インクルーシブネス(包摂性)の向上が求められる時
ロックダウンで余儀なくされた在宅勤務に加えて、この18カ月は金融機関のDEI、すなわちダイバーシティ(多様性)、エクイティ(公平性)、インクルージョン(包摂性)が注目を浴びるようになりました。多くの国では、新型コロナウイルス感染症の感染や、仕事と育児の両立など、そのしわ寄せを少数民族や女性が正面から受けている状況です。同じように、世界の耳目を集めた多くの出来事からも、人種間やジェンダー間の不平等が明らかになっています。
その結果、金融機関も他の企業と同様に、DEIを目指すプログラムや方針に目を向け、(時には重要な)強化を進めてきました。
金融機関のCROのうち半数以上(52%)の回答者が、DEI戦略が十分に行き渡っていない恐れがあると答えています。民族やジェンダーに加え、ニューロダイバーシティと呼ばれる、神経多様性のある方や、身体に障害をかかえる方など、さまざまなグループを包摂する必要性が認識されているのです。EYのニューロダイバーシティへの取り組みをご覧ください。
どの従業員も自身が組織の一員であるという意識を持ち、一体感を得られることを、それぞれ心から必要としており、これを提供できなければ、採用、雇用維持、生産性、評判の面で支障となり得ることを、リスク管理責任者は一層認識するようになっています。
しかし、より大きな人材プールから採用でき、新しい視点を取り入れられるというメリットが明らかではあるものの、ハイブリッドな仕事環境において仕事に必要なものを継続して提供するのは依然として困難を伴います。
激化する人材争奪戦
コロナ禍が何千もの企業にハイブリッドな働き方を広く普及させたことと経済的な意味で、その影響で生じた予期せぬ結果の1つが人材争奪戦の激化とされています。調査でCROが最も重視していたスキル(サイバーセキュリティ、データ分析、気候変動)は、金融サービスだけでなく、あらゆる業界に通用するものです。また、人工知能やモデルリスク管理に関するスキル人材などの他のスキルもいまだに希少です。どの会社でも、これからの時代での新しい環境に即応でき、別の分野にも方向転換できるような、とても頭脳明敏な従業員を求めています。
このことは、短期的にも長期的にも金融業界が人材争奪戦に対応できていないことを浮き彫りにしています。短期的とは、技術的革新が続く中、金融機関は新たなリスクの管理に必要な人材を引き付け、雇用を維持できるのかということであり、長期的とは、金融機関は10年後も選ばれる雇用主であり続けられるのかが焦点です。
人材リスクはある意味、CROが自身のリスク管理部門だけでなく組織全体の問題として力を入れていく必要がある分野ということです。
拡大するCROの役割
朗報と言えば、組織が適応し前進するための方策や、ワークフォース・レジリエンスと人事を総合的に重視していく点で、リスク管理責任者が大きな役割を果たせるようになったことです。これは、人事やその他の部門の責任者と協力の上、逆境に見舞われても安全で、健全で、適応力に優れたワークフォースを構築することを意味しています。
成果を得る方法のいくつかをご紹介します。
- 頭脳鋭敏な人材へ投資する:パンデミックは、想定外を想定するよう私たちに教えています。従業員が変化を受け入れ、迅速に方向転換し、新たな課題に取り組めるようにすることが、今後どうしても必要になるでしょう。頭脳鋭敏なワークフォースの育成には、日常的にあえて実力以上の仕事に挑戦させ、ジョブローテーションを通じて新たな能力に気付かせ、日常的にスキルアップを可能にするような、継続的な学習の場を設け、挑戦が求められる新しい環境で従業員が成功するために必要な自信とサポートを得られるようにします。
- ワークフォースリスクを管理する:人的資本は、会社にとって最も大切な資産の1つです。従業員の安全や健康が損なわれたり、従業員が大量に離職したりするリスクは、経営幹部に深刻な事業リスクをもたらします。ワークフォースリスク指標の枠組みを確立し、時間をかけてそれらの指標の報告と修正を行うことが、これまで以上に重要となっています。潜在的リスクの指標には、離職率、在職期間、多様性のレベル、従業員エンゲージメント、ネットプロモータースコア(NPS)、ブランド健全性指標に加え、採用までの時間、生産性の尺度などがあります。
- リーダーシップを再定義する:ハイブリッドな働き方では、リーダーも新たな行動が求められます。従業員を肩越しにのぞき込んだり、オフィスまで行ったりして生産的に働いているか確認することは時代遅れになっています。管理職は、オフィスにいないときでもパフォーマンスの評価や指導を行い、従業員のやる気を引き出せるようなスキルを身に付けるためのトレーニングが必要となるでしょう。これには従業員、特に新入社員とのつながりを確かなものにすることが含まれますが、その反面、対面での交流がなくなる可能性があります。一部の企業では、共感を持って指導し、包摂的な職場を作り出すために、リーダーの役割を捉え直しています。
CROとそのチームは、リスクカルチャーを常に重視する必要があります。特に、それがハイブリッドな職場でどのように影響を受けるか予測しなければなりません。基幹業務、人事、コンプライアンスなどの部門と協力しながら、CROは組織の統制や従業員の監督をどのように適応させるべきか検討する必要があります。エスカレーションの手段も変える必要があるでしょう。オフィスにいなくても、問題が発生すれば上司への報告が必要なことに変わりはありません。
成功の鍵となるのは柔軟性です。ハイブリッドな働き方のルールはまだ作成途上なので、新たな試みを検討するチャンスがあります。しかし、融通の利かないポリシーを作成してしまうと自分の首を絞めることになり、一方、ルールが緩すぎると混乱や衝突を招きます。適切なバランスを取ることが、CROの成功につながるでしょう。
新型コロナウイルス感染症により、金融機関は不測の事態に備える必要があることが示されました。立ち直る強さを持ったワークフォースの育成が可能となれば、次の衝撃が到来してもうまく耐え忍び、繁栄できるでしょう。