データの信頼性を監査法人が第三者として評価することで(<図1>参照)、安心安全な衛星データの利活用が進むのではないか、といった可能性を示唆しました。

EY新日本有限責任監査法人 宇宙ビジネス支援オフィス Space Tech Lab リーダー 加藤 信彦

パネルディスカッションの様子。
EY新日本有限責任監査法人 宇宙ビジネス支援オフィス Space Tech Lab リーダー 加藤 信彦

図1 衛星データのバリューチェーンにおける正確性や信頼性における課題
図1 衛星データのバリューチェーンにおける正確性や信頼性における課題

株式会社Ridge-iの柳原氏からは、データを使う側が、AIがどのようなデータに基づいて学習し、それがどこで使えるのかを正しく認識し、見定めることが重要との意見がありました。加えて、各産業のエンドユーザーでないと衛星データに意味付けができないため、意味付けされたAIや学習データなど、総合的なデータとしての価値を意識した上で、AIでのデータ分析を行うべき※3との言及がありました。

また、衛星データから得られるインサイトは、生成AIからすぐに入手できる時代になりつつあるという点も示されました。

株式会社Ridge-i 創業者 代表取締役社長 柳原 尚史 氏

パネルディスカッションの様子。
株式会社Ridge-i 創業者 代表取締役社長 柳原 尚史 氏

続いて、衛星データの本質的な価値についての話題に移りました。

私、加藤は、会計監査のデジタルトランスフォーメーションとして衛星データを活用することで監査や保証業務に関するプロセスを効率化・高度化し、生産性の向上や付加価値の提供につながる可能性があることを提起しました。グローバルにビジネスを展開している日本企業の監査業務における海外での建設現場や鉱山の採掘場などの視察や、メガソーラー施設の太陽光パネル数の確認による発電量の予測に関する課題が、衛星データの利活用によって解消される可能性を示しました。その他、生物多様性、気候変動、水資源などサステナビリティ情報の保証業務でも、衛星データを用いることで、広大な範囲で地球環境の変化を確認することができるのではないかといった可能性にも言及しました。

ディスカッションにおいて、宇宙産業では民間での利用がなかなか進まないことが長らく課題である中、今後の宇宙産業の発展には、積極的に新しいチャレンジに取り組む姿勢がある強いカウンターパートの存在が重要となるといった点も挙げられました。DXを起こす重要な3点、データ、AI、具体的なユーザーニーズのうち、衛星業界ではデータとAIのみに焦点が置かれていることが現在の課題であり、今後はパートナーシップやアライアンスを通してエンドユーザーと具体的なディスカッションを積極的に行い、ユーザーニーズと衛星データによる解決策を検討することで、衛星データの民間利用が進むのではないかということが言及されました。EY新日本もそのような協議に参加するため、2024年3月に監査法人として初めて「衛星地球観測コンソーシアム(CONSEO)」に加入※4しました。


Ⅲ おわりに

EY新日本では、宇宙・衛星データの利活用をはじめとしたイノベーションに挑み続け、より良い社会、そして地球環境の維持に貢献できるよう、新たな価値と可能性を提供することに尽力してまいります。


サマリー 

宇宙・衛星データのビジネス利用を拡大するためには、オープンイノベーションによるエコシステム構築が不可欠です。また、企業が進めるデジタルトランスフォーメーションの一環として、既存ビジネスの生産性向上や新たな価値提供への活用を続けていくことで、より良い社会の構築と地球環境の維持に貢献できます。


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